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リサコラム
本日のオードブル
第76回


ある晴れた日に

 
木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
16年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、中谷彰宏、F.サガン、プルースト


   「首にダイヤより、私は、机ににバラを飾りたい」
        ある無政府主義者の女性の言葉らしい
                                

 

       

ある晴れた日に






 休日の朝、冷庫のドアを開けると、牛乳がなかった。今日は、ストレトティ

にしようかとリサコはしばし逡巡したが、服に着替えて、カシミヤの男物コ
トを

着て、長いマフラ
を首にき、外に出た。風は冷たいが裸の街路樹は暖かな

日差しの元、
かに春の準備をしているようである。ずいぶん前に紳士服店で

買った
いコトはSサイズで、若干大きいが、流行もなく長持ちする。しかも大

きなポケットはたくさんついているし、
丈も長く暖かい。用的この上なし。普段

はナイロンジャンパ
で通勤するから休日しか着ない。ユミンの古い歌の歌

詞を思い浮かべながら、
いスの中をぶらぶらいた。失した女性

が、
を降り過ごして社を休んでしまった歌だった。冬の日に、コトを着て

街をぶらぶら
く、切なくも乾いた歌。明るい冬景色のように晴れやかな分だ

ったが、彼女の財布には2千円くらいしか入っていなかった。


 "ピンククロックソルト”と書かれたきれいな色の塩を手に取ると、地殻変動

で海水面が隆起して岩塩として採掘されたパキスタン産と書かれている。その

隣には、フランスのロレ
ヌ地方の岩塩、中四川省の岩塩に、長崎馬の

“藻塩”さらに“
き藻塩”、先日和食のお店で「5億年前の岩塩なんです」と

にこやかに笑う女性が、“ガンダ
ラの塩”というものを小皿で差し出した。「ガ

ンダ
ラ石窟寺院のガンダラですか?ほう、インドの?5億年?そんな貴重

なものを、…」と妙に感動し、神妙な顔で一粒
らず5億年前を、なめ干した。

「ほのかに甘く、よいお味ですね…」それ以上のソムリエ的表現はどうしても浮か

ばなかった。赤
西浜の塩に、瀬戸内、五島灘、沖の塩に備前岡山の塩、

「う~ン、難しい」塩コ
で15分もんでいたら、料理が完成するまで

か遠い道のりである。隣の味
えておよそ70種類ものカップに入

った味
が並んでいる。今やマヨネズはカロリフに、クオタ(1/4)

カロリ
70%カットに、コレステロルゼロ、しかも、食べるだけでコレステロ

を下げるものもある。「はたしてどちらがいいのか、下げるか、ゼロか?」、“健康の

ために、
日酢をみましょう”のキャッチの下には、鹿酢、梅はち蜜、

りんごはち蜜、ゆずはち蜜、ブル
ベリその掛け合わせ、さまざまな酢が並ん

でいる。お隣の“とろろコ
ー”で彼女は立ち止まった。とろろだけでも16種類

もあった。“根昆布とろろ”に“
酢とろろ”、ということは、“酢とろろを食べれ

ば、昆布のミネラルと酢を同時に
取できることにもなるのだろうか?”しかし、

“北海道利尻昆布とろろ”をうどんにのせたら、おいしそうである。九州に住んで

いると、“北海道”という言葉がつく食べ物には、遥かなる憧れと期待がプラスさ

れそれだけで買ってしまいそうになる。
                              


 学生のころ、新幹線で東京からずっと隣に座ったサラリマン風の男性と、

京都あたりから
話が始まったことがあった。「北海道の新じゃが使ってると

消費者は思ってるでしょうけど、実は違うんです
」彼はポテトチップスを作ってい

社の社員らしかった。「冬の北海道で、じゃがいもなんて取れませんよ。

は鹿
島産です。鹿島といえば、サツマイモでしょ、でもじゃがいももたくさん

作っているんです」「はぁ~意外ですね」「でしょ」
そんな話を博多までして別

れたことがあった。
                                             


 「男性は、北海道がいいわよ」あたりの子を窺うようにちらっと見渡してから、

雅美は細い手のひらを顔の
にあてがい、小でリサコに言った。「ワタシ、結

婚するのです、
は」「えっ、そうなんですか?もしかして、北海道の方と?」雅

美はきれいな顔で店
のカウンタ越しにリサコを見た。「札幌の人なのよ....」

「わぁ、どこで知り合われたんですか?」「福岡なのよ、意外でしょ。自分でもび

っくり!」「でも、でも、おめでとうございます。そう、ですか、札幌の方ですか~」

北海道の顧客をひとりひとり思い浮かべながら、札幌の友人の葉月が昨年のクリ

スマスに贈ってきてくれた氷できた大きなキャンドルホルダ
を思い、氷の中で

光るキャンドルの美しくも不思議幻想な光景が並ぶ大通り公園を思い浮かべて

みた。つい最近まで、毎日、日が落ちると、贈られてきた2個の氷のキャンドルホ

ルダーをエントランスに出しては、夜まで火を灯し、ささやかな札幌雪祭り気分

を味わった。雪の大地、暖かなクリ
ムシチュのコマシャル。貧弱な想像

力で北海道を考える。ス
の入り口近くでカゴに入れた桃の枝と阿蘇の牛

乳、桃色のパキスタンの塩に、鹿
酢に北海道利尻昆布のとろろをやっと

選んでレジに並んだ。しめて¥1,472。淋しい財布の中身で大きなス


行くと精神修養になる。必要なものと欲しいものが
決し、財布の中身と決

挑む。豊富な食材と
話し、その誘惑に打ち勝ち、想像はネット索並みにめ

ぐりにめぐる。
大きいは、ただで社もできる、優れて楽しい場所

であると彼女は思う。
                                           


 外は先ほどよりさらに明るい日差しにちていて、部屋にると、南の窓から

は大量の光が、ブラインドを超えてソフトクリ
ムのような色を部屋全体に作り出

していた。背の高いガラスの花
に桃の花をすと、彼女はオペラ歌手マリア

カラスのCDをかける。書棚からは昭和20年に
行されたボドレルの詩集

の華』を取り出す。マリアカラスの倒的な美は晴れた日の朝にふさわ

しいと最近
づいた。ビゼの『カルメン』、プッチニの『ある晴れた日に』わけ

のわからないオペラの歌詞に、同じくわけのわからないボ
ドレルの刻んだ言

葉が、絶妙にすばらしい音を奏でる。わけのわからない同士は相性がいいのか。

冬の北海道でじゃがいもができるのかどうか意識にない九州人だから、北海道

人と相性がいいのだろうか?マリア
カラスの歌とボドレルの詩は合わさり

あい、摩訶不思議な早春の晴れた休日の朝を作り出していた。いったい家族の

誰が
後の日本でこんな『の華』のようなアヘンに酩酊した詩の本を手に入

れ、
む余裕があったのだろうか?今にも崩れ落ちそうな茶色くけたペ

をめくり、ソフトクリ
ムの部屋に浸っていると、アラジンの魔法のランプからむくむ

くと、マリア
カラスが出てきて、ボドレルを朗々と歌い上げているかのように

聞こえる。意外な発見はごく近くに
がっている。デイル・カーネギーは、「人間

性に関して最も悲劇的なことのひとつは、みんな生きることにどうしても嫌気がさ

すということだ」と。「だから、遠い地平線のかなたになにか不思議なバラ園を夢

見てしまう。今日、窓の外に咲いているバラを楽しまずして」と言った。     


 休日のある晴れた日、スで買ってきた桃色の塩をなめながら、彼女は

熱いミルクティをすすった。                               





                                      Risaco













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木村里紗子
















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