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リサコラム
連載527回
      本日のオードブル

かつて

第3話


”シャトー・ドゥ・ドメーヌ・ハナ”にやって来た
来訪者」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


売りたい
部屋を
即売る方法。
まるで出来立てのように
清潔で、生活感がないように見せる。
素敵なカーテンに架け替えておくこと。
白いドアや、シャンデリアはプラス要因
バラなどのたっぷりの生花を飾る。
この家を愛しているけどいい人に
譲りたいという気持ちを
表現できます。
書斎なら
市松の床が
一目ぼれ
してもらえる可能性大です。

 
      
  





       


第3話
  ”シャトー・ドゥ・ドメーヌ・ハナ”にやって来た来訪者」

ハナは遠くのピアノの音色に耳を澄ませた。


                


 1週間前よりずいぶんと上達したように思える。ハナは持っていたバケツと雑巾を床に置くと、

少し離れた家の窓から聞こえてくるピアノに聞き入った。それは日曜の朝10時の合図のように

今朝も定刻に始まった。


 それから部屋の隅々をもう一度チェックしたあと、窓のそばに行くと、片方のカーテンを丁寧

に束ね、もう片方のカーテンは垂らしたままにして少し離れてバランスを見た。「うん、OK

今日こそは!」ピアノの音は力強い音に変わったようだ。きっと先生がお手本を示しているのだ

ろう。

                


 ピアノにチャイムの音が加わった。ハナはすぐに玄関のセキュリティ画面に写った男性を確認

すると、「お待ちしておりました。今、参ります」と言うと、柏手を一つ打ってから、階段を降

りて、1階の玄関ドアの2重ロックを開けた。


 ドアの前にはタートルのセーターをセンスよく着こなした着た50代くらいの男性が立ってい

た。先日、この私設ライブラリー付きの家の売却について電話で尋ねてきた人物だった。


                


 ハナはすぐに1階のライブラリーのあるホールに男性を案内した。「何か研究をなさっておら

れるそうで」ハナは落ち着いた面持ちで切り出した。「中世の研究ですが、まあ、週末研究者と

でもいうのでしょうか、ええ」「そうですか」ハナはホールの左右が全部書棚で埋め尽くされた

部屋をゆっくり先導して歩いた。


 「お電話では伺いましたが、素晴らしい蔵書ですね」男性は感嘆した様子で言った。
 
 「ありがとうございます。」ハナは自信を持って答えた。「ここに住んで毎日本だけに埋もれ

ていたらどんな素晴らしいことでしょうね」「ありがとうございます。でも、私にはさっぱり興

味もない難解な本ばかりで、曾祖父の代から集めて来たらしいのですが、戦争中に本を動かすの

に間に合わなくて焼失したものも結構あったらしいです」「そうですか、いや素晴らしいです」

「ありがとうございます。ただ、いつまでここを運営できるのかも分かりませんし、公営の図書

館に寄贈するのももったいないかなと家族で話し合いまして、今回売却することになりまして」

「それはほんとうにもったいないことですね」「ええ、でも、父もあまり本にはそれに年齢か

ら、もうこの山の上まで来るのが億劫になってしまいまして。車でなくては来れませんからね」

「環境は抜群ですよね。眼下には海も山も街並みも見晴らせて、いい場所なのに」「ええ。私は

運よく在宅勤務で、住まいは隣の賃貸アパートのひとつなのですが、来年から海外で仕事をする

ことになりまして、できればいい方にと思っております」「なるほど。それでご兄弟は?」「み

んな都会の小さなマンション住まいでこんな蔵書なんてとても持ちきれません。早くどこかへ寄

贈するか、ネットか古書店に持って行けと言うだけで」ハナは1階の突き当りで、2階へ上が

る階段を上り始めた。男性は階段の左右の壁すべてに棚が作られ、そこにも1cmの隙間もない

くらいに本で埋まっている棚を眺めながら、後に続いた。


                


 「こちらでございます」ハナは先ほど掃除を終えたばかりの部屋に男性を案内した。男性は白

黒市松模様の床の手前で足を止めた。「すばらしい!なんて」ハナはドアの手前で立ち止まっ

たまま動かない男性を促した。「どうぞ、中へ」「ああ、ここが」「お電話でお話ししました

小さな書斎です」「いい書斎だ!」「そう言っていただけるとうれしいです。平日はここで仕事

をしていますが、IT関係なもので、ここで紙の本を読むというより、パソコンさえあればOk

して」「それで売られたいのですね?」「ええ、買っていただけるならぜひお願いしたいです。

私設図書館の運営も大変で。第一この山の上まで登って来られる方が少なくて。どうして祖父は

こんな場所に書庫を建てたのか、いまだわかりません」


                


 「そのおじいさまはどんなお仕事を?」「歴史の教師だったようですが、私は歴史に疎くて、

どんな分野を研究していたのかもよくわかりませんが、この”シャトー・ドゥ・ドメーヌ・ハナ”

という書庫の名前は、私が生まれた時に祖父がつけた名前だそうです」「そうですか。それで下

にあった古い文献はおじいさまが集められたものですね」「ああ、おそらく半分以上はそうだと

思います」「主に中世のヨーロッパの歴史を研究なさっておられたのでしょうか」「え~、そう

かもしれません」ハナは言葉につまった。


                


 男性は窓からうっそうとした木々とその間にぽつりぽつりとある住居と、その下の街並み、

さらにその先のまばゆく光る海岸をじっと眺めて、黙っていた。ハナは刻々と不安に駆られた。


 「ここは、南仏のサンマルタンに似ていますね。ニースから山の方に登って行った景勝地でし

てね、ヴァンスと言う城壁の旧市街と地中海を見下ろせるいい~リゾート地なんですよ、ご存じ

かもしれませんが」とやっと口を開いた。「リゾート地、ですか?そう言っていただけるとうれ

しいです」ハナは見学に来たこの男性がこの家を思い切り高く提示した価格で買ってもらえない

だろうかという思いだけが、膨らんだりしぼんだりを繰り返していた。


 「その地名は、紀元350年にサンマルクというフランスの守護聖人がその地に修道院を作っ

たのが由来で、それから12世紀には十字軍の修道会、テンプル騎士団が駐屯地とした場所でし

た。ああ、テンプル騎士団ってごぞんじですよね?」男性はハナの方を向いた。


 ハナはピンとこないというような顔をした。「学校では詳しくは教えませんから。十字軍の時

代には3大騎士修道会と言われ、戦闘活動を行ったカトリックの修道会だったのです。テンプル

騎士団は十字軍の遠征によって聖地エルサレムを奪還してから勢力を拡大して、だんだんと莫大

な財をなして、今でいう銀行のような財政システムも構築した国家の中の国家のようなものにま

でなったんです。だから、国家より財政が豊かでね、それで当時、財政難にあえいでいたフラン

ス国王がその金に目を付けて、異端者扱いをして裁判にかけ、財産を没収してフランス国内のテ

ンプル騎士団を壊滅させたという歴史があります」ハナはかつて祖父がそんな話をしていたよう

な気もしたが、ハナの関心事はテンプル騎士団より、この男性がお荷物の本ごとこの家を買って

くれるかどうしかなかった。しかし、男性はそれっきり、窓から外を眺めるだけで黙り込んでし

まった。


                


 ハナはこれまで10数人の見学者がやって来ては、この場所がなんとかとか、蔵書がね、とか

言いながら、最後は「また検討して来ます」と言って帰って行ったことを思い浮かべていた。


 男性はようやくハナの方を向くと、「買います」と言って、胸ポケットから分厚く膨らんだ財

布のようなものをデスクの上に置くとそれをハナの方に押し出した。


 「とりあえず手付ですが、」「まあ、買っていただけるのですね。ありがとうございます」

「ええ、気に入りました。どうぞ中を確認してください」ハナは震える手で真新しい札を1枚ず

つ数え終えると礼を言った。


                


 「できれば早めにここを研究室にしたいのですが、いつから使えますか?」「ご都合のよろし

い時にいつもでも。契約書はそろえていますから、あとはサインと印鑑をいただければ」男性は

すぐに椅子に腰かけて契約書をじっくり読むと、「わかりました。それでは来週早々に、残りは

振込みさせていただきます」と言うと、いくつかサインをしてから印鑑を押した。ハナは頭を上

げると嬉しさで緩んだ顔をどうやって引き締めようかと思った。


 男性は「それでは」と言って立ち上ると、先に階段を降り始めた。ハナはずっしりとした手付

金を持って後に続いた。


                


 男性は「その南仏のリゾートは5つ星のすばらしいホテルでしてね、ホテルになったのは、ま

だ今から5,60年前なんですがね、土地の契約書の約款にはこの地にテンプル騎士団が偶像と

して崇拝していた『黄金の山羊像』というものが埋蔵されているから、それが見つかれば、それ

と埋葬金は関係者で山分けと書かれているのです」と言うと、初めてにっこりと笑った。「ふふ

ふ、中世の埋蔵金探しですか?」ハナも軽やかな気持ちで笑った。


                


 男性は玄関で靴を履くと、「実はここを決めたわけは、1階の一番奥の書棚の一番下の棚に私

が探し求めていた貴重な文献が多数ありましてね、かつて、抱いていた夢が、このたび、また湧

いてきたというわけです」と言うと、深々と頭を下げた。ハナはその少し薄くなった後頭部を黙

って眺めていた。


                


 男性は頭を上げると「そのホテルはシャトー・ドゥ・ドメーヌ・サンマルタンと言いまして、

そして、このライブラリーがシャトー・ドゥ・ドメーヌ・ハナだったもので、ピンと来るものが

ありまして、すぐに連絡をしたわけです」と言ったあとで、晴天の空を背景に大きな握手の手を

ハナに差し出した。


 「私も一応はそのホテルの関係者なものですからね」



    


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
 
 もうずっと行ってみたいと思いながら、未だかなわない
 シャトー・ドゥ・ドメーヌ・サンマルタン。
 テンプル騎士団の伝説は 数々あるようですが、
 ホテルの敷地に埋蔵されている埋蔵金なんて、
 とても興味をそそられませんか?

 蔵書蔵に3万冊以上の本をお持ちのお客様がおいでですが、
 今はどうなっているのかしら?とずっと気になっています。
 さらに私設図書館も近所にできて、それも気になっています。
 


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。リサコラムアーカイブスです。

            

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
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