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リサコラム
連載524回
      本日のオードブル
習慣

第14話

「4人の神」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ブルーの
フレンチドアの
先には白い石の
廊下が続きます。
そこは青く晴れ渡り
まるで別世界です。
白い天蓋ベッドが
お気に入りなのは
ほんとうは誰
なの

しょうか


 
      
  





       


第14話
 「4人の神」


「こんな夢を見たんだよ」と夏海(なつみ)は天蓋ベッドに寝そべったままでつ

ま先だけを10度ほど右に動かした。動かしたつま先の先に座る愛樹(あき)は、

無心に本を読んでいる。


                


 15秒ほどあって、夏海はまた、「夢の話だけどね」とソファに腰掛けたまま本

から目を離さない亜樹に言った。「それもね、ちょっと変わった夢だけど、聞きた

くない?」


               


 「ううん」と亜樹は赤いペディキュアのつま先をちらっと見ると、すぐまた本に

視線を落とした。


 「カルカソンヌって、知ってる?」赤いつま先はわずかにその位置を変えた。

「うん」亜樹は本のページから目を離さずそう言った後、「知ってるよ。フランス

の中世の要塞都市よね」と付け足した。「へ~、さすがに亜樹だね。私、そんなこ

と知らなかったわ、夢で知るまでね」と夏海は自分のほうに亜樹の関心を向けよう

と誘導尋問を試みたものの、亜樹はまるでソファに穴を掘ってその底にひっそり座

り込んでいるかのように興味を示そうとしなかった。


               


 そのうち、天蓋ベッドにいる夏海の方から何かがパリパリと折れるような音がし

てきた。その音に加え、ごくごくと何かを飲む音も加わり、それは間断なく亜樹の

耳に届いた。


 「そんなに食っちゃ寝ばかりしてると、カルカソンヌの要塞都市の豚みたいに下

に投げ捨てられてしまうよ」亜樹はやっと本から目を離して音の方に顔を向けた。


               


 「ふふふ」夏海はつま先をくるくる回すと、「でしょ。私、その豚の話が気に

なってね」と夏海は亜樹がやっと自分の夢の話に引っかかって来たことをうれしが

った。


 「カルカソンヌって小さいけど魅力的な要塞都市でしょ。なんだか未来都市みた

いじゃない?だって、要塞の外まで攻め込んできたカール大帝の敵陣から要塞を5

年も封鎖してがんばったんでしょ。いよいよ食べ物がなくなって、生き残っていた

一頭の豚に麦をたくさん食べさせて、それで太らせるまでどのくらいかかったかわ

からないけど、そんな太った豚を城から敵陣に投げ捨てて、「こんなに食料も麦も

余っているのよ」と逆の作戦でアピールしたっていうじゃない。それを見て「これ

じゃ到底降参しそうにないな」って敵の軍隊は諦めて撤収したんでしょ。その逸話

って、なんとも面白いじゃない。信じるかどうかは別としてね。でもそんな伝承が

1400年も伝えられているなんて、そこに何かありそうな気がするのよね。その

要塞の一部だって残っているんだしね」夏海は変わらずベッドに寝そべったままで

亜樹の方を見た。


               


 「さあ。でも、今、そんなのどうでもいいんじゃない?それより問題に対して早

く手立てを打つとか、とりあえずはさっさと立ち上がったらどうなの?その方がよ

ほど有益じゃないの?」亜樹はまた本の上に瞼を伏せた。


 「問題って、エネルギー?食料?地球環境?どんなことを考えれば有益なのかし

ら?」夏海は動こうとしなかった。「今は火星の旅だって可能になるだから、少な

くともカルカソンヌの豚のことを考える暇はないってことよ。それに、そもそもそ

んなにぐうたらしてる場合じゃないわよ」亜樹は冷淡に言った。


               


 「う~ん、なんだかそんな気分にならないのよね。カルカソンヌの豚が気になっ

てしまってね。だってさ、NASAの宇宙開発に折り紙がヒントを与えたんでしょ。

コンパクトなソーラーパネルの羽は折り紙の折り方を応用したっていうじゃない

ってことは何がヒントを与えるか、わからないってことじゃないの?」その夏海の

疑問符に亜樹は答えなかった。


 「それにさ、中世のカルカソンヌの人々だって、家畜に餌を与える分を人間が食

べれば食料はまだ持ちこたえることくらい知ってたんじゃないかなって思ったのよ

ね~。それから1400年も経ってやっと今、食料危機に直面して、豚に餌を与え

てからその豚を食べるんじゃなくて、豚を食べずにその餌を食べればずいぶん食料

の節約になるってわかったみたいだけど、その当時、カルカソンヌの人々は要塞の

中がイコール地球なんだから、食料自給イコール死活問題でしょ。つまりは今の地

球の食料をどうするかと同じ問題を抱えていたわけよ。当然そのことはわかってい

たと思うわ。だから、過去を遡ればきっともっといろんなことがわかるんじゃなか

って、そう思うわけよ」亜樹はだまったままだった。


               


 天界は穏やかに晴れ、その下を眺めると、暑さにうんざりした人々が、「今年の

秋は遅いですね」「話によると、今年の9月は最高気温の記録を塗り替えたそうで

すね。10月もきっとこの調子で行くとまだ暑そうですかね」などと口々に言い合

っているようだ。


               


 「ほら、あなたのせいよ。あなたがカルカソンヌの豚のことなんか考えながらう

だうだして、ずっと北にいるから私も出番が遅れるし、そうなると、冬子にすぐバ

トンを渡さなきゃならないし、ハルだっていい迷惑よ。『春はまだか、遅い、遅い』

って言われなきゃならないんだし」亜樹は大きなため息をついた。天界ではため息

でも下界では竜巻に変わる。


               


 「私だって、人間に意地悪をしてこうしているんじゃないのよ。異常気象の時は

過去を振り返って何が問題だったのか考えてほしいって思うからこそ、カルカソン

ヌの豚のことを思っていたんだから」夏海も大きなため息をつくと、新たな台風が

生まれた。


               


 「それじゃそろそろ、南に回るとするか!」夏海は桟橋を渡ると地球の裏側にす

うと飛んで行った。


                


 4人の季節の神は時に気まぐれに、時に思慮深く入れ替わる習慣を続けているよ

うだった。



    



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

  カルカソンヌはゆきたいと思いながらも世界遺産に登録されてから、
 行きたくなくなってしました。こんな神様のせいで暑いのかなと思いながら。


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。昭和です。

            

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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