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リサコラム
連載523回
      本日のオードブル
習慣

第13話

「静かにして」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




白い天井と
コントラストを
作るグリーンを
帯びた濃いネイビーの壁
丸い絨毯の縁取りは濃い紫。
そこに白い天蓋カーテン付きの
白いベッドと白いナイトテーブル
右はレインシャワーのバスルーム。
その境にはガラスブロックがあります。
白いカーテンを背にし白いソファに座る
女性は膝に乗せたクッションの上に
本を置いて静かに読書に夢中です。
そして夫はいつものように....
こんな静かなお部屋は
お好きです?


 
      
  





       


第13話
  「静かにして」



「静かにしてくれ!」白いシャツを着た男性が突然、白いテーブルクロスの端を

手でたたいた。大きな湖を見下ろすハイソなテラスレストランの先端のテーブルか

ら突然沸き起こった小さくはない叫び声は、隣のテーブルの若いカップルをぴくり

と反応させた。ふたりは回りの自分たちより大人びた面々を見渡した後でどう見て

も自分たちのことを言われているのだろうと判断したようで、すぐにふたりとも耳

からイヤフォンを引き抜いた。すると、その隣のテーブルのカップルもイヤフォン

を引き抜いた。


 
                      


 問題の男性は少しグリーンがかったネイビーブルーのコットンのパンツに白い麻

のシャツをざっくりとオーバーに羽織っている。そのコーディネートのセンスはな

かなかだと素人目にもわかる。しかし、レイクサイドの高級リゾートに静かな休暇

を平和に過ごそうとやって来ているゲストたちの雰囲気には少々似つかわしくない

ふるまいに思えた。それも午後3時半を回ったティタイムを楽しんでいるゲストに

は衝撃に近い動揺を与えた。さらにその波紋は翡翠色の湖にも届いたかのようにさ

っと青ざめて見えた。麻のシャツの男性の隣の若いふたりは知らない人間からたし

なめられる理由がわからないという気分をあからさまに浮かべ初めていた。

 そのテーブルの2つ向こうの女性はアフタヌーンティのスコーンをほうばった口

をもぐもぐさせながらナプキンで口を押えると、左隣のテーブルの反応をそれとなく

伺った。


                 


 そのテーブルには60代くらいに見えるカップルがいたが、女性のほうはまるで

気にする様子もなく、シンプルでセンスのいいケーキを堪能していたが、隣の夫と

見受けられるグレーのシャツの男性はきっとした表情を浮かべて叫び声の主に注目

していた。しかしながら、ちょうど給仕人たちはそのあたりにはいなかったために

3分30秒も経つと何事もなかったようにその場は民主的に治まり、また静寂な場

所に戻った。


 やっと何も知らない給仕人がやって来た。麻のシャツの男性はすっと手を挙げた。

               


 「お伺いいたします」と給仕人がほがらかに麻のシャツの男性に話しかけると男

性は耳からイヤフォンを抜き取り、「明日の朝、湖の回りを走りたいんだが、自転

車は借りられるかな?」と言った。「ええ、もちろんでございます。ご予約を承り

ます」と給仕人が答えた。「それじゃ、そうしてもらおう。一周どのくらいあるん

だろうか?」「8,848mございます」「おう、そんなにあるんだ。それはエベレス

トと同じ高さじゃないか!」男性はまたテラスに響き渡るくらいの大きな声を出し

た。「よくご存じですね」「うん。山に登る人間でね、もちろん、エベレストなん

て山じゃなくて、週末に行って帰って来れるくらいの山だけどね、気晴らしにちょ

うどいいくらいのね」と男性はよく通る陽気な声で遠慮なくしゃべった。


               


 さっきから聞き耳を立てていたグレーのシャツの男性の表情が変わった。隣の妻

はすでにデザートを平らげてしまっていた。グレーのシャツの男性は待ちきれない

様子で視界に入って来た給仕人に手を挙げた。すぐに白い制服の給仕人がやって来

た。


               


 「ここはいつ来てもすばらしい眺めだね」とグレーのシャツの男性はまず社交辞

令で先手を打った。「ありがとうございます」と給仕人は答えた。すぐにグレーの

シャツの男性は、問題の男性を見ながら「あの男性にも同じシャンペンを一杯頼む。

同じ山男としてね」と言った。給仕人は「承知いたしました」と言うと、麻のシャ

ツの男性にも同じグラスを運んだ。給仕人と少し会話をした後で麻のシャツの男性

はグレーのシャツの男性の方を振り向くと会釈して、二人は同時にシャンペングラ

スを持ち上げて乾杯した。


               


 「わかるな~叫びたくなるんだよね、時々、無性にね」グレーのシャツの男性は

独り言のように、2杯目のグラスを持って来た給仕人に言った。


 「電車でも道でも大半の人間は耳にイヤフォンを突っ込んで、指でスマホの表面

をなぞっているじゃない。隣のイヤフォンから漏れるかすかな音でもなんかとても

耳障りに感じる時もあるしね。この間なんか、会議でみんな集まったところで、お

隣さんがそれをやり始めたから、「やめてくれないか!」と言ってしまったことが

あってね、自分でも言い過ぎたと思ったけどね、相手はぽかんとしててね、でも、

問題は音じゃないんだよね。その場にふさわしくない感じで別のことに没頭してい

るのがとても耳障りに感じるんだよ。そのふさわしくない感じが全くわかっちゃい

ないんだよ」男性は大きなため息をついた。給仕人は黙ったままでうなずきながら

聞き続けていた。


               


 「きっと彼は常連ではないだろう」グレーのシャツの男性はまた麻のシャツの男

性を見ながら言った。給仕人は「私は新人なものですから」と言うと「なるほど、

よかろう」と男性は言った。「今は何かと言えば、プライバシー保護だからね、す

べてそうなんだよ。ならば、なぜ、SNSに夢中になるんだろうか」男性は給仕人

を捕まえて離さない雰囲気だった。


 さらに10分ほど話し続けてやっと隣の自分の妻がいなくなっていることに気づ

いた。「ああ、散歩にでも行ったんだね」と給仕人に言うと、今度は山登りの話題

に移った。「あの男性と話が合うだろうな。私も山登りはちょっとした趣味のひと

つでね。週末組だが、ストレス発散と体力づくりにこれほどいいものはないと思う

よ。細い峰を登っているときなんかね、もうここで足をすべらせたら終わりだとい

うそんな瞬間がこれまたいいんだよね。なのに簡単な場所で足を滑らせたりして、

ほんとに人間の集中力とはよくできているよ。そして、山頂で思い切り叫ぶ、これ

ほどすっきりするものはないよね~」男性は給仕人がちょっと居心地悪そうなそぶ

りをしたのに気付くと、「ああ、悪いね、仕事の邪魔をしちゃったね」と言って給

仕人をやっと解放した。


               


 それからほどなく、麻のシャツの男性がグレーのシャツの男性のテーブルにやっ

て来た。そして「シャンペン、ごちそうになりました」とにこにこしながら、麻の

シャツの右手を差し出すと、それを受けて、「いえ、いえ。それで、山登り、なさ

るんですね」とグレーのシャツの右手を出した。「ああ、まあ、始めたばかりです

が、はまってしまって、でも、まだ、全然ですがね」と麻のシャツの男性はにこや

かに笑いながら答えた。そして思い出したように「ああ、これ、すみません」と付

け加えた。「すぐに返すべきだったのですが、お隣にいらした女性の方がここに来

られる途中で、ベンチに置き忘れられた本です。拾って届けようと思いながら、

ぱらっと読み始めたら面白くて返すのが遅れてしまってすみません。音楽を聴きな

がら読むと集中できるもので、すっかり忘れてしまいまして、失礼いたしました」

と、グレーのシャツの男性に本を手渡した。あっけにとられている男性にさらに、

「あの、もしかして、私、何か独り言、言ったんでしょう?すみませんね、元々、

声がでかくて」と言った。


               


 グレーのシャツの男性は、「『頼むから、静かにしてくれ』」とタイトルを

ゆっくり声に出して読んだ。


 「それで奥様は?」と麻のシャツの男性は聞いてからすぐに、「ああ、きっと

お部屋で一人静かに読書ですかね、『お願いだから静かにして』なんていいながら

ね。こんな本をお読みなら、きっと本好きとみえますしね」と言うと、麻のシャツ

を風に膨らせてさっさと歩き去った。




    



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

  レイモンド・カーヴァーの短編小説『頼むから、静かにしてくれ』
  ”Will You Please Be Quiet, Please?"
  の中では、少し違うニュアンスですが、
  「お願いだから、静かにして」は書き物をしているときに
  私もよく言います。が、あまり通じません。
  本人にしか通じない言葉というものがありますね。


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。リサコラム10周年の特別号です。

            

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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