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リサコラム
連載993回
      本日のオードブル

『ノックの音が』

第8話

「Akikoと呼ばれて」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




イチョウ並木のある街には

春夏秋冬、

すてきな人たちの

営みがあるようです。

ちょっと覗いてみましょうか?

Akkoさん!



 



第8話 「Akikoと呼ばれて」



 「アッコ、いいかげん、起きなさい!」階段の下からヒステリック

な声が聞こえてきた。私の朝は、毎日、この叫び声から始まる。いっ

たい何千回、聞いたことだろうか?365日の内、およそ300回、

この声を聞きながら目が覚める。私に与えられた静寂な朝は、元日、

2日、3日の正月の三箇日と、お盆の13、14、15日と、週一回

の休みしかない。その日だけが、「アッコ、いいかげん、起きなさい

!」という声を聞かずに済む日となる。


            


 世の中の3分の1 が休みだという人もたくさんいる世の中だが、

それでも、父、母より恵まれた待遇故に、文句をいう相手がない。

それに、優雅なマンションにひとり暮らしをすることは、もう、喉

から手が出るほどにやりたいことのひとつなのだが、そんな素敵な

ライフスタイルは夢のまた夢で、この古びた実家の2階に住めるこ

とを「アッコは、恵まれてるよ」とか、「文句なんてないでしょ」

と友人たちは私の暮らしを美化して褒めたたえる。私からすれば、

まるで誤解もいいところだが、そう反論しようものなら、彼女たち

は口々に会社やパワハラ上司の話を持ち出して、比較検討し、

「だから、アッコは恵まれてるのよ」と説得する。いずれにしても隣

の芝生は青く見えるということだが、ぐっと自分を抑えて、「アッ

コ、いいかげん、起きなさい!」で起こされるまでの束の間の夜を

安寧に過ごすだけだ。


            


 それにしても今どきは、キラキラネームもたくさんあるのに、

私の名前は単純に、春夏秋冬の秋に子供の子。母の名前は春夏秋

冬の春に子で春子。父は秋に夫と書いて、秋夫。姉は、夏子。妹

が冬子。つまり、秋夫と春子の長女が夏子で、次女が秋子、三女

が冬子と春夏秋冬が揃っている単純な名前の家族なのだ。単純さ

は、それだけではない。家業は和菓子屋、通称、「団子屋」で、

その屋号は『春夏秋冬』というから笑いのネタにしかならない。


            


 団子屋というのは、お祝い事、お悔やみ事、そして季節の行事、

節句、七五三や夏祭りや秋祭りなど、そしてお正月用の餅など様

々な和菓子、餅菓子を作るのだから、『春夏秋冬』という屋号も、

子供にそんな名前を付けるのも、理にかなっていると言うべきか

もしれないが、まさに、漫画のような一家だと傍からは見えるの

だろう。


            


 私はこの名前が子供の頃から大嫌いだった。小学校から名前では

なく、あだ名の“団子屋”と呼ばれた。姉も妹も、事情はほとんど

変わらなかった。「だんご三兄弟」という歌が流行ったとき、友人

たちから「だんご三姉妹」と、どれだけ、からかわれたかしれない。


            


 そういう家に生まれた子供は、誰も団子屋と呼ばれたくはないと

思うのはやむを得ない。まず、長女が中学を卒業して、寄宿舎のあ

る学校に進学して家を出た。そして、今はサラリーマンの夫と共働

きで、必死に家族を養っている。機転の利いた妹は、高校生から海

外留学をしたいと言い出し、ニュージーランドに留学し、今は現地

の人と結婚し、日本には戻るつもりはないらしい。さらに、3年に

1度ぐらいしか帰ってくる事はなく、実家に泊まることもない。そ

して、まん中に生まれた子供というのは得てしてぼんやりしている

もので、優秀な長女や要領のいい妹は、家出をするために鋭敏な触

覚を働かせて、ここぞという時に自分で自分の道を切り開き、さっ

さと出て行ってしまうものらしい。そして、私に残された選択肢は

別名イチョウ通りという並木道商店街にある、『春夏秋冬』という

団子屋を継ぐことだった。


            


 そうして、私は朝4時半から「アッコ!」と言う声で起こされる

ことになった。眠い目をしばしばさせて、すべての段が軋む階段を

15段降りて、そしていまだにちゃぶ台のあるリビングらしき、テ

レビのある部屋から、台所に立っている母親に「おはよう」と挨拶

をする。すると、母は「おはようございます」とわざと、丁寧な挨

拶で返し、私に注意喚起をする。それでも私は無視して顔を洗いに

行き、その後、母と父と私の3人はダイニングテーブル、その上に

は調味料やら何やらやらがいろんなものが乗ったテーブルの上で朝

ご飯を食べる。朝ご飯は決まって同じメニュで、お味噌汁にご飯、

鮭の塩焼きか、さんまか、あるいは時として目玉焼きが並ぶ。食事

が終わると、私が片付けにはいり、父と母は早速、店兼工場に出て

仕事を始める。朝9時にはすべての商品がちゃんと並んでなくて

はならないので私もバタバタと後片付けをすると、マスクに防護

服のようなものをつけて一緒に作業場に立つ。


            


 そんな日々の中にも1つだけ楽しみがある。それは、私たちの店

が一段落つく秋の祭りが終わり、そしてお正月用の準備を始める

2週間ほど。その期間だけ、忙しさから解放されて、ちょっと落

ち着く暇な時期になる。その時期が来ると、私はぶたの貯金箱に

貯めたお金を土間でバン!と割る。そして陶器のかけらの間から

硬貨で10万円ほどを拾い上げる。それを銀行で紙幣に両替して

もらい、私はそのお金を握り締めて、なじみの洒落たブティック

に行く。そこで、今年の最新流行のコートにタートルネック、ブ

ーツ、バッグなど購入する。


           


 実は、私は1つだけ両親に感謝していることがある。それは両親

DNAで私の身長も180㎝近くあることだ。それに割に痩せ型

だから、その洋服屋さんの秋冬の宣伝のモデルになっているのだ。


           


 「秋子さんこれ着て歩いてください」そう言われて私はその店

の服を買って着て、イチョウの並木道を歩く。するとお店の人た

ちがスマホやカメラを持ってパシャパシャと私を撮影する。

「秋子さん素敵!」「秋子さんこっち向いて!」「最高!かっこ

いい」「パシャパシャパシャパシャ」そうやって彼らにおだてられ

て、私はファッションモデルもどきになる。もちろん、服は自腹だ

が、モデル代として、お安く手に入れられるから、私にとってはう

れしいイベントごとになっている。さらに、毎回、「秋子さん、そ

んなにスタイルいいのに、なんでファッションモデルにならなかっ

たの?」とスタッフの人からおだてられるから、それがうれしく

て、毎年買い続けるようになった。


           


 そして、今年になって妙なことがあった。それは、ある朝、4時

半に私の部屋のドアが「コンコン」ノックされたことだった。うち

には、そんなプライバシーを尊重するような人間などいないはず

だから、妙に感じた。


            


 「コンコン」2度目のノックが聞こえた。私は恐る恐るドアを開

けた。母だった。「アッコ!いい加減に」と言われるかと思いき

や、「こんなものがポストに来てたよ」と言った。それは『ミス並

木道』に私が選ばれたという通知だった。ブティックのスタッフさ

んが『ミス並木道』コンテストに代わりに応募してくれたらしかっ

た。


 “人生、捨てたものじゃない”というセリフはこんなことが起きた時

に使うものだと思った。それから『ミス並木道』に選ばれた私は、

表彰式で喝采を浴び、副賞も頂き、1週間、様々なイベントに出

た。そしてそれが終わると、また、何事もなかったかのように忙し

い同じ団子屋の仕事の日々が始まった。


            


 期待していたスカウトの話も来ることはなかった。ただ、ひと

つ、変ったことと言えば、毎朝、地響きのように私の部屋の引き戸

を揺らしていた、「アッコ、いいかげん、起きなさい!」という母

の叫び声が止んで、それがノックの音に変わったことだった。




   




上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1



秋子、亜希子、亜紀子、昭子、明子、晶子さんなど

同じ音でもたくさんの漢字があるAKIKOさん。

感じるのは、ほんとにいい方ばかりということです。

いい季節ももうそろそろ、冬と交代ですね。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年11月号へ。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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