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リサコラム
本日のオードブル
第54回


”兼好VSリサコ”

 
木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
16年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は夏目漱石、中谷彰宏、F.サガン、プルースト

     
   ”つれづれなるままに、書くのは楽しや、兼好さん”

 

       

”兼好VSリサコ”



 「さっきの話だけどぉ、やっぱ、そうなんだね」「うん、8割がたそうよね」。クッキ

ー生地のデニッシュを美味しそうにほうばるナオコに向かってリサコは答える。

「ふぅ~ん、フェミニンねぇ!」ナオコの目が一瞬、鋭くきらめく。「フェミニンって

言葉しかないから、そう、言うしかないけど...かわいい系?うぅぅん、」ちがう、

リサコは言葉に詰まる。「エレガント?子供っぽいって感じじゃなくって、スマート

なかわいさって言うか、綺麗さって言うか...」またしても言葉に詰まるリサコは

先週、ファブリックメーカーの営業マンと戦わせた小一時間の議論のことをまた

思い出した。
                                                  


 「そんな感じじゃないんですよ、ウチは。フェミンじゃ」リサコと対峙するM氏はき

っぱりと断り文句を言う。「もちろん、わかってますよ。デモネ、女性はやっぱりや

さしい色が好きなんですよ。濃紺とか濃いブラウンとか、くすんだあずき色とかよ

り、淡いスカイブルーとか、ミントグリーンとかペールピンクとか、優しいクリームベ

ージュとか、そんなキャンディカラーが」。「フゥゥン、まあ、“フェミンニン”をどう捕

えるかですね」。少し軟化してきたM氏にここで一気に攻勢をかける。「そうです

よ、“フェミニン”って貧弱な言葉しかないから仕方ないけど、そう車の色!ドイツ

車とかやフランス車の色、あんな色が欲しいんですよ。フリルつきのピロケース

だって昔やってたじゃないですか?」「そうですけど...」M氏の頑固な姿勢が

ちょっと和らいだに見えたが、「ですけど、うちのコンセプトは変わりませんから」 

「それは尊重します。デモ、そんな女性好みの色が濃淡でたくさ~んあったら、

みんな喜ぶって思うんですよ。だから、そんなカラー展開もしてくださいよ!」「ま

あ検討します..」「ところで、おたくのコンセプトは何なんですか?」わかっている

くせにリサコはあえて聞く。M氏は待ってましたとばかり、「“都会的”ですね!」と

自慢げに答える。「ウンン、都会的ね、都会的...」予想通りの答えに、40%の

納得と60%の疑問を込めて「何を持ってして“都会的”というか、ですよね」とリ

サコは答え、無言のM氏。悲しいかな、話はここでおしまい。でもご議論ができて

よかったと、リサコは思い、M氏は次の訪問先へと急ぐ。
                  


 「たとえば、フリルとかレース、刺繍みたいなものよ。始めは、シンプルですっき

りしたインテリアにしたいって言われてた方でも、何度も打ち合わせしてるうちに、

『その刺繍、そのスカラップステキ!』とか、『フリルもつけたいわ』とか、なるのよ

ね~だから結局、エレガントなインテリアになるんだわ」「ヘェ~、そうなんだ....」

プレーンな白い麻ブラウスをさらりと着こなしたナオコはアイスティのストローを口

から離さずに目だけをリサコに向ける。本気になった女性がクールな殻を脱ぎ捨

てたとき、エレガントを装いたくなるのかな、とリサコは思っている。「結局、インテリ

アもウエディングドレスに行き着くって感じかなっ」そういうとリサコはつい30分前

に途中で別れたアツコを含め3人でしゃべったときのことをまた思いだしていた。

ナオコとアツコの前で「どっちのテイストが好き?」と聞いたときの反応を。1つは、

シンプルな白いローブ。麻製でまあ
ソフィスティケート“されたシンプルな感じ。

もうひとつは淡いピンクのパイルのローブ、襟にはフリルがタップリ。ナオコもアツコ

も、シンプルな白いローブがいいと言い、フリルつきの淡いピンクは好きじゃない

わといった。麻混のブラウスにビー玉くらいの大きさの石がつながった大ぶりなネ

ックレスをかけているアツコは、アパレルメーカーのキャリアタイプ風の雰囲気を

醸し出している。リサコは続ける。「でもね、そのフリルのブランドのパジャマは、夏

には毎月1000枚ずつくらい売れるのよ、うちのショップではね。全くその麻ロー

ブの比じゃないわ」「へぇ~そうなの?」ナオコとアツコは意外な表情でその先の

説明を待った。「プレーンで何も飾りのない白いパジャマを私、3枚仕入れたん

だけど、私が1枚買った後は、1年間、どなたも買っていただけなくて、結局私が

残りの2枚を買ったのよ。シンプルすぎぃ?素材感もすごくよくて着心地もすばら

しいんだけど...お勧めしても買っていただけないのよね」「1000対1って感じ

よ」。ずっと黙って聞き入るアツコとナオコは納得したような、しないような中途半

端な気分で3人は1人と2人に分かれた。 
                          


 マロニエの街路樹が先ほどまで降っていた大雨をいっぱいに吸い込んで、しっ

とりした静けさがその周辺だけを包み込んでいる。きっとこの街の設計者はパリの

並木道を表現したかったんだわ、とリサコはいつも思う。狭い坂道の歩道をだら

だらと下り降りる2人は、上ってくる歩行者をよけながら、前になったり、後ろにな

ったりしながら、マロニエの長い坂をゆっくりと下り続ける。「ナオコ、お義母さん、

具合どうなの?また、時々看病に帰ってるの?」「うん、休みの日にはね」「仕事

きついんじゃないの?徹夜もしてるんじゃないの?」駿台予備校のそばにさしか

かったとき、ナオコが口を開く。「なんだかんだ言ったって、予備校生や受験生

に比べたら、楽よね、て思うのよ。だって彼らは人生の岐路に立たされているわ

けじゃない!これで成功するか失敗するか、1回で自分の人生も決まるみたい

なところあって、今はそこまでって、わけじゃないしね、」強さと優しさを併せ持つ

考え方をするナオコらしい言葉に、「そうね大人になったら、怠け者にもなるし、

弱くもなるのかもね。ちょっと失敗しても許されるってとこあるしね、」「そうよねぇ」

と言うナオコは、「はははあぁ」と陽気に笑う。             


 頭痛もちのリサコは先日、ひどい頭痛で吐き気を催した。朝から水しか飲んで

なくても、一日5回もトイレに駆け込み、接客しながら、早く自宅のベッドにもぐりこ

みたいと思った。よく選挙活動中の候補者が「死ぬ気でがんばります!」なんて

いうけど、元気なときしかいえない言葉よねとリサコはその時思った。また年に2

回は風邪をひいて高熱も出す。そんなときは“かわいい系”のパジャマを着て、ロ

マンティックな寝室のベッドにもぐりこむ。生地の分量もたっぷりのロマンティックな

カーテンが下がる、クラシカルな趣の寝室。リサコは自分用に2つの寝室を持っ

ている。もうひとつは、白い天蓋ベッドに白いベッドリネンだけのモダンでシンプル

な寝室。いい大人になって、39度の熱がでようものなら、ああ、もうだめ、死ぬか

もと思う。そんなとき美しい寝室があってほんとによかったと思う。ここで死ねたら

まだ幸せかもとリサコは思う。最低の気分のとき、「ソフィスティケートも、都会的

もへったくれもないわよね」と思う。毎日が笑いが止まらないくらい楽しいことばか

りあるわけでもないし、体調だって色々だし、時々つらいこともあるし、でも何とか

やってるんだわ、と心の中でつぶやきながら、「予備校生に比べたら、楽よねぇ」

のナオコの言葉を思い出し、家に帰り着く。玄関ドアを開けると、廊下の壁には“

ダンシングローズ”と言う、ピンクと赤いバラの壁紙が一面に張ってある。


 “壁がエネルギーを発しているわね”、と思う。その壁を見てちょっと楽しい気分

になって廊下を歩く。 吉田兼好は『徒然草』で言ったわよね、“家の作りようは

夏を旨とすべし”と。でもこうリサコは考えている。


 “部屋の作りようは、へこんだときを旨とすべし”と。
 





















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木村里紗子 Risaco








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