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リサコラム
本日のオードブル
第55回


亜希子
 
木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
16年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。
好きな作家は夏目漱石、中谷彰宏、F.サガン、プルースト

     
 ”道に迷わないように、去年、花の種まいといたのよ~”

 

       


亜希子



 「2週間ほど帰国が遅れます。引継ぎが手間取って.」幼なじみの亜希子から

便りがやってきた。物ごころつく前からの長い友人、亜希子は1年中世界中を飛

び回っている。長い休暇に出かけたかと思えば、急に日本に帰国することある。

1ヶ月くらいですぐ海外勤務になるときもある。だからなかなかひとところに落ち着

くことがない。また、やっと日本に帰国できたかと思うと、全国を駆け回りいつも忙

しく働いている。「緩急の差がはげしいのよ」と亜希子はいつもそういう。そして、

亜希子はいつもおしゃれである。首には必ずスカーフを巻き、大小2つのバッグ

とチェックの小ぶりなスーツケース1個で身軽に世界中を飛び回る。それがリサ

コの“亜希子”に対するイメージになっている。                    


 その亜希子がリサコの家に寄りたいというのだ!「もちろん、大歓迎よ!それで

いつ?」亜希子は10月第1週に帰国するから、その後福岡のリサコの自宅に寄

りたいといった。亜希子に会うのは1年ぶりだった。亜希子は子供のころから文学

少女で、グルメで食いしんぼうだった。亜希子の読む本は少し偏っているとリサコ

は思う。スリリングな推理、ミステリー、ウイットに富んだものが大好き。彼女はリ

サコとよく読んだ本の話をする。ずいぶん前に、「ジェフリー・アーチャーにはまっ

たのよ、」と亜希子が言った。「彼の経歴からして、面白いじゃない!オックスフ

ォード出のイギリス下院議員でしょ。サッチャー元首相の右腕とまで言われたの

によ、投資に失敗して全財産を失ったんでしょ。代わりに莫大な借金かかえてし

まって、議員もやめて、やることなくて本書いたら、大ヒットしたってところが、彼の

作風にぴったりよね、」亜希子の好奇心がうなる。「私、知ってる、知ってるわ、 

「『百万ドルを取り返せ!』でしょ。」とリサコも亜希子のうなりに飲み込まれる。

「そう、それで大借金、ぜ~んぶ返したのよね。反対に大金持ちになっちゃって

また、議員に復帰するとこなんか、日本じゃあんまりないわよね。」「でもスキャン

ダルでまた失脚、それはよくあることだけでどぉ、それからまた小説家に復帰する

とこが面白いわよねぇ、作風に現れてるわ~」とリサコも同感の嘆息を漏らす。 

「私はアーチャーの短編が大好き!『十二本の毒矢』に、『十二の意外な結末』

でしょ、ベッドで読むには最高よね、忘れたころに何度も読み返したわぁ」少女の

ような顔になる亜希子。「そっ、そうなの、息するのも忘れてしまうみたいに一気

読みしたことある!永井淳氏の翻訳が見事なんだろうけど、スピード感あるわよ

ね、リズム感を通り越してさ、なんか、スポーツカーに乗ってる気分、って感じよ

ねぇ~」と、リサコはまんまと亜希子のわくわくにはまり込んだ。
             


 「『十二本の毒矢』の中に『破られた習慣』(“Broken Routine”)てのがある

でしょ、あれ最高よね!」亜希子のお気に入りである。「わかる~、昔、そんな上

司がいたもん。主人公は、毎朝7時半に起きて2着のスーツを交互に着て会社

行くのよね。毎朝、半熟卵1個とトースト2切れ食べて、紅茶2杯飲むんでしょ。

それで7時55分に家でて、駅でデイリー・エクスプレス紙買うのよね。8時27分

の電車の同じ車両の同じシートに座るんでしょ。毎週5日間。同じ時間に昼ごは

ん食べて、同じ時間にお茶飲んで、帰りは、同じく5時半ちょうどに同じ色の雨傘

もって会社出て、お決まりの『サウンド・オブ・ミュージック』の1曲をハミングしなが

らね。そしてやっぱり同じ電車のおんなじ車両のおんなじシートに座るんだわ。だ

から帰宅時間も、7時半の夕食の時間もずぅっと変わらず。何十年も。10時半

の寝る時間も一緒。そんな習慣の奴隷みたいな人が、あるとき、ちょっとした

ハプニングで時間がずれるんでしょ。その後の物語の展開が、アーチャーならで

はよね~」「“甘美なウイット”て感じゃないぃ~!“小気味よい”って言うかぁ、

さすがジェフ、って思ったわ~」リサコもジェフリー・アーチャーのとりこである。
  


 亜希子とリサコのジェフはその後、1999年偽証罪で実刑判決を受ける。獄中

で、書いた『獄中記』を2003年に出版。何度目かの社会復帰を果たし、2007

年、今年1月『ゴッホは欺く』(新潮社)が翻訳出版される。亜希子に会う前に、

その『ゴッホは欺く』買っとかなきゃ、とリサコは思った。さっそく、”ゴッホは欺くを

注文!”と準備リストの最後に書き加えた。亜希子に会う日が迫ってきた。「さっ

さと、残りのやるべきことを片付けなくちゃ」、リサコはベランダに水をまき、デッキ

ブラシでごしごしタイルをこすり始める。ついでに、てすりもていねいに雑巾でふき

あげる。窓ガラスもふきんで2度ぶきした後、いよいよ、亜希子好みのインテリア

にしようかと決意する。窓のカーテンを全部ははずしにかかる。“リサコはレモンク

リーム色のインテリアが好き。亜希子はリサコと趣味が合う。亜希子はレモンクリ

ーム色のインテリアが好き”と、妙な三段論法で、レモンクリーム色のしとやかな

寝室風景に変える決心をした。カーテンを取り替えるのはお手の物である。そ

れでも1時間強かかった。窓のシェードを“ルースタイプ”から“ムーススタイプ”に

替えると、レースのすそを持ち上げるたびに裾がひるがえり、“ダンスを踊ってい

るみたい
と、リサコは思った。お次は、ベッドメイク。薄手の羽毛ふとんにかけて

いた、麻のベッドリネンをすばやくはずすと、きちんとたたんで、かたわらにかさね

る。あらかじめ用意していたシルクサッカーのベッリネン一式、シーツ、コンフォー

ターカバー、ピロケースと順々に慣れた手つきで、かけ始める。薄いクリーム色の

1枚ものベッドスプレッドの上にさらにシェードと同じ生地のレモン、クリーム、ホワイ

トのストライプが織り込まれたベッドスプレッドをかけた。背もたれ用の、でもベッド

で本を読むときなくてはならない、大きな正方形の枕をヘッドボード近くに2個配

置すると、小ぶりなブレックファストピロー3つを枕の近くに配置する。
        


 「よし、これで準備完了!」後は亜希子からの連絡を待つばかり。リサコは額の

汗をぬぐい、汗まみれになった体をシャワーで洗い流した。シャワーの最後にま

た小さいスポンジで念入りにバスルームの掃除も終えた。窓を開け、ベランダに

身を乗り出すと、バスローブの姿のリサコのほほをすぅ~とすり抜けて、亜希子が

窓から入ってきた。


 「1年ぶりね、お帰り。待ってたわよぉ。今年は遅かったね。 もう、待ちくたびれ

ちゃった!あなたを迎える準備は万端なんだから。」「ごめん、ごめん、引継ぎに

手間取っちゃって..ナツコがずっと居座ってるんだもん!でもやっと南に帰って

ったわよ」「あっ、ジェフの最新作なんだけどね、...」言いかけて、亜希子は、

「リサコの書いてるコラムとジェフの短編、なぁんか似てるって、気づいたの」


 「えっ、どこが?」 「だって、必ず最後にオチがつくじゃない!」
   

































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木村里紗子 Risaco











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