MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
本日のオードブル
第53回


1円の          
コストパフォーマンス

 
木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
16年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、中谷彰宏、F.サガン、プルースト

     
        "賞金1円!よっしゃ、リサコもう、1年!!”

 

       


1円のコストパフォーマンス




 学生時代、フランス語を専攻していた私は先生と学生数人で庶民的なフラン

ス料理を食べる会によく参加したものでした。デザートを選ぶときに他の友人と

違うものを私はあえて選びました。すると先生は「フランス人的だ!」と言い、

フランス人は人と同じものを注文しないのだと言いました。その先生はまた、こう

も言いました。フランス人の友人と、フランス料理のフルコースを食べたんだが、

彼は、料理の度に並べなおされるナイフとフォークをすべて断り、長い食事の最

初から最後まで、同じ1対のナイフとフォークで食べたんだと。先生がそれ以上

コメントしなかったおかげで、私はその出来事から、いろんなことを考える長い年

月を得ることができました。
                                       


 自宅では、きっと多くの人が同じ1膳の箸や1対のナイフとフォークで食事をす

るだろうに、なぜ、レストランでは出されるがままに、あるいは並べられるがままに

たくさんのカトラリーを使い放題にするのだろうか。布のナプキンをレストランで出

されればみんな使うのに、その多くの人が自宅では全く使わないのはなぜか?

それと似た現象で、ホテルに泊まったときは、並んでいる大判のバスタオルを贅

沢に使うのに、自宅では家族全員が同じ1枚のタオルをトイレや洗面室で使いま

わし、あるいはバスルームでもフェイスタオルで体を拭いたり、1枚のバスタオル

を家族が使いまわししたりするのはなぜか?と思ったものです。          


 また最近、都内にある外資系のホテルに泊まると、そこのラウンジでは朝食の

たまご料理を作っている料理人が、日本語を理解できない外国人であることが

当たり前のようになっています。日本人より多い外国人客のために、ホテル側が

そうしているに違いありません。でも私たち日本人までもが、オムレツを注文する

のに、
One Omelet with Cheese and Mushroomsと下手な英語を駆使して

言わせられなくてはならないのか?しかも日本の一流ホテルで。そんな理不尽

なことが他の国であるのだろうか?とも思います。朝は和食、昼は中華、夜はフ

レンチなんて、毎日食べ分けている国民はどうやら日本人だけらしいです。しか

し、食文化のすばらしさに比べ、ほかの文化はどうなんだろう。
不思議な食の

NIPPON、そのサービス
を改めて考えるきっかけを与えてくれた、ある1冊の

本に10年前、私は出会ったのです。
                                


 あるとき、仲良くなったイタリアンのシェフが話してくれたことがありました。閉店

間際に来た女性客7人が、それぞれ、別々の7種類のパスタを注文したと。パス

タ7種類を同時に提供しようとすれば、厨房はてんやわんやになります。それは

アラカルトの注文が1つのテーブルでたくさん来たときと同じです。そんな状況を

回避するために、7人がアラカルトではなく、同じコースメニューを注文するように

仕向けるメニュー構成にする方法があります。アラカルトの1品1品の価格を非

常に高くして、どう考えてもコースで注文したほうがお徳になるような価格設定に

するのです。すると食材の準備も少なくてすみます。ランチの忙しい時間のコー

スメニューなら当然無理もありませんが、ディナーの客単価が1万円を超えるよ

うなお店でコースメニーばかりが注文されるお店はきっといいお店といえないと思

います。そのようなお店は、だんだんお客さんの層が決まってくることになります。

そのお店でぜひ味わってみたい料理を目指してくるお客さんより、お得に食べた

いお客さんが増えることになります。                         


 いったい、今の日本で真っ当なる料理店とは、真っ当なるサービスとはなんな

のかと深く考えた人がいました。彼は、作り手=料理人、供し手=給仕人、食べ

手=あなた、の3者が作り出す“三位一体の利潤”、あるいは“三位一体の悦び

”という哲学を抱くべきなのだと言いいます。物販店においては、作り手=(ある

いはメーカー)、売り手=販売員そして買い手となります。その3者がお互いにハ

ッピーである関係こそが、すなわち三者のバランスのとれた好ましい状態である

と。それにより“三位一体の利潤”を保ち続けることができるのだと。三者のうち誰

かだけが秀でていたり、得をしたりしていてもバランスは崩れ、真っ当な料理店

や物販店にはならないという論理です。それを唱えるのは、 『いまどき真っ当な

料理店』(幻冬舎文庫)の著者田中康夫氏です。田中氏のこの“哲学”を10年

前に読んだとき、目からうろこが落ちました。そして私の数多くのバイブルの中の

1つになり、未だに持ち歩いております。料理店のガイドブックでありながら、すべ

て自分の仕事にもあてはめることもできるからです。作り手=料理人、供し手=

給仕人、そして食べ手、その三者に星をつけて、さまざまな料理店を評価した

その本の範囲はフランス料理からイタリアン、中華、日本料理、天麩羅、蕎麦、

タイ料理などのエスニック、旅館、ホテルのティールーム、おでん、うどん、ラーメ

ン店などなど。 氏はその独自の得意分野を生かして、細やかな料理の情報を

そこに満載するとともに、いかにして、私たちは真っ当な店を選ぶのか。どう、真

っ当な食べ手たらんかを真剣に追求しています。氏は述べます。「料理店は、

教育の場であります。そうであればこそ、料理(メニュー)の選び方のみならず、

会話の楽しみ方、時間の過ごし方をも体得するが為に、我々が月謝を払っても

(なお)、真っ当な料理店に通う意義も存在するのです」と。           


 
賛否両論、人により評価が大きく分かれる著者、田中氏のこの本は平成9年

に出版されて、いまでは絶版となっています。その本は、飽食の時代に人はどう

食べればよいのか、食文化とどう付き合うのか、サービスとはどうあるべきか、何

を持ってその店を評価すればよいかという指針を与えられた私のバイブルとなり

ました。食についてこんな視点で、こんな血のにじむような文章を読んだことは

他にはありません。面白いこと、この上ないのですが、たとえて言えば、夏目漱石

の『虞美人草』の現代版という文体です。“言葉(シノニム)の渦が諧謔(ユーモア)

風刺(アイロニー)にあふれ、馥郁たる香気(フレーバー)を放っている”と田中流の手

法で表現しましょうか。


 約1年前、私は“シンプル&ラグジュアリーに暮らす”という本を出版し、以来、

“私のバイブルです”と多くの方に言われました。それ以上のありがたい言葉はな

いのです。しかし、そういわれれば、いわれるほど、その“バイブル”以上のものを

このおなじ私が生み出すのは非常に困難になるのです。つまり、サービスや食に

関してそんな考え方ができる人はきっといないし、氏のそれ以上の本が出る見

込みはないと私は思っています。



 また氏はこう言います。給仕人との会話、同伴者との会話を料理店で磨けと。

メニューの行間を読めると同時に、相手の表情や言葉の行間を読める訓練を料

理店でせよと。それにより、真に“コストパフォーマンス”のある料理店を見分けら

れるようになるとも言います。10年前に出版されたこの“ガイドブック”は多くの人

にとってはすでに賞味期限の切れた単なる“料理店のガイドブック”に過ぎない

のでしょう。本体価格¥571のこの本を、この先よほど生活に困らなければ、私

は5万円でも人手に渡さないでしょうが、amazonでは、今、2007年9月21日

現在、1円で売られています。しかも14冊もの本が最低価格の1円の値をつけ

ているのです。だから、氏が唱えるように、これほどコストパフォーマンスの高い本

はないのです。どうしても読みたくなった方は、のんびりしている暇はありません。

その価格が6万円につりあがる前に1円のコストパフォーマンスを実感すべきな

のです。











リサコラムに関するご意見、ご感想はこちらまで。                

mmm@madame-watson.com

お名前と、お差し支えなければ、ご住所も書き添えてくださいね。

必ずご返事いたします。



                     

木村里紗子 Risaco








* PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.