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リサコラム

本日のオードブル
第84回

セルフサービス

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
16年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、中谷彰宏、F.サガン、プルースト

 『ヘイ、豆乳スープに大豆チャーシュー、
     ヘルシー博多ラーメン一丁、おまたせ!』

 

       

セルフサービス








 スコ~ンと、音もなく響きわたるように晴れ上がった空。風は冷たいが、低気圧

が去った後の春の空は、青とグレーに白を混ぜ込んでグラデーションをつけた青

い画用紙のようだ。そこに飛んできた飛行機が、真っ白い雲をもくもくと、勝手

気ままに絵を描く。窓から身を乗り出し、見上げたリサコは、今日ばかりは苦々

しく青と白の情景を見上げた。


 アフタヌンティ日和である。ベランダに籐の一人がけソファを出し、テーブル

クロスを掛け、丁寧に手でしわを伸ばす。かけ声と共に持ち上げたオレンジピンク

のパラソルは、パリの5つ星ホテルのガーデンテラスを真似て、3年前、張り替え

たものである。白いテーブルクロスの上に白いテーセットを置くと、春の晴天は、パ

ラソル越しに、ピンク色の光が白いものをすべてピンクに着色した。        


 「なんで、今日はこんな晴れなのよ~撮影が今日だったらねぇ~」無念の思い

で恨めしく青い画用紙を見上げる。昨日の阿蘇の別荘の撮影は、久しぶりの大

雨となった。インテリア雑誌の取材班、リサコ含む計4名は、2時間のドライブの

末、辿り着いた阿蘇の雄大な自然を背景にたたずむ顧客の別荘に降り立った。

迫力を持って迫る阿蘇の山々は活火山の吐き出す白い噴煙だけを手がかりに

雨の中、見事に雲隠れしてしまっていた。道中、ひとり饒舌なY子は、カメラマン

S氏に最後の要求を突きつけた。『リゾートの企画なんだけどぉ、Sさん、この雨の

中、すがすがしいリゾートの雰囲気撮れませんかねぇ?』『う~ン、雨のリゾート

なら
.』寡黙なS氏は、Y子に苦し紛れな提案をする。『さっき、聞いたら東京

は晴れだって。そっちは、晴れてなくていいんだよ!こっちが晴れてりゃ、交換し

ろよって、言っちゃった!』こぶしを振り上げるY子。甲斐なく雨足は衰えず、『天

気予報によると、今日は一日雨ですって』別荘の女主人は落胆の表情で、『よ

っぽど私の行いが悪いのかしら?』『そんなことは
、きっとそのうち、晴れてきま

すよ』とリサコはフォローするが、『夕方は豪雨ですって』女主人の若いお嬢さん

は、正確な事実を述べた。雨の運動会のように、自然はいつも人間に対して強

気な態度を見せる。
              


 その3日前、『リサコさん、メニューの構成なら最後の屋台のラーメンも入れた

ほうがいいよ』と店長は忠告した。取材班4名の夕食の予約で悩んでいたリサコ

は『そうでしょうか?』『だって、彼らの泊まるホテルのまん前は屋台が並んでる

じゃないですか!ホテルに戻る足がそっちに向くに決まっているじゃない』彼女

は大阪からやってくる営業マンHさんのことを思い出しながら、そうしますと、別腹

ラーメンの余地を残した。


 Hさんは博多にやって来る前に、東京の競合メーカーMさんと電話で日程の連

絡だけ取ると、仕事が終わると、いつものように同じ屋台にやってくる。そこに、M

さんがやってきて合流するという自然の摂理に15年身を任せている。屋台とは

そんな偶然の出会いを必然の出会いにする摩訶不思議なコミュニティである。

営業マンの行動日程は年間を通じてほぼ変わらないから、屋台のおやじさんも

心得ている。しかもHさんは、博多でしか髪を切ったことがない。家も会社も大阪

にありながら、博多でしか髪の毛を切らない彼の行きつけの美容室は、当然彼

のカットのローテーションを心得ているはずである。彼女は、別腹博多ラーメンを

差し引いて、給仕人ウォーリー君とメニューを電話で話し合った。迷った挙句、

アラカルトから、チョイスした料理の構成でリサコオリジナルコースメニューが出来

上がった。肉が食べられない彼女は、お任せ料理が苦手である。知人数人と食

事のセッティングをする時も、やはり、アラカルトが多いレストランのメニューから、

あらかじめチョイスして構成したオリジナルのコースメニューがいいと思っている。


好きな友人を家に呼んで自慢の手料理でもてなすそんな気分を少しでも味

わえるからである。そんなオリジナルのディナーの後は、数種類のインテリアの寝

室から好きな部屋を選ばせて泊める、そんな別荘を作るのが夢である。


  そんな夢の話をY子にした2日前の夜、4人のグループはキャンドルの光が

揺れるテーブルで、夜中までインテリアの話題を魚に盛り上がった。『私ね、“壁

紙をもっと気軽に貼ろうよ”って企画でブレイクしたんだけど、反応はいまひとつ

でね、テーブルに敷こうとか、板に張って、ベッドヘッドにしようとかやったけど、や

っぱり、壁紙は壁に貼るのが一番よね。今日、リサコさんの家で、そう思ったわ』

情熱編集者Y子の話はさらにブレイクする。『だいたい、職人さんが今よりもっと

評価されてしかるべきなのよ!彼らはね、たとえば、クロスの職人さんにしたって

すっごい技術を持っているのよ。紙の壁紙を柄合わせして、でこぼこの天井に自

分で貼るなんて、とてもできやしないもん』とY子は夜中に、こぶしを振り上げた。

その翌日が、阿蘇の別荘の取材だった。
                                                


 阿蘇の別荘でカメラマンS氏とY子、店長とリサコは別れて、それぞれの帰路に

ついた。やはり、希望的憶測から自由な若いお嬢さんの見解は正しかった。集

中豪雨である。せっかくなら阿蘇の山越えで福岡に帰ろうとした2人の前に、コ

ンデンスミルクのような霧が、5m先の視界しか残さず山道の行く手を阻む。無

事に家に辿り着けるだろうか?懸命に働くワイパーを見ながら、叔母のポンコツ

で、片道100kmの山越えの道を豪雨の中、2往復した子供の日のことを思い

出した。片方のワイパーは壊れ、1本のワイパーを頼りに、心細い気持ちで車の

後部座席で揺られていた。こんなときインテリアは無力である。車体の色、内装

色、ハンドル、シートカバーにこだわりの個性を施しても、視界もほとんどない山

道の集中豪雨の中、頼れるのは、何のデザイン性もない、ワイパー一つである。

その動かしがたい事実に、インテリアとは何ぞや、と今さらながら考えた。ようやく

福岡県に入ったとき、ケイタイが鳴り、無事の到着を知らせる元気なY子の声が

羽田空港のコンコースの中で共鳴していた。「やっぱり、向こうが早かったか
.

無事に家に辿り着いて、熱いシャワーを浴びて、清潔なベッドにもぐり込めますよ

うに」それだけを望みにワイパーの果てしない動きを不安げに眺めていた。
    


 やっと無事にたどり着いて玄関ドアを開けると、大きな踊るバラの壁紙に迎えら

れる。そして、白いドアの向こうに白いソファと白い天蓋ベッドの寝室をのぞくと、

もう一つの寝室のドアを開けてクラシカルな寝室を眺めた。自分で掃除して整え

た寝室は、ようやくたどり着いた彼女を迎え、もてなしの手を広げてくれているよ

うに感じて、やっとほっとした。“豪雨の道じゃ、インテリアは、ワイパーにはかなわ

ないけど、やっとの思いで帰り着いた家では、自分がしつらえ、整えた寝室には

やっぱり癒されるのものね


 “自分が自分をもてなすねぇ”つまり“自分が自分にサービスするセルフサービ

スかぁ”、インテリアって、セルフサービスみたいなものかも?ちょっとした発見を

した気分で、リサコはアフタヌンティの後片付けをした。 『妻はセレブランチ、私

はセルフランチ』彼女はまた好きな川柳を思い出して、誰が詠んだのか面白い

川柳だと思った。






                                      Risaco






















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