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リサコラム
連載356回
      本日のオードブル




第14回


最終回

「海辺の村から」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)は
2012年12月で6刷)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト
、クリス・岡崎、他たくさん。


 
チョコレート色のクローゼットに並んだ
真っ白のバスローブとローブ。
バスタブに足先だけだして、眺める先は、
シンプルに布をかけただけの天蓋付きのベッドルーム。
チョコレート色のベッドスプレッドと
同じ色のナイトテーブルだけ。
同じチョコレート色のブラインドから
少しだけ見えるのは
私のお気に入りのニースの海の色の
一人掛けソファなのよ。
ねえ、いい風が吹いているみたい。
追い風という名前のね。
 
      
  





 

「海辺の村から」



      



  電車は海沿いの道に沿ってスピードを上げた。


 「海は青い 波は白い 私は単身」私は変な川柳を口ずさんだ。この1年を振り

返りながら。私はいつまでも味のするガムをかみ続けているような気分だった。


 電車の中を見渡した。ランドセルを背負った女の子がひとり。私の方に目を向け

ると「ボンジュール」と声をかけた。「ボンジュール」と返事をした。ここでは、

若い方が先にあいさつをすることになっている。昔の日本では当然だったのだろう

けれど。


 電車の窓を開けた。生ぬるいを通り越した熱い風は1年間、髪の毛を伸ばし続け

て背中のあたりまで伸びた長い私の髪の毛をバラバラにした。「電車の窓から た

なびく髪 やりたっかったの これ」私はネット川柳を投稿した。フランスに行け

ば、どんな普通の女の子でも、髪の毛さえ長ければもてるっていうらしいから。そ

れに、実際、ニースではもてた。こんな私でもね。



              



 きっと年前とは別人みたいになったって、みんな思うだろうな。ホームシック

か月持つかな、なんて思っていたのに、ふたを開けてみれば、リゾートにいる

みたいな1年。


 私は村長のサチ子さんと初めて出会ったときのことを思い出しながら、芽キャベ

ツの甘い味を舌の奥で感じた。甘くて香ばしく、チーズのようなコク。“クリス・

芽キャベツ”をオリーブオイルで焦がしたにんにくと軽くソテーして、粗挽きの香

ばしい胡椒を振れば、絶品の付け合せになる。ゆでた小ぶりのじゃがいもとシイタ

ケと一緒に串に刺してガーリック醤油を刷毛で塗って、アミであぶって、それを芽

キャベツ風味のビールと一緒に飲めば、体も心も極上気分。そこが、サチ子さんの

別荘ホテル“ホテル・ニース”のサンセット・バーならなおのこと、もう、ここで

死ねたら最高だと私は長い髪の毛を海風に揺らしながら何度思ったことだろうか。



            



 サチ子さんの別荘の茅葺き屋根に、何とかおしゃれなソーラーパネルを取り付け

るため、半年をかけて、茅葺き屋根と穴の開いたパネル部分のギャップが目立たな

いシステムとデザインに改良を重ねたおかげで、その後は、ニース村とその近郊の

村や町の民家、旅館、民宿から次々に受注を受けた。それもサチ子さんのおかげな

のは言うまでもないけれど。


 1年前、私は社の中で成績は下から数えた方が早い方だったから、見知らぬ片田

舎への転勤が決まった時は、絶対に、リストラ目当ての左遷だと思ったけど、来て

みたら、なんとそこはリゾートを目指している異色の村で、近隣の村長がタッグを

組んで、芸術家や、発明家を集めている独立国家のような村だったなんて、信じて

もらえないような、話かもしれないけどね。私は繰り返し、繰り返し胸の中で言葉

を吟味し続けた。簡単にニースを表すのはそんな感じでいいかな?それでもきっと

ユミリンもほかの同僚も理解できないよね~。部長は知っていたはすだけど、でも

そこまでは想像できなかったはずよ~。こんな私が、別荘まで持てるなんてことま

ではね。



            



 “ラブラブ・ニース・ローン”、略して”ラブニー・ローン”で、私、別荘ホテ

ルの権利を買ったのよ~。このリストラ寸前の単身サラリーマンの私がよ~!すご

くな~い!最短距離に縮めてこんな感じかな?いや、ラブラブ・ニースから始めな

きゃわからないかな?でも、それ、始めたら、話が終わらないよね~。う~ん、や

っぱり、”ラブニー・ローン“だけにしておくかな?別に意味不明でもいいし、そ

れなら、ローンだけがいっか!そのローンはね利子つきのローンなのよ!つまり、

お金を返したら、返したお金に利子がつくのよ。変でしょ?つまり、マイナス金利

で、丸儲けって感じ!別荘は手に入るは、儲かるはで、笑い止まらなくな~い?


 私は電車の窓にほほ杖をついて、独り言を言いながら、げらげら笑った。そんな

村なら、みんな来るよね。だから、ニースは今、別荘ホテルの大ブームなのよ~。

茅葺き屋根のソーラーシステムも大ブームなの~!



             



 私は何度も何度も繰り返し、時間を測って、言葉を吟味した。それにね、私の別

荘だけど、天蓋付きのベッドルームの壁は強化ガラスなのよ。海と空のつながった

ブル~、ブル~の世界なの。大きな枕をたくさん並べてね。その広~いベッドルー

ムの手前がバスルームとクロークよ。ワンルームだけどね、食事は下のダイニング

で最高のフレンチが朝の6時から夜の12時までいただけるから、キッチンはなし

でもOK!でね、お風呂からそのベッドルーム越しに海を眺めながら、ルームサー

ビスで、ニース産いちごを注文するのよ。「シャベルが突き刺さるくらいの濃い生

クリームを添えてね~」って、オードリー・ヘップバーンみたいによ~。


 私はよだれを流しそうになっていた。いちごの生クリーム添えを想像したからで

はない。ユミリン、もちろん、そのほかの同僚たちのポカ~ンと開けた口から、よ

だれが流れるのを想像して、ああ、なんて爽快な気分!私は額に張り付いた髪の

毛を熱風にゆだねながら、「海は青い 波は白い 私は単身」とまた呟いた。1年

前の左遷の気分で投稿したこの川柳で、私は年間の最優秀賞を受賞して賞金をもら

った。そして、今、同じ電車に乗って、最優秀営業マンの受賞を受けに本社に向か

っていた。



  



 「海は青い 波は白い 私は単身」1年前の自分に戻ったようで懐かしかった。

電車から見えるきれいな海岸の風景は同じだったけど、ただ、違うのは私の髪が風

に遊ぶほどに長くなったことと、海沿いの道に沿って電車は時計回りではなく、半

時計回りに大きな弧を描いて回り始めたことだけだった。




  




                                                   一応、 おわり



   *p.s. 苦しい時とか、理解の得られない試練を受けた時、それは追い風が吹いてくる予兆です。
       向かい風の風を追い風がめいっぱい、吸い込んで、吐き出す前だから。
       そんな風に思っています。



   *イラストもストーリーも実在の場所などとは関係ありません。

   *上のイラストから「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

    毎週火曜日更新連載です。

   * 「リサコラム」は2013年7月より毎週木曜日連載に変わりました。



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。



    




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

(Amazon、書店では1,500円で販売しています。)

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,800円にてお届けいたします。  
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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