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リサコラム

本日のオードブル
第87回

桃色吐息


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
16年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、中谷彰宏、F.サガン、プルースト


   『おい、アリス、あれ、歌ってくれないか!
           ♪咲かせて、咲かせて~って、やつをさ!』
    

 

       

桃色吐息




「うぁ、ようこそ~」「はじめまして」飛行機と電車を乗り継いで、事務所に尋ね

て行くと、建築士のジュンコさんは「これ見て~」と、初対面の彼女をすぐに住宅

の模型の前に連れて行った。そっと屋根をはずすと、2階部分を見せ、「この階

段を下りるとね、ここにつながるのよ」と、彼女は、ちょっと中二階のようなフロア

に案内する。ここからね、1階のリビングまで大階段でつながってるのよ」「この階

段に腰掛けてね、お茶飲んだり本読んだりできるのよ。パーティの時には、ここが

コンサートホールにもなるのよ」「ああ、ステキですねぇ~大階段!プーケットの

アマンプリというビーチリゾートを思いだします。こんな大階段があるんです。いい

ですね~」アマンプリの有名な大階段は、プールからプライベートビーチまでの

急な坂に作られた幅の広い石の大階段で、途中から伸びた、自生のヤシの木

が涼しい日陰を作る。長く急な階段のため、ゲストは途中、休憩したりお茶を飲

んだり、水平線に沈む大きな太陽を肴にビールを飲むという悦楽をも得る。「そ

してね、このリビングのドアから外に出るとね、ずっと向こうの先まで石の廊下が続

いているのよ~、いいでしょ」ジュンコさんに示されるままに、彼女は模型の窓か

ら石の外廊下を眺める。アプローチから、その先のリビングのガラスドアを経由し

て、細くまっすぐな廊下が続いている。今度はバリのアマンキラの石の長い廊下

を思いだした。生い茂るヤシの木の間を縫って、直線に伸びる石の廊下は、日

が落ちると、足元に点々とキャンドルの黄色い光が灯され、ゲストに目的地のレ

ストランまでの道案内をする。模型の家は、石の廊下がアプローチから玄関を抜

け、ダイニングを突っ切って家の外に出て、はるか先までずっと一直線につなが

っている。その先は、ベンチとテーブルのある東屋で収束する。“なんとセクシー

な家なんだろう!”彼女は感嘆の吐息を吐く。
                         


 「すってき、ですねぇ、まさにバリなんかにある、ガゼボですね」かやぶき屋根の

東屋の下で、昼寝したり、お茶飲んだり、風に吹かれてオイルマッサージ受けた

ことを思い出す。「この長い敷地を見ていて、なんて、美しいバランスなんだろう

と思ったのよ。地形と敷地を生かして建てるなら、これしかないって思ったら、す

らすら、出来てきちゃって
」「すっばらしい!」二人は、模型の前にかがみ込ん

で、不思議の国のアリスになり、テーブル上の薬びんを飲むと、みるみる小さくな

った。ドアを開けると、玄関横の出窓から濃い緑を眺めながら、リビングに入る。

背後の大階段に腰掛けると、バイオリンの演奏が始まった。美しい泡を立てなが

らシャンペンが注がれると、乾杯の合図ともに、パーティの始まりである。集まっ

た人々は、ドレスコード、スマートカジュアルにのっとり、グラス片手に歓談を始め

た。日が落ちると代わりに、月はみるみるその優雅な細い姿を表し、桟橋のよう

な廊下の先の小島を照らし出した。時々木々のざわめきは静かな空気にBGM

を鳴らす。石の廊下を歩く二人を清浄な空気がほほをなでながらすり抜けると、

あたり一面のキャンドルの光を揺らし始めた。“ここは、阿蘇か由布院あたりの別

荘だろうか?”時々、湯煙と共に運んでくるゆで卵のようなにおい、木々の揺れ

る葉音が静寂な山里の中に作り物でない自然音で、家全体をオブラートのよう

に包み込んでいる。「細い月がこんなに強い光を放っているとは!」黄色い泡の

美しい飲み物にほろ酔い加減の二人は、石の廊下の中ほどで立ち止まった。漆

黒の林は、月に照らされ、キャンドルの黄金色の光を受けて、鈍い銀色に光り輝

いている。「♪金色、銀色、桃色吐息~」お酒に弱い女二人は、シャンペンの熱

い吐息を吐いた。
                                              


 「もっと、くびれたほうがいいんじゃないですか~なんか、ズンドウでかっこ悪い

ですよ!」「そうでしょうか?じゃ、もう少しと」彼女は、店長の要求に少し細身の

線に引きなおした。「こんなもんで、いかがですか?」「いいんじゃ、ないでしょう

か?」とK。もう、何度やり直しただろうか、ソファーカバーに隠れて見えないオリ

ジナルソファの脚の形を。すわり心地は、半年を費やしてやっと満足のゆくものに

なり、カバーの縫製仕様、結ぶリボン、織りネーム、やり直すこと数回、それでや

っと思い通りのものが出来てきたというのに、ここに来て、まだ見えない脚のくびれ

に意見がまとまらない。耐過重を満たすボールキャスターは、コロンとして大ぶり

なため、くびれすぎたウエストラインではグラマラス過ぎて奇妙な印象を受けた。


 「バランスですよね。店長好みのグラマーな2段くびれはセクシーですが、」リキ

ュールグラスを下向きにした形は確かにカッコイイが、ボールキャスターの丸いコ

ロンとしたヒップラインにどうしてもそぐわない。「もう少し、シャンペングラスのライ

ンに近付けて、ボディはズンドウな感じがいいんじゃないでしょうか?」話合うこと

すでに7ヶ月、やっとボールキャスターのヒップは少しズンドウなメリハリボディを

手に入れた。
                                                 


 「“ねんど”と一緒ですよ。どんなにメリハリボディに矯正したって、所詮、脂肪の

移動ですから、どっかに寄ってるだけですから」下着メーカーの営業マンの男性

は、粘土の入った袋を絞り出すようなリアルなアクションでもって、新製品の説明

する。「なるほど、ねんどの原理ねぇ~」「だから、これです!新製品の○○ウォ

ーカー、今回男性用の下着も作りました!これをはいて、一日6000歩、週8日

で、これで体脂肪が確実に減ります。研究所で実際にお客さまの体の変化を測

定して、実験結果が出ているんです」「はあ、なるほどねぇ」モニターの画面から

は、揺れるおしりがどう変化したかの実験結果がリアルに繰り返し流されている。

「メリハリボディの美しさも、バランスですよね。一部分細くしても、別のところから

そのしわ寄せが出てきちゃ、美しくないですもんね」 ワイングラスやシャンペング

ラスのように、引き締まった美しさを思い描く。そして、あの今にも倒れそうな感じ

で立ってはいるが、震度6の地震のときも1つたりとも落ちなったことをまた思い出

した。他のものは転がり落ちても、ワイングラス、シャンペングラスは、ショップでも

自宅も見事に無事であった。緻密に計算された安定性と美しいスタイル。完成

された美しさは、バランスと安定感をも満たしているのだろうと思う。そういえば、

ジュンコさんの設計したガゼボ付きの家は、まさに、シャンペングラスを横にした

形に似ていることに気づいた。長方形の家のボディ中心を串刺しにしたように、

細く長く伸びる脚線美の廊下。その先に足型に広がるガゼボ。造形美もバランス

と安定感を引き連れているのではないだろうか、と一人納得しながら、彼女は帰

宅した。


 すぐにシャワーを浴びると、いつものように冷蔵庫から、冷えたシャンペングラス

を取り出し、天然の紅を帯びた“阿蘇のいちごリキュール”を2cmほど注ぐと、冷

えた炭酸水をグラスの8分目までゆっくりと注ぐ。濃い紅は、炭酸水で清められ、

みるみる淡いピンク色に変化した。彼女お決まりのオリジナルカクテルである。

その名を“桃色吐息”と名づけている。これはお風呂上りにもってこいである。

一気に飲み干すと、「ふ~、つかれたぁ~」と、桃色の吐息を吐いた。






                                      Risaco

























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