MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載781回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第18話

「パリの夕日」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




青と紫と緑と橙色が
混ぜこぜになった
毒々しい色合を
美しいと思うか
もの悲しいと
思うのかは
走れメロス
に聞けば
わかり
ます
刻々
と変る人間の
心模様のようだから
感動的なのかもしれません。


 







        

 第18話 「パリの夕日」



  

 タクシーの運転手は黙ってカルチエ・ラタンをゆっくりと走った。

私は車窓からぼんやり街の様子を眺めていた。


            


 パリ大学の付近に来ると、地球環境問題や学生の権利向上だの張り紙を

もって演説する男女の姿もある一方、あちらこちらのカフェでは若い男女

が小さなテーブルを囲んで愛を語っている。脇を数人のデモ中らしき男女が

通り過ぎた。


 
「私も若い頃は血気盛んで、デモにも参加しましたがね、それも、

2回ばかりね。あなたは参加されました?」私は答える気分ではなかった

が、しかたなく、「私もそんなものです」と答えた。それからまたしば

らく沈黙が続いた。


            


 「これから先、どこに行きましょうか?」「どこでも」私は投げやり

に答えた。「ムッシュウ、ちょっと当ててみましょうか?」「何を?」

「失礼ですが、もしかして何か心配事でも?奥様とか?」ドライバーは

見事に私の痛いところに切り込んできた。私はキックスケーターで縦横

無尽に走る若者たちを眺めながら、「さあ、どうだろう」と答えた。


            


 「私はこの仕事を40数年やってきましてね、なんとなくわかるんで

す。今、73歳ですが、まだまだ現役は続けるつもりです」ドライバー

は勝手に話し始めた。「いろんなお客さまの人生劇場を聞いていると、

ほんと100人が100人違いますね。それは、まさに小説より奇なり

ですよ。ある作家がね、たしか、ほら、この辺に生家があった、

『老人と海』の…」「ヘミングウェイですか?」「そうそう、

アメリカ人の、ヘミングウェイもパリに住んでいたんですよね。彼は

タクシーに乗ってドライバーから聞いた話を集めて小説にしていたんだ

とかなんとか。でもね、あるとき、あまりに突飛というか、悲惨という

のかそんなものを聞いたものだから、とても興味深いけど読者はきっと

作り話だろうと思うから小説には書けないなと言ったほどだそうです。

まあ、それほど、人間模様は怪奇に富んでいるということでしょうね」

ドライバーはもう私が勝手に人間関係に悩んでいると決めつけている

ように見える。


            


 彼は私をエッフェル塔が間近に見える場所まで連れて来るとこう言

った。「穴場ですよ。私は17区が好きですね。他の区よりゆったりし

ているし、初めてエッフェル塔を見た時はほんとうに感動しましたね。

父も母もギニア出身で、私たち兄弟姉妹はパリ郊外の狭いアパートで長い

こと暮らしましてね。学校では私も結構がんばって勉強したんですが、

バック(バカロレア試験)は2度失敗して、それで、実社会に入るしか

なくて、タクシードライバーになったんです。でも、タクシードライバ

ーの中には、ディプロムを取ったけれど、就職先がない人間もたくさん

いましたね」彼は多くのタクシードライバーと同じく饒舌に問わず語

りを始めた。


            


 「私が20代前半の頃、5月革命がありましてね、体制に反発した

多くの作家やアーティスト、そしてもちろん、無名の若者たちのデモ

が頻発して、やがてそれがムーブメントになって世界中に飛び火した

んですよ。私はすでに働いていましたから、なんだかうらやましい気持

ちで見ていました。でも、故郷のアフリカにいる親戚みんなが憧れてい

るパリの近郊に貧しいながらも住んでいましたから、断然幸せでした。

遊ぶお金はなくても、パリ観光ができる仕事、それがタクシードライバー

だったんです。それでも2015年のテロから数年、仕事も減りましたが

それ以外は、パリの街をあちこち行ったり来たりしているだけで食べてい

けるのですから、ずっと幸せでしたね。いや、今ももちろん幸せですよ」

ドライバーは私の方を振り返ると、にっこり笑ってエッフェル塔を指さ

した。「ただじっと見ているだけですけど、そのうち気持ちも落ち着いて

くるんですよ。いろんなことがあっても、自分は花の街、パリで働けるん

だと思うと、それだけで幸せを感じるんですよ。ムッシュウ、今日、お

仕事は休みですか?」


            


 
曇り空の下で、凛として立つ塔を見ていた私ははっとした。

「いや、実は引退してね、南から20区に越して来たばかりなんです。

あなたと違って、私はもう引退人生を歩み始めたところですよ、ここ、

パリでね」「なるほど、そうですか。お時間はたっぷりおありというこ

とですね」そう言うと、彼はまた車を走らせた。「それじゃ、ブーロー

ニュの森にでも行きますか?」「いいいですね」と私は即答した。


            


 ドライバーはブーローニュに向かってまたゆっくりと発進しまた話

し始めた。「私も、60歳を迎えた時、タクシードライバーの仕事は辞

めようかと思ったんですよ。それまで贅沢なことも何ひとつせず、毎日

毎日、お客さまを乗せてパリ中を走り回って来ましたからね、ここらで、

ロッキングチェアを揺らしながら、文豪と言われる人の本でも読もうか

しらと思ったものです。郊外に越してね。すると、すぐに娘たちがそんな

に暇を持て余しているなら、子守りでもしてとか、幼稚園の送り迎えをし

て欲しいとか、そんなことを言い出したのです。もちろん、送り迎えは何

でもないのですが、それで収入を得られることもなく、かえって時間に縛

られて、好きな時間に好きな場所に行くこともできないでしょう。妻も私

にあれこれと用事を言いつけ始めるでしょうから。屋根の修繕だの、壁の

ペンキ塗りだの、芝刈りだのとね、つくづく、人間は簡単にロッキングチ

ェアには座れないものだなと思いましたよ。まあ、そんなこんなで、本が

読みたくなった時は、この森に来て読んでいるんですよ。家族はタクシー

の仕事で忙しいと思っていますがね。


            


 
しかし、ひとりで文豪の本を読んで知的な気分に浸っても、誰とも

共有することなければ読書って楽しくもなんともないんですよ。まあ、

それで今は、若い人たちの読書サークルに入ってその知的好奇心をみなで

共有しているんです。おかげで老け込むこともなく、まあ、だいたい10

歳は若く見られますね。自慢じゃないですけど」そう言って彼は私の

方を振り向くと、また、くすっと笑った。私はとっさに返す言葉を見つ

けられず、ただ、笑い返すと彼は続けた。


            


 「あなたはきっと私より10歳くらいはお若いようですからもっと働

けるのでしょう?ボランティア活動でもいいですけど、社会に貢献された

方が社会のためでもありますよね、まあ、人生の先輩として言っていると

思ってくださいな。余計なことですがね」彼は私を下ろすと運転席の窓

から、「パリの真ん中にいることを忘れますよね。自転車で散策なんてい

うのもストレス解消になっていいものですしね、そろそろマロニエが葉

を落とし始める季節になりますから、『枯れ葉』でも歌いながら、散歩

するのもいいものですよ」と言うと、窓から手を出したまま走り去った。


            



 
私は公園の森に分け入りながら、エッフェル塔から10分ほどなの

に、空気がひんやりしていることに驚きながら歩き始めた。道の途中で

ブラックベリーを摘んでいる初老のカップルを見つけた。男性が腰に巻

いたナプキンを広げ、女性がブルーベリーを摘んではその中に入れてい

る。そして散策を続ける内、滝に出た。かなり大きな滝で、周りで涼ん

でいる人も多く、そしてその先は湖になっていた。そこから左に折れた

先に、感じのオープン・カフェを見つけてサンドイッチとコーヒーを

手に入れると、ベンチを探してリュックから本を出した。


            


 
しかし、いくら読んでも字面を追うばかりでまるでストーリーが頭に

入って来なかった。タクシードライバーが言った通り、読書とはひとり

でするものだが、その感想や思いを誰かと共有しないと真に楽しめない

のだろうか。あれほど安楽な場所と時間に縛られない悦楽の読書時間が

来ることを心待ちにして来たのに、そのためにカントのように朝起きて

から眠るまでの間、時間通りに行うことを信条にしてきたというのに、

時間からの束縛というたがが外れた今、私が求めていた自由というもの

はそれほど渇望するようなものだったのか、どう扱えば自由は最も有意

義なのか、そして、自由になった私たち夫婦はどう付き合っていけばい

いのか?そんなことがまるでわからなくなっている自分に私は気づい

た。私はブーローニュの森を散策しながら、思考はその同じ輪の上をぐ

るぐると回り続けた。


            


 
日が西に傾き始めた頃、森は急に肌寒く感じるまでになった。ジャ

ケットも持たずに来た私はこのまま今来た道を戻り、また公園の入り口

でタクシーを拾った。ドライバーは浅黒い肌にルビーのような目を煌め

かせている男性だった。


           


 
私は今日2度目のタクシードライバーに夕日の美しい場所に連れて

行ってくれるように頼んだ。「かしこまりました」彼はそれだけ言う

と迷いなく走り出した。エッフェル塔以外高い建物のないパリには夕日

の名所は随所にあるだろうが、しかし、そのドライバーが連れて行った

橋から見た美しい夕日は、モネの描いたそれのようだった。胸を打つ

ほどに美しく、そして、残念ながら、これから私が戻る場所はひとつ

しかなかった



   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.2
 
時間がかかることを覚悟して描き始めた絵ですが、
意外なことに3時間で描き終えました。
きっと同じ絵は二度と描けないでしょう。
夕日ですから。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年9月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.