MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム

本日のオードブル

第92回

リサコ コラムは 
果てしなく
 
木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
16年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、中谷彰宏、F.サガン、プルースト

「しゃべるとき 気になるんです。すごく、苦しくて、手につかないんです」 「すなわち”しりとり症候群”ですね。寝てください。一週間で治るでしょう」「うっそ! そんなクローガー先生も、もしか...」「可能性はありますねぇ、エイドリアン」         

 

       

リサコ コラムは 果てしなく




エアコンの効いた店内から一歩外へ出ると、重たい雨雲が“さて雨でも降らせ

ようか”と言いたげな顔で、たっぷりの水蒸気を送り込んでいた。裏山に向かう坂

道を上るに連れ、ゼリーのようにどろりとよどんだ空気の中を、息苦しさを感じな

がら、彼女は先を急ぐ。竹林を過ぎ、子供たちが下校した後の静まりかえった校

門の前にやって来た。その信号を左に曲がると、さらに坂道は続く。「ふぁぁ、む

し暑ぅいぃ」夕方のひとけのない住宅地は、昼間の明るさを保ったまま、家路に

向かう人々や車の群れをじっと静かに待っているような気配がする。右手の小

高い場所には、ひときわ高くそびえるように、洋館が建っている。その家は、彼女

の初めての顧客となった方のお宅である。18年前、キングサイズのベッドスプレ

ッドを配達に行った初仕事を思い出す。洋館の女主人は、「坂を上がったら、お

城のようなものが見えるから、そこよ」といった。行けば、ほんとうに、ノイシュバン

シュタイン城のごとき、とがった屋根が重なり合うお城のような家があった。二階

の玄関に続く真鍮の長い手すりが光った。「この手すりをね、毎日一人で、磨い

ているのよ」大きな家を管理するのは、ほんとうに骨が折れると、教えた女主人

の言葉を思い出していた。
                                       


 お城を過ぎて、小道に入ったすぐには18年前からの顧客の家がある。凝った

意匠が施されていて、建築家本人の設計による自宅である。またなだらかな坂

の途中の左手、大きな塀を持つ和風のどっしりした門構えが見えてきた。10年

ほどのお付き合いのやはり顧客の家。和モダンな家にカーテン、じゅうたん、テー

ブルクロスと、順番に毎年いろんなものを納めてきた。いつ伺っても常に静かで

清浄な空気が流れていた。またその右手には今は、2世代目になった顧客の家

である。京風の瀟洒な玄関を入ると、拭き掃除が行き届いた和室があり、そこで

40代会社員、独身の彼は、和服を着て、コタツで一人お酒を飲んでいた。「廊

下にかけたカーテンは未だ健在だろうか?」と見えはしないが視線を投げる。さ

らに左上の坂の途中には、17年前の新築時にカーテンやベッド、寝具類一式を

納入したお家がある。その後、2世代に渡り顧客である。娘さん二人はそれぞれ

に結婚し、その一人の方が戻って来て、今は2所帯を構える。その先を曲がると

やはり15年以上のお付き合いの家。そこのご主人は、パソコンがトラブルを起こ

す度、解決しにきてくれる頼もしい助っ人でもある。2軒どなりは、チェーン展開

をする老舗のかばん店のご実家。すでに2代目の方に移っている。80代のセン

スのいいご夫婦はインテリア好きである。彼女もそのお店のランドセルをしょって

通学したことを思うと、不思議なご縁を感じた。なだらかにS字を描く坂道を登り

ながら、18年をたどる道は、次々とさまざまな思い出がシーンとなってよみがえ

ってくる。                                          


 小旅行の果て、今日の目的のお宅に辿りつくと、玄関ドアの外まで、平和な晩

ご飯のにおいが漂ってきた。「おいしそうなにおいがしていますね。ご飯の支度中

なのに、お邪魔してよろしいですか?」「さばの煮込みよ、うぅ~うん、大丈夫よ」

土間のたたきには、年代物の籐のソフアセットが置いてある。「捨てようと思った

んだけど、おじいちゃんたちが大事にしてきたものだから、やっぱり捨てられなくて

ね、だからおたくで、シートも作り変えてもらったのよ」そういえば、Kがそんな話を

していたわ、と4、5年前の記憶を辿る。「いや~、すばらしい、エコですねぇ」話

は途切れることなく、女主人は、「庭に生えていた雑草よ」と途中、玄関の美しい

活け込みを見ながら、湯布院あたりの離れにでも案内される雰囲気で階段を登

る。階段の踊り場には、ほのかな明かりと香りを漂わせるランプ、それに小さな花

瓶が添えられ、和みの空間を作っている。「全部、おたくで買ったものよ」女主人

は先を歩きながら説明を加える。「そうですね、ありがとうございます。わぁ、これ

なんか懐かしい~、7、8年前ですよね」彼女はこげ茶いろの籐の筒状の洗濯籠

を指し示した。こうして、実際にお宅に置かれている姿を見ると、人の営みの中

にしっくりと溶け込み、その物が生き物に見える。買われて行った先のお家で、

物はそこの家の住人となるのだ。
                            


 和の別荘風のお宅に住むご夫婦は、最近相次いで、入院することになり、もっ

と広めの、いいベッドで、ゆったり眠りたいと思うようになった。今まで使っていたシ

ングルベッド2台は、ベッドスカートとともに、となり棟に住むお孫さんたちに渡るこ

ととなり、そのため、新しいベッドに、ベッドスカート、寝具などを新たに買い足す

相談に呼ばれた彼女である。「今までは、夜中、仕事のことを考えると眠れない

日もあったけど、やっと引退したから、これからは、もっと自分の時間をゆっくり楽

しもうと思ってね」穏やかに話す女主人の寝室からは、せわしない日常からやっ

と解放されたゆるやかな時が流れている。こうして世代交代して、時代も流れて

ゆくんだわ、この風景が一番幸せな風景かも知れない。彼女は、さばの煮込み

を途中で止めさせた侘びを述べ、お宅を後にした。むし暑さを閉じ込めたまま、

あたりはすっかり暗くなっていた。                            


 ショップに戻るとやはり常連の60代のご夫婦がやってこられていた。光るナイロ

ンバックを見つけると、同じ素材のレインコートを試着して、「どうお」と、無言のダ

ンナ様に見せる。「すてぇきね~雨ふりの旅行にいいわねぇ。また、もらい手があ

るように、おしゃれしとかないとね。じゃお揃いで頂戴」といつものごとく、気負わな

いジョークを交えて、彼女に渡した。梅雨に入り、家庭菜園ならぬ、本格的に自

給自足の野菜作りをしているダンナさまが、本日は、自慢の初取り露地栽培の

きゅうりを披露、持参のための来店である。なのに、誰かにプレゼントをしたくなっ

て、プレゼントの包みがどんどん増える。「また、立派なきゅうりですねぇ。これが

おいしいんですよね、スイカ、そう、スイカの味がするんですよね。甘くてね、ほん

と、ぜぇんぜん違いますよね~」スタッフ数人は、きゅうりをありがたく手に取り眺

め始めた。「雨が、たあくさん降って、やっとこのくらいに太くなるんですよ」すばら

しい出来のきゅうり談義を店長もKも真剣に聞き入る。「雨が降ると水分が増す

から、どんどん太るけど、日光が当たらないとおいしくない、です。だから、ハウス

はだめ、露地モンでないと、旨くないです。伸びたきゅうりが地面に当たって、こ

れ以上伸びないから、曲がるんですよ」「ほぉ~、なるほど、すばらしい」「だから

地面に当たる下の方が傷がつくから、採ってやるんです」「それで今日が露地物

の初物なんですねぇ、はぁ~」 “雨続き きゅうりは伸びた 手(た)折る日かな”

彼女は“しりとり川柳”を口ずさんだ。”物事の成り立ちも人生も、“しりとり”をして

いるようなものねぇ。つまり原因があり、結果があり、それがまた原因となり、結果

となるかぁ”、先日、「20代は、恥かき人生よね。もう絶対戻りたくないよね」と、

顧客と交わした会話を思い出しながら、“しりとり川柳”をもう一句詠んでみた。

“しりとりで できた人生 いつのまにやら"





                                      Risaco


















リサコラムに関するご意見、ご感想はこちらまで。                

mmm@madame-watson.com