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リサコラム
本日のオードブル

第82回


青春時代
 
木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
16年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、中谷彰宏、F.サガン、プルースト

    
        人には、青春時代が二度はあるのかも。

 

       

青春時代




「今度の福岡の撮影だけど、やっぱり、リサコさんの寝室も撮影してもいいかし

ら?」編集者Y子から、メールが来た。「やっぱり、来たか」と思いながら、リサコ

はどんなテイストがいいかと、スタイルを並べ上げた。「一番好きなのは、“ブラー

ムスはお好き”。あの、赤いストライプのブレックファストピローの寝室ね」白いベッ

ドルームに赤と白のストライプのカーテンを天蓋ベッドにかけて、サガンの小説の

中の一節をコード刺繍した白いフラットカーテンをベッドの足元から吊るしたスタイ

ルのことだ。想像することころ、そんな“フレンチカジュアル”が彼女のお好みらし

い。おませなフランス人の女の子が、お母さんの香水をこっそりつけた頃を懐か

しみながら、サガンの恋愛小説を再び開く…“フレンチな憧憬”を思い描きなが

ら、その寝室のコーディネートをしたときのことをリサコは思い起した。「もう一つは

“ブルーライト横浜”ってスタイルにも興味あるな。私ね、横浜出身なのよ。でも、

イギリス好きの私としては、“シャーロック・ホームズ”の寝室もいいな。でもテーマ

が“リゾートホテル”だから、“アマンリゾート”も捨てがたいし、」「読者の傾向はエ

レガントなインテリア好きの気がするんですけど」とリサコは言った。「だんだん若

いテイストのシンプルなラインに移行しているから、”ブラームスはお好き的”イン

テリアも、これからは受けると思うよ。リサコさん言ってる“ホームリゾート”、それ

よ!ホテルに滞在している気分にさせてくれる、でもちょっと手を伸ばせば自分

でも作れそうなホームリゾート、であればお任せするわ」いつなんどきでもピンクレ

ディを踊れるよと言ったY子はおおらかに言った。


 「シャーロック・ホームズ的ミステリアスな気分を醸し出しながら、エレガントで

あり、シンプルであり、手を伸ばせば自分でもやれそうな、リゾートホテルに滞在

している気分になるコーディネート。しかもクラシカルテイストの延長線上にある

寝室、これがまず1つね。ア~ンド、まさにアマンリゾートの気分を漂わせながら、

フレンチカジュアル、ちょっとコケティッシュ。でも、ハイソ過ぎず、自分でも真似で

きそうな、エレガントかつ、シンプルラインにあるやはりリゾートホテルの一室のよう

な寝室1つ。合計2つ」とY子の言葉を翻訳した。“あくまでも、ちょっと手を伸ば

せば、届きそうな”これがポイントである。そして何より、「陳腐ではないこと」これ

を満たす条件で、2つの寝室を考えればよいというわけだ。「くれぐれも、無理の

ない範囲で」と、Y子の最後に添えられた言葉を反芻し、目を閉じてじっと考え

た。すると、自分がなぞなぞ地獄の中で、足を取られて手をばたつかせているよ

うな気分になった。「まず、今掛けているカーテンもベッド回りのものものを全部は

ずして、一から考え直すしかない。簡単なことよ」何事も気の持ちようである。そ

う言い聞かせると、他の仕事の山を軽く横に押しやると、想像力の神さまにお願

いした。



 “ちょっと手を伸ばせば、届きそうなそうなねぇ、”そう思いながら数年前プーケ

ットのアマン・リゾート、“アマンプリ”を思い起こしていた。プールサイドで毎日提

供される、コンプリメンタリー(タダ)のおいしいアフタヌーン・ティを戴いていると、

流暢な日本語で、現地スタッフの男性が話しかけてきた。誰から教わったのか、

あまりにうますぎる日本語である。「すぐ外に、おいしいレストラン在りますよ」「あ

あ、あの、車の中からちょっと見たあれね~」「3回、1回よ」「?」「3回1回。外

のレストラン3回で、うちのレストラン1回分ね」と満面の笑顔である。「そんなこと

言っていいんですか?」「僕が、いつでも送ってゆくよ。迎えもゆくよ。タダで。でも

うちのレストラン、雰囲気いいからね」彼女は逡巡した。“3回1回ね
.”昨日

もここでタイ料理食べたけど、確かに安くはない。日本の高級レストラン並みの価

格である。なのにアマンプリのレストランは、外国人しか行かないレストランのその

3倍はするんだわ
”そう考えると、とても迷った。アマンプリのレストランは“類い

まれな”と表現できるくらい魅力的である。ブラックタイルのプールサイドの周りに

は、夜になるとキャンドルが灯され、そのプール越しに3人の楽師がガムランとい

う魅惑度満点の楽器で、エキゾチックな音色を奏でる。風に揺れる高いやしの

木が夜の涼しげな風を送る中、少数のゲストが、スマートカジュアルなドレスコー

ドにのっとり、水着からエレガントなスタイルに着替えて長い長い夜を楽しむ。波

の音はガムランの音楽に予期せぬ効果音を加えている。

 
 「有り余りたるお金を無駄使いしに来ている」ゲストたちが醸し出す、その雰囲

気こそが数多いアマンの魅力の中で最高のものだと彼女は感じている。分かって

はいても、「3回1回とはねぇ~う~ん」彼女はここまでやって来るまでの1年間

を思った。アマンに限らず、最高級と言えるリゾートは庶民の自分にはそうやす

やすと来れるリゾートではない。なのにそんな誘惑に安直に負けてよいものだろう

か?そんな寂しいふところとの相談をした思い出がよみがえる。



 “手を伸ばせば届くインテリア”、“3回1回なら何とかできるかも”ということだろ

うか。“1000円のランチを3回我慢して、4000円のディナーをたまに楽しむ心

の贅沢だろうか”、と彼女はY子の言葉を考えてみた。『リゾートは遠くにあって思

うもの』彼女はつくづく思った。3泊のリゾートライフのために1年間、懸命に働く。

あまりにぎりぎりがんばりすぎて、肝心なリゾートに着いて高熱を出すこともしばし

ばある。熱射病で倒れて、けがをした帰りの飛行機の中で、飲みものがなかなか

配られないのに、業を煮やして
NOT YET!”を繰り返したことがあった。それでも

平気な顔をして通り過ぎる男性乗務員。リゾートで至れりつくせりの至福の5日

間を過ごした後、帰りの乗り継ぎの便を待つグアムの空港で、床に新聞紙を敷

いてホームレス状態で夜を明かしたことを思った。次は絶対、ビジネスクラスで

行ってやると心に誓った夜もあった。ネットの情報ですばらしい楽園のような想像

を膨らませて行ったら、シャワーのホースが折れていて、途中から水が噴出す

目にも合った。割れた窓ガラスにガムテープが張られていたこともあった。夜中

に疲れてやっと辿りついたのに、掃除をやり直してもらうこともしばしばある。


 楽園リゾートに行くには、“ビジネスクラスで行くべし”彼女の黄金律である。行

程も極楽状態でなければ、1年、いやそれ以上のごほうびにしては、海外の短い

リゾート旅行はあまりに辛い業となる。それが無理なら、自宅で”3回1回”をやっ

たほうが遥かに投資対効果は大きい。


 彼女は、日常生活で、非日常の
リゾートを思うとき、『青春時代』という歌を

口ずさみたくなる。付き合っていた男女の青春時代を思い起こす切ない歌詞が

リゾートに対する憧憬にぴったりと当てはまるような気がしているからなのである。

リゾートとはつまり青春時代のようなものではないかとこの頃は思うようになった。


 ♪三泊五日のリゾォートでぇ、答えを出せと、いうけれどぉ、

たかだか過ごした3日、なんで計ればいいのだろう?

ラララ~、♪リゾート旅行が夢なんて、あとからぁ~ほのぼの思うもの~。

3泊5日の真ん中は、うまく行かないことばかり~♪    






                                      Risaco























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