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リサコラム
連載452回
      本日のオードブル

W.T.クラブ

第9話

「月曜夜のラウンジの男」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


もともと、自分の部屋のつもりで作ったんです。
でも、自分の部屋を本に載せたら、
なんだか自分の部屋が自分の部屋でないような
になってしまって。
こだわったのは、半円の茅葺屋根と
寝室にあるジャグジー。
そして、白い大きなベッド、
白いディベッド。
ブルーの額ぶちと、水色のピロー、
青と茶のストライプのロールピロー。
そして
ガラス窓を全開すればオープンエアーになる
ロケーション。
なにがやりたかったかと言えば、
ここでシャンペングラスでオーガニックの
オレンジジュースを飲むためなのです。
そして私のみかん畑を見下ろすためなのです。
.
 
      
  





      

第9話「月曜夜のラウンジの男」



 「もともと私の別荘のつもりで作ったんですがね」 男はブランディグラスを左手

で囲むように手の中でしばらくもてあそぶと、するっと上品に口に運んだ。


            


 絹の絨毯を踏んだ時にきしむようなかすかな雨音さえ響く午後10時を回った月曜

のラウンジ。ひとり静かに座る男性メンバーの名を宗近という。そして宗近氏の置い

た沈黙は約2m先の私のところまで延びている。


             


 「それが、だんだんと建築費もかさんできてしまったものだから、これじゃ、別荘

にしておくより、ホテルにした方がいいんじゃないかなということになって。しかし

それからがまた大変ではあったんだけどね」宗近はまた、ブランディグラスを口に運

ぶと外の様子を伺うようにじっとしている。


              


 「何しろ、地元でスタッフを集めて教育するところから始めなくちゃならない」そ

う言ったきり、次の言葉の出てくる気配がない。なんとも沈黙の多い間延びした話し

方である。しかし、私はなぜか、だんだんと引き込まれて行った。


             


 「さらに、雨季になるとじっとりと濡れた空気の中で雨がいつまでもいつまでも降

り続くんですよ。まるで止むことを知らない子供の泣き声のようにね。そんな雨に慣

れている地元の人間たちは、やはり都会の人間よりはスローペースなんだよね。こち

らはだんだんと焦燥感に駆られて来るのにね。だから返って彼らの方が泰然としてい

るように見えてくるんだよ」宗近氏は、今は壁の方をまっすぐに向いていた。


             


 「実は、昔からあのあたりには民宿はありましたがね、しかし、民宿でなければ、

100室前後の規模のホテルしかなかった。20組のゲストが呼べる別荘なら壮大な

別荘だけれど、それをホテルにすると小規模のホテルになるわけですよ。当時はそん

なたぐいのハイレベルなリゾートホテルはなかったから、“リゾートホテル”の呼び

名から“ホテル”を取って、単に“リゾート”と呼ぶようにしたのも、おそらくうち

のこのリゾートが始めだと思います。小規模のホテルというより、スモールラグジュ

アリーで、人里から離れた選ばれたゲストだけが味わえる楽園と呼んだ方が印象は遥

かにエクスクルーシヴですよ。まあ、逆手に取ったって感じですね。そして地元色を

前面に打ち出して、建築資材も家具も地元で調達しました」


             


 「一棟あたりのコストは約1500万円以下ですからね、基本となるインテリアは

シンプル。シンプルは漠然としていて奥深い意味を含むいい言葉ですよ。まあ、伝統

的なヨーロピアンスタイルの対局にあるスタイルといえばいいでしょう。まずそんな

ところではカーテンはなしです。カーテンがないとよりナチュラルな感じを演出でき

ますからね。それも実はカーテンにかかわるコスト削減にもなっているのですがね。

つまり、自然と楽園リゾートの共存と言えば、マイナス面もプラスにもなることがた

くさんあります」宗近氏の目はだんだんとうるんできた。そして表情はさらに柔和に

なってきた。


             


 「つまり、自然の樹木が生い茂る広い土地を確保できれば、その中にバンガローを

点在させるだけで、プライバシーは十分に確保できますから、その方がコスト的にも

安く上がるのです」またグラスから一口のどに流し込むと、ほ~と裾を引きずるよう

な長い溜息をついた。その後はまた沈黙したままで、メトロノームのように規則的に

体を軽く揺らし続けている。記憶の階段をだんだんと下って行っているのだろうか。


             


 「結局ね、ジャングルの中であろうと、孤島であろうと、つまりは、行きにくい隔

絶された場所であればいいんです。しかし、都会に住む人間が野生の動物と自然のま

まに共存はできませんから、完璧に守られた環境をそこに作り出す必要がある。テー

マは自然と共存した楽園リゾートで打ち出しておいて、実は最新のハイテクにしっか

りガードされ、人工的に作り出された楽園なのですよ」宗近氏のグラスはほぼ空にな

ってきた。


            


 「そして、その“自然と共存した楽園リゾート”に最高のグルメと市場価格の5倍

の最高のお酒を用意して、そこにホスピタリティという魅惑のソースをたっぷりかけ

るんです。最後のトッピングは“静寂”です。するとかなり法外な価格表を作っても

返って受け入れられるんです」


 宗近氏はグラスの底に残ったしずくをのどに注ぎ込むと、またオナガドリの尾のよ

うな長い吐息を吐いてから一言言った。


 「人は酔いが回れば一瞬でなくなってしてしまうようなものにも大金を投じるもの

なんです。いや、投じているつもりでも、実は消費しているんですがね。しかし、そ

の時、ゲストは消費とは思わない。計算づくであれ、ホスピタリティを存分に感じら

れればね。そこで消費したものは忘れ去っても、ホスピタリティは記憶にしっかりと

どまるという人間の性(さが)ですね。フルーツの乗ったカクテルグラスにちっぽけ

なパラソルを突き刺して出せば、ちっぽけなパラソルはホスピタリティに姿を変えま

すし、ターンダウンの時にベッドの上にビーチで拾い集めた変わった貝殻を小箱に入

れて洒落たメッセージを添えておけば、楽園の魔法にかけられたゲストは“なんてす

ばらしいホスピタリティ!”と喜んでくれます」


             


 「つまり酔わせるんです。たとえ普段なら気にもかけない鉛筆にだって、酔わせる

魔法をかけることはできるんですよね。ゲストのイニシャル入りの鉛筆を部屋のあち

こちに置いて置けばいいのですから。そして持ち帰ってもらう。ホスピタリティのお

土産をね。とにかく、手練手管(てれんてくだ)で酔わせるんです。とことんね」宗

近氏はさらにうるんだ瞳でまたじっと雨を見ながらつぶやいた。


            


 「人は酔わされているとわかっていても、その術中にはまっているとわかっていて

も、酔いたい場所でとことん酔いたいものなんです。そんな場所をなんて呼ぶか知っ

ていますか?“リゾート”と呼ぶんです。このクラブも同じだね」


 宗近氏は言い終わると、背中をソファにもたせ掛けて、目をつぶった。そして空

のブランディグラスを持った人差し指だけを軽く私の方に突き出すと、「ウーロン茶

をもう1杯たのむ」と言った。



   




   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S.
 宗近という名前は私の好きな名前の一つで、漱石の虞美人草に出てくる人物の名前です。
だから出だしから、ちょっと真似た感じにしてみました。しかし、この宗近さんはエイドリアン・ゼッカーと
言われるアマンリゾートの創始者をモデルに勝手に空想でアレンジさせて頂きました。もちろん、
架空の物語です。



P.S.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」を紙の本で読みたいと
  よく言われます。 いつか紙にできるようにします。
    この本はとても分量が多く、濃厚です。フォアグラのステーキと濃厚なマッシュルームとポテトの
  スープを合わせて頂くような感じです。だから、終わりがけはりんごのシャーベットとミントティもご用意   しています。
     まだお読みでない方はどうか、心してリゾートのフルコースを味わってくださいますように。
  税込千円のフルコースはなかなかのお買い得だと思います。下のどこでもドアから入れます

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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