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リサコラム
連載508回
      本日のオードブル

来のわたし
一番
きなかたち

第11話

「白い家」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


まずは
白い小さな
家に棲みたいと
長年思っていました。
壁も出窓もカーテンもシェードも
家具もベッドリネンも全部真っ白で、
もちろん、タオルもパジャマも何もかも。
いろんな色どりや柄やデザインを
付け加えるのは
私の夢が
実現して
からと
思っていたからです。

 
      
  





       

第11話 「白い家」

 

6つの辺を作りながら楕円に張り出した出窓に彼女は腰を下ろしていた。


              



 薄ネズミ色から、だんだんと青白くなってゆく空が広いベッドルームに光を投げ

かけるまでをじっと待つかのようだった。


 こんなに穏やかな気持ちで休暇を過ごせるのはおそらく1年ぶりくらいではない

かと彼女は思った。この別荘を作るまでに起きた仕事上の様々な出来事も問題も抱

えきれないほどにたくさんあったにはあったが、しかし、この別荘の床の色や、窓

の作り方、窓に掛けるシェードの生地の素材に至るまで、こまごましたことをひと

つひとつ喜々として悩んだことの方がよほど彼女にとっては大事なことだったよう

に感じていた。

               

 それなら、彼女以外の女性にとっても、男性にとっても、棲家のことがまずは一

番の課題のはずで、住む家なくしてはそれ以上の大きな問題などなきに等しいはず

だと思った。


 ひとつの家を作り上げるまでの工程はミリ単位にカットする料理の素材や小さな

計量スプーンの調味料のさじ加減のように細やかだった。そして出来上がってみる

と、もし床板の幅があと1mmでも大きかったら入らなかったかもしれないように、

そのひとつひとつのパーツはまるで最初から神が創造したパズルに沿ってあらかじ

め作られていたかのようにぴったりとはまり込んでいるように見えた。


               


 まだ夜明け前から彼女はじっと出窓に腰かけたまま、グレーから青みを帯び始め

た空の色がだんだんと生クリームのような純白を帯びてその本来の白く輝く美しい

ベッドルームが彼女の前に現れるのを待ちきれない思いで、ただじっとしていた。

あらゆる汚れたものを吸い込んで消し去る浄化能力を持つような白い空間。そこで

静かにその時と一緒に過ぎゆくのを楽しむ。そんな束の間の美しい時空間を待ち焦

がれている女性がどんなに多いことだろうか。彼女は小さくうなずいた。


             


 当初、この別荘の場所には打ち捨てられたような民家が数件建っていた。水不足

のため、断水も続くこの町には商店も少なく、人々は車で隣町まで働きに、買い物

に出かけて行くため過疎化も進んではいたが、美しい自然はふんだんにあり、教会

を中心にした穏やかな人々の交流もまだ残っていた。


 そんな場所にあえて別荘を建てたいと彼女が友人の設計士のジェニーに相談した

とき、ジェニーは彼女の漠然とした夢や思いをまるで手品師が帽子からスカーフを

するすると引き出すように見せてから、「イースト菌と砂糖と塩少々を加え練り上

げるから少し考えさせて」と言った。しばらくして二人の間に置かれたパン生地が

ふっくらと膨らんだところで、予算と夢をすり合わせる率直な意見交換というガス

抜き経て、そのまとまったものを切り分け、それぞれの担当に渡された。そしてい

よいよ、ゴーとなると、1年後、想像以上に美しく、住めばさらに味わい深そうな

心地よい家というパンがほぼ完成していた。


          


 ジェニーは、「きちんと手順を踏んだ設計とプランがなければ夢の完成は難しい

わね。計画のない仕事や設計のない人生がうまくゆきっこないのと同じでね」と言

った。「だから、パンを作るのと同じよ。最初と最終がきちんとしていれば、あと

はなんとかなるものよ」そう言うとぷっくり膨らんだほほを紅潮させた。それはほ

んとうによく膨らんだコッペパンのように愛らしかった。彼女はジェニーという友

人を持っていることを秘密にしておきたいとその時思った。


              


 それから別荘が完成間近になったある日、彼女は多忙な仕事の隙間をなんとか無

理やり押し広げて、車を飛ばして建築現場にやって来た。


              


 「あと1週間で完成よ」ジェニーはにこにこしながら彼女の手を引いた。「もう

間もなくね。これまでいろいろとありがとう。あなたのおかげだわ」「そんなこと

はないわよ。女性に夢と希望さえあれば、あとは時間と私たちイースト菌が働くだ

けだし」そう言うとまたころころと鈴虫が鳴くようなかわいい声で笑った。「だか

ら、安心して頑張ってね。私たちの業界では主導権を握っているのは99%女性だ

から。つまりは女性の夢を形にする仕事だから。それにその先だって、ここにどん

なカーテンをかけて、どんなベッドリネンを使ってベッドメイクをして、どんなテ

ーブルクロスをかけて、どんな料理を作って、パーティにどんな友人を呼んでなん

て、みんな女性のテリトリーでしょ。そこにどんなドレス着て、どんな靴を、バッ

グを、どんな車に乗ってやってこようかなんて、そんな夢があるから、ものが作ら

れて、ものが動いて、この地球はまだ回転しているんじゃないかしら?幸せで楽し

いものは全部女性が握っているのよ」ジェニーは歩き回りながらそう自信たっぷり

に話した。それを彼女は黙って聞いていた。


         


 そして30分ほどの短い最後のミーティングの後、彼女が車に乗り込もうとしたと

き、ジェニーは彼女の後ろ姿に向かって声を張り上げた。


               


 「この白い家はあなたの本当の夢なんでしょ?将来、これよりもっと大きな白い

家の主人になったら、こんな素敵な建売の家をこれからどんどん売り出すからね!

“ヒラリー”をまだ世界の人が知らなかったころの”ホワイトハウス“って名前に

するから、覚悟しておいてね!」


               


 まだ出窓に腰を下ろしたままの彼女は東向きのホワイトベッドルームがやっと真

っ白いクリーム色に覆われた時、1か月前に背中で聞いたジェニーの言葉を右手の

固い握りこぶしの中にしっかりと握りしめていた。


    


      



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

p.s.1

 ヒラリー・クリントン氏が初の女性アメリカ大統領になろうと
決断した今より若いある日という想定で架空の物語を作りました。
 私も女性のひとりとして、オーバルルームにフリルのついたクッションを
置く日が来て欲しいと思います。そこにメルケル氏がやってきて、
「フリルのクッションカバー!なんて素敵なお部屋なんでしょう!」
というようなシーンを思い描いています。
 そのころ、女性の大統領の数は今より増えているのかもしれませんが。


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

              

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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