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リサコラム
本日のオードブル
第39回

俊介のダイニング

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。
好きな作家は、夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン

   「さすが、豪傑っての、作ってね。」 
                     「任せなさい!」

 

       


俊介のダイニング



 ”ようこそ、俊介のダイニングへ”。今日はリサコラムの読者さまに、特別にア

ーカイブスの扉を開けてそのクリーンでウイットに富んだ、彼のダイニングへご案

内いたしましょう。




 モダンな重量感のある玄関ドアを開けると、天井高3mはありそうな、静寂な

空間。セージの香りが漂ってくるような清潔なにおい。左手に目をやると、一段

高くなったリビングには真っ白い大きなソファ。大きなつぼには、あふれんばか

りの葉をつけた枝や生花が。鉄でできた大きな猫のような、人魚のような彫刻

は、「私、ちょっと手ごわいわよ」と言っているよう。白いざっくりした布のソファの

後ろには大きく開いた窓。そして都会のビルの夜景が広がるその右手奥には、

バーカウンター。ガラス棚に並ぶ美しいグラスを間接照明がそのシルエットをさ

らに魅惑的なものに見せてくれる。“う~ん、スタイリッシュ”。そして、一段下が

ったところが、本日の主人公、”俊介のダイニング”なのです。
            


 ワインレッドを少し赤くしたような光輝く、鏡面仕上げの家具調キッチン。20

畳は裕にありそうなゆったりしたキッチン&ダイニング。小さいスポットライトが美

しく照らし出すのは、滑走路のような白大理石のカウンター。ワインレッドとブラ

ックの扉が続く食器棚。広いオープンキッチンに垂直に配置される白いシンプ

ルな長方形のテーブル。角が丸く削られているところが唯一この部屋の曲線ら

しい。ここの住人はいったいどんな人間なのかと、想像を無限大に広げて、さ

っそく、“俊介”、その人のプロフィールをお教えしましょうか?
        


 大西俊介 39歳、独身。出版社勤務。趣味はバイク、車、スキー、スノーボ

ード、ウインドサーフィン、ダイビングなど、さまざまなマリンスポーツ。そして、こ

こがポイント。“自分の好きな人に自慢の手料理を振舞うこと”。彼はここに数

々の魅力的な女性、男性、友人を1人ひとり招いては、自慢の手料理でもて

なし、そして最後にこんな台詞をはきます。“デザートは、君だよ”と。そしてい

つもそのドラマはそこで終わりを迎えるという設定です。原作は、森瑶子さんの

『デザートはあなた』。もう、13年も前になるドラマです。そのころ、私たちの職

場でもこのドラマ“デザートはあなた”は、大ブームを巻き起こしました。このスタ

イリッシュな空間の主人、大西俊介を演じるのは岩城滉一。“三四郎”という

名の同級生で友人役なのが、忌野清志郎。売れない彫刻家で、まぬけで憎

めないキャラクターとして描かれます。彼は時々、“俊介のスタイリッシュなダ

イニング”にご馳走になりに来ては、そこで時々、ライブを始めたりします。忌野

清志郎の曲が流れる中、ダイナミックで繊細な料理が岩城滉一扮する俊介

の手で作り出されます。ドラマの役者が、いつのまにか撮影裏話風になって、

本人のせりふになっていたりと、今はもう見ることができない、とてもユニークな

ドラマだったのです。東ちづる、宮沢りえ、賠償美津子、風吹ジュン、紺野美佐

子などの個性的な女優たちが、それぞれ、モデル、絵本作家、花店の未亡人

服飾デザイナー、海洋生物学の研究者として登場します。その彼女たちのた

めに、俊介が心を込めて作る料理を、私は自分のレパートリーにしたものも少

なくありません。
                                            


 ある日バレンタインディナーに呼ばれた服飾デザイナー役の“モエコ”(風吹

ジュン)は和服姿で登場します。その彼女と悪友の三四郎のために、俊介はイ

タリアの家庭料理でもてなします。サワークリームをかけた新鮮ないわしのサラ

ダ。「おいしい~わね、このサラダ、もっとない?」と言いながら、モエコはこう自

分の思いを話し始めます。「男はあんまり、気が弱いから、力を強くして、女は

あんまり、気が強いから、力を弱くして、それってみんな、神様のおぼしめしよ。

なのに、反対をやりたがるでしょ。男は強いふり、女は弱いふり。だからややこ

しくなるんだと思うわ。」「名言です!」(リサコ)そして次の料理は、“イカの墨

煮”。輪切りにしたいかをいか墨と白ワインで煮込みます。そしていかを柔らか

くするために俊介は、ワインのコルクを半分に切ってさらに煮込みます。できた

いかの墨煮の皿を、モエコの前に差し出すと、モエコは、ひとこと、「おいしそうじ

ゃない、ところがいいじゃない!」「え、おいしそうじゃない?」「おいしそうじゃな

いじゃない!真っ黒でぐちゃぐちゃで。およそ食べ物らしくない。」「そう、言われ

れば、そうね」と俊介。「どうぞ、口に入れて!なんて媚びてなくて。食べられる

もんなら食べてみろ、なんて挑発的で。そこが魅力なのかしらね?」「すると、

君のデザインも、そうなんだろうね」と俊介。「できれば、そうしたいわね。」と、

感慨深げにモエコ。
                                           


 広々としてシンプル。美しい俊介のダイニングではこんな粋な大人の会話が

次々にテンポよく交わされ、そして、すばらしい料理はいつの間にか、その会話

を盛り上げる脇役に。モエコは忌野清志郎扮する三四郎に言います。「わたし

って、大うそつきなのよ」「ファッションの世界って、競争が激しいじゃない、負

けるもんか、負けるもんかって、がんばってたら、自分よりも“よろい”のほうが

大きくなっちゃって、そのうち、“よろい”のほうが、自分みたいになっちゃって。

それって、うそつきでしょ。」「私、もともと、気が強いほうだけど、このままいった

ら、ただの豪傑ババアじゃない!」「かっこいいじゃない」と三四郎。「豪傑ババ

アが?」「かっこいいもんは、かっこいいい!単純でいいじゃない!」と三四郎。

「私もあなたみたいに肩の力が抜けたら、いいんだけど...」と、モエコはため

息をつきます。常に何かを探し続けて、夢の中でも探し続ける“モエコ”、いつ

も聞き役の料理の天才“俊介”、純真無垢な芸術家の三四郎。こんな友人関

係こそ、かっこいいんだろうな、と私は思います。
                      


 いいインテリアを表現する時、“上質感漂う”、とか“ラグジュアリーで安らぎに

満ちた”とか“モダンでスタイリッシュな”なんていう表現をよくします。また見た

り、聞いたりもします。先日、久しぶりに、オードリー・ヘップバーン主演の映画、

『ティファニーで朝食を』を見ていたら、気づいたことがありました。主人公ホリ

ーの恋人役で小説家のポールは、ある日、自分のパトロンの女性に別れを告

げます。「“スタイリッシュ”なあなただから、“スタイリッシュ”に別れよう」と。

“スタイリッシュ”といわれたパトロンの女性は、“スタイリッシュ”に小切手をきり

ます。その“スタイリッシュ”という言葉に、字幕では、なんと、
かっこいいとい

う言葉が当てられていたのです。スタイリッシュとは、なんと、“かっこいい”って

いう意味だったのね、と目からうろこの瞬間でした。“スタイリッシュなキッチン”

“スタイリッシュライフ”“スタイリシュな乗り心地”、なんにでも使われる、便利で

困った時の“スタイリッシュ”頼み。単に“かっこいい”ってことを“スタイリッシュ”

って言っていたのか、と気づいて以来、なんだか、“スタイリシュ”なる言葉が、

ぜんぜん“スタイリッシュ”に思えなくなってきました。「かっこいいもんは、かっ

こいいい!単純でいいじゃない!」このほうがよっぽど、“スタイリシュ”!では

ありませんか?                                     

 “かっこいい”って、ちょっと時代遅れみたいな気がして、“スタイリシュ”なん

て言葉を使ってきたけど、その言葉は、ヘップバーンの時代にも普通に使われ

ていたのですね。だから私は“スタイリシュ”みたいなのではなく、“かっこいい豪

傑ババア”を目指したいと思います。   







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木村里紗子 Risaco

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