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リサコラム
連載803回
      本日のオードブル

マダム・シック

第9話

「バルコニーからパリ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




白い
レース
カーテンが
揺れる窓辺に
白い大きな
クッション
ピンクの
レッグ
ロール
ピローと
エッフェル塔の
刺繍が入っている
ブレックファストピロー
さてどんな心境の変化でしょうか?


 


 第9話「バルコニーからパリ」




 

「あ~、ボンヌール!セラヴィ!」ジェニファーは開け放した窓際

に置いたベッドで伸びをした。


            


 こんなすがすがしい気分を、こんな自由な気分を、毎日、謳歌でき

ると、夢と希望でこれ以上ないほどに胸を膨らませてやって来たジェ

ニファーのパリだったが、その夢と希望は初日からひっくり返った。


            


 「だって、ここは自由、平等、友愛の街、愛の街、カフェの街、

そして、バゲットを小脇に抱えて闊歩する石畳の街、小さな通りで

はストリートミュージシャンがいつか晴れの舞台に立てる日を夢見な

がら、いや、そうでなくても、道行くみんなをただ楽しませるだけで

いいと集まる街、でしょ?犬も歩けば芸術家に当たるくらい、すべて

の人がセンスよくて、おしゃれで、小さなものにもアートを感じられ

る街、そして、どんな素人が撮っても、どんなアングルでも絵になる

街、それがパリ!」ジェニファーはそう思ってやって来た。しかし

そんな彼女を待ち受けていたのが、まるで地獄の門番のエンマ大王の

ような、厳しいハウスキーピング、アンヌ。


            


 
彼女は日曜日以外の朝7時から午後5時まで、まるで、一歩もパリ

の街には出さないぞと言わんばかりにジェニファーの前に立ちはだか

っていた。その迫力と想定外の展開にジェニファーの夢と希望は霧の

ようにどこかへ去り、アンヌというハリケーンに翻弄された。


            


 午後5時、やっと、ハウスキーピングのレッスンが終わり、アンヌ

に、ボンソワールを言ってジェニファーが玄関ドアを閉める時、彼女

はもはや、再びこの大きなドアを開ける力など残されていないかのよ

うに疲労困憊していることに気づく。その上、日々、新たに蓄積され

るばかりで解消されることのない筋肉痛のため、ライトアップされた

石畳の街を歩き回ったり、夜のバーなんかに繰り出して、ダンスをし

たり、そこで、パリジャンの素敵な男性とお近づきになろうなんて、

気力も完全に失せた老人のようになっていた。朝と晩ごごはんはお昼

にアンヌが作ってくれる手料理の残りと、近所のスーパーでまとめ買

いしたパックのお惣菜、パン、チーズ、ワインでまかなっていた。

しかし、アンヌから手渡された『ハウスキーピング全書』という本

を読み進めるうち、ジェニファーの部屋の窓から見えるパリの街の景

色が絵はがきのパリの景色とはかなり違った絵に見えるようになった。


            


 彼女だってものごとには明るい部分があれば、暗い部分があること

くらい知ってはいるが、しかし、パリは表向きの街と同様に正反対の

裏向きの街が同時に同じくらいの分量で、おそらくは裏向きの街の方

がはるかに多く存在していることを知った。もしかしたら、アンヌは

その裏向きの街を知り尽くし、表向きの街を支えて来たのかもしれな

い。だが、ジェニファーにはまだ、そこまでアンヌと打ち解けて話を

できるような対等なレベルには達していなかった。こちらから聞き出

さずとも、『ハウスキーピング全書』を書いたサミアと同じような険

しい道を歩いて来ただろうことは、その凛として、物事に動じないよ

うな風貌から、容易に推測はついた。


            


 
そんなプロのハウスキーピング、アンヌからダメ生徒のレッテルを

貼られたジェニファーは、それを一気に逆転させたいと思ったから、

というわけではなかったが、日曜日の早朝、自分のベッドのシーツを

剥すと、本にかかれたやり方に忠実に、ベッドリネンの洗濯をし、

そして、アイロンをかけてみようと思った。彼女がシーツにアイロン

をかけるなんて、生まれて初めてのことだった。


            


 
ジェニファーは洗い立てのシーツをアイロン台の上でしっかりと両側

から引っ張った。すると、不思議なほどにシーツのしわが取れたよう

に真っ平になった。カリフォルニアの自宅では、乾燥機から丸まった

シーツと、それに絡まったピロケース、Tシャツ、下着などをまとめ

て引っ張り出し、引きずるように階段を上って自分の部屋に持ってゆ

くことが苦痛でならなかった。階段の途中で、ショーツや靴下がこぼ

れ落ちることもしばしばあった。その度に、「ああ!、やだ、やだ!

なんでシーツなんて替えなきゃいけないのよ!」と憤懣の声を上げて

いた。しかし、本に書かれているように、シーツを洗濯機から直行で

アイロン台に掛け、その上で他の洗濯物のアイロンをかけていると、

下のシーツも、力を入れて伸ばすようなことなく、自然に美しいほど

に乾いて平たくなる。ジェニファーは初めてシーツのしわが伸びると

同時に、気分もピンとなるよう感覚を実感した。


            


 
2時間半もかかってようやく新米ハウスキーピングはすべてのベッド

リネン類のアイロンがけを終えると、それを2階の自分の部屋に持って

行った。もちろん、持って行くときは、余計なしわを作らないように、

大き目にきちんとたたんでから。


            


 
本の中でサミアは言っていた。「シーツの折り目を完全に消すこと

は不可能です。それが求められるのは王様、お妃さまの眠られるベッ

ドのメイキングと写真撮影の時だけです。普段使いのシーツの折り目

はメイキングでしっかり伸ばせば、十分伸びます。伸びない部分があ

っても、シャツの袖山の折り目と同じく、誇れるものです。しわと折

り目の区別さえつかないようなシーツで寝ている人には到底わからな

い達成感です」と。ジェニファーはこの言葉を頭の中で繰り返しなが

ら、プロのベッドメイキングに挑戦した。1時間の苦戦の後、ジェニ

ファーはその美しく、白く、ピンとして輝くベッドの前でしばらくう

っとりと眺めていた。


            


 「ちょっと横になってみたいな~」彼女は二度寝をしたい欲求に駆

られた。そして、バルコニー窓に目をやると、きっとこの先も見飽き

ないだろう朝日を浴びたパリの裏窓の風景が展開している。


             


 
「ちょっとだけ、窓際に持って行ってみようかな?」まだまだ寒い

3月のあたまだったが、陽射しが入る窓辺は暖かだった。「おふとん

にちょっとこうくるまっていたら、きっと窓を開けていても寒くない

はずだし、へへへ」ジェニファーはベッドを注意して少しずつ窓の

方に移動した。そして窓を開け、バルコニー側に大きなクッションを

置き、その中のおふとんに包まるように丸くなった。冷たい風と温か

な日差しがせめぎ合うかのように、ジェニファーのほほに当たる。


            


 「ああ、幸せ!これこそが、パリのボンヌールよ!そして、パリの

憂鬱だわ~」彼女はうとうとしながら、これまでの人生で一番長く、

もっとも密度が高く、そしてもっとも学びを得た1週間を開け放した

窓のそばで感じていた。


            


 「ジェニファー、もっと頑張れる?」彼女は自問自答した。

「わからない。でも目覚めたら、そう思えるかもね、それじゃ、

ちょっとだけ、おやすみなさい、パリ!」




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 バルコニーのそばにベッドを持って来たい春になりました。
パリは遠いから、自宅のバルコニーでやりましょう!


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年2月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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