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リサコラム
本日のオードブル

第40回

知的生活の方法


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。
好きな作家は、夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン


   
  午前4時、半地下の書庫

  「これからの2時間は黄金の、静かな私の時間」 

             なんて、いえる日は、来るかしら?

 

       

知的生活の方法




 まだ若い読者様がこの世に生まれていないころ、今から約30年も前、日本

のほぼ全国民が子供から大人まで、ヒートアップした時期があったのです。

今は、ソフトバンクホークスの監督、王貞治さんがジャイアンツの選手だったこ

ろ、通算のホームラン記録をハンク・アーロン選手のそれと争っていたときがあ

ったのです。ハンク・アーロンの755号のホームラン記録を塗り替える日を、今

日か明日か、今か、今かと息を詰めて見守った幸せな日々があったのです。

当時、王選手は、ライトスタンドにホームランを打込んでいたため、そのホーム

ランボールを取ろうと、内野席より、ライトスタンドの外野席のほうがいっぱいに

なっていたほどです。ハンク・アーロンとタイになってから、なかなか、次の世界

新が出ませんでした。今まで野球にぜんぜん興味もなかった人々までもが熱

中した熱い熱い夏した。少年野球をしていた子供たちはもちろんでしょうが、野

球にあまり興味も関心もなかった女の子たちまでもが、なんだか浮かれ気味

の毎晩を過ごしていました。そしてあれは、突然としてやってきたのです。それ

は、予想だにしなかった出来事でした。



 「あなた、何を読んでいるんですか?」ライトスタンドの外野席で、ひとり椅子

にもたれかかって本を読んでいる男性にテレビ局のインタビュアーが尋ねまし

た。全国民が世界新記録を待ち構えている時に、“この男性は、いったい何を

考えているんだろう”、というニュアンスが伝わってきました。彼は、王選手のホ

ームランボールを目当てにきているので、もちろんゲーム自体には何の興味も

ない様子です。彼は、自分は大学生だといいました。そして、読んでいる本の

タイトルは、『知的生活の方法』だと答えたのです。今から30年も前です。


 “知的生活”、私は雷に打たれたような衝撃を感じました。全国民が王選手

のホームランを、まさに息を止めて見守っていた時、そんな時に、悠々と彼は

『知的生活の方法(渡部昇一著)』を読みながら、王選手のホームランボール

を待っていたのです。                             


 彼が発した「知的」、「生活」、「方法」その一句一句が私の記憶に深い深い

溝を刻みつけました。この場に及んでなんと“スタイリシュな”、“かっこいい”

私はそう感じたのです。そして、その『知的生活の方法』とは、どんな本なんだ

ろうと、きっと大学生になったら、読んでやろうと誓ったのです。また、同時に、

王選手のホームランは、私にさして意味を成さなくなりました。
            


 それから数年後、私は本屋さんで偶然出会ったのです。『知的生活の方法』

に。中学3年生くらいだったと思います。講談社現代新書から出ていました。

私は何かにはまりやすいタイプらしく、小学生から、「邪馬台国の卑弥呼」、「ナ

ポレオン・ボナパルト」、「シャーロック・ホームズ」にと次々に傾倒していました。

でも、またしても、のめりこんでしまったのです。それは大学生まで続きました。

私は、一言一句なめるように何度も何度も読みました。そして、毎年、何かの

拍子に思いだしては、今でも持ち歩いています。最初の数ページは、糊が渇い

てばらばになり、赤鉛筆でたくさん線が引かれています。まさに、バイブルでし

た。もちろん、今でもバイブルに違いありません。その1cmほどの厚みの本から

まさに私の人生の中核をなすような、啓示を受けたのです。渡部昇一さんは

上智大学の英語学の教授でした。大雑把にいえば、 知的生活とは、常に本

を読み、自分の蔵書を増やし、そこから創造し、発想する生活スタイルのこと

を指していました。
                                           


 「わかるふりをしない」「知的正直」という言葉にまず目からうろこ落ちました。

こどもの頃に、エドガー・アラン・ポーを読んだから、もう大人になって読む必要

はないとか、漱石の『我輩は猫である』と、『三四郎』を読んだから、もう漱石は

わかったなどと思いがちです。それは、「大作家が自己の全力を傾注した作品

が、そう簡単におもしろいと思える少年がどこにもかしこにも居るわけはない」と

著者は述べます。「それは、子供のときに不適切なキリスト教教育を受けて、

“ああキリスト教はあんなものだったよ”と言うようなものだからである。ここに名

作をあまりに若いときに読む危険が潜ひそんでいる」と。私が大学生のときに、

ボードレールやランボーの偉大な詩人の詩の講義をとったことがありました。授

業は、一語一語訳しながら、遅々とした速度でしか進みません。複雑に韻を

踏む、フランス語の詩に加えて、隠喩、暗喩だらけのその詩に不快感を覚えて

も、美しいとはどうしても思えなかったのです。しかし、私はこの言葉を知ってい

たので、それに不安を感じることなく、不快感を受け止めることができました。 

「大作家の能力の中に異常な要素、あるいは病的な要素があって、日常的な

意味で健康な家庭に育った子供には、いやな感じがするのではないかと思う

ときがある。」だから、私は、芥川賞作品ではあっても、「村上龍さんの『限りな

く透明に近いブルー』は、私にはよくわかりませんでした」、と言うことができまし

た。


 そしてその後読んだ、やはり講談社現代新書から出ている福島章さんの『天

才ー創造のパトグラフィ』という本には、こんなくだりがあります。(大作家の)

「作品のなかに病的体験が持ち込まれて、人間性の深淵や、不思議な気分

や世界をかいま見させる結果となるのは、阿片や幻覚剤に親しんで詩集『悪

の華』『パりの憂鬱』を書いたボードレール、アルコール中毒のほかにさまざまな

薬物乱用があったといわれる作家E・A・(エドガー・アラン)ポーなどがあげら

れる。」つまり、読者自身が健康な精神でその作家の作品を読み、その世界

を同じように実感するには、おのずと無理があるということです。
           


 プロフィールにもあるように私はフランソワーズ・サガンの小説が愛読書です。

フランス語の原書を常に1冊持ち歩いては読んでいます。それと一緒に朝吹

登美子さん翻訳の日本語の同じ本も持っています。つまり、原書と翻訳を同

時に読んでいるのです。しかも何度も繰り返し、繰り返し、読み返しています。

世界的名作の原書が辞書なしで、すらすら味わえるわけがないからです。朝

吹登美子さん翻訳の美しい日本語の力を借りて原書を読むことは、11

辞書を引きながら読む苦痛に比べると何百倍も楽ですし、健康的な読み方で

す。しかも早く読め、何度でも読みたくなります。何度でも読むことでその作家

の心情に少しでも近づけるような気がするのです。
                    


 『知的生活の方法』という本は“ライフスタイル”という言葉も、そういうハウツ

ー本もない時代に、初めて出された“ライフスタイル本”ではなかったかと思う

のです。世代を超えた多くの人々に向けて、“このようなライフスタイルを持つこ

とのすばらしさ”を教えてくれた、不朽のベストセラーだと思います。だから、1回

のこの小さなコラムですべてを取り上げることは不可能ですし、このコラムに他

のタイトルをつけるのも失礼なような気がするほどなのです。
             





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木村里紗子 Risaco

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