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リサコラム
連載510回
      本日のオードブル

来のわたし
一番
きなかたち

第13話

「711号店」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


ストレス
というものは
実感があまりなかった
ようなのです。
ちょっと前までは
地球の歴史でいえば
産業革命から数えたら
あもいえないくらいに
一瞬のうちにこんなことに
なってしまったようです
ちょっと前に針を戻して
少しやり直せるものなら
やり直したいもの、
それは人生だけではなく
地球もそうだったなんて。


 
      
  





       

第13話 「711号店」



中庭に面した風の吹き抜けるラウンジはヨーロピアンリゾート風な白い柱と壁が

空間を3つに割っていた。ここはつい最近できたばかりの新しい形態のホテルらし

く、カフェバーとラウンジ、そして続くダイニングには早朝から夜中まで、さっぱ

りと、甘く、温かく、香ばしい香りが常に通り抜けている。


             


 その藤棚をラウンジ越しにオープンキッチンから見渡しているシェフがいた。

名前を文子と言った。



    
              

 「文(ぶん)ちゃ~ん」ラウンジ側からそのシェフに呼び掛けた女性はこのホテ

ルの支配人で、瑠々(るる)と言った。「文ちゃん」と呼ばれたシェフは仲間内で

は「ぶんこ」と呼ばれている。それは祖母の敏子が本好きだったことから、文庫の

意味で文子と名付けられという。そして同級の友人である支配人の瑠々は親愛の情

を込めて「ぶんちゃん」と呼ぶ。


              


 「偉大なるおばあさまのスピーチが始まるよ」そう促した瑠々は手招きで文子を

中庭の藤棚の下に誘った。


              


 藤のない藤棚の下にはすでに着飾った女性たちが飲み物を手に華やかなムードを

あちらこちらで噴出させている。それは藤の花のない季節に一斉に花開いたように

美しい光景に瑠々には思えた。その鮮やかな女性たちという花の中でひとり地味な

スーツの小柄な女性が頑丈なワインの木箱の壇上に一歩足を乗せた時、花々は一斉

に同じその方向を向いた。そしてしんと静まり返った。白いブラウスに黒いスカー

トの敏子は70歳を超えているはずなのに、どう見ても50代くらいにしか見えな

かった。

               


 「このたびはみなさま、遠路はるばるお集まりくださいまして、心より感謝申し

上げます。まずは全国710店舗の目標達成を祝って乾杯をさせていただきます」

花々は一斉にグラスを合わせた。

                


 「そしてこれから後、私は第一線を離れ若い人に道を譲ります。それでは711

号の新たなプロジェクトの完成を祝ってもう一度乾杯をさせていただきたいと存じ

ます」


               


 会長の敏子がグラスから一気飲みすると「わ~」と歓声が藤棚の下をドミノ倒し

のように駆け巡った。「わがグループの今年の新種のワインです。ガンガン飲んで

くださいませ。ノンアルコールですからね」


 「ほんとにノンアルコール?」瑠々が文子にささやいた。「そうよ。人間の味覚

は結構騙されるらしいから、きっと酔っぱらう人が出てくるかもね~」文子はふふ

ふと音の出ない笑いを笑った。


              


 木箱の上の敏子は続けた。「カビが生えたような昔の話をするつもりはありませ

ん。ただ、女性の立場でここまでやることができたのはここに時間を割いてお集ま

りくださった美しい乙女のみなさまとそしてその乙女の元で働いてくださった方々

のおかげです」美しい拍手が沸き起こった。


              


 「私のささやかな出発点はご存じのとおり、安全な食べ物を食べ、気持ちよく暮

らすをテーマにした小さな郊外の店舗から始まりました。今からすでに42年も前

のことです。このコンセプトを掲げた時に、社内では誰の賛同も得られませんでし

た。そこで数々のアンケートを集め、それを数字で表してやっと実現した第1店舗

目だったのです。自ら折れそうになったコンセプトを曲げずによかったと今では心

の底から思っています。そして自画自賛に聞こえるかもしれませんが、成功の秘訣

はオーガニックにより関心が強い都市部の女性をターゲットにしたことと、健康志

向という固い言葉ではなく、トレンドというテーマでだんだんと地方に広げていっ

たことはみなさまご存じのとおりです。快適で美しい消費の9割は女性を握ってい

るということを男性の上司に説得し、納得させることが、どれほど骨の折れること

だったか、今はそれも笑い話ですから人生とは面白いものですね。


              


 第1号店のオーガニックフードのテイクアウトの店が軌道に乗り、そしてフラン

チャイズ化を進め、それから一歩踏み込んだオーガニックフード&自社ブランドの

コンビニエンスストア、そして“オーガニックコンビニ”という新語まで生み出し

それから“オーガニックコンビニ&ラウンジ”の全国展開、そしてこのたび、オー

ガニックコンビニ&ラウンジスタイルからさらに踏み込んだ“オーガニック&ホテ

ル”の誕生です。私たちは安全な食と心地よい暮らしの轍(わだち)を作って来た

と自負しております。もちろんこのホテルの運営に関しては私の3分の1くらいの

年齢の孫にあたる文子とその友人の瑠々氏らにすべてを移管しております。後ほど

このホテルの心地よさ、美しさは支配人よりご説明をさせていただきますが、みな

さまには耳にタコができるほどの『わかりやすさは心理的距離を縮める』をコンセ

プトに運営されております。それでは、ここで支配人の瑠々氏に説明を譲ります。

そしてこの感動をぜひ、全国に、そして全世界にアピールしてゆきましょう!」


               


 会長の敏子に代わり、瑠々がワイン箱の上に上った。「お部屋は大きく2タイプ

ございます。レジデントとホテルタイプです。レジデントは1か月単位、ホテルは

どなたでももちろん宿泊可能ですが、女性専用フロアも設けました。仕事、子育て

家事、介護に、そして人生のいろんな場面で疲れを感じたとき、気軽に息抜きがで

きるように、お隣にはベイビーホテルを設けました。もちろんリゾートによくある

キッズプログラムもございます。お部屋のインテリアはホワイトルーム、ブルー&

ホワイトルーム、ローズルームの3タイプです。レストランはオールデイダイニン

グのみです。いつでも安全でヘルシーなお食事を提供いたします。そして、煩雑な

パッケージなどはない仕組みにしました。これが先ほど会長の言われました、『わ

かりやすさ』です。


              


 さらに一般のホテルと違う部分はここではいわば、“五感の疲れを癒していた

だくのをまずは最大の目的としていることなのです。“五感の疲れを癒すとは、

五感への刺激をまず白紙に近い状態に戻すことから始まります。飛行機の離陸時に

電子機器を使えないようにするのと同じく日常から癒しという大気圏に入る時に私

たちと始終一緒にいる電子とつながりを絶つ環境にするのです。


 これには最新の技術も用いました。お部屋にはコンシェルジュにつながる電話だ

けでテレビもありません。スマホもPCも持ち込みはできません。時間の流れを感じ

るのはアナログの時計だけです。しかし音はしません。ここで感じていただくのは

騒音のない音、清潔な空気の匂い、食事療法にのっとった味覚、なめらかなシーツ

の感触だけです。そしてまずはチェックインの後、スパルームでヘルスチェックを

受けていただきます。そしてゲストのストレスの度合いを測り、それを軽減する訓

練もお教えいたします。このホテル体験がリゾートに行かずして、都会でもできる

としたら、人々のストレスは今より格段に減ることだと信じます。それではあらた

めまして会長より3度目の乾杯をさせていただきます」


              


 敏子はワインの木箱の上に再度上がった。「実はこの頃思うことがあります。も

しも私が男性であったなら、オーガニックコンビニなど手間のかかるものではなく

もっとあっと言う間に店舗数を増やせる方式に知恵とエネルギーを使っただろう

ということです。24時間いつでも便利に必要なものがぱっと買えるキーステーシ

ョン&キオスクみたいなものを作って全国、いえ、全世界で展開をしていたことで

しょう。今頃は国内でも2万店は超えていたでしょうね。しかし、私が女性であっ

たからこそ、このようなオーガニックコンビニ&ラウンジは実現し、しかしまだ7

10店にとどまったのだと思います。しかし、711店舗目からはこの”オーガニ

ック&ホテル“を若い世代に引き継ぎたいと思い、ここで正式にすべての事業から

の引退を発表いたします。なんて、かっこいいことを言わせてもらったのも、この

ホテルのゲストになって、第二の人生を謳歌したいからにほかなりませんが、はは

ははは


              

 「乾杯~」瑠々と文子が叫ぶとまた藤棚の下の美しい花々は大きくどよめき、そ

して静かになり、さんざめきが空に舞い上がっていった。



      



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

p.s.1
  負のイメージが浮かんだとき、それをいいイメージに、例えば、素敵なホテル、
すばらしいサンセット、楽しい体験にすぐに置き換える訓練をすることでストレスは
解消されるようになるそうです。そんなNHKの番組を見ていたら、こんなホテルが
あったらいいのにと思っていたことを書きたくなりました。
 すべて架空のストーリーですが、あの巨大企業の社長さんが女性であったならとか
そんなことをよく考えます。

 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

            

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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