MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others News
美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living


リサコラム部屋

2015年10月20日~12月30日

  ようこそ、「リサコラムの部屋」へ。

「リサコラムの部屋」は10(最後に0)のつく日の更新です。
本家の「リサコラム」と同じ作者によりますが、

架空のストーリーに交えてお客様のお部屋のご紹介など、
いろいろなメインディッシュをご用意致します。


それでは、
ぜひ、おいしいお飲み物を傍らにイマジネーションの部屋をじっくり
ご堪能くださいますように。

私が目覚める場所へようこそ。



第1回
Room No.0011


第2回
Room No.0012
第3回
Room No.0013
第4回
Room No.0014

「オーベルジュA」
第1話 ピンパーネル

「もうひとつの家」
第2話 MIZUKIより 
「HOTEL MORRIS」
第3話
マダム・ワトソンの中の
小さなホテル
「HOTEL MORRIS」
第4話
私のホテル・モリス
物語



第5回
Room No.0015


第6回
Room No.0016
第7回
Room No.0017
第8回
Room No.0018

「HOTEL MORRIS」
第5話
ホテル・モリスに
招かれて

「HOTEL MORRICO」
第6話
ホテル・モリコ
「HOTEL MORRICO」
第7話
マリー・ゴールドの部屋
「大晦日の記念日」
第8話

Dr.ひとみとわたし



「リサコラムの部屋」バックナンバー集です。

この小さな窓から、イマジネーション豊かな世界が広がっているのです。

2015年7月10日~10月10日までの「リサコラムの部屋」「ワーズワースの前庭」は下の写真より。





2015年3月30日~2015年6月30日までの「リサコラムの部屋」「W.T.クラブ」は下の写真より。




2014年11月30日~2015年3月20日までの「リサコラムの部屋」「ホテル・サン・スーシ」は下の写真より。






2014年9月10日~11月20日までの「リサコラムの部屋」
「アドラーに聞きに行こう」は下の写真より。

 


2014年5月30日~8月30日までの「リサコラムの部屋」
「時はやさしく、時につめたく」は下の写真より。




2014年2月20日~5月22日までの「リサコラムの部屋」
「カーテンの向こう マダム・ワトソンのひみつ」は下の写真より。






2013年11月14日~2014年2月14日までの「リサコラムの部屋」
Café After The Rain」は下の写真より。




2013年7月25日~11月7日までの「リサコラムの部屋」
「楡の木の叔父」は下の写真より。




2013年4月16日~7月18日までの「リサコラムの部屋」
「シーサイド・ビレッジ」は下の写真より。




2013年1月8日~4月9日までの「リサコラムの部屋」
「HOTELS」は下の写真より。




2012年10月2日~2013年1月1日までの「リサコラムの部屋」
「AAA」は下の写真より。




2012年6月25日~9月24日までの「リサコラムの部屋」
「5分の人生」は下の写真より。




2012年3月26日~6月18日までの「リサコラムの部屋」
「失われた明日を求めて」は下の写真より。




2011年11月21日~2012年3月19日までの「リサコラムの部屋」
「露店マイヤー・倶楽部」は下の写真より。




2011年9月5日~11月14日までの「リサコラムの部屋」
「N氏の場合」は下の写真より。




2011年6月13日~8月29日までの「リサコラムの部屋」
「ノンちゃんカフェ」は下の写真より。




2011年6月6日までの「リサコラムの部屋」は下の写真からバックナンバーをご覧頂けます。




* PAGE TOP *





私が目覚める場所」へようこそ。

2015年12月30日(水)


第8回
Room No.0018

「大晦日の記念日」

第8話
Dr.ひとみ
とわたし

2015年の暮れも大晦日の晩、
私は自宅の宅配ボックスに届いていた贈り物の箱を見つけました。

その送り主の名前には「ひとみより」とだけ書かれていました。
私の無二の親友からでした。





私はひとみの家で1日半を過ごした
週末の忘れがたい時の映像が一瞬にしてよみがえりました。

もうずいぶん前のことのように思えたのに、
まだ、2か月半しかたっていないとは自分でも驚きでした。





事の発端というか、問題の日はその週の土曜日、
忘れもしない10月の17日でした。

その晩に彼女に電話をかけると彼女は在宅していました。
どうしても私の憤懣を彼女に聞いてもらい、
今後の私の身の振り方を相談したいと思ったのです。





突然、しかも晩ご飯も終わった時間帯にお邪魔ししたにも関わらず、
彼女は私をおいしいワインとチーズででもてなし、
そしてその晩は、
迷える子羊の私を自宅に泊めてまでくれたのです。





美しいゲストルームの真鍮のベッドに横になると、
開け放した窓からまだ夏の余韻を残すかのような温かな空気が
私の方に流れてきました。

窓辺には洒落たアームチェアとデイベッドが置かれ、その上にはかわいいピローが
10個ほども置かれていました。私はテーブルにあった本を
ぱらぱらめくりながらも、しかし、目は文字を追うだけで、
頭の中は悪夢の日を反芻するのみでした。

その日は人生でおそらく2番目くらいに
最悪な一日だったと思います。

理不尽な上司の言動によって、朝から晩まで振り回され、
自分の仕事が何一つもできず、そのために納期に間に合わずに
お客様に迷惑をかけて、信頼という大事なひと粒を落としてしまった最悪な日でした。

さらに、私はそのことで、当の上司から厳しい叱責を受け、
言い訳をすると、さらに、上司は怒りを頂点まで登らせ、
多く社員の前で私を罵倒したのです。





しかし、翌日、彼女の部屋のベッドで目が覚めると、
不思議なことに
それまでの歯を食いしばるほどの無念さも、憤りも、まるで白い清潔なシーツが
眠っている間に吸い取ってくれたように
薄れていました。

私がゆっくり目覚めて、下に降りてくると、
すでに彼女の家族はみんな出かけており、
キッチンからはいい香りが漂ってきていました。





それから次第に甘酸っぱく、香ばしい香りで
キッチン中がいっぱいになってきたと思ったら、
「さあ、お目覚めのお茶にしない?」と彼女が
私の目の前にアートのような一皿を置きました。

「え~、きれい!おいしそう!」
私は湯気を立てているパイにフォークとナイフを入れると、
ほっくりしたりんごが出てきました。

「中のりんごはお砂糖で煮ていないから自然な甘さよ。
パイ生地をココット皿に入れて、りんごを詰めて、また皮をかぶせてフォークで筋を入れた
だけの早技簡単アップルパイ、ひとみ流よ!」と彼女はにっこり笑いました。

「すご~い、おいしい~!」

それから私たちは、昨晩の話の続きを語り合い、朝のお茶の時間を過ごしたのです。

あっという間にランチの時間も近くなると、彼女の家族も戻って来て、
今度はみんなで食卓を囲みました。





サニーレタスに二色のミニトマトのサラダよ」
ドレッシングは頂き物のディーン & デルーカのレモンとバルサミコ酢と
オリーブオイルのドレッシング。さあ、どうぞ!」

彼女のシンプルでとってもおいしいサラダのあとは、
ベジタリアンの私にメインディッシュのお肉の代わりにと、
リゾットを堪能させてくれたのです。





「ポルチーニ茸のリゾットで~す」
「わ~、またまた、このリゾット、最高!おいしいわ~!」
私が叫ぶと、





「これは頂きもののお惣菜のもとを利用したのよ。
ささっと炒めて、煮込めば、おいしいリゾットができるから、とっても便利よ。
効率よくできる便利なものがあれば、遠慮なく
そのお世話になって、楽するところは楽しておけば、仕事や趣味に
エネルギーを温存しておけるからね」
と彼女は穏やかなな口調で言ったのです。





「さて、別腹のデザートタイムです。
ラズベリーとブルーベリーの上にマスカルポーネチーズを乗せて、
いちごの王冠をかぶせた、名付けて、『フルーツキャンドル』よ」と、
彼女は私の前に真っ赤なプレートに乗った赤いデザートを置きました。

「わー、これもおいしそうね!」

「マスカルポーネチーズは泡立てなくていいから、生クリーム代わりになるわよ。
ほんとうに重宝よ!」

「なるほどね~楽できるところは楽して、頭も気持ちもを省エネでいいってことね~」
私は何度も何度も納得の溜息をつきました。





そんなおいしい手料理とイギリスの由緒あるホテルみたいなゲストルームに
泊めてくれた彼女から、さらに、私に贈り物?
箱を開けると、
「記念日に寄せて」と封筒の表に書かれたカードと共に
ワインのような瓶が入っていました。

『 ソフィアコッポラ 2014年」

フランシス コッポラが娘のソフィアコッポラのために作ったという
カリフォルニアのスパークリングワインでした。
あの時テーブルで頂いたワインがあまりに美しく華やかな香りだったため、
おいしいを連発した私に
彼女が気を利かせて送ってくれたのです。





それに、小ぶりなガラスに入ったキャンドルが添えられていました。
火をつけるとシャンパンの香りとともに
私の周りの空気も浄化されていくようでした。

『記念日によせて』の封筒を開けると、
そこに彼女の心からのメッセージが添えられていました。

「『向上心のない人は嫌いです』夏目漱石の『こころ』の中の先生の言葉をすこし和らげた
言葉ですが、私の信条にしている言葉なのです。
それにね、『人のうわさも75日。みんなから誤解されたあの日から今日12月31日で
ちょうど76日目でしょ?だから、今日でそんな中傷とも
さよならする記念日にしましょうよ。
その記念日に寄せて大好きなこの言葉を贈ります。

『頑張らないけど、諦めない』

そして、これは鎌田實先生という著名な医師が癌患者に向けたポリシーだけど、
生き方のコツみたいなものだと思っています」

私はすぐに彼女にメールを送りました。
「誤解され、みんなの前で叱り飛ばされ、私が噂のネタにされたことも
キャンドルの光と一緒にすっかり消えてなくなってゆくのを感じています。
おいしいワインとこの上ない温かな激励、ほんとうに、ほんとうにありがとう」


***

2015年が2016年にバトンを渡す時が
やってまいりました。
今までの最高の年にするために今回の
フィクションのストーリー
コメント、メッセージ、お写真までご協力、ご教授くださったのは、
アメリカ美容歯科学会会員で、東京の文京区小石川の『ひとみデンタルクリニック』を
開業なさっておられる歯科医師の権藤ひとみ様です。





2016年は「右手に向上心」、そして「左手に優先順位の方位磁針」を持って、
でも、『頑張らないけど、諦めない』
こんな芯のある柳の枝のような生き方を目指します。

これで、向かうところ不安なしの2016年にしてみせます!!
ひとみ様、すばらしい人生のコツを伝授下さり、心より心より感謝申し上げます。

感謝と尊敬をこめて。
       
***

次回は2016年1月の10日。
さあ、これですばらしい日々の始まりですね。


お問い合わせは、こちらから
ontact us

写真、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。

* PAGE TOP *





私が目覚める場所」へようこそ。

2015年12月20日(日)


第7回
Room No.0017


「HOTEL MORRICO」
第7話

マリー・ゴールドの部屋


「お元気ですか?
あれからずいぶん時間が経ちましたが、憶えておいででしょうか?
実はまたお世話になりたくて、あの、「マリー・ゴールド」のお部屋が
空いている時をお尋ねしたくてメールしました....」





数年前、
郊外の瀟洒なホテルと過ごした1週間の蜜月を懐かしく思い出しながら
お世話になった、女主人にメールを打ち始めていました。

私は、早くあの部屋に帰りたくて、いてもたってもいられない
そんな気分だったのです。
それはきっと自分のもうひとつの居場所のように感じていたからだと思います。





汗ばむ季節は近所の庭先がオレンジや朱色に染まるくらいに
繁殖力の強いマリー・ゴールドの鉢植を目にするたびに
私はまたホテル・モリコの心地よい香りをまた嗅ぎたくなって
思わず、花に顔を近づけてしまうのです。

それは、間違いなく、そこで1週間過ごした私の部屋にかかっていたのが
濃い影を帯びたマリー・ゴールドの花のカーテンだったからです。





しかし、ご存じのとおり、実際のマリー・ゴールドの香りはあまり
すてきな香りとは言えません。
なのに私はまた、マリー・ゴールドに顔を寄せてしまうのです。
ほんとうに不思議なものです。





宿泊した部屋名はまさに、「マリー・ゴールド」と名付けられていました。

ワインレッドのマリー・ゴールドのカーテンの上には、
同じマリー・ゴールドの直線の上飾りが付けられていて、
それがとてもシンプルで潔くて、
私は一目でマリー・ゴールドの部屋を気に入ったのです。





2mはあるような大きなベッドにごろんと横になってじっと上を見上げると
同じワインカラーのチェックの雰囲気のある天蓋カーテンが
シェードの上で優雅な表情を見せていました。

そのまま私はしばらく眠ってしまっていたようです。
目が覚めると、レースカーテン越しの光は白味を帯び、
日が沈みまで少し間があるようでした。





そして隣のバスルームに一歩入た瞬間、
この部屋と1週間の蜜月を過ごすことができると直観しました。





バスルーム全体を生クリーム色に色づけしている
真っ白でふわふわしたカーテンは
つい昨日新しくしたばかりのように感じました。

そのよどみのない空気は
ごく新鮮な生クリームをぺろりとなめた時のような
体の中を冷たく透き通るような甘さが抜けるようでした。





私は、時間の感覚をどこかに置いてきたようで、
無意識に目ざまし時計をしましたが、ナイトテーブの上には何もなく、
ホテルの部屋に目覚まし時計がないのも変だなと思い、
引出しを引いてみると、
そこにホテル備品も時計も全部おさまっていたのです。





そして一番上の目立つ場所に
「5時からカクテルタイムが始まりますので、よろしければ下へどうぞ」
と書かれたカードがふわっと乗っていました。



(撮影:森巣野守子様)


それからクリスマスのあたたかでさりげない女主人のもてなしで
カクテルタイムから、ディナーまでを満喫すると、また自分の部屋に戻り
本を読んで残りの一日を過ごすという何もしない
この上ない1週間の贅沢を自分に与えたのです。





その時の心地よさは今まで感じたことのないものでした。
それから1週間後、
ホテルを出る私の中から、滓のように溜まったダークマターは
かけらもなくなっていました。

後で知ったことは、
この部屋は私が初めて使った部屋だったそうです。
もしかしたら、
新しいものには、浄化能力のようなものがあるのかもしれません。





あれから仕事、人間関係などで問題を抱えた時は
またあのホテル・モリコに飛んで行ったつもりで
部屋の掃除をして、まずは清潔という贅沢を味わうようになりました。

そして季節が許せば、マリーゴールドを花瓶に挿すようになったのです。


***



(撮影:森巣野守子様)

「毎日きちんと美しくベッドメイクをして、
昼間はナイトテーブルの上には何も置かない」
モリコ様の『美しい習慣』でございますね。
そして、
『用もないのに2階へ上がって、あのマリー・ゴールドの寝室が
幻で消えていないかどうか見に行っては、幸せをかみしめています』

モリコ様に頂きましたこの名言が私たちの一番の喜びでございます。
いつか私もマリー・ゴールドの部屋にお邪魔したく存じます。





(撮影:森巣野守子様)


「森巣野守子」様はモリコ様がご自身でつけられたペンネームです。
なんとすごいモリスエンスー度でしょうか!






次回は12月の30日
さあ、2015年の締めくくりです。


お問い合わせは、こちらから
ontact us

写真、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。

* PAGE TOP *






私が目覚める場所」へようこそ。

2015年12月10日(木)


第6回
Room No.0016


「HOTEL MORRICO」
第6話


ホテル・モリコ


私は数年前、郊外の保養地にある
小さくも美しいホテルにしばらく投宿していた時の思い出を
今から少しお話ししようと思います。





数時間の道のりのあと、最後のバスを降りると
私は雨あがりの少しぬかるんだ道を裾を気にしながら、
しばらく散策を兼ねて歩いていました。

季節はクリスマスを間近に控えて、
道行く左右の家々や別荘の庭には
イルミネーションやさまざま飾りが木々や塀を覆うように競い合って
昼下がりとは言え、すでに美の競演は始まっているようでした。





雨に洗われた緑の茂みは葉緑素をたっぷり含んだエキスを
いっせいに放出するかのように、
道端のあちらこちらから押し寄せて来たミントやラベンダーの香りで
むせるほどでした。





「こんにちは。ようこそ、モリコのホテル・モリスへ。
お足元の悪い中、よく越しくださいました」

しとやかな表情の中に心地よい笑みを浮かべた女主人は私を玄関の外で迎えると
すぐに庭を見渡せるデッキのあるサロンに案内しました。





部屋の窓を彩るカーテンの上飾りには、
踊るような濃淡の刺繍のチューリップがまずは私の心を捕らえました。

それは、生地から切り込まれて、ラインダンスを踊っているようだったのです。





「わ~、素敵なデザインのカーテンですね」
「ええ、気が付いてくださった?これ、ご存じかもしれませんけど、
ウイリアム・モリスのチューリップというパターンですのよ。
この自由奔放な枝ぶりが私に似ているみたいで、とても気に入っているの」
そういうと、女主人はくすくす笑いました。





それから彼女は戸棚の引き出しから別のチューリップを出して来ました。

「お分かりになるかしら?このテーブルランナーは、この幅に合わせるために
茎を剪定して、カーブを緩やかにしてからつなぎ合わせてあるの。
どうお?面白いでしょ?」

私はじっと目を凝らしてみました。
確かに茎がところどころカットされていて、それが上手につなぎ合わされていました。





「まあ、素敵な技、楽しいですね~」
私はそっとチューリップのラインダンスに手を触れてみました。
麻の生地の上に繊細なプリントが乗った上にさらにグラデーションの
細やかな刺繍でチューリップが表現されていました。

「ほら、裏はこんな風に全然違う黒白の水玉なのよ。
こんな逆転の妙が大好きなの。ほほほほ~」
女主人はすでに打ち解けて軽やかな笑みを絶やまなく私に送ります。





「さあ、こちらのテーブルへ。長旅、お疲れさまでございました」
彼女が私の手にほかほかのおしぼりを手渡すと、
ぱっとペパーミントの香りが私の顔の上まで上って来て、
そのふかふかのタオルの柔らかさに
私の気持ちは一気にほぐれたのです。

「さあ、さあ、どうぞ、ゆっくりなさって。ここは私と主人と
優秀なシェフと数人のスタッフで切り盛りしている小さなホテルですから
遠慮はご無用ですよ」

女主人はとても気さくな雰囲気で私を一刻も早くこのホテルの空気に
なじんでもらおうとしているように思えました。





「このロイヤルドルトンの器、これ、かなり年代物ですよね。
あのエリザベス女王様も幼少の時にお使いになられていた、」
私はぶしつけながらすぐに気になって聞いてみました。

「ええ、ちょっとね。バニキンズです。ずっと大事にしている
私の宝物の一つなのですよ」
女主人はそう言うと、
「ガトウ・ショコラ、召し上がられませんか?私の手作りですけど結構評判いいんですよ。
すぐにおいしいコーヒーをお入れしますからね」と言うと、
キッチンの奥に消えました。





私はウイリアム・モリスのインテリアやファブリックが大好きな隠れモリスファンで
すでにこのサロンに案内されるまで、
カーテンの飾りだけでなく、モリスの柄のクッションや椅子など
密かにチェックを入れていたのです。





女主人がコーヒーを淹れている香ばしい香りを嗅ぎながら
私はそっとサロンを出ると、さっき玄関から通り過ぎて来た階段下に来てみました。

少しとんとんと上ると踊り場にもやはり、
モリスのカーテンが、アイアンのレールの下から美しいドレープを
見せていました。





口コミによると、屋根裏風のベッドルームが
まるでイギリスのすてきな田舎町の瀟洒なホテルのようだということでした。
”この上にそのお目当てのベッドルームが待っているのかしら?”
私は踊り場から1段上って上を見上げてみました。





”それにホテル・モリスをもじった『ホテル・モリコ』
きっとあの優雅なマダムの名前をもじって付けたんだわ”
私は未知の世界に足を踏み入れるような気分で
細長く白く美しい光を受け止めるフルーツのカーテンを眺めていました。





「コーヒーが入りました。さあ、お熱いうちにどうぞ!」
覗き見をしていた私に女主人が階段の下から優しい声をかけました。



次回は12月のクリマスを間近にした12月20日
さあ、「ホテル・モリコ」の続きをどうかお楽しみに。
**

モリコ様、
長く撮りためてまいりました写真をやっとお見せできてとてもうれしいです。
完成したばかりのベッドルームをご披露できることも
とても楽しみでございます。

お問い合わせは、こちらから
ontact us

写真、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。

* PAGE TOP *







私が目覚める場所」へようこそ。

2015年11月30日(月)


第5回
Room No.0015


「HOTEL MORRIS」
第5話
ホテル・モリスに招かれて





それは1年、いえ、数年も前のことのようにも
思えるのですが、
ホテル・モリスで過ごしたほんの2日間のことは、
記憶をたどるとまだたった10日ほど前のことだったのです。





そこは新鮮なモミの木の匂いと暖かな空気と
シナモンとアップルパイの味とそして優雅な音に見守られた静かで、

しかし饒舌なホテルでした。





自分の部屋に入って肘掛けの椅子に腰を掛け
静かに目を閉じると、瞼の裏には
バーやホテルのショップで見た
ツリーや電飾の灯りがに映りこんで、
私の瞼の奥にはにぎやかな世界が追憶を彩っています。





私は先ほどカウンターバーでおもてなしを受けたシーンを
そっと反芻しては
うれしいようなくすぐったいような気分にもなっていました。





「まあ、かわいいデコレーション!
これ、どなたがなさるの?」





「はい、バーのスタッフ全員で毎年工夫を凝らすのです。
今年はレースでツリーを作ってみました」





「まあ、幻想的でアーティスティックなレースのツリーね~」

「ありがとうございます。
シャンパンでもお飲みになられませんか?」





「ええ、頂くわ、素敵なおもてなし、ありがとう」

「恐れ入ります。
今晩は、ようこそお越し下さました。
どうかすてきなお時間をごゆっくりお楽しみくださいますように」





「ところでこのホテル・モリスはいつごろからあったのですか?」

「もう20年ほど前からございます」





「そう、そんなに前からあったのね。
私はこの道が帰り道なので、いつも通っているのに、
全然気が付かなくて、不思議だわ~」





「さようでございますか。
裏通りの駐車場は小さな目立たない看板だけでございますので」





「それにしても、不思議だわ~。毎日毎日通っているのに
全然気が付かないなんて。でもまあ、私のマンションの隣のビルの
名前って言われても知らないし、壁の色だって思い出さないから
そんなものなのかもね」





「あとでホテルの中のショップとか覗いてもいいかしら?
なんだか魅惑的な場所がたくさんありそうだから」

「ええ、もちろんですとも。どうぞごゆっくり」





私はしばし、バーのスタッフと楽しい会話を交わすうちに
シャンパンに酔ったのか、上機嫌になっていました。
そしていま少し、ホテルの中を散策してみようと思いました。





廊下を下ると左右に素敵な小部屋が次々に現れ、
そしてここちよい色、香り、手触りに満たされていました。





幻想的なパターンの美しいデザインの絨毯に
クラシカルで重厚な素敵なカーテン、素敵な光、情景、
廊下を歩き、角を曲がるたびにまた違うシーンが現れました。





小さなカウンターでお酒を飲んでいる男性が一人。
きっと背中に羽がついた気分で一人を楽しんでいるのかしら?





さらに角を曲がるたびに
私は背負っていた負の思いをちょっとずつ、ちょっとずつ
下ろしてゆくような気がしたのです。





そして、私はやっと自分の部屋に戻ってきました。





最後にバスルームで残りの負のかけらも
すっかり洗い流して、さあ、ぐっすり眠るとしようかしら。





私はベッドに横になって、
ウエディングドレスかカクテルドレスの胸元を飾るような
素敵な飾りをつけたランプにお休みをいい、
眠りにつきました。





そして、とろけるような眠りに入るとき、
夢と現の間を行きつ戻りつしながら、
わかったのです。





辛い経験や楽しくない気分を引きずっているときだけ
見えるホテル、
それがこのホテル・モリスだということに。





そこで、そんなものを全部洗い流すためにあるのだと。





「またそんなときにはお邪魔させてくださいね」
私は翌朝、そんな言葉をかけてそのホテル・モリスを
後にしたのです。





物語りは架空のストリーですが、
全部、マダム・ワトソンのショップで撮影を致しました。
あなたさまに今年、ここでまたお目にかかれます日を
楽しみにいたしております。





次回はもう12月のクリマスを控えた12月10日
いよいよ2016に向けてカウントダウンに入りますね。

お問い合わせは、こちらから
ontact us

写真、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。

* PAGE TOP *






私が目覚める場所」へようこそ。

2015年11月20日(金)


第4回
Room No.0014


「HOTEL MORRIS」
第4話
私のホテル・モリス物語


それは雨が固めてしまった銀杏の黄色い絨毯の道を
足早に帰宅していた晩のことです。





足元を見ていたにも関わらず、
折重なった銀杏の葉の上で私は思わず足を滑らせてしまいました。





その時、私は見つけたのです。

かすかに聞こえるゆるやかなメロディはガラスドアの隙間から
漏れ出ているようでした。





こんなところに?私の嗅覚をくすぐるこんなものが?
あったなんて...

私は銀杏の葉ですべって転んだ恥ずかしさから、
思わずガラスドアを押して
隠れるように中に入ってしまったのです。





そこには、私のカギのかかった記憶のファイルから
ノスタルジックな思い出をするすると引き出せるほどに
五感をくすぐる雰囲気に満ちあふれていたのです。





「ここは?ホテルかしら?」

あまりに私の今の気分とは違っていました。
私の日常は満員電車と同じような混乱と喧騒と落胆と
怒りの只中にありました。
その毒々しい海を毎日もがきながら必死で泳いでいるような感覚でいたのです。





「こんな静かな住宅地の中に瀟洒なホテルがあったなんて、
感度の高い流行りものセンサーを持つ私が、
知らないなんて...」

私はずうずうしさならだれにも負けない自信があったのですが、
それでもおそるおそる中に入って
ワイルドローズのような香りのする暖かな廊下を歩きました。





「お帰りなさいませ」
しつけの行き届いたバトラーのような男性はわたしにそう言って
にっこりほほ笑んだのですから、私もほほ笑まざるを得ませんでした。
「ああ、いや、予約客ではありません」と正直に答えました。





「中をご案内いたしまししょうか?」
「えっ?いいんですか?」
「もちろんでございます。さあ、どうぞこちらへ」

バトラーについて歩く間、
私はもうすでにイマジネーションの真っ只中にいました。





だって、もう、
暖炉の前でカウチにおさまって熱いミルク入りの濃い紅茶を手に
窓の外に降り積もる粉雪を眺めている気分に
いきなり放り込まれたのですから。

ゆったりと優雅に鳴り響くサックスの音色は
がさついた日常とそれと同じくらいささくれた私の気持ちをも
なだめるような、ケニー・Gの聖夜の音色でした。





大きなツリーの横の濃紺のベッドスプレッドには
シルバーエッフェル塔がきらめき、
私の穏やかな気持ちは、しだいに高揚してゆくのがわかりました。

「あの、もしかしてなんですけれど....」
私のずうずうしさはダメ元という言葉を恐れていませんでした。





「このお部屋、今日は空いていませんね?」

「もちろん、あなたさまのために空けておきました」

「えっ?わたしのために?そんな...」

「ええ、ずっと前から、今日のこの日をご予約なさっておられましたから」

「そんなはずは...」





「銀杏の葉がいっせいに舞い散る頃、必ず、雨が降ります。
そうすると、その落ち葉で滑った方がこうしてやってこられるのです。
そんな方のために、このホテル・モリスはあるのです」





「そんな方のためにって?...」

「うつむいて歩いておいでだから、必ず滑ってしまわれるのです。
うつむいた視線の先は、足元ではなく、
ちょっと前の好ましくない出来事と
そして背中には捨てきれない重たい過去を背負っておられるからなのです」





時の進む音が聞こえる12月の足音もすぐそこ。
今年の金曜日もあと5回で終わりです。
どうか美しい週末とホリデーをお過ごしくださいますように。



お問い合わせは、こちらから
ontact us

写真、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。

* PAGE TOP *








私が目覚める場所」へようこそ。

2015年11月10日(火))


第3回
Room No.0013


「HOTEL MORRIS」
第3話
マダム・ワトソンの
中の
小さなホテル



「ホテル・モリス」をご存じですか?





それはマダム・ワトソンの中に
静かに潜んでいる小さなホテルの名前です。
しかし、ネットで見つけることはできません。

ホテル・モリスは高級住宅地のリュクスな匂いが吹き降ろしてくるジグザグの道が
尽きたあたりにあります。
見落としそうな瀟洒なたたずまいです。





目印は 紫のテントの下の白いドアに金の取っ手です。
そこがホテル・モリスの入り口です。





11月の声を聞くころには、出窓の外は青白い電飾で飾られ、
ひっそりとした隠れ家ホテルもクリスマスのムードを漂わせていますね。





それでは、ドアをノックする前に、
外に向いた出窓からちょっと中を覗いてみましょう。
名は体を表すと言いますから、
どんなお部屋が待っているのかわかるかもしれません。





クンクンを鼻を利かせると、
白い格子窓の手前からも、シナモンやりんご、
そして松ぼっくりの香ばしく暖かな匂いがするようです。
そしてその向こうに
柔らかなフリルの覆われたピローが二つ。
きっとこんな枕がベッドで待っていてくれるのでしょう。





ベッドサイドにはキャンドル。
寒さも日に日に増すこのごろはLEDキャンドルの灯りにさえ、
手をかざしてみたくなります。





こちらはブルー・グレーのクラシカルでシックな雰囲気のお部屋を
表しているようですね。
ブルー・グレーのベッドリネンに同じ色のパジャマもきっと待っているのでしょう。





そしてブルー&シルバーのリースも飾られているのでしょうか?





そしてもう一つは赤いリボンでラッピングされたゴールドの箱
パープルに輝くリース、
あたたかそうなひざ掛けやヘアバンド。





暖かなボアのついたピンクのガウンやルームシューズが
ときめくレディの気分を表しているようですね。
こちらはきっとロマンチックなテイストのお部屋でしょう。





お部屋にはサプライズがたくさん仕掛けられているような
そんな気分も伝わってきます。
ちょっとわくわくしてきましたか?





大人のムードのクールなお部屋か、
ロマンチックに浸るお部屋か、
まだまだ決めかねていますが、
それでは、ドアをノックしてみましょうか。





きっとクラシカルなクリスマスムードの
秘密めいたお部屋に案内されることでしょう。





それでは、続きはまた次回11月20日に。
あなたさまだけを魅惑のハイダウェイホテルへご案内させていただきます。



お問い合わせは、こちらから
ontact us

写真、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。

* PAGE TOP *






私が目覚める場所」へようこそ。

2015年10月30日(金)


第2回
Room No.0012

「もうひとつの家」
第2話 MIZUKIより






「前略 お母さま、

街にはクリスマスの飾りつけがちらほら目に付くようになって、
今年ももう、あと2か月なのですね。

そんな気忙しさも感じながら、
でも、充実した毎日を楽しく過ごしています。

その後、みなさまもお元気でお過ごしでしょうか?
(なんて、いい娘でしょ!(笑))





お母さまのメールに「今度MIZUKIちゃんが帰ってきたら、
またお部屋がガラッと変わっているから楽しみにしていてね」と
書いてありましたけれど、
どんな風に変わったのかしらと毎日、あれこれ想像を巡らしています。





「レースのカーテンがぷっくり膨らんだバルーンに変わって、
それを出窓のメキシカンドールが両手でひょいと持ち上げてる」って、

前から出窓にあったから風景の中に溶け込んでいて
ほとんど意識していなかったけれど、
両手を上げた陶器のキャンドルホルダーのお人形のことですよね。





「帰ってくる人に出窓からメキシカンドールが、
『お帰りなさい』って言っているみたいに見えるように
ずっと外を向けて置いていたのに、
先日、カーテンを取り付けに来たスタッフの人が、部屋の中に向け直したみたい」って言われて
ああ、あのお人形はそんな意味があったのねと、実は初めて知りました。
もう私が中学生の頃からずっと出窓から挨拶をしてくれていたなんて...
今頃、感動しています。


   
           (*註 2014年までのダイニングの様子です)

それに、ダイニングにあったお母さまお気に入りのシルクのグリーンのカーテンが
「リビングのカーテンに変わって、シェードも上飾りも
クッションとかテーブルランナーなんかになったのよ」って、
ちょっと想像つかないけれど、
きっとすごく素敵でかわいいでしょうね。





私が結婚して遠くに行ってしまった後は、
先生と一緒にレッスンに励んだリビングのあのピアノも
弾く人がいなくなったかと思うとちょっとさびしいけれど、

インテリア大好きなお母さまのことだから、
きっと、またまたカーテンをこちらからあちらへと移動して、
ああして、こうしてと日々考えてることでしょうから、
きっとさびしくはないでしょう。(笑)

でも、私の大好きだったアップルパイみたいな甘酸っぱい匂いのするリビングが、
ずっとこんな風に大事にされていると思うと
うれしくて感動ものです。





それでは、ステンドガラスのドアを開けて
お母さまのご自慢のインテリアを拝見できる日を楽しみにしています。

今度は私の自慢のアップルパイを披露しますから、ぜひ楽しみにしていてね。
みんなを呼んでリビングでお茶しましょうね。
実はこれでも、料理の腕をずいぶん上げたのですから。





今日、帰りに公園の中でベンチに腰かけている人たちを見ていたら、
家にあったかわいい白いベンチが懐かしくなって、
今日はめずらしく手紙をしたためてみました。





それでは、お父さま、お母さま、そしてお兄さまとお姉さま、

次にまたお元気なお顔を拝見できます日まで、
どうかお風邪など召されませんように。お元気で。

                          MIZUKIより」





A様、また2回に渡り、
風光明媚な地中海のホテルのような中庭しつらえ、
あちらこちらでセンスを放つ彫刻、アンティークのコレクションに至るまで
すばらしいインテリアセンスの数々をご披露下さいまして
ほんとうにありがとうございます。

この秋、ご結婚で遠くに嫁がれたAさまのお嬢さまの気分で
空想の手紙文をしたためてみました。

お嬢さまが帰ってお見えになる日まで、
すてきなすてきな「もうひとつのお家」を
私たちも大切に見守ってゆきたいと思っています。


お問い合わせは、こちらから
ontact us

写真、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。

* PAGE TOP *




私が目覚める場所」へようこそ。

2015年10月20日(火)


第1回
Room No.0011

「オーベルジュA」
第1話 ピンパーネル


タクシーを降りると、私は高い塀沿いに石畳を上り始めました。

秋も日に日に深まりつつある休日、
噂に聞いたオーベルジュにやって来たところでした。





「オーベルジュ・アー」
白い塀に張り付いた洒落た彫刻が私のちいさな美意識にピンを打ちました。





武骨な黒い鉄がいい感じに曲げられた「A」と
その上の黒い鉄の支柱に支えられた白い丸いボールのブラケットランプに
まずはあいさつをしました。

このオーベルジュの持ち主は「一筋縄ではいかないセンスの持ち主かも」

そして私の直観は当たっていました。





途中、樹木が木陰を作っている庭を通り、さらに歩いてゆくと





煉瓦のアーチ型の門をくぐりました。
そこで、出迎えたバトラーに付き添われ中に入ると、
広いエントランスも廊下も静かで穏やかな光に満ちていました。





「さあ、どうぞこちらへ」
バトラーがステンドグラスのドアを開いて通した部屋はラウンジでした。

「ああ、いい部屋ですね~」
「ありがとうございます」

精緻な模様の絨毯が敷かれた大きなダイニングテーブル、
その向こうの暖炉、天井からと壁からと、アンティークな光を落とすシャンデリアに
私の期待は興奮に変わりつつありました。





まず、左手奥のソファのあるコーナーで
青く輝くガラスのシャンデリアに目を奪われました。

その白く、青く鈍く輝く色を映し込んだようなその先の縦長の小窓に
思わず、すっと近寄っていたのです。





触ればとろんと溶けてしまいそうなほど、優しいシフォンレースの奥に、
クラシカルなパターンが切り抜かれたシェードが落ちかかり、
その向こうには、オーベルジュを取り囲む庭の様子を
眺めることができました。

バトラーは「すぐにおしぼりと温かなお飲み物をお持ちいたします」
とその場を離れようとしたので、





「とてもいい景色だ~ほんといいところですね」と
私は立ち去ろうとするバトラーを引き留めました。
そして、
「あの、これは誰の作品ですか?」と尋ねました。

「作品と言われますと?」

「この窓の絵のことです」





私はカーテンという「絵」が掛けられた窓を指し示しました。

「はい。これは今からおよそ150年ほど前に
土と木と花と人間とそして革命を好んだ男が描いた絵が元になっております」






土と木と花と人間とそして革命?」





「ご覧のとおり、見事なほどに精密で複雑なデッサンがなされているのです。
暗い背景から浮かび上がって、
花や茎や枝
がまるで意志を持っているように鮮やかに描かれていますでしょう!
この『絵』を見ておりますと、150年前のウイリアム・モリスという
これを描いた一人の男と対話をしているような気になるのでございますよ。
とても強い意志を持った男だったろうと思いますね」バトラーはそう言いました。





「ふ~ん、確かに力強い絵ですね」

「しかし、時に自分の弱さを知らしめられるようで、
この青いレース越しに対話することも多いですが...」
バトラーは笑いました。

「なるほど、青いレース越しにね~」私も笑いました。





そして
バトラーは
ダイニングテーブルの向こうの窓の青いレースカーテンをゆっくりと引きました。
「向こうの青い海の壁画と合わさって、ここは大胆不敵な風景画のようでしょう!」

「ほ~!美しい」
私はイタリアの小さな島の海が描かれた壁画と
そしてモリスという男のデッサンから生まれた窓辺と、そして
その男と同じ時代の家具が一つにまとまって描き出した風景の前で
それ以上の言葉が見つかりませんでした。





「『ピンパーネル』、和名は「紅はこべ」言います。この生地に付けられた名前です。
当時、モリス氏も自宅のダイニングにこの柄の壁紙を貼ったそうですよ」





私がラウンジの中をうろうろと見て回っているうちに、
バトラーは「ピンパーネル」という名の特製の飲み物を用意しにその場を離れた。






そして居心地のよさそうなソファを見つけると、
バトラーの言ったその特性の飲み物、「ピンパーネル」の味を想像していた。






「リサコラムの部屋」ご常連のA様邸の最新の秋冬バージョンのお部屋に
お邪魔して、架空の物語を作ってしまいました。

モリスの夏のカーテンから、この秋、またモリスの秋冬のカーテンに
模様替えしたばかりのA様邸のお部屋は
まるでカタログ写真のように魅惑的に美しいです。
写真を見ながらつくづくそう思います。


お問い合わせは、こちらから
ontact us

写真、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。

* PAGE TOP *