MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
本日のオードブル
第51回


砂丘の香り

 
木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン

     
           "ああ、かぐわしきかな、寂寥感....”

 

       


砂丘の香り





 『若葉の会からお電話ありました。お電話いただきたいとのことです』伝言メモに

書かれた文字を見て、3秒思案した私は、「ふふふ..なるほど、誤解するのも

無理はないわね」。すぐに折り返すと、電話口の相手は「私、今月で辞めるんで

す。実家の仕事を手伝うことになって..」「ええ、そうなんですか?それでご実

家は何をなさってるんです?」2秒の沈黙の後、「魚屋なんです」「それで甲斐さ

んが?」「へぇ~ほんとに?」「魚屋さん」という言葉に私は完全に予想を裏切ら

れました。彼のイメージとはあまりにかけ離れていていたのです。電話口の“若葉

の会”さんは、香水を専門に扱う輸入代理店の“わかば”の“甲斐さん”という名

前の営業マンでした。「『魚と香水を一緒に売るのか』と友達や同僚にからかわ

れました」と。彼は、“わかば”という香水問屋の2番目の営業マンでした。   



 最初の営業マンは15年前始めてマダム・ワトソンに飛び込みでやってこられま

した。「ご存知ではないでしょうが、香水関係を扱っております『わかば』と申しま

すが...」対応した私は、すぐに答えました。「知ってますとも、ハグネルフォー

ムバスでしょ、すっごく好きなんです。泡立ちが最高!愛用してますよ、もうずい

ぶん前から。それに、カボティーヌ、ヴァン・ベールでしょ、ローラ・アシュレイも扱

ってらっしゃいますよね...」飛び込みの営業でこんな反応をされるのがよほど

珍しかったのか、彼は見知らぬ町で、同郷の他人にめぐり合ったような雰囲気。

私はたくさんのチューブサンプルをもらい、その後、取引を始めました。それ以来

13年間私は香水のバイヤーもしています。朦朧としながらも、サンプルの香水を

DMに何千通も振りかけたこともありました。香りの受難でした。 


 本格的な“香水”との出会いは成田の免税店で、“VOL DE NUIT”(ヴォル

・ド・ニュイ)サンテグ・ジュペリの“夜間飛行”というネーミングに惹かれて買った

オードパルファムでした。しかし、オリエンタルアンバーやオリエンタルスパイシー

と表現される予想に反した渋い香りにほとんど使うこともなく、以来、“香水とは

難しい”ものだと感じたのが香水との最初の出会いです。
               


 そんな中で、いまだに愛読書となっているのは、婦人画報社の25ans(ヴァン

サンカン)の別冊で、その名も『香水』というものです。名香といわれるものの歴史

から香水のつけ方、『香りは女を完成させる、服でありジュエリーである』なんて

いうコラムも書かれてあり、辞典であり香水の世界を開かせてくれた読み物でし

た。


 1960年代に生まれた“カボシャール”というフランスの名香があります。“シプ

レノート”の中でも、“フローラル・アニマリック”に分類されるその香りは、苔の香り

にフルーツと、麝香のような動物性の香りを加えたもので、今流行の、“フローラ

ルフルーティ系”の甘い軽い香りとは正反対に位置するような香りです。“カボシ

ャール”の娘版と呼ばれるのが“カボティーヌ”です。“フローラル・グリーン”に分

類される、さわやかで少し大人びた甘さも持つ、香りの入門者向けとよく呼ばれ

る香りです。その雑誌の中で、パリに長く住む長坂道子さんという方が書かれた

文章にこんなくだりがありました。香水は、三週間に1ビンくらい使うという、パリの

マダムに聞いたところ、「『いわゆる香水、これは女の子が、“マダムの真似事”を

し始める13歳~14歳ごろね。私自身もちょうどそのころ、初めての香り、“カボシ

ャール”をつけ始めたわ』―う~ん
14歳にしてカボシャールであったか。- 

そういえば、昔、「ヴァンサンカン」の編集者をしていたころ、「これからはバイリン

ガルな女の時代。そういう人は辛口のイタリアンブランドを着、語学に堪能、そし

て香りはカボシャール」みたいなキャチフレーズを考えて誌面に載せたっけ..と

ここでも時間差のギャップを感じてしまったものだった」。カボシャールを14歳で

つける!私も同じ感慨を持ちました。彼女は日本には、「3週間に1瓶の時代は

やってくるのか」とまだ疑問符のついた感想をまた述べています。今は、日本で

はカボシャール系のシプレノートはほとんど見かけなくなりました。
           


 「おかげさまで、石鹸の香りの“CLEAN”は大ヒットいたしましてね、この秋から

は“WARMな”CLEANですよ」と紹介するのは、マダム・ワトソンで4代目のわ

かばの営業マンの方。ありそうでなかった“石鹸の香り”。この香りはわかりやすく

TPOを問わず使いやすく、ヒットする理由もよくわかります。私自身、職場で3本

目を使い切っています。しかし、自分の自宅でしか使わない香水も3つあるので

す。1つは、“シャンタル・トーマス”(Chantal Thomass)、もうひとつは、   

“バラ・ベルサイユ”(Bal a Versailles)、ベルサイユ宮殿の舞踏会という意

味の香水。1960年代発売で、“オリエンタルスパイシーアンバー”に分類されま

す。ロココ調の絵が描かれ、ベルサイユ宮殿の舞踏会につける香りにふさわしい

とネーミングされたらしいです。ミル、ジョイと並び数少ない天然香料のみを250

種類ブレンドした名香でありながら、今はほとんど店頭からは姿を消しています。

濃厚なオリエンタル系の香りだからだと思います。仕事や人前でつけることなく、

自宅のクローゼットから取り出しては、自分だけで楽しむ香りです。


 3本目は、クリスチャン・ディオールの“デューン”(DUNE)。15年ほど前当時

のパルファム・ディオールの社長の手で直接作られたという、当時かなりヒットし

た香水でした。同じく“オリエンタル・アンバー”に属します。
 


 それを買ったのは、バリのヌサドゥアという町のDUTY FREEでした。隣町のホ

テルからリムジンで送ってくれたものの、帰りのバスはやってこず、あたりは薄暗く

なり無事に帰る手段を失い、私はショップの中でひとりぼっちになっていました。

怪しげなタクシーは“サンゼンエン(¥3000)”と外から呼びかけます。そうか、

DUTY FREEで何か買ったら、ホテルまで無事送り届けてくれるに違いないと

踏んだ私は、一人きりの店内で、目の前にあった“DUNE”を手に取りました。そ

して真っ暗な山道をワンボックスカーに載せられて、やっとホテルに帰りつきまし

た。“DUNE”とは“砂丘”という意味です。その時はその香りがどんな香りなのか

ディオールの社長の手で作られたものだとかは知るはずもなく、心細さと不安な

気分の中で、とにかく手に取った香水でした。                    


 日本に帰ってから後も、“砂丘”というネーミングとともに私の中では、DUNEは

“寂寥感
の香りのイメージしか残らず、あまりつける気がしません。香りとは買っ

たときのイメージまでも閉じ込めることを初めて知った経験でした。それ以来、旅

行に出るときは、新しい香りをよく吟味して持って行くことにしています。思い出や

イメージをも封じ込める力のある”香り“を、旅から帰った後でも、ゆっくり”反すう“

するためです。だから、決して、ディスカウントショップ等では買わないことにして

います。”安く買った“イメージが香水にのり移る気がするからなのです。    


























リサコラムに関するご意見、ご感想はこちらまで。                

mmm@madame-watson.com

お名前と、お差し支えなければ、ご住所も書き添えてくださいね。

必ずご返事いたします。


                     

木村里紗子 Risaco







* PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.