マダム・ワトソン　My Style

HOME　｜　美しいテーブルウェア　｜　上質なベッドリネン＆羽毛ふとん　｜　インテリア、施工例　｜　スタイリッシュバス 　｜　Y's for living

連載５５８回 　　　　　　 秘密基地はバラの香り 第8話 「ジヴェルニーの庭の 小径を借景で」 木村里紗子のプロフィール マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。 大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。 著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社 紙の本＆電子書籍）（2006年6月） 「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 （電子書籍2014年8月） 道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。 いろいろなインテリアを考えだすこと。 新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。 外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。 ２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。 アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。 好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、Ｆ・サガン、 マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

築35年。 歴史を刻んだ アンティークホワイトの壁。 白い窓枠にインディゴブルーのカーテン。 狭い庭からは、実はお隣の広大な庭の借景を 見渡せるそんな場所にこの家はあるのです。 ここに来たら、リビングのコバルトブルーの ソファベッドに寝転がって本を読みながら うとうとしたいものです。 気持ちちさの具合は もちろんですが、 画像から 十二分に 想像はついていました。

第8話　 「ジヴェルニーの庭の小径を借景で」 　「戸建てをお探しでございますね？」長方形のカウンターテーブルの向こうで営 業マン氏は熟達という風格を体格と太い黒縁眼鏡に漂わせながら、丁寧に凛々子に 椅子をすすめた。 　　　　　　　　　　　　　　 　「ええ」凛々子は腰かけるとすぐに、その営業マン氏の濃紺、白、若草色の３色 のレジメンタルのネクタイを見た。 　「私の好きな色です」「はい？」営業マン氏はびっくりした。「あの、あなたの ネクタイのその色がとても素敵で。私の好きな色なんです。紺と若草色と白の組み 合わせが….」熟達の営業マン氏はレジメンタルタイに挟んだ平凡な形のシルバー のタイピンをまっすぐに直すと、「それはどうも」と言いつつも、驚きを隠さず、 「初めて言われました。この平凡なネクタイが、ですか?」と自分の胸元と凛々子 の顔を見比べてから、「いや～、ネクタイどころか、そもそも服なんてほめられた のは初めてなものですから」と言いながらうれしそうにやにやと笑った。 　　　　　　　　　　　　　　　 　「いや、ほんとに。よくお似合いです。ええ。それで、本題に入りますが、こち らは全国どこでも好みの物件を探せると伺って来たのですが…」「はい、もちろ んでございます。北海道から沖縄まで、マンション、戸建て、別荘、ビル、テナン トなんでもお好みの物件をご提案いたします。それでどのくらいのご予算をお考え でしょうか?」「そうですね、がんばっても4千万というところですね。新築なん て言いません。築３５年の戸建ての家が欲しいんです」営業マン氏は次の言葉を見 つけられないように見えた。凛々子は察してすぐに付け加えた。 　　　　　　　　　　　　　　　 　「築３５年というのは何か特別なものがあるわけじゃないんです。ただ、そのぉ くらいの古さ加減でという意味です。内装は自分でやり変えます。それに、」「い え、いえ、もちろんお客様のご趣向ですから全く問題ございません。３５年という 限定がちょっと不思議な感じがしたものですから…」と営業マン氏が言いかけた ため、凛々子はまた重ねて、「郊外の空気のよい場所で、そのくらいの古さの家で ということでお願いします」と言った。 　　　　　　　　　　　　　　　 　「かしこまりました。それなら物件には困りませんね。郊外の空気のよい場所で お探しいたしましょう」と言うと、営業マン氏はキーボードに4千万円と打ち込ん だ。凛々子は中腰になって画面の方に向くと、「あの、玄関ドアはアンティークホ ワイトがいいです」と付け加えた。営業マン氏は凛々子の顔をちらっと見ると、 「アンティークホワイトのドア、はい、かしこまりました」と言いながらキーを打 った。「ええ。それと、欲を言えば駐車場は３台で」凛々子は営業マン氏ににっこ り笑顔を作ると、左右の頬っぺたの下にきれいなえくぼができた。 　　　　　　　　　　　　　　　 　「わかりました。３台以上の広い駐車場でと…」営業マン氏は検索条件の、駐車 場３台以上にチェックマークを入れた。「いえ、きっかり３台がいいんです。それ 以上あっても必要ないので」と凛々子はまた慌てて付け加えた。営業マン氏はちょ っと首をかしげると、「わかりました。車はきっかり３台分ですね、他に立地条件 等でご希望はございませんか？」と画面を見ながら凛々子に尋ねた。 　　　　　　　　　　　　　　　 　凛々子は少し考えてから、「特には」とだけ言った。「とおっしゃいますと？」 「場所は大して問題ではないのです」「はあ、さようでございますか、つまり、全 国どこでもOKということですか？」と営業マン氏の言葉は奇妙なイントネーショ ンに響いた。凛々子は「ええ」と答えたが、そのイントネーションはコンビニで 「袋、一緒でいいですか？」というときの返事と同じような調子に響いた。 　　　　　　　　　　　　　　　 　営業マン氏は思い切って尋ねた。「失礼ではございますが、もしかしてキャビン アテンダントさんとかでいらっしゃいますか？」「あら、そう見えますか？」凛々 子の目はきらりと光った。「ええ。お綺麗でいらっしゃいますから」「まあ、お上 手ですね。でも、まったく違うんです」「そうですか。しかし、全国となりますと、 ちょっと膨大なデータになりますから、ある程度地域を絞っていただければありが たいのですが」「ああそれじゃ、条件をもっと付けくわえてもいいでしょうか？」 「ええ、なんなりとどうぞ。私どものデータは詳細かつ最新で、リアルタイムに情 報を提供できます…」 　「それじゃ、ジヴェルニーの庭みたいなそんなうっそうとした借景の庭の小道を望 む家で」と凛々子はよどみなく応じた。営業マン氏の手が止まった。 　　　　　　　　　　　　　　　 　「あの、もう一度お願いできませんでしょうか？」「ああ、はい。ジヴェルニー の、つまり、モネの庭みたいな物語風な庭の小道の借景があるという意味です。も ちろん、そのままずばりなんて言いません。そんな庭を見渡す家なんて言えば豪邸 が出てくるに決まってますから。それよりこう、古き良き時代にタイムスリップす るような田舎風の、でも洗練された風景という意味で」と凛々子はさらに付け加える と、「なるほど、一応、古き良き田舎の風情とジルベニーの庭、ですか？そんなキ ーワード入れてみますが、さあ、ありますでしょうか？この日本に？」と営業マン 氏はいぶかし気に首をねじった。「ええ、きっとどこかにそんな借景の庭があるは ずです。全国には１件くらいは」「わかりました。それでは、もう少し一般的な キーワードもいただけませんでしょうか」凛々子はうつむいて少し考えてから、 「それでは、木の杭を打ってある庭でお願いします。生垣ではなくて」と言ってか ら顔を上げた。凛々子の前には先ほどよりさらにいぶかし気な表情に歪みつつある 営業マン氏の顔があった。 　　　　　　　　　　　　　　　 　「木の杭？」「ええ。フランスの田舎みたいな感じです」「なるほど」営業マン 氏はパタパタとキーを打ち込んでから凛々子に確認を求めた。 　　　　　　　　　　　　　　　 　「まず、築３５年くらいの木造平屋、『ジルベニーの庭』と『木の杭』と…」 「あの、すみません『ジヴェルニー』で」凛々子は小声で言った。「はい？今、私、 なんて言いましたっけ？」「『ジルベニー』と」凛々子は遠慮気味に言った。「あ あ、そうでしたか、失礼いたしました。ええと、ジルベニ、じゃなくて、ジヴェル ニー、そう、そう、モネの睡蓮でしたね」営業マン氏は入力を終えるとパンとエ ンターキーを押した。そして、画面を凛々子の方にクルリと回した。そしてしばら く二人の顔は青い画面の中、鉄棒でくるくる回転するサルにくぎ付けになった。 　　　　　　　　　　　　　　　 　「出てきます？」凛々子はじりじりとした。「ええ、もうすぐです」そして数分 後、やっと一件ヒットした。 　　　　　　　　　　　　　　　 　「ああ～、これ、これ、これください」凛々子は思わず立ち上がって叫んだ。 「すみません。興奮しちゃって。これです。私が探していた物件は」と言った後、 ゆっくり席に着いた。営業マン氏は「は～、いやはや、驚きですね」と言った。 　　　　　　　　　　　　　　　 　凛々子は少しはにかみながら白状するように言った。「実は先日、やっと私のあ るクライアントの方がその家を手放したのです。私、ネットコンサルティングで結 構、名は知れてはいるんですよ。しかし、クライアントのその美しい別荘の住所は わからなくて。彼女、離婚なさってからずっと立ち直れなかったんです。でもよう やく決意して、彼女はほんとのジヴェルニーの庭の近郊に移住なさったもので….」 凛々子は唖然としながら聞いていた営業マン氏に興奮を抑えながら言った。 　　　　　　　　　　　　　　　 　「でも、それって、策略じゃないんですよ。くれぐれも言っておきますが、これ は自然の摂理と申しますか、なるようになったといいますか…」 　　　 　　　　　　　　　　　　　　 　上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。 p.s.1 　　画像に写っている別荘が欲しくなったら、こんな手段があるのかも。 　　GPSなしでも、画像を認識して検索する機能が普及したらどうなるのでしょう？ 　　しかし、いつも寝転がっている絵を描いてしまうのは、 　　寝転がる時間を作りたいなという、願望でしょうか。 　　「もの、こと、ほん」は下の写真から。 　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　 p.s.2 　　　　　お待たせをいたしましたが、 　　　　　近日中に下のe-bookの英語版をアマゾンで出版いたします。 　　　　　自分で四苦八苦して訳してネイティブの先生にチェックしてもらい 　　　　　わいこさんに編集作業をお願いしました。 　　　 　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。 　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　バックナンバーの継続表示は終了いたしております。 　　書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。 　　どうかご了承くださいますように。

	シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　　　　　　　　　　　　　　 （木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。 マダムワトソンでは　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。 　 　ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　 　　　　お申込はこちら→「Contact Us」

*　PAGE TOP　*