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リサコラム
連載201回
本日のオードブル


第3回


偶然の神様

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
18年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒は強くない。
好きな作家は夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト


    
「おい!ラフランス2号、手帳は私のものだ!!
    そんな姑息な手を使うなら、このシザーハンドで
    こうしてやる!」
 
      
  





偶然の神様




窓の雪は格子窓の細いさんの上に乗っては消え、乗っては消えを繰り返

しておりました。予報は夜から吹雪くと言っておりした。街頭に照らし出

される部分だけが、白く光り、まるで滝の流れに飲み込まれるように、雪

の粒は下へ下へと流れ下って行くように見えました。


 「三途の川ねぇ」「サンズの川って、あの、三途の、川ですか?」「そ

りゃそうでしょ」「凄い川でしょう」「そりゃ凄いよ」「激流ですかね」

「激流どころの騒ぎじゃないんじゃないの?」「球磨川くだりはしたこと

ありますけど」「そんなもんじゃないよ」「この前、ライン川下りをやっ

たって方、いらしたんですけど」「それで?」「そのあとすぐ、隅田川下

りをやったそうなんです」「そしたら?」「なんじゃこりゃ?になったそ

うです」「当然でしょ」「ですよね」ラ・フランス氏とKは、一緒に脇道

に入りました。B子は少し不安になっておりました。「滝もあるんですか

ね?」「ナイヤガラくらいのはあるでしょう」脇道は一方通行です。「そ

れじゃ、船が転覆したら溺れ死ぬでしょ」「そりゃ、三途の川だからね」

「それじゃ反対じゃないん、すか?三途の川を越えたら、極楽浄土にゆけ

るんでしょ」「さあ、その辺はどうなんですかね?」やっと、B子は二人

の間に口を挟むことができました。「三途の川というのは、イメージ、イ

メージです!」B子は“イ”を強調しました。「でも、その川を渡れなき

ゃダントツ1番にはなれないんでしょ?」「はい、そうです!」「でも、

そんな恐ろしい川を渡るいい方法がほんとにあるんですか?」「それがあ

るんですよ」「つまりですね。それがわかれば、みんな1番じゃあないで

すか?」「つまりそういうことになりますかね」「まず、わたしたちしか

できないような自信を持ってアピールできるものを見つけることがです

ね」「アピールねえ」「試験や、コンペ以外にも、考えたら選挙でもそう

順位がでますよね
」「そう。だから自信のない候補者は相手の弱点を

つつくことばかり熱中するでしょ。つまり負の熱中者ですよね。それはう

まくゆくことはあるでしょうけど。でも常に当選する人は常にダントツだ

し、次もやっぱりダントツで当選するでしょ。接戦をやっと勝ち抜いた候

補者とか選手は、次はまた勝てるなんて安心はきっとしてないでしょ。1

回は勝てても2回目はもっと難しいものでしょう」「それより具体的にど

うればいいですか?その方法を早く教えてくださいよ」ラ・フランス氏は

じれったそうにB子の話をさえぎりました。「そう慌てないで、これは慎

重で、周到な準備が必要なんですから」「その前置きを、ちょっとはしょ

ることはできませんかね?」「もう少し我慢してください」「だって、そ

んな優勝するのかどうかもわからないようなコンペにエネルギーを費やす

暇があるんですかね、そもそも!」ラ・フランス氏はちゃぶ台をひっくり

返そうかとしました。「仕事もたまってるし」「大阪の方の大リフォーム

の仕事もありますよ!」「だからこそ、優勝したいんです。優勝できなく

ちゃ、後で、ほうら、あの時、やめときゃよかったなんて、なるでしょ」

返事をする代わりにラ・フランス氏はふん~んと長い尻尾を響かせるよう

にため息をつき、「覚悟を決めましょ」ときっぱりといいました。B子は

そのせりふ、どっかで聞いたことがあるなとちょっと思いました。「あり

がとうございます。それではちょっとこちらに寄って来てください。壁に

耳あり、障子に目ありと申します。しっー!静かに!余り大きな声でしゃ

べったら、敵に聞こえてしまいますからね」「これから話すことは私の長

年の失敗をもとに、独自の“ダントツ理論”を緻密に研究して、その結果

ですね...」「そりぁ、すごい!」ラ・フランス氏はこの際(きわ)に及

んでも、まだB子の言葉を半分しか信用していないようでした。


 司令官B子はちょっともったいをつけて、手に持った赤い手帳をトンと

テーブルに立ておきました。「実は、解明したんです」先生が教壇の前の

机に教科書を立てて、トンと置くようなことをやってみたかったのでしょ

う。他の二人の目は先ほどよりは好奇心に燃えておりました。「競争相手

の足をすくうような作戦に出る負の熱中者と、反対が正の熱中者で、正の

熱中者のトップに居るのが変人だといいましたよね、つまり、変人の域に

達した熱中候補者は自分が当選した姿しか思い描いていないんだと思うん

です。負けるなんていう選択肢はないんです。日常の簡単なことでいいま

すとね、これとこれを今晩やれば、明日は楽勝だと分かっていても、かっ

たる~いとか、疲れた~とか、やらずにほっといたりしますよね。でもも

し、その仕事や家事をやってしまったら、1000万円もらえるとしたら

きっとほとんどの人がやってしまうでしょ。それで、次の日は、さらにも

っときつい大仕事をやったら、2000万円もらえるとしますよね。そし

たら、やっぱりやってしまうでしょ。そんなものがほんとにあったら、み

んな有能な仕事人になったり、カリスマ主婦になったりするでしょうね。

お金はほとんどの人にとって絶対的な価値を持っているから、それでも人

は動かされますよね。でも、その道の変人は、お金が関係したものでない

ものでも、そんなのやって意味あるの?って、馬鹿にされるようなことで

もやる人のことをいうんだ思うんですよ」ラ・フランス氏とKは無言のま

まじっとB子の話に聞き入っておりました。「もしも、試験で1番になっ

た人は1000万円もらえるなんてのをやったら、きっとみんなすごく学

力上がるでしょ?そしたら、みんな、何を目指すと思います?」「満点で

しょ」「ご明察、Kさん!」「つまり、豪勢な賞金がかかったコンペなら

ダントツじゃなきゃ、1番になれないとみんな簡単に思いつくわけなんで

す。でも、賞金なしなら?」「気を抜きますよね」覚悟をきめたラ・フラ

ンス氏は言いました。「そうだと思うんです。そこが狙い目なんです!そ

して、優勝争いになったとき、何が決めて手なるかってね、それはですね

...」「分かった!それは、あれ、あれだ!」ラ・フランス氏は人差し

指を立てて小さく叫びました。


 そのときです。予報通り、外は吹雪き始めていました。大勢でパタパタ

と廊下を走り回るように、大粒のあられのようなものが降り出しました。

鍵のかからないドアは風のトンネルを作り、留め金のかかっていなかった

窓は勢いでばたんと外に開きました。突風は、出窓のカーテンをフレアー

スカートのように舞い上がらせ、B子の赤い手帳は舞い上がり、シャンデ

リアにぶつかると、ラ・フランス氏の立てた人差し指と親指の間に見事、

挟まるように着地したのです。「すごい!すばらしいナイスキャッチ!」

「そう、そうです!」「これでしょ?最後の決め手は、“偶然の神様”が

落とすチャンスでしょ?」




       
   


          

 2010年7月9日より「
」が始まりました、


            次は7月30日金曜日。次なる展開はいかに?

            それまでどうかご機嫌よろしゅう。







                                      木村里紗子








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