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リサコラム
本日のオードブル
第52回


洗濯機は美容室

 
木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン
   
 
 「今夜の選曲はどぅお?.」
                 「うぅん、なかなか、いい感じよ」

 

       


洗濯機は美容室




 籐製の白いかご。両手でひょいと持ち上げて、彼女はドラム式の洗濯機の前に

置く。「さてと
」籐かごのふたを取ると、本日のメニューに沿って、大判のバスタ

オル、バスローブ、バスマットしめて計4枚。彼らは今日、癒しの時を待っている。

BGMはそうね、サックスのスローなジャズがいいわ』美人なバスマットHが言う。

するとバスローブを羽織った彼女は、癒しの時を待つタオルと、バスローブとバス

マットたちの要望にいつものように答える。寝室に戻ると、オーディオボードの扉を

開けて、CDをセットする。そして又洗濯機の前に戻る。「そうそう、新しい洗剤を

買ってきたのよ。いい香りよ」、わがままになったタオルたちに向かって「もちろん

柔軟剤も同じ香りよ」。付け加えるとすばやく彼らをふたの中に入れ始める。彼ら

の扱いは心得ている。洗濯かごに入れる前に、彼女は丁寧に手馴れたすばやさ

で彼らをたたむ。タオルは長いほうを2つ折にしてさらに2つ折。8分の1の大きさ

になった彼らは、きちんとカゴの中で重なり合い、今日か明日かと癒しの時を待

つようになった。タオルやバスマットといえども彼らの人格も無視できない。きちん

とたたまれてかごに入れられたほうがいいに決まっている。どんな洗濯物もきち

んとたたむことで、大盛りの山はみるみる小さくなってゆく。貯まった洗濯物にう

んざりすることもなくなるという、彼女の視覚的ストレスの軽減にも役立っている。



 「こちらへどうぞ」示された先の寝椅子に横になると彼女はいつものように頭を

白い大きな洗面ボールのふちに乗せる。「もうちょっと上に上がれますか?」「は

いはい」またいつものように指名を受けたA子はいつものように彼女の頭の下に

小さくたたんだフェイスタオルを滑り込ませる。「お湯加減はいかがですか?」暖

かいお湯で湿らせて、お次は、シャンプー。規則正しい、でも力強いA子の手の

動きに合わせて、どろりとしていた液体は、みるみる泡の山を築く。長く黒い繊維

の束は白い泡だらけになり、柔らかな塊となり、A子の自在な手の動きに合わせ

て形を変えながら、ダンスを続ける。「どこかカユイとこ、アリマセンカ?」激しい

手の動きに合わせてA子の声はオクターブを変えながら弾むようにガーゼ越しの

彼女の顔に向けられる。「ううん、いい気持ち、」23歳のA子に「ダイジョウブ、サ

イコーよ」と答えると強いシャワーの刺激がやってきて、みるみるうちに泡の塊を

崩し、長く黒いすだれのようなものに変える。「トリートメントします?」水で戻したわ

かめを手でしぼるような動作で、今度は1つの黒い束になる。「やっといたほうが

いい?「デスネ」「そう、じゃあ、お願いします」ハーブの香りが彼女のガーゼ越

しの鼻腔にも届いていた。「シート、起してもいいですか?」「あっ、はい、もう、終

わり?ごめんなさい、寝てました」「ははは
、こちらへどうぞ」一気に起されたい

すの上で、すばやくタオルドライされた黒い束は、束の体積をさらに小さくして、巻

かれたタオルの中で固い塊となり、次の熱風を待つ覚悟を決めた。       


 ベッドの上で、ガクンと落ちた本の衝撃で彼女は軽い覚醒の中でまどろみを覚

える。左手を伸ばしてナイトテーブルのスイッチを探すと、右手の明かりはそのま

まに、読みさしの本を閉じてその横に置く。時計は午前2時半。彼女の第2幕の

夢の続きに入るとともに、洗濯室では最終段階に入ろうとしていた。白い塊が体

積をさらに小さくし、固い塊となり、次の熱風を待っていた。彼女の耳に入る音は

全くない。しかし、確実に彼らは癒しのラストシーンに恍惚となっていた。    



 「熱くはありませんか?」「ダイジョウブです」「デスか、」左右からやってきた2

つの熱風は黒い束に襲い掛かる。彼女の背中の真ん中まである髪の毛はばらば

らになり、宙を舞うように激しい動きで2つの手がかきあげる。髪の毛が逆立つの

はこんな状態なのだろうか、といつも思う。恐ろしい形相からおよそ5分。ほぼ完

全に乾いた彼女の黒い束はしなやかな波を打ってブラシの流れに身をゆだね、

ゆっくりと毛先まで整列をさせる。A子は彼女の背後に大きな鏡を持ってきて背

中に落ちる黒い流れを確認させた。「いかがですか?」彼女は出来上がった黒

い流れをそっと崩さないように手のひらで感触を確かめると「いいですね、サイコ

~よ」。毛並みは同じ方向によどみなく、そして1本1本の黒い繊維をまっすぐに

伸ばし、1つの輝く美しい面にしていた。                        


 午前6時。1時間前に最終段階を終えた白い塊はふっくらと脹らんで、1人1

人が個性を主張し始める。バスタオルとバスローブ、バスマットは、狭い空間から

開放される時を息を潜めて待っていた。「早く出してあげるからね」泡だらけにな

り揉み洗いされ、白い塊にされ、熱風の洗礼を受け、十分な癒しを受けた後で

清潔な元の姿に戻った彼らは、それぞれのスタイルでそれぞれの居場所を求め

始める。バスタオルAは又長い方を2つ折りにされ、さらに同じ方向に2つ折り、

反対方向に2つ折り、計8つ折りにされ、仲間が待つ棚の3番目と4番目に重な

り、落ち着く。バスローブCはハンガーにかけられ、前身ごろで袖を交差させられ

た後、紐できゅっと縛られ、クローゼットの中のハンガーかけへ。強い熱風が大好

きなバスマットHは、美しく白い毛並みを上へ上へと存分に伸ばし、やはり1つの

輝く美しい面に戻っていた。「私、ドライヤーが好きなのよ、自然乾燥なんてしな

いでよ!」バスマットHは、白く長いその美しい毛並みを誇らしげに主張する。「わ

かってますとも!」彼女は美人のバスマットHのご機嫌にいつも答えてきた。乾燥

機が好きな彼らは、泡だらけで団結したかにみえた塊から、長いすすぎのときを

迎え、十分な脱水を経て、熱風による乾燥という長い癒しのときを満喫する。そ

してそれぞれが洗濯かごにいれられる前の定位置に納まることを望んでいる。


 「私の髪とおんなじね」彼女は毎日そう思う。ドライヤーで乾かさずに自然乾燥

で寝てしまったときは、朝の髪は固まったようにブラシを通しても言うことを聞か

ない。だから、朝までに必ず彼らタオルたちを乾燥まで終了させて、出勤前には

彼らを定位置に戻すようにしている。クローゼットドアをばたんと閉め、そして靴を

履き、斜め掛けバッグと手提げかばんを持って、彼女はいつものように玄関ドア

を開ける。「また夜、お世話になるから、おとなしく待っててね」彼女は、まるで自

分のペットに話しかけるように、白いドアに音の出ない声をかけた。今夜、その白

く美しい長い毛並みの上に、また自分の足を乗せる感覚を思い浮かべて、玄関

ドアの鍵を回す。                                    


 彼女の髪はA子の泡とトリートメントと熱風のおかげで、秋風を受けてはらりと舞

い上がり、さらりと落ちる。わがままな髪の毛の癒しが美容室なら、わがままなタ

オルやバスローブ、バスマットたちの癒しの場所は洗濯機ということになる。もみ

洗い、すすぎ、脱水、熱風がベスト。そして時折トリートメント。そしてふっくらと脹

らんだ毛足で、又誰かの癒しに備える。昔聞いたコマーシャルのフレーズを思い

出して笑う。“髪は長~い友だち”そして”タオルもバスマット長~い友だち“。



















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木村里紗子 Risaco







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