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リサコラム
連載498回
      本日のオードブル

来のわたし
一番
きなかたち

第1話

「屋根裏部屋から


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



私の
作品には
一体どんな力が
あるというのだろうか?
太梁が無遠慮に貫くその
屋根裏部屋はプロヴァンスの
高級リゾートホテルの部屋にさえ
勝るとも劣らないほど神々しかった。
白く輝く空気を切り裂くような
赤、ピンク、赤紫はその効果を
狙ったわけではないのに
圧倒的な色使いに
一瞬で
ノックアウトされたのです。


 
      
  





       

第1話 「屋根裏部屋から」
 





  いちごもまっ赤になるほどの小さなベルベッドの椅子がまずは賢三の心臓を射抜

いた。その向こうには南窓の光を受けて毛並を輝かせるグレーのベッドスプレッド

が続いた。


             


 「ベッドスカートはピンストライプのフランネルか?」賢三は無言で自問した。

赤ピンクのストライプのヘッドボードをさらに際立たせるのは赤と赤紫とピンクの

花を散りばめたような布張りの台形の壁。それらと激しいせめぎ合いを演じている

純度98%ほどの白亜のようなベッドリネンに賢三はまばゆさを感じた。

 その台形の布張りの壁はそのベッドルームの壁にとどまらず、つまりは台形の屋

根裏部屋だった。


              


 「先生、いかがでございますでしょうか?」農家の主婦で宿の女主人は遠慮気味

にまずは賢三の後ろで反応を待った。しかし賢三は言葉が見つからなかった。女主

人は「わざわざこんな田舎町に来てくださったのに、こんな屋根裏部屋しかご用意

できなくて、」と言葉とは裏腹な朗らかなニュアンスでその場の空気をいっぱいに

した。


             


 「いいえ、とても清潔なお部屋で、気に入りました」賢三がやっと言葉を拾い上

げると、すぐに女主人は「そうですか、それはようございました。ほっといたしま

した」と歓喜と安堵の混じった声を上げ、またすぐにこの機に乗じるように頬骨の

張った丸い頬をさらにまんまるにして続けた。


             


 「この部屋はもともと倉庫だったもので、私がこの家に嫁いできたときは家財道

具を収める場所でございました。盆、正月、御祝い事の数日前からは食器をここか

ら出して来ておりまして、一揃いが30人分もありましたでしょうか、終わればま

たきれいに布にくるんでしまうんですよ。それを年中行事のように毎年毎年繰り返

していましたけど、最近ではあまりやらなくなってしまい、古道具屋に売りました

のです。それに、少し前まではカイコも飼っておりました」「カイコ?」賢三はや

っと反応した。「ええ、それは大変な重労働で自分たちが食べる前にまずはカイコ

に桑の葉をたんと食べさせなければなりませんからね。それも日に3度、4度と」

「はあ~そうですか~」賢三は相手の話を遮るまいと語尾を伸ばした。


 「そんな田舎に洒落たホテルなんてもちろんありませんでしょ、ですから、先生

をお迎えするのにどうしたらいいものかと、隣近所、親戚縁者で、散々、ない知恵

を絞りまして」「いえ、先生と呼ばれるのには慣れていませんから、それにもった

いないことです。簡易な寝床でよかったのですが」賢三はそこまで言うと、また

言葉に詰まった。


             


 「そんなわけには参りませんよ、先生。それで、私、いろいろと雑誌を取り寄せ

まして、その、パリのホテルみたいにしなくちゃとね、これでもずいぶんがんばっ

て、きれいにしたつもりなんです」「いや、すばらしいお部屋です」「ただ、この

梁だけはどうしても隠せなくて、こんな太い梁ばかりの三角の部屋ですから先生、

脇の方は頭がつかえますからどうかお気を付け下さって」「ええ。しかし、すばら

しいお部屋です。美しいですし、エレガンスを感じます」「あらま~エレガンスで

すって?こんな屋根裏部屋に、ですか?何しろ、梁を掃除して拭き上げてから、白

いペンキを塗るところから始めましたもので。壁紙というものは貼ったこともなく

て、それで、着れないような派手な着物をほどいて、壁に貼りました。残りの生地

でクッションカバーも作りました。それに赤白の縦縞は近所の店から新品の大売り

出しの垂れ幕をもらって来ましてベッドの背に貼りましたものです先生はお着物

がお好きと存じ上げておりますが、私もちょっと和裁の手習いがございましたもの

で、お粗末にも、こうして自分で工夫して縫ってみましたのです。ベッドにスカー

トをはかせるなんてのは、姪から習ったんですけどね、姪は都会のホテルで働いて

いるものですから、唯一の助っ人でした。でも、このベッドのスカートなんて主人

のスーツをほどいて、作りましたものですよ。田舎暮らしではスーツなんて夏冬と、

冠婚葬祭用の合計3、4着もあれば十分なんですよ。それにベッドカバーは緞帳

(どんちょう)に使う生地なんです。ご存知ですか?緞帳って」「ああ、舞台の幕

ですね」「ええ、生地屋さんが分けてくれて、それで真っ赤な椅子も隣町の椅子貼

り職人さんに貼ってもらったものなんですよ。まあこんな具合で田舎なものですか

ら、さすがにシーツなんかは上等なものを姪に送ってもらったものです。そして、

姪からベッドメイキングの仕方も教わりました。社外持ち出し禁止のマニュアルで、

ですね」女主人はうれしさをこらえ切れない様子をまんまるい頬にみなぎらせて

笑うとまた続けた。「まあ、そんなこんなで先生のお部屋のしつらえを素人がやっ

た迄のことですのでお恥ずかしく存じます」女主人はまた深々と頭を下げた。

「いえいえ、こんなにご親切にしていただきまして私の方こそ、恐縮です」賢三も

慌てて頭を下げた。


             


 「それではこの素敵なお部屋でちょっと休ませて頂きますね」賢三は語尾が

消えるような感じで言葉を収束させると、「先生のお話しの仕方はその、映画の

“ディゾルブ”みたいで上品でございますね~この言葉、ちょっと言って見たかっ

たんです。オードリー・ヘップバーンの映画で習いましてね、“ディゾルブ”

あらまあ、私、またぺらぺらとすみません。承知いたしました。お疲れのところ、

くだらない世話話でたいへん失礼をいたしました。それでは、お風呂はご用意して

おりますので、お食事の前でも後でもいつでもご遠慮なくお使いくださいませ。

それと、御夕食はもしもおひとりでなさりたいとおっしゃるなら」「ああ、あり

がとうございます」「実は、そのお、シャイでいらっしゃると、伺いまして

「まあ、ええ」賢三はちょっと笑いながら「そのとおりですが、せっかくなので

みなさまとご一緒させて頂きたいと思っております」と言うと、女主人は顔をほこ

ろばせて、「まあ、それはうれしいことでございます。それでですね、中におねま

きが入っております」とふた付きの漆の箱を取り出した。


             


 「既製品ではなんだと思いまして私が初めて縫いましたパジャマでございます。

よろしければお召下さいませ」と女主人が手渡すと、賢三は「ああ、ご親切にほん

とうに、何から何まで、ありがとうございます」と賞状を受ける人のようにうやう

やしく箱を両手で高く持ち上げてから、お辞儀をした。


 「明日は先生の30回目のお誕生日だと伺いまして、お恥ずかしながら、胸のと

ころに刺繍を致しましたもので」と女主人は矢継ぎ早に先手を打ってから、賢三の

言葉を待った。しかし女主人の表情には恥ずかしそうな様子は見当たらなかった。


 「そうですか」賢三は赤い顔をしてお辞儀をすると、女主人は納得した様子で

また深々と頭を下げてから、後ろ足で入口まで下がった。そしてぎしぎしときしむ

音をなるだけ立てないような配慮がわかる降り方で急な階段を降りて行った。


             


 しばらくして賢三は漆の箱のふたを開けて丁寧にパジャマを取り出すと、手に持

ったまま小一時間も部屋の中でじっと立ったままだった。そしてやっと誰かの詩の

一節をつぶやいた。「未来のわたしは一番好きなかたち、このわたしから解放して

くれたひと」。

             


 パジャマの胸元にははっきりした5色の糸で「KENZO」と大文字で縫い取られて

いた。そしてその後、賢三はパリで初めてのブティックを開き、「KENZO」と名前

を変えた。



   



   
*上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。
  
   *「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。


p.s.1
      新しいシリーズを始めました。
     敬愛する「KENZO」のパロディです。26歳で渡仏した高田賢三さんは現在77才。
     一線を退いたとはいえ、活動をなさっておられます。
     こんなことがあったとはとても思えませんが、ビビッドな色使いとは正反対のシャイ
     で穏やかなお人柄を知ったときはとてもビックリしました。
     いつも迷い、悩み続けた人生の一ページをどうしても描きたいなと思っていました。 

    ミニミニエッセイ「リサコラム もの、こと、ほん」もご愛読ありがとうございます。
    ささやかなティブレイクになれば幸いでございます。


p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   リゾートとは何かについてこれも真剣勝負で書いたものですから、
   インテリアだけの本ではなく、難しい部類のコラムに入ると思います。
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
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