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リサコラム
連載969回
      本日のオードブル

『もしもあの時、』

第9話

「コッツウォルズの

養蜂家」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





広々とした芝生の庭

モリス、ジェーン一家と

画家のロセッティの3人の

奇妙な組合せの共同賃貸の家

今でもそのままの状態で

見ることができるケルムスコットマナー

ハウス。

150年以上、時が止まっています。


 



第9話 「コッツウォルズの養蜂家」




 僕の成田離婚を涼しい顔で軽くあしらっていたのは、小暮さんも

15年前に似たような経験をしていたことがわかると、なあんだと

いう気合の抜けた気分になった。「小暮さん、小暮さんが離婚され

た理由は何です?やっぱ、僕と同じでシャーロッキアンだったこと

に起因するんですか?」


            


 「まあ、それも一理あるかも。趣味は人それぞれだからね。

でも、パートナーの趣味を受け入れないのはどうかなと僕は思う

よ。どんなにのめり込んでも、相手に害を及ぼしているわけでは

ないならね」


            


 「たしかにそうですね」と僕は言ったものの、今にもお化けが出

てきそうなボロボロの古い家をリフォームしながら、別宅にするの

には理解に苦しむ女性も多いいはずだ。僕の元妻は何でも新品が好

きで、アンティークはわからないと常々言っていたし、ましてや、

100年も経った家をリフォームして住むくらいなら、新しく建て

るか、新しいマンションを買ったほうが遥かにいいと言うだろう。

小暮さんの趣味にもろ手を挙げて賛成する日本人女性はきっと少数

派だろう。優雅なアフタヌーンティの似合う家であったとしても、

ネズミとか幽霊が出る家より、ピカピカ光る床の家の方がいいに決

まっている。僕は余計な心配をしながら小暮さんにそんな質問をし

た。


            


 
小暮さんは黙って格子窓の方を見ると、「あの窓から見えるのは

八王子の山の風景だけど、僕にはコッツウォルズに見えるんだよ。

ここは、イギリスのコッツウォルズ地方の館だと思っている」

「コッツウォルズですか?それって、あのウイリアム・モリスの

別荘のある場所でしたっけ?」


            


 「そうだ。ヴィクトリア朝の生活、文化を語る上でなくては

ならない人物を3人挙げるとしたら、僕は、ヴィクトリア女王、

シャーロック・ホームズ、そして、ウイリアム・モリスを挙げる

ね。僕はベイカー街に住みたいとは思わない。けれど、コッツウ

ォルズになら住みたいと思う。中世から時間が止まったような、

よく言われる蜂蜜色の村々、もちろん、コンビニどころか、食料

品店なんてものもほとんどない。でも、そこが、僕の原点のよう

な気がしているんだよね。ホームズは引退後に養蜂をやっていた

というが、きっとコッツウォルズのような村だったろうと僕は思

っているし、人生の終わりがけに住む場所は自分の原点であって

欲しいと思うからね。田舎で生まれ育ったから都会で終わりたく

ないんだよね。でも、妻はそうではなかった。彼女は、田舎は嫌

いだから、まあ、これでよかったと今は思っているんだよね」そ

う言い切った小暮さんは感慨深げな表情をした。


            


 「でも、時々、寂しくなったりしないですか?」小暮さんは

ふふっと笑った。「僕はシャーロック・ホームズと心中している

んだよ」と言ってから。さらにこう付け加えた。「つまり、21

世紀に生きてはいても、精神は常に、19世紀末から20世紀に

かけての繁栄を謳歌した大英帝国、ヴィクトリア朝にいるんだよ

ね。でも、その時代を研究すればするほど、今と似ているような

気がしてくる。ヴィクトリア女王の治世に帝国はインドもオース

トラリアも手中に納めていたし、世界最大の国土になっていた。

かつてのローマ帝国みたいにね。まさに日の沈まない国だった。

今のアメリカか、中国みたいにね。でも、元はアメリカだって、

イギリスの植民地だったんだからね。さらに、欲張りなイギリス

は90年間もロシアと
地球儀の上でチェスのゲームやっていたん

だよね。いわゆる
グレード ・ゲームっていうやつだよ」

グレード ・ゲーム?」僕は面白そうになって身を乗り出した。



            


 「平たく言えば領土争奪戦ってことだね。それはアフガニスタン

の上で始まったイギリスとロシアの一進一退の攻防戦下でそういう

呼び名がついたんだけどね。その後は中央アジア、極東地域に至

り、後に日本、中国、アメリカというプレーヤーが増えていった。

世界はそれから第一次、第二次世界大戦と進んでいったけど、


ヴィクトリア朝時代の世界の動きを見ていると、次に何が起きるか

わかるってことだよ。今だって、人間は地球をチェス盤にし続けて

いるんだから」「ふ~ん、なるほど、ですね」でも、僕は次にどう

続けたらいいのかわからなくなった。


            


 「僕がシャーロック・ホームズにのめり込んだのも、たまたま

書店で『シャーロック・ホームズの冒険』に出会って、悪をやっ

つけるヒーローに恋してしまったからだけど、でも、常に戦渦に

あった僕の前の人々もそうだったんだ。人間の歴史は繰り返すん

だよね。でも、もし、シャーロック・ホームズの生みの親のコナ

ン・ドイルが、自身が開業した眼科が流行っ
ていたら、小説なん

て書かなかっただろう。しかし、実際は、開業しても患者がさっ

ぱり来なかったから、仕方なしに小説を書き始めてこうなった。

だから、もし、ドイルが医者を続けられていたら、その後の世界

はずいぶん変わっただろうと僕は思うね。だって、世界中で翻訳

され、150年以上も読み継がれている探偵小説なんてないよ。

それどころか、小説だってなんてないからね。今の世界も、

裕ちゃんの成田離婚も、僕の場合も、もしも、あのとき、こうし

ていたら、今とは変わっていただろうっていう瞬間ってあると思

う。そのターニングポイントがね」


            


 僕はそんなふうにゆったりとした雰囲気でしみじみと語る小暮

さんを初めて見た。いつもは悪ふざけをして僕を脅かしたり、

けむに巻いたり、そうかと思えば、ニヒルに無言を決め込んだり

する小暮さんしか知らなかったから。ああ、小暮さんも、ひとり

の悩み多き人間だったんだ。そうか、そうか、なあんだ!


            


 もし、あの日、荻窪のキャッシュオンデリバリーのバーカウン

ターの僕の横に座っていた元妻が僕の皿のピーナツを黙って食べ

なければ、僕達は知り合うこともなく、そしてそのバーでデート

することもなく、そして、そこで、シャーロッキアンのHさんと

出会うこともなく、そしてまた、「ベイカー街221B」という

風変わりなバーの店名の意味を知ることもなく、シャーロック・

ホームズを知ることもなく、意気投合した元妻とも結婚すること

もなく、片岡義男の『スローなブギにしてくれ』のままのバイク

乗りを続けていて、今頃、僕は…そこでたはたと気づいた。もし

、僕のピーナツの皿が横取りされなかったとしたら、離婚した今

と同じ、1Kの共同トイレ、ふろなしのアパート暮らしを続けて

いただろう…そうか、ちょっと脇道のバイパスを走っただけで、

結果、同じ道に戻っているだけなのか…。


            


 「ああ~」僕は深いため息をつきたくなった。そして、つい

た。心の中で。それから、それまで考えもしなかったが、ホームズ

のように、そして小暮さんのようにコッツウォルズに引退して養蜂

家になるのもいいなと思えた。どの道、僕が今と同じ暮らしに戻っ

てくることを、小暮さんは推測していたということだろう、きっと

そうだ。ホームズと心中しているくらいの人だから、当然、わかっ

ていたはずだろう。僕は深い溝が刻まれた小暮さんの広い額とパイ

プを加えたホームズの横顔とを交互に見比べていた




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1


 コッツウォルズに行きたく○十年が経ちました。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年5月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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