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リサコラム
連載984回
      本日のオードブル

『饒舌の時』

第9話

「女優、翠子」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




花吹雪を

浴びながら

美しい女性が

歩く満月の夜

絵になる風景

いいぇ、人生




 



第9話 「女優、翠子」



 「『明日はどうなるか分かりませんから』母の口癖はそれでし

た。それがその通りになったといえば、さすがはお母さんとでも

言う他はありません。しかし、この場を借りてどうしてもお話し

したいのですが、それは15分ほどの出来事だったのです。


            


 久しぶりに帰省した私は、その日、母に言われて、好物のプリン

をすぐご近所のケーキ屋さんに買いに行きました。ほんの15分間

くらい家を空けたのです。


            


 ケーキ屋さんのご主人は、母の同級生でした。つまり、ほぼ同じ

場所で、かれこれ80年もの長いお付き合いをして下さっておられ

たのです。その日は、店頭にはもう立たれなくなったご主人が、わ

ざわざお店の前に出て来られて、30年ぶりにお話しをさせていた

だいたのです。『若い頃のお母さん、翠子さんはとっても美しかっ

たんですよ。今のあなたそっくりで』と、ご主人は私に話かけられ

ました。それから、昔話が始まりました。


           


 『もちろん、今でもお美しいですけどね。高校生の頃は演劇部で

一緒に舞台を踏んだ仲間でしたから。その時、翠子さんは舞台に上

がると、まるで別人みたいになって、あれって、何なんですかね?

何かが降臨するというのか、別人格になった感じがしたものでした。


            


 チェーホフの『桜の園』という劇をやったときですが、没落貴族

のラネーフスカヤ夫人の麗々しい演技と言ったら、今でも、思い出

すと、ぞくぞくするほどの迫真の演技でした。ほんとに素晴らしい

女優さんになれる素質十分だったのに、それなのに、大学進学のた

めに演劇部をすっぱりやめて、まぁ、こう言ってはなんですけど、

おもしろみのない法学部に行ってしまわれましたから。私は私で、

結局は父の洋菓子店を継いで、今では息子に引き継いでもらってま

すけど。お母さんは結婚されてからは家庭に入られましたからね、

私はそれが残念でした。しかし、5人のお子さんを育て上げて、

その上、あなたを有名女優さんになさったんですから、すばらしい

としか言いようがないです。なんたって、朝ドラのヒロインですも

んね。テレビで見たときは、びっくりしました。若かりし頃の翠子

さんをそのものでしたよ。桜吹雪を浴びながら歩くシーンなんて…

いや~美しかったな~。こんなことになるなんて、やっぱりDNA

ですね。ほんと、地元の誇りですよ』とご主人は懐かしんでくだ

さいました。


            


 私は、『そう言ってくださると、うれしいです。でも、私、初め

て聞きました。母がそんな舞台女優をしていたなんてなんて。そん

な話はついぞ聞いたことがありませんでしたから』と答えました。

すると、ご主人は、『あら、そうですか、それは驚きですね』とび

っくりされたのです。私はたまたま時間ができて、久々に実家に帰

ってきたところで、そしたら、今日はちょっと具合悪いって言って、

それで、どうしてもあのお店のプリンが食べたいって言うもので

すから、買いに行ったところでした。そして、ケーキ店のご主人と

こんな風に話しが弾みました。


            


 『そう言えば、最近お母さんはクラシックバレエを始められたそ

うですね。すばらしいな~その意欲というかなんというか、もう

10数年も続けておいでですよね』『もう、いい加減やめたらいい

んじゃないのって、だって80でしょ?それ言うと、喧嘩になるん

ですけど。でも、それで元気でいてくれるんだったら、まあ、いい

かなって思ってます。チュチュを着た姿を想像するとちょっと恥ず

かしいから…』


            


 『恥ずかしいなんてことありませんよ。ここまで来たら、もう何

も怖いものなしですよ。何をやってもいいじゃないですか?お母さ

んは、ほんとは、女優さんになりたかったのかもしれませんね。

でも、専業主婦になって、立派に家庭を築いて、5人の子供を育て

上げるっていうのは、並大抵のことではありませんからね。ほん

とにグレートマザーですよ』『グレートマザーなんて言われたら

きっと母はクールを装うでしょうけど、内心、喜ぶと思います。

私たち、いつも電話で喧嘩ばっかりしてるんですよ。やっぱり、

世代間ギャップはありますからね。それに母はああいう性格で

しょ、いつも忙しく立ち働いていて、でも私は優柔不断なとこが

あって、なかなか決断ができないことも多くて、ずっと衝突して

いました。でも、今日のお話しを聞いて、これからは仲よくした

いと思いました。ほんと、ありがとうございます』と、そんな話

で10分ばかり店主と盛り上がって、女優だった母の土産話と

プリンを持って、意気揚々と戻ったんです。


            


 その時、母はすでに、こと切れていたのです。あと5分早く

発見していたら、救急車に乗せることはできたかもしれない、

まっすぐに帰っていたら延命措置ができたかもしれない。

でも、ケーキ店のご主人から母の若い頃の貴重な話は聞けな

かった。いや、あれでよかったのだ、とか、2年間、

その“たられば”を反芻して来たのです。しかし、母の最期の

瞬間はもちろん、誰のせいでもありません。


            


 母は気丈で、他人にも自分にも厳しい人でしたから、のんびり

くつろいでいるところなんて見たことがありませんでした。母は

自分の最後を感じて、私をケーキ屋さんにやらせたのかもしれな

い、自分の最後を誰にも見せたくなかったのかもしれない、苦し

む顔を誰にも見せたくなかったのかもしれないと、そう思ってい

ます。


            


 それに母はよく、夏目漱石の『虞美人草』の主人公の藤尾の

ことを話題にしていました。最後にショック死する主人公なんて、

都合よすぎるなんて言ってましたけど、でも、『我の女』と言

われた藤尾の最期にかっこよさを感じていたのかもしれません。

こんな死に方は、望んでもなかなかできるものではありません。

そう思えば、母の根っこは女優だったんだろうと、そして、最後

の最後で自分の人生を演じきったのだと、今は、そう結論づけて

います。


            


 母の3回忌にお集まりくださった皆さま、遠路はるばる、本当に

ありがとうございます。まだ、母のお化けは見たことがありません

が、3回忌のこの場で、最後に拍手喝采をいただけたら、母、

いや、女優、翠子は本望でしょう」




   




上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1


 2名の方から伺った実話を元に架空の物語を

書きました。

翠子さん、いいお名前ですね。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年9月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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