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リサコラム
連載505回
      本日のオードブル

来のわたし
一番
きなかたち

第8話

「ある女流作家からの
手紙」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


私なりに
ホテルの
リニューアル計画を
絵に描いてみました。
白い石の床のバスルームに
長い白い石のカウンターを置き、
その横でゆっくりフェイシャル&ボディの
お手入れを受けられるスペースを設けます。
そこからは一番いいロケーションの砂浜を
望むことができます。
ヨーロピアンリゾートらしく、
ブルー&ホワイトのシェードに
細いストライプのデッキチェア
パラソルはタヒチ風のヤシで
葺いたものはいかがでしょう
美しいノルマンディの海岸を
かつてのブルジョアの人々の
気分で味わっていただけますし。
もちろんプチット・マドレーヌは食べ放題です。

 
      
  





       

第8話 「ある女流作家からの手紙」




 「拝啓 グランド・ホテル・プルマン支配人様

激しい波が砂を巻き上げるその海岸で最後に足を洗ってからすでに10数年も経ち

ました。しかし、荒々しく吹きすさぶ海風と砂埃で目を開けているのもつらいほど

の冬の海岸の光景はいつも私の瞼の奥にあります。


               


 同じ海の向こうはイギリスというノルマンディのリゾート地でも、
『ノルマンデ

ィ海岸の女王』などと呼ばれる
ドーヴィルよりそのカブールの方に私はより強い愛

着があるのです。そして何より海に向かって優雅に羽を広げた黄身色を帯びた白亜

のそのホテルに。


 「今の若い人」という表現は多くの「すでに若くはない」と感じている人々の嫌

う言葉ですが、私の生きた時代とこれから迎えるだろう世界はあまりに違うだろう

ことも21世紀を迎えたばかりのこの年、私でも想像がつきます。しかし私が生ま

れ、そして生きた時代は決して平安な時代ではなかったのです。世界戦争があり、

イデオロギーの変革の只中にありました。今の人々が何不自由のないライフスタイ

ルを当然のように送れるのも、数々の自由もそれまでの人々の肉体と精神の血みど

ろの闘争のおかげなのです。私が生まれた1935年当時、女性には参政権さえな

く、それは10年後の大戦の後にやっと実現したようなことなのですから。


               


 そんな時代背景とそんな熱い時代がよかったのだろうと正直に認めますが、いわ

ゆる中産階級と言われる居場所を持って生まれた少女に文章を書く環境が与えられ

私は18歳で文壇にデビューしました。


               


 ポール・エリュアールの詩「悲しみよ こんにちは」から題名をもらったその本

は「華々しい」「センセーショナル」と必ず形容詞が冠せられました。やがてその

処女作は、私に予期せぬほどの大金を与えてくれました。それは途方もない額だっ

たのです。おそらくこれからの時代に恋愛小説でこんな額の印税を稼ぐことは不可

能でしょう。恋愛小説で現実逃避したり、知的好奇心を満足させたりする楽しみ以

外にもっと素敵な楽しみを人々は獲得してしまったからですから。


               


 さらに、地球上にインターネットという網が縦横無尽に張り巡らされ、その結果

その地に行かずとも、その場所の情報が手に取るようにわかるようにさえなったの

ですから。


               


 このグランドホテルは140年余りの年月の中で、戦中は病院として使われたこ

ともありながら、数々の経営危機を自治体も加わって乗り越え、その伝統を守って

きたことなど、私がこの場で書き記すまでもありません。しかし、今後この麗しい

白亜のホテルも、その他大勢のホテルと一緒になって、ランク付けがなされると思

うと私は胸が詰まる思いで、こうしてペンを走らせているのです。それは時代の趨

勢として仕方のないことだとはわかっていても、です。


               


 さらにアジアにはホワイトサンドのプライベートビーチを持つ、ハイダウェイリ

ゾートというカテゴリ-が台頭しつつあります。そんな新生リゾート施設が熱帯の

アウトドアで1年中楽しめる巨大なローズバスを見せつけながら世界中から人々と

お金を集め始めています。そこにはここ、ノルマンディのように厳しい冬のオフシ

ーズンもなければ、優雅な社交界が繰り広げられたベルエポックの時代の足跡も、

それらの歴史の趨勢を見続けてきた天井画もありません。本当の自然とはかけ離れ

て作り上げられた“ニュートラルな環境”でひたすら、日々の憂さを煩わしい人間

関係を忘れ去る目的で、優雅なデカダンを味わわせるためにそれらのリゾートが存

在しているからです。


               


 空港からそれらのリゾートにたどりつくまでには100年前のような暮らしを未だ

に続けている貧しい民家の脇をやるせない気分で通らねばなりません。リムジンが

クラクションを鳴らし続けながら二人乗りのバイクを蹴散らせ、猛スピードで通過

することも多々あります。私がかつてジャガーのオープンを乗り回していたのとは

全く違う感覚です。そのようなリゾートが生み出した新たなコンセプトは「何もし

ない贅沢」というそうです。


                


 オンシーズンにはこの白亜の優美な外観をベージュの砂浜から眺めた人々もオフ

ともなれば、「何もしない贅沢」のデカダンを求め、大挙して赤道付近のホワイト

サンドビーチに移動するのです。そのうち、ヨーロッパのオンシーズンにも最新の

設備を有した「手つかずの」熱帯のリゾートのほうに人々の足は向くようになるの

かも知れません。


               


 1855年創業の歴史を守るためには、単独での事業経営が難しいことはもちろ

んわかります。どこかのホテルチェーンから誘い水が向けられたら、そっちの水が

甘く思えることでしょう。もしもホテルチェーンに入ることなく単独で存在し続け

るために、今の私に援助の長い手足があれば、臆せず差し向けたことでしょう。

 しかし、私は今では多額の負債を抱え、とても投資どころではなく、自宅さえ売

り払うことになった身の上です。私のペンネームはおそらく推測がつかれることで

しょう。マルセル・プルーストの小説の登場人物“プリンセス・ド・サガン”から

いただいた名ですから。その敬愛するマルセルの部屋にマスコミの目を避けてお忍

びで何度も宿泊させていただいたこともおそらくご存じのはずです。


               


 今になってやっと自分の人生を振り返ったとき、私の最大の後悔は、こんな時代

が来るのであれば、18歳の時の処女作で手にした350億円を超える印税をこの

ホテルのために投資しておくべきだったということです。


               


 ですから、唯一私が願うことはこの先、あまりに長すぎる小説という理由で、

「失われた時を求めて」の作家マルセルの名が年々、単に“プチットマドレーヌ”*

に置き変わっていくのは止むを得ないとしても、昼夜逆転の執筆生活のため、そし

て何より求めた静寂を確保するために、隣2部屋ずつの空き部屋を含めて5部屋を

借り切った、マルセル・プルーストという最高に変人で最高に複雑で繊細な道化の

達人の巨匠の部屋はどうかそのまま守り抜いて頂きたいのです」



*「失われた時を求めて」の中で「私」は紅茶に浸した「プチット・マドレーヌ」
 のひとかけを口に含んだ時から、過去の扉が開き、壮大な物語が生まれたという、
 小説の最初のモチーフとしてことに有名なもの。


p.s.1

  やっとフランソワーズ・サガンとプルーストのことを書きました。20世紀の巨匠の作家気取りで
 架空の手紙を書くなど恐れ多いことですが、サガンがプルーストに傾倒していたことを知ってから、
 ずっと結びつけて書きたいと思っていました。2004年に他界したサガンが2001年ごろに
 グランド・ホテルの存続を思って書いたという全くのフィクションです。

  「悲しみよ こんにちは」は現在のお金で360億円とも 言われる印税を獲得したようです。
 それは浪費によってすでに消えてしまったのですが、もしも私なら、
 その大好きな作家、プルーストがかつて愛したそのホテルに自分だけの部屋をも持ちたいと
 思いました。株主として。車、アルコール、ドラッグ、ギャンブルに消えてしまったその印税を使って。
  現在は、ル・グラン・ホテル・カブール。


    
 

 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

 「もの、こと、ほん」は下の写真から。


              


p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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