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リサコラム
連載476回
      本日のオードブル

私が目覚める場所

第4話

「長電話

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


ホテル
お茶の時間、
カクテルタイムのバー
人気のないプール、静かなロビー、
ロビーのゴージャスな生花。ふかふかの絨毯、
静寂で芳醇なライブラリー、そこで交わされる会話、
誰も座らないソファは座る人がいないから存在感を増し、
ホテルのさまざまなシーンはしっかりと子供の心の中の
無意識の領域に閉じ込められて、大人になってから
それが影響力を持って何か別のことで
表れてくるように感じます。
人間の作り出す
空間と
所作と
空気の
美しさは、
これも一つの芸術だろうと思います。

 
      
  





      

第4話 「長電話」


 

「ハーブティ、そうね、それよりミントティかしら?」細い脚は左右を組み替える

と、「う~ん、それがいいわ」とつぶやいた。


             


 「ミントティはミントティでも~、ペパーミントよりスペアミントな感じね

も、クリームも少し欲しいわね~」細い脚は脚を組み替えると一呼吸置いて、「それ

はラベンダーシュガーだから」と言うと、つま先でとんとんと音のしないリズムを取

りながら電話を続けた。


              


 「手短に言いますとね、私の部屋に伯母から譲り受けた絵を飾っているんですけど

ね、その伯母というのが私の母方の長女にあたる人で、母はなんと5人姉妹の下から

3
番目なの~。そうそう、上からも下からも3番目ってこと。ええ、そうよ、すごい

でしょ?それでみんな2歳ずつ年が離れていて、つまり、伯母は母と4つしか違って

いないのに、生活感っていうのかしら、ポリシーも含めた生き方のセンスが全然違っ

ているのよ。母は家のこととか、人とのお付き合いとか何も頓着しない仕事人間だか

ら、仕事が忙しくなったらまったく家のことはそっちのけになってしまう人なのよ。

だから子供の頃、そんな母を見かねて、その伯母が知り合いのホテルの支配人の方に

融通を利かせてもらって、私と妹、弟の3人をホテルのスイートに預けてくれていた

のよ。そんな素敵な配慮のできる人なのよ。


             


 私たちはそこから学校に通ったわ。友達にはすごくうらやましがられたし、もちろ

ん子供の私たちも楽しかったわ。だって家と違う部屋に泊まれるなんて、子供にとっ

てこんなにわくわくすることはないから。さらにホテルの車で学校まで送り迎えだっ

たんですよ~。部屋にはベビーシッターさんが付いてくれていつも私たちの世話を焼

いてくれていたし、もちろん母親代わりの伯母も必ず2日おきに様子を見に来てくれ

たから、寂しいことなんて何もなかったけれど、ただひとつ、友達だけは連れてこら

れなかったわね、それだけね、つまらなかったことと言えば。今でもそのホテルの様

子は目をつぶらなくても、ありありと思い出すことできるわ~。ほんとうに素敵なお

部屋だったのよ。2日おきに泊まりに来る伯母のための部屋はラベンダー色の絨毯が

敷かれていて、ベッドの上からカーテンが下がっている女王様のベッドルームのよう

だったわ。そこでシルクのレース編みのカーテンに囲まれるみたいにして眠るのよ。

だから私のラベンダー色の理想のベッドルームのイメージはそこにあるんです。


             


 私たち子供の部屋はベッドが3つ並んだ部屋で、まだ3歳だった弟は私か伯母が寝

かしつけて、そこで並んで寝ていました。そうそう、その通り、伯母はしつけに厳し

くてね、どんなに弟が泣きべそをかいても絶対に自分のベッドで眠りなさいと言って

伯母と一緒には寝させてくれなかったの、それでね、」細い脚はまた左右を入れ替え

ると、「ちょっとごめんなさい」と言って、水を飲んだ。


             


 「え~とどこまで行ったかしら?そうね、そのホテルの部屋に母はほぼ1か月間私

たちを預けたままで戻ってこなかったわ。ようやく戻って来たかと思うとまたすぐに

仕事でどこか吹っ飛んで行ってしまって、結局家には帰れずじまいで、また次の1か

月をそのホテルのスイートで過ごしたこともあったのよ」細い脚は立ち上がるとスト

レッチをしてからまた椅子に腰かけた。


             


 「それからようやく海外勤務の父が戻って来て、ようやく家族5人で過ごせるよう

になったと思った途端、母が家を売りに出していたことがわかって、私たちは次のオ

ーナーに家を追われるように借家に越すことになったんです。母はますます仕事が忙

しくなってその後もほとんど戻ることなく、父は父で海外に行ってしまうし、頼れる

のはその伯母だけで、私たちは借家を出て伯母の家にお世話になることになったんで

す。伯母はほんとうにすばらしい人だと断言できます。とても厳しい人だったけど、

母とは正反対のきちんとした人で、『家にホコリは要らないけれど、誇りを持ちなさ

い』って常に言っていて、家をとても大事にした人だったんです。掃除も洗濯も食事

の支度も後片付けも全部、私たち子供にもきちんと分担を決めて手伝わせたし、自分

でミシンをかけて作ったエプロンを4歳の弟にも着せて、庭の花の水やりとか、食事

の支度の簡単な手伝いもさせたんですよ。自分でやる方がよほど早いのに、そうやっ

て時間をかけて辛抱強く、母親代わりになって子供たちを教育したんですから。


             


 私はベッドメイキングと、掃除の担当だったから、朝5時に起きて、床全部のモッ

プをかけていました。3階建ての家の床全部にモップをかけるのはかなり大変だった

けれど、伯母の言うことなら何でも聞きたいという気持ちだったから苦ではなかった

んだと思います。それから自分のベッドと弟のベッドを整えて、火、金はシーツの交

換日でした。ベッドメイキングは初めは時間がかかったけれど、2か月もすると素早

く出来るようになったかしらね~、そんなこんなも、私の今と、今の暮らしがあるの

も伯母のおかげだと思ってるんです。


             


 細い脚は、また脚を組み替えると相手にはお構いなしに話を続けた。


             


 「伯母は父と母が帰ってくる前に私たち家族に小さな家を用意していたらしく、父

が先に戻ってきたら、私たち4人を引っ越しさせて、生活を安定させられるようにな

るまで面倒を見続けたのよ。父は私たち子供が父の不在の間に家のことを何でもきち

んとできるようになっていたことにとても驚いていたわ。そして泣きの涙で伯母の家

を出るとき、伯母から大きな絵をもらったんです。つまり手短に言うと、その絵のこ

となの。その絵は伯母が友人に自分をモデルに描いてもらった絵らしくて、庭のマグ

ノリアの木の下で長椅子に横になっている絵なんですけど、とても幸せそうな表情を

しているのよね。いつもきちんと家を維持して来た伯母は『人間は立てる時に寝そべ

るものではない』と常に私たちに教えて来たから長椅子に寝そべった伯母を見たこと

がなかったのに、きっとその絵のためだけにそんなポーズをとったか、あるいは空想

上の絵じゃないかなと私はその絵の中のリラックスした伯母の表情がとても好き

なんです」細い脚はそこでほ~と大きなため息をついた。


             


 「私の弟はそんな伯母の調教のおかげで、ずっとホテル業界で働いているんです。

だから時々家に呼んでバトラーをやってもらおうと目ろんでいるところなんです。叔

母から譲り受けたデザートワゴンみたいな移動ライブラーがあるからそれを引かせよ

うと思っているの、ほほほそれってね、キャスターのついた本を運ぶワゴンで、

本を書庫から居間に運んでくるものなの、そう、すてきでしょ!だから、そんなわけ

で、絨毯の色はその絵の中の空と緑を混ぜたようなスペアミントにクリームを少しだ

け混ぜた色でお願いします。とにかくその絵が私の大事な思い出の宝物だから、絵が

一番映える部屋にしたいんです。それではどうかよろしく~」


             


 細い脚はようやく手短ではない電話を切った。電話の相手は彼女が買った中古の家

のリフォームを請け負う知り合いの業者らしい。彼女がずっと住んでいるこのワンル

ームの部屋の壁にかけた絵はずいぶん前に蚤の市で見つけて来たもので、彼女はいつ

もその絵をじっと見ている。


             


 人間の女性とは絵の中に夢と理想と現実と過去を一緒くたに封じ込めて、どんな作

り話もほんとうの話にして信じ込むことができる不思議な生き物のように思える。


             


 しかし、わたしはそんなことは、どうでもいい。絵を見上げて、「みゃ~」と鳴く

だけ頭を撫でられ、食事がもらえる部屋に住めるのであれば。




   



   
*上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。
  
   *「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。


P.S.1
    漱石の「吾輩は猫である」が出された後、「吾輩は犬である」などなどの
   たくさんの「吾輩シリーズ」が世の中に出たそうですが、
   今そんな本を読んでみたいとよく思います。
   人間の行動はほんとうに不可思議でやはり素晴らしいなと思います。


P.S.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   リゾートとは何かについてこれも真剣勝負で書いたものですから、
   インテリアだけの本ではなく、難しい部類のコラムに入ると思います。
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
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