MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム

本日のオードブル
第93回


江分利満女史の華麗な生活

 
木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
16年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、中谷彰宏、F.サガン、プルースト

「ひまわりの季節になると思い出すもの、
          エアコンもない時代の暑苦しい、あの小説」
  「.....おじさんは、やっぱり、トリス」        

 

       


江分利満女史の華麗な生活







  「Kさまとお嬢さまがお見えです。羽毛ふとんのコーナーに早く来てください」

呼ばれてゆくと、「主人の実家に来たついでに、東京から来ました」と若い女性。

父親と言われたK氏とにこやかに談笑している。“でも、K氏に結婚されたお子さ

んがいらしたなんて、初耳だけど
”そのうち、若いお嬢さまは「ネットからも注文

できるんですよね。今日は時間がないから」と急いでいる雰囲気である。「こんな

気持ちいいふとんはありませんよぉ!ほんと、使ってくださいね」K氏は念を押す

ように急ぎ足の彼女に告げる。「えっ、お嬢さまじゃないんじゃないのぉ?」小声

で、紛らわしいがスタッフの“K”に聞く。「ええ、そうみたいですね」。顧客のK氏

曰く、「ここの羽毛ふとん、ほんと最高ですよぉ~って、勧めたんです」「えっ、

知らない方にですか?まぁ~そうなんですか、それはそれは、ありがとうございま

す」K氏は今、このインテリアショップで会ったばかりの知らない方に、羽毛ふとん

をお勧めされていたことになる。不思議なことに、顧客が初対面の他のお客さま

に、「これはいいですよ~」とか「奥さま、お似合いですよ。絶対買った方がいい

ですよ」と勧めている場面によく遭遇する。それはスタッフが勧めるより、はるかに

信憑性があるようである。



 あるいは、どなたかがレジに持ってきて置いたままにしているものが、すべての

ものより一番魅力的に見えるらしい。「これは、どこにあるの?」と聞いて、必ず同

じものを買う方がいる。有名な先生の料理教室の帰りは、生徒さんが彼女のショ

ップに流れてこられる。「先生のお家にあった、あれは、どこにあるの?こちらで

求められたと聞いたんですが」と言うことになる。また、友達同士での来店、ある

いは、親子での来店が非常に多い。まず、未婚の娘さんを連れたお母さまが来

られ、数年後、娘さんが結婚してダンナさまと来店され、そのうちダンナさまは、

インテリアショップからリタイアされ、やはり元の組み合わせ、母&娘のカップルで

来店されることになる。その後、子供が産まれ、また親子関係は密になり、親子

で足繁くやってこられる。店内で、待ち合わせあり、「あら、あなた、久しぶりぃ~

こんなところで会うなんて!」と知人同士が鉢合わせするシーンがよくある。それ

から、また新たなるお付き合いが始まったりする。女性は同じ趣味を持っている

なら、年齢を超え、他人との垣根も低くなるようである。
                  


 ある日、Kの顧客が電話で来店の約束をしてこられた。「今日は、どんなご相

談?」「クッションを作られたいそうです」女性はクッションをオーダーするにも予

約を入れる。たかが、クッションというものの、使い方はさまざま、その利用価値、

存在理由は非常に大きい。背もたれ用の大きなもの。背中のくぼみに合わせる

オリジナルサイズのもの、足枕に抱き枕、ベッドの上で、使われることのない、リボ

ン結びのキャンディ型のロールクッションなどが、美しい姿のまま、定位置に陣取

るためでもある。彼女は毎月、たくさんのオーダークッションを受ける。この一ヶ月

で、8人の顧客より合計40数個のさまざまなデザインのクッションの注文を受け

た。女性にとって、クッション、○○ピロー、ベッドスカートなどは、命の次の次の、

さらに何番目か次に重要な位置を占めているのである。大量の枕やクッションが

寝るスペースを占領しようとも、その枕やクッションをほれぼれ眺めることも幸せ

なのである。だから彼女の家にも、100枚を超えるクッションカバー、ピロケース、

ベッドスカート、ベッドスプレッドの類が服や靴をはるかに凌ぐ数で、個性を主張し

合っている。


 Kの顧客である、ショートカットの美しい女性と彼女3人は、帰り道の通路で、ま

た話しが盛り上った。駐車場までの7mの廊下を30分から1時間かけて話しな

がら歩くのが一日3回の食事をするのと同じくらい、日常である。「私の知り合い

でね、ご主人と死別してから、ずっと3人の子供を一人で育ててきた方なんだけ

ね、50過ぎてよぉ、出会いがあって、再婚することになったのよぉ。人生どんな

ことがあるか、わからないわよね~」「そうなんですねぇ~」と言いかけると、3m

後ろで聞いていた、別のお客さまが、「それって、わたしのことみたい。私も主人

と死別して、子供3人いるんですぅ~」「えっ、そうなんですか!偶然ねぇ」「と、

言うことは、私にもそんなチャンスがあるってことね」「そうですよ~がんばってく

ださいなぁ」と、1分前まで他人の二人は、友人のような話しが始まる。”そうな

んですよね。インテリアショップって、お客さま同士の不思議な交流があるんで

すよね“と横で話を聞いていた店長がつくづくという感じで言った。それは、共通

の趣味が引力になっているのかも知れない。
                         


 帰り道、小ぎれいなショットバーの前で彼女は立ち止まった。夜9時からオープ

ンするそのバーは、通りからガラス越しに中の様子がわかるようになっている。蝶

ネクタイをした女性がふたり、3人の客の相手をしていた。彼女はすぐに客に対

する顔でにこやかな視線を投げた。とたん彼女はその場を立ち去った。美容室

に行った帰り道で、手には花店で買った89円のひまわりの鉢1個と文庫本を一

冊持っている。「江分利満氏の華麗な生活」(山口瞳著、新潮社)こんな文庫

本さえあれば、女性でもショットバーにひとりで臆せず立ち寄れるのだろうが、カウ

ンターを外から眺めるだけの10年が過ぎていた。その本は、酒をこよなく愛する

大正15年生まれ、青春と戦争が合体した、昭和を生きたサラリーマンの日常の

話である。「江分利満氏の優雅な生活」と対をなす。宣伝部に勤める飲んだくれ

のサラリーマンが主人公の江分利満(えぶりまん)氏である。特別な事件もない

サラリーマン生活を、ユーモアの衣でカラリと揚げた傑作である。表題の”優雅”

とか“華麗”とは、とんと縁がない話である。彼女は、家の書棚にあったそれらの

本を高校時代に初めて読んだ。叔父、叔母が残した本に違いなかった。以来、

思い出しては読み返してきた。それらの本は、今のサントリーの前身“寿屋”の宣

伝部で、開高健、デザイナーの柳原良平とともに時代を過ごした著者の私小説

と言われる。“トリス”ウイスキーの伝説のイラストは柳原氏による“アンクルトリス”

という、サラリーマンがキャラクターである。山口氏と友人でもある柳原氏のイラ

ストがもちろんその本にも描かれている。2003年トリスウイスキーは、22年ぶ

りにキャラクターである、“アンクルトリス”をCMに復活させた。“22年ぶりにバー

に帰ってきた、アンクルトリス”の懐かしげな映像をネットで見ることができる。



 男性の行きつけのすし屋やバーが、女性のインテリアショップに違いないと彼女

は思う。それはおじさん同士が、行きつけのバーの同じ空間を共有している他人

と、親しげな会話をする光景と似ているのかも知れない。きっと明日も、「まぁ、お

久しぶりですね。お元気ですか?」「もう、ご無沙汰しちゃった!」なんて、3週間

ぶりに会う顧客と挨拶が交わされるに違いない。








                                      Risaco


















リサコラムに関するご意見、ご感想はこちらまで。                

mmm@madame-watson.com