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リサコラム
連載576回
      本日のオードブル

彼女のアイデア


第6話


「気まぐれの好サイクル」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



母は
ラベンダー
好きです。
ベッドカバー
クッションカバー
ベッドスカートも
そしてヘッドボード
カバーもラベンダーです。
そのラベンダー色のベッドルームに
自分のバイオリンの音色を聞かせるのです。
当然、練習用の服も
ラベンダー色で
コーディネート
しています。
ラベンダー色は
おそらく今月の
お気に入りのカラーだと思いますが....



 
      
  





        


第6話  「気まぐれの好サイクル」



 「先生、お世話になっております。先生にご紹介をいただきました貸し別荘に

て二人楽しい日々を送っております。その節は先生にいろいろとご相談に乗ってい

ただき、心よりお礼申し上げます。


            


 最初はレイクサイドにこんな静かな貸し別荘地があったなんて、ほんとうに驚きで

ございました。ここで私は天候に関わらず、始終ベランダで過ごしておりますが、

時折、目の前を水鳥や白鳥が行き来します。不思議なもので、部屋の中から聞こえ

てくる音も時折は忘れてしまうくらいに自分の世界に浸れる瞬間もございます。


            


 それで何をするでもなく、長椅子に横になったままで水面(みなも)を眺めてお

りますと、私たちは日ごろ恐ろしいほどの情報という名の好奇心を満たす「こと」

に苛まれていることに気づかされます。そんなとき、自ら何も求めなければ、何も

得られないということがなんと自然なことで、麗しい喜びであるのかと痛感するの

でございます。そして、真偽のほどは確かではない赤の他人から得た情報より、先

生にひとこと、あそこがいいよと言っていただければ、私はもうどこへでもそのま

ま飛んでゆきたい気分になるのです。それだけはぜひ、先に申しておきたいことで

ございます。


            


 結局、あの家も散々、時間をかけ、費用もかけた私たち最後の家でしたが、あっ

と言う間に買い手が決まり、さらに次の瞬間に手放すことを決断した母にはいつも

ながらあきれてしまいました。ほんとうにあっけないものでした。当然ですが、あ

の家をほかの方にお譲りすることに最後まで抵抗しておりました私は今でも無念さ

を感じはしますが、「気まぐれ」という言葉で表現するにはあまりに「気まぐれ」

すぎる母の性格をいやと言うほど知っております私にはもはや打つ手はございませ

んでした。


            


 古いテディベアのように、気に入ったものは誰がなんといっても手放さないの

に、飽きるのはあまりに早く、それも時間があるものですから、これまでも一体

どのくらいの時間とお金を母は自分の趣味に投資して来たのかわかりません。今、

私が思い出せるだけでも、絵画、書、ガーデニング、社交ダンス、コーラス、英会

話、フランス語会話、イタリア語会話、手芸、ニット編み、刺繍、ステンドグラス

アートフラワー、けん玉、これなどは一番長く続いたものでございます。しかし、

そのたびにそれ専用の道具を置く設備のある部屋が必要になり、私には、手芸とニ

ット編みは同じ部屋でもいいのではないかと思いましものでしたが、しかし、母は

そうではなかったようで、次々に持家を売っては買い、売っては買いを繰り返して

参りました。


             


 そしてとうとう、私ももういい歳だし、こんな大変な生活は金輪際にしたいと建

てたほんとうに最後の家のつもりでございましたのに、先生に出会い、母はバイオ

リンという世界にまた新たな一歩を踏みだしてしまいました。そうして、今回のよ

うなことになってしまったのです。それはもちろん、母のせいであり、先生には何

ら非があろうはずもございません。


             


 案の定、すぐにお隣近所から苦情が出ました。すると母はこれではバイオリンの

練習ができないと言い出し、そして1年しか住んでいないその家をまた売ることに

なりましたのはご存じの通りでございます。



             


 それでも1年住んだ家は長いほうでございます。それと申しますのも、母は恐ろ

しいほどに不動産運をつかさどる神様と仲がよいらしく、スムーズに、しかも2

超の価格で売れました。やはり、自分たちの家が高く売れることに越したことはご

ざいません。こんなひそやかな喜びを私たちは一度ならず味わいながら、私たち母

子は日々を好きに過ごしてきたわけなのです。もちろん、2倍で売れましても、

私たちが今までにつぎ込んだ時間は取り戻せるものではありませんから、その時間

がイコール価値だと思っております。しかし、どうかくれぐれもこの件はご内密に

していただきたく、こうして手紙文という、おそらく20年ぶりになろうかと思い

ますが、したためた次第でございます。


            


 そんなジプシーの身の上の私どもを案じて、先生から直々にご紹介をいただきま

したこの貸し別荘は、何度も申し上げますが、私も母も大変気に入っております。

さらに、先生のおひざ元ということもあり、母のバイオリン熱はこれまでになく長

続きしそうな気配なのです。


            


 前置きがあまりに長くなりました。長くなればなるほど、言い出しにくいことで

ございまして、そこでたってのお願いと申しますのは、母にバイオリンの素質がな

いと、はっきり印籠を渡していただきたいのです。先生のお言葉なら涙を呑んでも

帰りには、きっとフラメンコ教室の門をたたくに違いありません。先生のお教室と

道を隔ててすぐが、そのフラメンコ教室でございますから。


            


 つきましては、先に申しました通り、家が少々高く売れましたために、失礼とは

存じますが、書留の別便にて少しばかりの謝礼をお送りいたしました。これはどう

か母には内緒にしていただき、どうかくれぐれもよきお取り計らいをお願い申し上

げる次第でございます。


            


 追伸

母のバイオリンがあまりに下手で私の精神はもう限界に達しておりますので

ございます。



   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  気まぐれ、粘り強さ、運 どれか2つ欲しいです。
  3つなんてわがままは言いません。


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             


p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

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