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リサコラム
本日のオードブル

第41回

ブイヨン先生

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は、夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン


   
    「ニコラ、ちゃんと先生の目を見なさい!」

                「はい、ブイヨン先生...」

 

       


ブイヨン先生




 “Le petit Nicolas”(ル・プチ・ニコラ)、

日本名のタイトルは、「わんぱくニコラ」。有名なフランスの子供向けの絵本が

あります。子供のころ読んだその絵本は、スヌーピーの“ピーナツ”シリーズのフ

ランス版といったところだと感じました。サンペ絵/ゴシニ文となっていました。

この漫画は、ジャン・ジャック・サンペと、ルネ・ゴシニの共著という形で数多くの

シリーズが出版されています。サンペの描くユーモラスでひたすら愛らしく動き

のあるイラスト、小学1、2年生のニコラの一人称の言葉で綴られる、ゴシニの

文章。この絵本は、2人の息がぴったり合った大人も楽しめる絵本の傑作だと

思います。いたずらっ子のニコラ、親友のアルセスト、親分タイプのルフュス、 

ほらふきのジヨフロワ、泣き虫で優等生のアニャンたちが、学校や家庭でユー

モラスに大騒動を繰り広げる話です。いたずらやたわいのないけんかに大笑い

し、子供なりの友情にフランス人のこどもも「おんなじなんだな」と、感じることも

ありました。また時には、冷めた目で大人社会を見る、子供の純粋な心に打た

れた時もありました。子供が語る平易なフランス語で書かれているため、フラン

ス語の教材にもよく使われます。「ああ、こんな絵が描けたら、こんな文章が書

けたら、どんなに楽しいだろう」とよく思ったものです。               


先日、「私もニコラが大好きだったんです」というお客さまから、貴重なサンペ

の絵はがきを戴きました。“Les Vacances Du Petit Nicolas”(『ニコラ

の夏休み』)というペーパーバックが、“シンプル&ラグジュアリー“の本に写っ

ているのを(p.17)見逃さなかった彼女は、「でも、最近売ってないんですよ

ね」と、その貴重な絵はがきを数枚見せてくれました。「この中からお好きなも

のを1枚どうぞ」といわれて、私はすごく迷いました。なぜなら、全部欲しいと思

ったからです。きっとずるがしこい、ニコラならこう言うだろうと思いながら....

「この最新のゲーム機、ママのママからもらったんだぜ!すごいだろ、アルセス

ト!でも君にやるよ。このあいだ、世話になったからさ。代わりに、君のその絵は

がきと交換してもいいぜ。」といいながら、その実、ニコラはパパの上司からも、

“メメ”と呼ぶおばあちゃんからもおんなじ物をもらっていて、2つも要らないか

らなんです。でもアルセストは「え、ほんとかい?恩にきるぜ、ニコラ!やっぱり

親友はいいもんだぜ!」と。ニコラは、それをうまく物々交換する魂胆はもちろ

ん、見せません。そんな架空の会話を想像をしながら、彼女が差し出した数

枚の絵はがきの中から、苦渋の決断の末、私は一枚を選び出しました。   


“ブイヨン先生”は、そのニコラの通う学校の先生です。先生と言っても生活指

導をする、厳しい先生。いつもニコラたちの休み時間や登下校、悪ふざけやけ

んかに目を光らせ、厳格に取り締まる、恐い存在なのです。ほんとうの名前は

ムッシュウ・デュボン。ニコラもその仲間たちもその先生の前ではけっして“ブイ

ヨン先生”とは呼びません。それは、生徒たちの間だけのあだ名だからなので

す。そのあだ名の由来は、文章の中で、何度か出てきます。子供のころ、その

あだ名の由来に、私はとても感動したことを覚えています。ブイヨン(デュボン)

先生は怒る時、じっとニコラの目をにらみつけます。すると、にらみつけられた

ニコラは、自分の顔がブイヨン(デュボン)先生の大きな目の中に、2つ映るさ

まを見るのです。その様子が、ブイヨンなべを見つめた時、そのスープなべの

中に自分の顔が映って見えるときの様子と同じだから、それで、そのあだ名が

付いたというのです。つまり先生の恐い大きな目がブイヨンなべということです。

“そんな発想、大人じゃできない、きっと、作者の子供のころのほんとうにいた

先生のあだ名だったに違いない”、それにしても何という創造力だろう!それが

とても印象的だった、子供の私と“Le petit Nicolas”との出会いでした。  


 どうして今日はそんな話題になったのか、それはちょっとした秘密があるので

す。毎週、わたしは、この”リサコラム”を書きます。毎月の終わりには、次の月

の毎週のテーマを決め、手帳の金曜日の欄に記入します。でも、週の途中で、

もっとおもしろいテーマを思いついて、直前で替わることもしばしばです。ひとつ

のテーマを1週間のうち、5日間くらいずっと考え続けていることもあります。でも

下書きはせず、頭の中でその文脈が整った状態になって、初めてパソコンに向

かい、一気にキーボードでその文章を写し取るのです。ですが、どうしても、まと

まらないときがあります。そういう時は思い切って別のテーマを考え始めます。

すると、あっという間に文章がまとまることもあります。それはどうしてだろう、と

自分でも不思議に思っていたことがありました。それが先日、ある本の中で、こ

んな言葉に出会って一気に解決しました。と同時に、このコラムがするすると

出てきたというわけです。その言葉とは“みつめるナベは煮えない” アイデアを

見つめすぎると、煮詰まらないというたとえの言葉でした。            


そのとき、「早く、煮えないかな、早く煮えないかな」、となべのふたをとっている

ニコラの顔が浮かんだのです。するとニコラは、ブイヨンなべに写った自分の顔

を見つめることになる。子供のころに感動した、“ブイヨン先生”のあだ名が思い

浮かんで、このコラムを書こうと思ったという次第なのです。           


 その本とは、外山滋比古さんの『思考の整理学』(筑摩書房)でした。「大き

なテーマや問題は、長い間寝かせないと、解決にはいたらない」常に考え続け

ていても同じ思いばかりが堂々巡りするだけで、熟成されないということなので

す。ワインが樽の中で、そしてビンの中でも絶えず熟成される状態、“無意識の

中で、熟成させる”ということなのだと思い至りました。“Le Petiti Nicolas”

“わんぱくニコラ”がどうしてこんなにおもしろいのか、そして何十年経っても風

化しないのか、それは、「作家にとって、もっともよい素材は幼少年期の経験で

あるといわれる。素材が十分寝かせてあるからだろう。結晶になっているからで

ある。余計なものは時の流れに洗われて風化してしまっている」だから、長い

間、心の中であたためられていたものには不思議な力があるということなので

す。きっとサンペとゴシニの幼少年時代の思い出が結晶となって、この絵本と

なったんだな、と30年近くたってやっとわかった自分が恥ずかしくなりました。


 また、「努力すれば、どんなことでも成就するように考えるのは思い上がりで

ある。努力しても、できないことがある。それは、時間をかけるしか手がない。

幸運は、寝て待つのが賢明である。」という著者の言葉に救われます。世の中

には、一夜漬けのように出てくるアイデアもあれば、何十年という風化に耐えて

形を成したアイデア、もの、思想があるのだと今さらながら納得しました。30年

ほど前に始めて読んだ本と、つい2,3日前に買ったばかりの本が繋がったよう

に感じた瞬間でした。”見つめるなべは煮えない”、日常生活の中のちょっとし

た問題も、きっとこれで解決する糸口が見つかるかもしれません。      






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木村里紗子 Risaco

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