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リサコラム

本日のオードブル

第88回

”リカちゃん、スミレちゃん"

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
16年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、中谷彰宏、F.サガン、プルースト


   『危ない、危ないよ~!』
           『わかっとる、まかせとけ!』
    

 

       

”リカちゃん、スミレちゃん"





巨大な革のトランクをかかえて、いつものスリムな営業マンがやってきた。「今

日も、“ダサかわいい”を連発をするのかと思いながら、リサコは頑丈で使い込ま

れた、そのこげ茶のトランクを見た。中にはたくさんの部屋着のサンプルが入って

いるはずだ。彼は、絵型が描かれたサンプル帳を広げると、彼女に1枚1枚服の

現物のサンプルを見せる。「どうでしょう?これなんか、展示会でかなり評判よか

ったんですけど」彼女はピンクのニットのカーディガンを手にとって見た。サテンの

長いリボンが通してある“フェミニン”系と、表現できるものである。「そうなんです

か?ほんとに?」「ほんとですよ。かわいいと思いません?」「ですかねぇ~」“か

わいい”という日常用語ほど曖昧でごまかしの効く言葉はないだろう。子供らしい

かわいさにも、プリティにもキュートにも、時には「値段がかわいい」などと、“適切

な”“安い”という意味にも使われる。「かわいすぎはしませんか?最近、“甘すぎ

る”と言われるんですけど」「確かに甘すぎるとは最近よく言われますね」「“甘す

ぎる”とはイコール“ミーハーぽい”とか、“安っぽいかわいさ”とか、結構シビアな

批判に当たるみたいですよ」言いながら、彼女はほかの言い方が見つからなか

った。
                                             


 かわいい色の代表色、ピンクのベッドリネンを嫌う男性も、なぜか桜を愛でては

美しいと感じ、花を求めてはるばる写真を撮りに行く方もいる。ドレープカーテンの

プリーツを美しいと感じても、それが短くなっただけの“フリル”は“かわいすぎる”

とか“甘い”と、とらえる方も多い。よく“幸せな人はピンクを選ぶ”といわれるが、

ということは、多くの女性がピンクを好むのは、幸せを感じていている人が多いと

いうことだろうか。ピンク好まない男性は、幸せではないからだろろうか。しかし最

近、ピンクを好む男性客が増えてきた。フリルたっぷりのクッションやベッドリネン

も受け入れる男性が増えてきたのは、幸せな男性が増えてきたということだろう

か。トランクの彼がやってくるといつも、“かわいい”とは何だろうという永遠のテー

マを彼女は考えてしまう。                   


 「わぁ、かわいい!おいしそう!」赤、黄、ピンク、緑、茶、野菜だけで構成され

た色とりどりのデトックスランチが運ばれてくると、リサコは皿を運んできたスタッフ

に思わず感嘆の声を上げた。そんな素直な言葉を吐くことが少なくなった今、自

分の発した言葉にちょっと驚いて、幼児のころに好きな色を尋ねられたときのこと

をまた思い出す。友人の女の子は、みんなピンクとかオレンジ、赤と答える中で、

茶色や黒、灰色が好きだと答えたことがあった。当時の彼女は、ピンクや赤、オ

レンジという色は、女の子っぽい甘さや安っぽさを感じ、そう思われることが嫌で

あえて“茶色、黒、灰色”と答えるような、反骨精神旺盛な、嫌味な子供だった

気がする。“クール”、“かっこいい”というイメージに、ピンクがそぐわないと感じる

色に対するイメージも、反応も、子供のころと大して変わってはいないことに気づ

かされるたびに、冷や汗がでるような恥ずかしい気分になる。
              


 デットクスランチの店を出ると、道すがら、以前よく通っていた歯科医院の前を

通る。「歯を磨くということは、歯に使わせてもらってありがとうということなんだよ。

そんな感謝の気持ちをこめて、1本1本歯を磨くんだよ」先生は、幼時を説得

するように教える。だから、その歯医者さんに行くといつも自分が子供になったよ

うな気になる。話好きの先生は、歯にドリルで穴を開けながら、「正月休みはど

こ行って来た?」と聞いた。「はん、が、ほ~はぅ」「はっ?何?」と先生はドリルを

回し続けて聞き返す。「先生、口開けてたら、答えられませんよ!シンガポール

です」何度言っても、おしゃべりな彼は、話とドリルを並行する。だから質問に答

えるのに必死で、痛さや恐怖感を感じている暇がない。それが作戦なのかも知

れないと最近ようやくわかった。「シンガポール?何しに?」「あふ、た、ぬんてぃ

」やっとの思いで発音すると、「アフタヌンティか?午後茶か?午後茶飲みに、わ

ざわざ行ったのか!」「ぷ~るも」「プール?プールなんか、南市民プールがあ

るじゃないか!」「デモね、センセ
と言いかけたが、ラッフルズのコロニアルな美

しいプールサイドで、アフタヌンティを運んでもらった幸せな光景を説明しても、

所詮、午後茶には変わりはないし、泳ぐ目的なら、南市民プールでも間に合うし

残念ながらあきらめた。そんなことを思いながら歯科医院の前を通り過ぎた。 


 ある日、ご相談に伺った顧客のお家のリビングで4歳の男の子とスケールで測

量ごっこに興じていた。彼女が顧客のノリコさんと共に、彼女がスケッチブックの

中のソファとクッションに集中している脇で、4歳のマスミ君は、スケールと店長を

引っ張って、あらゆる場所を測定し始めた。店長は若い測量技師に引きずられ

ながら、「危ない危ない!そのボタン、押したら危ないからね!」と言うと、彼は

冷静に「わかっとる!」と答えた。“子供だってそのくらいわかっているさ”と,その

声は主張していた。かしこい彼は、将来どんな仕事に就くのだろうかと思いなが

ら、「そうよね”わかっている“ということはよくわかる」と彼女は笑った。そして、マ

スミ君のお母さんのノリコさんは、「最近やっていて、つくづく思うんですけどね、テ

ーブルセッティングって究極のおままごとじゃないかって」と、しみじみ語った。


 帰りの車の中で、リサコはノリコさんの名言”おままごと”を思い返していた。こど

ものころから日の出とともに活動していたという店長は、どこでも方位磁針なしの

東西南北で行動する。しかし子供のころから方向音痴の彼女は、地下駐車場

で、自分の車をよく見失う。だから「スミレ、スミレちゃんだったわ」とスミレの絵

を目指して探すことになる。子供のころからの掃除好きは、お隣のコンビニで見つ

けた2cm幅のノズルブラシが彼女の新しいおもちゃとなった。掃除機の先端につ

けると、気持ちよいほど細かいところまで吸い込んでくれる。2児の母であるスタッ

フのユカは、子供のころ、マンションの間取り図を切り貼りして、自分の好きな間

取りにして遊んでいたという。だから今でも細かい手作業が得意でPOP書きの達

人でもある。靴職人の父を持つ家庭に育った厚子は、子供のころから優雅に小

走りができる。Kは地球最後の日には、「やっぱり、から揚げが食べたいですね」

と言った。彼女の子供時代の着せ替え人形遊びも今、部屋の“インテリア”という

着せ替え遊びに変わっただけかも知れないと彼女は気づいた。測量ごっこを終

えた店長は、「”おじさん“という年齢になれば、自然と”おじさん”という人格にな

るんだと子供のころは思っていたけど実際に自分がおじさんになってみたら、意

識は子供のころと何にも変わらないんだよね~」と感慨深くつぶやいていた。






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