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リサコラム
連載176回
本日のオードブル
"華麗なるペテン師の流儀

第2回
”Mr.スペースは語る


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つカリスマ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
18年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒は強くない。
好きな作家は夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト
      
  
  「私、Mr.スペースのために、たくさんの人が働いて
   くれているんだね」
 
      
  




”Mr.スペースは語る







「それは8年前のことなんだ」とMr.スペースは、ぼそりと語り

はじめた。「あの日は、とても天気の良い日だった。南西の窓から北

の空を見上げると、ポリネシアンブルーを思わせる空に、白い点がポ

ツンとわずかに光ったかと思うと、約1分後には、白い機体を堂々と

あらわにしながら、ごう音が頭の上を過ぎていった。心地よい晴天の

早春だった。私の頭上には約3分おきに飛行機が飛び交うんだ。朝の

光はまだ弱く、ブラインド越しに柔らかな空気だけを床にころがして

いたのさ。その日は私の待ちに待った日だった。何か、すごいことが

起きそうな予感が、なぜかはわからなかったがしていたんだ。もちろ

んこんな晴れの日は気分も上々だったろうさ!通り過ぎる風は、もう

キンとはしていなくて、私の顔にクールにすうと吹きかけて行ったも

んさ。その時、私には何かひらめいたものがあった」Mr.スペース

はペテン師らしからぬ風体で凛とし立ち、まっすぐに前を見て、微動

だにしない。しかし世の中にある職業で、ペテン師ほど外見から判断

できない職業はあるまい。そこがペテン師のペテン師たるところであ

るから。




       



 その日は非常に来客が多かった。朝から晩までひっきりなしにやっ

て来ては、さっさと帰って行くんだよ、みんな。まず、大工が来た。

大工は私に相談もなく、押入れをどんどん壊し始めると、またたく間

に跡形もなくなってしまった。私は想像以上に身軽に感じたもんだ。

しかしこの時、私には何か、革命的な何かが起きたことがわかったん

だ。ややここしい数学の問題で悩んでいるときに、すらっと答えを見

つけたときのような気分だった。それから窓枠に白いシートを貼る職

人がやってきて、茶色い枠はすべて白になったんだ。お次はクロス貼

り職人だった。白いビニールクロスは天井からすべて剥がされて、代

わりに絵柄の入った紙のクロスが貼られた。翌日は朝から、建具・家

具職人がやって来ていた。彼らの仕事は朝が早い。ふだん、6時には

仕事が始まるのさ。工場に見学に行くと彼らはBGMを流しながら、

熱心に木材の加工を続けていた。これが、見ているとなかなか面白い

ものさ。



           



 その彼らは扉のついた家具を運んできた。それから、ドアも。熱心

に建てつけては、調整を重ね、白い扉やドアを付けて帰った。お次は

電気工事の職人。彼は、一時間ばかりで間接照明やシャンデリアを付

けてゆくとその日の午後にはレール取り付け職人がやってきた。天井

から、5、6本のレールをあちこちに付けると、これまたそそくさと

帰って行ったものさ。私の存在なんか、みんな無視さ。そんな具合で

早春の晴天の2日間はまたたく間に過ぎて行った。



      



 それから、女がひとりやって来て、スケッチブックと色鉛筆でどん

どん絵を描き始めた。彼女は、私には無断であちこちをスケールで測

りまくると、やはり私に断りなく写真を撮り始めた。そうさ、私は何

度、無断で写真を撮られたことかしれない。それから女は事あるごと

に、スケッチブックと色鉛筆を持ってやって来ては、いろんな絵を描

く。そして、常に私に無断で、いろんな服を着せるのさ。まるで着せ

替え人形のようにだ!春になると、白い服に透けるレースの生地なん

かを重ね着させる、夏にはブルーと紫なんかのシースルーの服を着せ

ることもあった。秋には、黄色とベージュの似通った色を数枚重ねる

ように着せたりもした。まあ、私も内心は悪い気はしなかったがね」

Mr.スペースはここでやっと一息ついた。



        



 「しかし、その女はわかっちゃいない。人は服で美しくなるのだと

外見ですべて変わるのだと思い込んでいるが、実はそうじゃないさ。

もちろん、いろんな服を着せられて、写真を撮られ、美しいなと言わ

れることもあって、それはそれで良かったさ。しかしだね、女は自分

が着せた服のせいで美しくなるんだと勝手に思い込んでいるのさ。そ

の実、服を着せる私が美しいプロポーションだと言うことに気づいて

いないのさ。なあに、私がどんなにペテン師だと言われようが、これ

だけは事実なのさ」Mr.スペースは、身を乗り出すと、急に小声に

なった。




               


「君は素数の謎を知っているかい?つまり、1とそれ自身以外の自然

数で割り切れない数のことなんだがね」彼は謎めいた瞳をきらりと光

らせ、唐突にこう切り出した。「この数字の連続性にはまだ未解決の

部分があるらしいんだよ。これがなかなかの曲者らしく、これまでた

くさんの天才数学者がこれを解明しようとして精神に異常をきたした

らしいのさ。そう、病気になる魔の数字らしいだ。1、2、3、5、

7、9、11、13、17
、19、23、29、31、37、41、

43、47、53
この素数が永遠につながるのか、どんな連続性が

あるのか、その分布についての研究もまだ続いているんだとさ。でも

私こと、ペテン師のMr.スペースは思ったんだ。1:2、3:5、

7:9、11:13、17:19、こう見てゆくと、な、なんと美し

い比率だろうとね。このように素数を1から2づつペアにしてゆくと

美しい比率になるじゃあないかとね。それを部屋の広さとか窓とか、

デザインに当てはめてゆくとさ、これが美しい形になるんじゃあない

かとそう、想像しているのさ」Mr.スペースはここでふうっ~と息

を吐いた。



               



 「つまり私、“スペース”とはこの部屋の“空間”なんだが、私は

実はその3:5でできているのさ!つまり私というスペースは、ヨコ

3mXタテ5mなのさ。そして置いているベッドもヨコ120cmX

タテ200cmのセミダブルなのさ。ベッドのヨコタテを40cmで

割ると、3:5なんだ。これが実にいいバランスを取っているのさ。

私は勝手に“ゴールデンバランス”、つまり“寝室の黄金律”と呼ん

でいるのさ。ベッドの大きさに対して、部屋の大きさを決めるという

ものさ。一般的には、先に部屋ありきだけどね、しかし、まあ大きく

出ると、私はだね、インテリアにおける素数を研究しているつもり

なのさ」Mr.スペースはからからと乾燥した笑いを数回続けると、

また瞑想するような瞳を天に向けて、「それが、8年前の早春の晴天

の日に、私、Mr.スペースの広さが、ヨコ3mX4.1mから、

ヨコ3mXタテ5mの3:5に広がった、記念すべき素数比率になっ

たってわけさ。まあ、ペテン師の言うことだから真剣に聞かなくても

いいけどさ」




          



では、また来週金曜日まで、ご機嫌よろしゅう。




                                      木村里紗子










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『泣きたくなるベッドルーム』(3月23日掲載)
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・ 『部屋と藤尾とラベンダー』(11月3日掲載)

・ 『私の部屋も、ホテルライク』(2月16日掲載)

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・ 『MOTTAINAI』(7月6日掲載)
・ 『部屋とシーツと私』(7月13日掲載)
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・ 『華麗なる贋作人生 第2回 ローマの平日』(2009年10月30日掲載)
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・ 『華麗なる贋作人生 第4回 ミスターP.S.の真相』(2009年11月13日掲載)
・ 『華麗なる贋作人生 第5回 最初の晩餐』(2009年11月20日掲載)
・ 『華麗なる贋作人生 第6回 シャーロック・ホームズの冒険1.』(2009年11月27日掲載)
・ 『華麗なる贋作人生 第7回 シャーロック・ホームズの冒険2.』(2009年12月4日掲載)
・ 『華麗なる贋作人生 第8回 シャーロック・ホームズの冒険3.』(2009年12月11日掲載)
・ 『華麗なる贋作人生 第8回 シャーロック・ホームズの冒険4.』(2009年12月18日掲載)
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