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リサコラム
連載777回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第14話

「モンマルトルの丘を
下りながら」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




物思いに
耽るなら
坂道が
いいで
しょう
さて今日も
モンマルトルの
丘をゆっくり下りながら
夕陽を浴びた街を眺めてる
一人の男性がおいでのようですね。
どんな思いを巡らせているのでしょうか?



 







        

 第14話 「モンマルトルの丘を下りながら」




  

 私はサクレクール寺院の前を通りすぎてから、モンマルトルの丘の夕日

を浴びながら、だらだらと続く坂道をゆっくり降りていた。


            


 丘の上から見る中世のようなパリの街並みは予想通り、そう、画像で

見た通りのスケールで、美しくはあった。至るところでその景色がスマホ

の中に収められて、私もまばゆいほどのオレンジ色を浴びた街をじっと

眺めながら、つい、つられて写真を撮ろうとしたが、すぐにポケット

に戻した。だって、今や私はパリジャンなのだから、いつでもこんな

景色は見る事ができるのだから、と。


            


 しかし、そう思った一方で私は自分がパリジャンであるという呼び方に

おかしみを覚えた。あれほど毛嫌いしていた、パリジャン、外国に行った

先では、フランス人とみるや10人中6、7人は「あなたはパリジャンで

すか?」と聞いてくる。これは地方人にはとても嫌味に思える質問なの

だ。そんな質問をたくさん浴びせられて、とうとう妻は厭になったのか、

あるいは、パリジェンヌになれば、堂々と海外旅行に行けると思ったの

か、彼女のほぼ独断でこのパリに終の棲家を移すことになった。そうで

あれば、そろそろ往生際よく、私自身も堂々とパリジャンを気取ってい

ればいいものだろう。そう思って私は自分がおかしくなったのだ。


            


 
そんなあれこれを思いながら、私は階段脇の木々に遮られた薄暗い

場所に腰かけてホッと一息ついた。今日はほんとに長い1日だった。

夜明け前から日没まで、歩きに歩いた。早朝から家を出て、ペール・

ラシューズの墓地でタクシーを拾い、ルーヴルあたりを散歩して、

アンリと朝食をとり、エッフェル塔まで足を伸ばして、バトビュスで

またルーヴルに戻り、同じブラッスリーで昼食をとってから、

ギャルリー・ヴィヴィエンヌのパサージュを初めて歩いた。アンリは

そのパサージュにある、老舗書店のオーナーを私に紹介したいと言っ

た。きっと彼ならあの絵について提言、あるいはヒントを与えてくれる

に違いないと思ったらしかった。


            


 しかし、私はパサージュに入った途端、あまり気乗りがしなくなった。

物知りに違いないだろうが、19世紀から続くパリの4代目の書店主なん

て、生粋のパリジャンがこの地方出身者の私にどんな質問を投げかけるの

かと思うと嫌な気がしたのだ。そんな見ず知らずの書店主に絵の出どころ

を推理してもらおうものなら、したり顔で滔々といろんなことを述べるは

ずだ。そして挙句の果て、アンリが私に言ったように、私の深層心理に

こんな家に住みたいとずっと願っていたから偶然、似た家を見つけた、

この家だと思ったと言うに違いない。そう考えると私はもうあの絵と

パリ20区の私の新居との関係などどうでもいいような気になって

いた。


            


 そんな私の穿った見方に反して、4代目の書店主は私の話を真剣に

聞いた後で、このパサージュには自分よりパリの街に詳しい人間がたく

さんいるし、しかもみんな仲間だから、その絵を持って来てくれるな

ら、みんなを集めて話を聞いてみよう。奴らだったら何かきっとわかる

はずだと言った。私は予想外の反応にちょっと驚いた。と同時に、そこ

まで迷惑をかけることはできないし、真剣に出所を知りたいわけではな

いからとやんわりと辞退した。実際、何かわかったところで、私はその

絵の謎以上にこの街の歴史を通して街の人々の中にもっと面白いものを

たくさん見つけられそうな気がしていたからだ。それというのも、

パサージュのガラスの屋根から降り注ぐ美しい光、美しいショップの

店頭を眺めていると、約200年も前に出来たこの通りが未だ守られて

いることにパリの強さを感じたからだ。


            


 私は書店の主人としばらく本の話をしてから、数冊の古い本と数枚の

古い写真と誰かが書いた古い絵ハガキを買ってアンリと別れた。


            


 私は一人モンマルトルの丘に登ろうと思った。それまでかなり歩いて

いたし、おそらく1日でこんなに歩いたことは今までなかっただろう、

老年に近づいた私の体には正直、過酷な散歩になったが、それでも、

私は多くの観光客に混じって上まで登り、パリの街を一望できる場所

から街を眺めたくなったのだ。


            


 ようやく丘の上迄来ると、心地よい疲れと秋風に頬を撫でられながら、

多くの観光客の一人となってオレンジ色を浴びたパリの街を眺めた。その

うち、私はもしかしたら、大いなる思い違いをしていたのかもしれないと

いう思いがふっと湧いてきた。パリの外に住みながら、常にパリの人間も

街も疎ましく思ってきた60数年、地方はパリに物資や食料品を供給する

ために働かせられていると思ってきたのはもしかしたら間違っていたのか

もしれない。パリがなければ、エッフェル塔がなければ、ルーヴルがなけ

れば、オペラ座が、ノートルダムが、カフェがなければ、1億人もいない

この農業国は先進国にはならなかっただろうし、冴えない国になっていた

のかもしれない。多くの観光客を受け入れ、労働力として移民を受け入

れ、この街を愛する人々は快適なビルに住むことをあきらめて、すり減

った階段を毎日、6階、7階まで上り下りしながらもこの中世の街並み

を保存してゆくという意識で結束している。それだからパリはパリであ

るのではないのか、もちろん、不満を感じている人たちは多いだろう。

デモにストライキに、政府に不満をもらしても、そんな声をかき消すほ

どにパリの街並みを愛している人々がこの街には確実にいることは事

実だろう。


           


 
私は坂を下りきったあたりでようやく一軒のこじんまりした

カフェに入った。


   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
モンマルトルの丘から見るパリの街は歴史
そのもののようです。
残念ながら、日本にはそんな場所がとてもとても
少ないのです。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年9月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



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シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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