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リサコラム
連載422回
      本日のオードブル

アドラーに聞きに行こう


第8話
「意味深なバトラー」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


ここは緑あふれる森の別荘のようです。
でも帽子がたくさん並んでいます。
裏庭に出る白いフレンチ窓から
さあ、覗いてみましょう。

遠くに山とそして手前に湖。
木立の中の芝生の庭に白いテーブルクロスと
赤い帽子をかぶった女性。

向こうにいるバトラーに手を挙げています。
「うん?こっち、こっちよ~」

さて、今回のお客様はどんな方なのでしょうか?

 
      
  





      

アドラーに聞いてみたら

第8話 「意味深なバトラー」


 「笑われるかもしれませんが趣味で帽子を作っているんです。まだま

だですがね」


            


 男性は見たところ40代半ばというところ。中折れ帽をかぶって、アド

ラーの前に座り、じっとアドラーの帽子を見つめている。「なるほど。面

白いご趣味ですね」アドラーはにこやかに答えた。



 「それは、特注ですか?」「ええ。こんな黄金色の帽子なんて、なかな

かかぶる人はいませんよね」「とてもお似合いになられていますよ」男性

はアドラーのスケッチブックと帽子を交互に見た。


            


 「帽子に興味を持たれたのは何かのご縁があったんでしょうか?」アド

ラーは大きなストロークで線を引き始めると、男性はそれを遮るように口

を開いた。


 「秋になると感傷的な気分になるって言いますが、感傷的になるのは何

事もなくて、平和な状況というだけのことだと思いますね。私は一年中、

緊張状態です。そんな気分になったことはありません。だからなってみた

いんです。ああ、すみません。質問は、どうして帽子に興味を持ったかで

したね。いえね、他にできることがなくて」「なるほど」男性はそれだけ

言うとまた黙ってアドラーの絵を見つめた。


 「帽子は物を言いませんからね。これがいいんですよ。でも、人間はそ

うはいきませんから」「わかります」「どうして人間はこんなに難しいも

のを作ってしまったんですかね?」「何をですか?」「言葉ですよ」「や

やこしいですよ。何もかも。一人静かなところに行って、一人だけバトラ

ーを雇って、好きな帽子作りに専念できたらどんなに心穏やかでいられる

ことかと思います。だから、そんな未来の私の絵をお願いしたいです」


            


 アドラーは向こうに霞む山の手前にまた山を描き、そして、その手前に

また小山を描き、そして湖を描いた。「それは、みずうみですか?」「え

え、そのつもりです」「みずうみか~、みずうみね~2語違いのみずむし

とは大きな違いですよね。はっははは~それなんですよ。たった2語でも

大きな違いなんですよね。いえね、そんな上司や同僚との言葉の応戦に悩

まされておりましてね~」男性は腕組みをした。


 「こんな静かな場所でひとりお酒を飲みながら、ぼ~っと考えられたら

きっとほぐれた糸がするりと解けるようにいろんなことがうまく解決する

気がします。ああ、いいでしょうね~。湖に映り込む影と空と」「帽子

と、ですね」「帽子はそんなシーンにとても似合うんです。美しい女性が

一人、庭に出て、湖を見ている。晴れた日でなく、薄曇りのまだ初秋がい

い。緑も濃くて、風はさわやか。しかし、女性は髪の毛をアップにしてい

る。当然、帽子はつばのない小さなもの。よく昔の映画や皇室の方々がか

ぶられているようなあれですね。小鳥のさえずりは森と一体になった庭の

木々の間に飛び交って、そして湖には時折、大きな鳥も羽を休めに来る。

すると静かな湖面に映る山が波打つ。う~ん、いいですね~。実に帽子の

似合う光景です。絵のようです。ああ、そうか、絵ですね。でも、だから

本もいらない。第一、静かで穏やかな景色に囲まれた場所にすてきな家が

あれば、別に本の中の世界に浸る必要もないじゃないですか!本は無言の

暴力を働かせるものでもあるんですよ。静かな環境、まばらな人。言葉に

煩わされない人間関係。うらやましいな~」


            


 アドラーは湖面にすっと絵の具をごく薄く伸ばした。そして男性は絵の

中に小さなバトラーの姿を見つけた。「いい感じですね。このバトラーは

無口のようではありませんか?ちょっと冷淡にも見えるけれど、いえ、そ

れで結構。無口が結構。無口なくらいが信用されるんですよ。いつもペラ

ペラしゃべっている男は嫌ですね~。口を開けば、他人の噂話に、ダンス

する猫のYouTubeの話題に、言い訳に、愚痴に、モテ話私、つくづく嫌

になりました。そんな男に、いや、自分に」男性は一気に言いたいことを

言い終わったようで、大きなため息をつくと、目を閉じた。


            


 「それが私自身です。ほとほと自分にも嫌気がさしまして、だからここ

で出直したいんです。こんな静かな場所で無口なバトラーを一人雇って、

静かに暮らせる週末の小さな家が欲しいんです」「よくわかります。あな

た自身が羽を休める場所と言うことですよね」「その通りです」「こんな

場所は探せばたくさんあります。日本にはこんな場所だらけといってもい

いんじゃないですか?山と湖、鳥のさえずり、まばらな人、静かな山間。

つまり、過疎の村はどこもこんな感じだと思いますよ。人間関係も少ない

から煩わしくないと思いきや、その代わりディープです。同じ名前ばかり

というのは単に間違う可能性があるからめんどうというのではなく、血縁

がそこら中、蜘蛛巣のよう張り巡らされているという意味でめんどうなの

です。そのため、人間関係は煩わしいことこの上なく、誰が今日どこに行

ったかもSNSの世界並に周知の事実になっています。夜は漆黒の闇なので

満点の星空を仰げますが、街の灯りもライトアップした電波塔もありませ

ん。もちろんシャンゼリゼのような繁華街どころか、コンビニなんていう

ものは、車で1時間も行かなければ見つかりませんし、電車に乗るために

バスで2時間かかるようなところもあります。あなたのすばらしい帽子を

かぶってくれる方はもちろんおいででしょうけれど、あなたに注文をされ

るとしたら、そんな帽子をかぶりに都会に行くためでしょう。それにあな

たの一番の腹心の友となるバトラー候補も、万一探し出せたとしても、彼

にあなたの望む振る舞いを教育するのは当然骨の折れることでしょう。う

まく行ったとしても、そのかけがえのない腹心の友に簡単に裏切られるか

もしれません。だって、あなただけいい思いをしていると反感を持たれる

かもしれませんから。そこではまたディープな人間関係が生まれるでしょ

う。私はそんなところを知っていますから」


            


 男性はわずかに口を開けて右手の薬指を右頬に当て、半跏思惟像のよう

に見えた。それからゆっくりとアドラーの差し出した絵を両手で受け取る

と、大きく息を吸い込んでから、「わかりました」という言葉と一緒に吐

き出した。


 「となりの芝生は青く見えるってことですか?」「今の場所がもしかし

たら、あなたにとって最高の場所なのかもしれませんよ」アドラーは男性

の横に来て座った。


 「私は都会生まれの都会育ちですが、田舎の祖父の家はこんな場所にあ

りました。だからここは私のイメージの故郷です。だからよくわかるので

す。絵の中だけで空想するのも悪くはありませんよ」

「空想だからいつも美しいと言いたいんですか?」


            


 「あなたにどこの現実も現実だと思い出していただくために、あえて意

味深な笑みを浮かべているバトラーを描いてみました。ほら、目を閉じて

思索する半跏思惟像のようにもみえませんか?」




  





   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S1.

  「気をつけて!」もしも、あなたが電話で歯磨きをしながらしゃべると、
 相手には「火をつけた!」に聞こえるかもですね。

P.S.2

  今回のE-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」です。
  ちょっと毛色が変わっていますが、僭越ながら、面白い読み物だなと思います。
  ぜひ、下のドアを軽く押してみてください。
  ドラえもんの「どこでもドア」みたいに飛んでゆけます。袋小路に迷い込みながらも
  歩むのも面白いものですから。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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