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リサコラム
本日のオードブル
第68回

恭賀新年

 
木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
16年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、中谷彰宏、F.サガン、プルースト

        「こんな字だっけ?なんか、違わない?」

  「びみょう...」

 

       

恭賀新年





 「今年の私の抱負はね、“備えあれば憂いなし”、これよ。K君は?」1月2日の

初売りの朝、今年もK君に聞く。「私は、一期一会です」「ほう、“一期一会”ね。

店長は“人生負けたほうが勝っている”らしいよ」「さっき電話で、“加湿器ありま

せんか?”って問い合わせがあって、“ございません”って言いましたけど、これも

一期一会だったですかね?」
                                     


 「元旦とは年の最初の日の朝、元朝とも言う」 2008年今年初めての言葉を

広辞苑で引く。そして、元日の昼過ぎ、リサコは自宅の郵便ポストに年賀状を取

りに行く。個性的な3枚が、また今年も確実に届いていることを確認するために。

一枚は都内の中学で教師をする学生時代の友人から。毎年、夏休みには必ず

北海道に一人旅をする。その折々の風景が写真の裏面いちめんに印刷されて

いる年賀状である。今年は写真の隅に「霧多布湿原にて」と、小さく書かれてい

た。コメントなしである。毎年風景が変わる以外、他は変わることがない。彼女は

イラストも宛名も、すべて手書きの年賀状を送るが、彼からは、いつもメッセージ

なしの年賀状を受け取る。もう一枚は、「毎々格別のお引き立てに預かり有難く

厚く御礼申し上げます」。差出人とはすでに15年は会っていない。そしてもう一

枚は、昔の上司Y氏からの年賀状。これまた楽しみである。「謹賀新年 お健や

かに新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。」10数年全く変わらない文句で

ある。しかも、図柄なしの墨文字一色印刷、配置もすべて一緒である。新年の

余白には「益々ご活躍ください」の文字が、毎年同じ書体の同じ大きさで、同じ

ブルーの万年筆で同じ場所に書かれている。昔使っていた同じ万年筆に違いな

かった。毎朝、トーストと紅茶を飲み、同じ時間に出社し、ほぼ同じ時間に退社

する。週末は自宅の寝室を自分で掃除し、ベッドメイクも自分でするという商社

マンだった彼は、すべての文書は先ず、コピーをとることから始めていた。修正液

やテープを使うことを嫌い、書類すべては鉛筆で下書きしてから、上からなぞる

習慣があった。だからボールペンでいきなり書き始めることは絶対にない。また、

不幸があったときは、すぐさま「明日、喪服を用意しておくように」と電話で家人

に伝えていた。常に用意周到、毎日が規則正しいその習慣によって、その余裕

は生み出されていたに違いなかった。もう、75歳を超えておられるはずだが、

力強い同じ筆跡が、その習慣にのっとった、同じ余裕のある生活スタイルを物語

っている。
                                                   


 2日は、書道家の森秀鳳氏の書初めライブを、初売りでごった返す商業ビル

に見に行くという予定がある。氏はニューヨークのマンハッタンでも、交通規制を

敷いて、書初めをやったことがある海外でも著名な書道家である。初売りの日の

昼間、仕事を抜けだすのは難しいことだが、顧客である氏の母上から毎年毛筆

の招待状を頂くので、彼女は近年、このパターンである。外に出ると、今朝まで

雪がちらついていた空気はやはり冷たい。バス停まで来て、やはり来たタクシー

に乗り込み、すぐに読みかけの本を開く。「込んでますよ」「でしょうね」ライブの

始まる4時までにお昼も済ませて、と先を急ぐ。「あなた、お忙しいのに、ほんと、

ありがとう。よく来てくださったわ」と彼女の腕をつかんで、氏の母上は彼女の手

土産より先に、今年の干支の色紙を握らせる。「わぁ、とんでもございません。こ

んな、頂いてもよろしいんでしょうか?」「もちろんよ」大勢の人でごった返す会場

にはハイテンポの音楽がとどろく中、巨大な筆で屏風や大きな紙に書かれる書

を見入っている。と、呼び出しの電話が鳴る。これまた、毎年同じである。名残

惜しげに会場を後にしてショップに戻ると、彼女の顧客は待ちくたびれていた。 


 「K君、ネクタイをもっと、ボルサリーノ風にして!」 「リサコさん、頭が右に傾い

てる!」と、ファインダーをのぞく店長はポーズに注文をつける。初売りの最後は

その場にいた数人で写真撮影である。「ボルサリーノって?」の質問にも答えず、

K君のネクタイを膨らませにやってくる店長。何でも、アラン・ドロン主演のイタリア

映画の中で、マフィアの主人公が、ネクタイを膨らませていることを言っているら

しい。撮りなおす事、1時間。やっと3人の妥協点が見出される写真になった。 


 お次は、恒例イベント、近くの高宮八幡宮へのお参りで終わる。リサコは気合が

入っていた。なんてったって、昨年のおみくじは「散りすぎた花のごとく、衰退の一

途にあれど、徳を積み、明るい未来が待っている」だったからである。今年こそ

は、もっといいメッセージを神様から頂きたいものだと、欲深い思いをめぐらせな

がら、ちょうちんが照らす石段を深いスリットのドレスで、時々よろめきながら登り

始めた。白い息を吐いて、やっとおみくじ箱にたどり着く。『苦しいことやつらいこと

で眠れぬ日も続くが、徳を積み、人の役に立ちなさい。そうすれば、明るい未来

が、』とそこまで読んで、落胆の溜息をつく。しかし、彼女には、次なる可能性が

あった。「えっ、2枚も引いたんですか?」 2枚目を開け始めた彼女に向かって

Kはあきれ顔で笑う。「4倍、お金入れたから、いいでしょ」と彼女は次なる可能

性にかける。『思いもかけぬ嬉しいことが、時ならぬ、うぐいすの声のように幸福を

告げるでしょう。何事も節度を持って行いを正しくすれば、苦難は去って新しい

天地が開かれます』なんとすばらしいことよ!」やはり、2枚引いといてよかった。

「ねえ、ねえ、“時ならぬ、うぐいす”よ~」と、リサコは歓喜に酔うが、寒さのあまり

境内にはすでに誰もいない。「これぞまさに、“備えあればうれしなし”。2枚引け

ば、1枚はいいことが書いてあるのよ」そこではたと、気づいた。つまり、眠れない

ような苦難の中、行い正しく、徳を積めば、時ならぬ、うぐいすが鳴くのであって、

その眠れぬ苦難なしにはうぐいすはやってこないらしい。つまり昨年のおみくじの

運勢と同じではないか!そこで彼女は、今日一日を振り返った。今年の1月2日

が、昨年までと違っていたのは、なんと着物を着ていなかったことだけだった。 

森秀鳳氏の書初めライブにゆき、写真撮影をし、夜遅く高宮八幡宮に参拝し、

おみくじを引き、そしてやはり、「徳を積め」までは全く一緒だった。「寒くなりまし

たが、羽毛ふとんは活躍していますか?」とカードに書いた自分自身を振り返り、

“益々ご活躍ください”=“益々人の役に立ちなさい”という意味だと悟った。やは

り、75年の人生経験から出た一行力はすばらしい。“人の役に立つ”、やっぱりこ

れしかないのねと納得して、今年もこの言葉を胸に、仕事に当たることに彼女は

覚悟を決める。                                      

 そして今年の抱負に“人生負けたほうが勝っている”を選んだ店長は、おみく

じで見事に凶を引き当てた。彼は解説する、「“凶”とは、“恭賀新年”の『恭』と

書く。つまり“うやうやしい”と読む」と。やっぱり今年も負けたほうが勝つらしい。 





「新しい2008年も、つれづれなるままに、ゆるりと書き続けます。         
まだまだ未熟者の"リサコ"に、これからもご指導、ご鞭撻くださいますよう    
どうか、よろしくお願い申し上げます。」                         

                                    



 
    

  ラ・フランス店長が一番よく写っている写真を採用しました。(右下)
  
  他のスタッフ、3人欠席です。

  今年もマダム・ワトソンとリサコラム、どうぞごひいきに。




リサコラムに関するご意見、ご感想はこちらまで。                

mmm@madame-watson.com

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必ずご返事いたします。




木村里紗子 Risaco











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