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リサコラム
連載330回
      本日のオードブル

HOTELS


第2回


ホテル・ロッキー


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)は
2012年12月で6刷)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト
、クリス・岡崎、他たくさん。



「あなた、どちらから?」
「私、日本からです」なんて、会話はきっと始らないでしょう。
雪化粧をした美貌のロッキーを眺めながらは。

隣の逞しい体つきの男性はきっと毎日ジムで鍛えた
結果に違いないと思いながらも、
「すばらしい!何度来ても感動ですね」と英語で言いましょう。
但し、「私は毎年来ていますが、あなた、見慣れない
お顔ですね。」と言われることもありますからご用心。
反撃方法としては、「スキーの季節は今年が初めてなもので」というしかありません。

でも、一か八か、「それ、昔の映画で聞いたセリフですね。
ピンクパンサーでしょ」ということも可能。
勇気があればですが。


 
      
  






ホテル・ロッキー
  

 

この世で『ほんとうの贅沢』は」私は最後のページにそう文字を

打ったあと、寒い部屋で足を擦り合わせた。私の部屋には石油ファン

ヒーター1台だけで、頭はのぼせるものの、つま先は冷たかった。そ

もそも「贅沢」とはなんだろう。私は手の平と甲を交互に温めながら

考えた。もったいない感じがすることか?それならもったいないとは

なんだろう?否定にも肯定にも全く正反対のベクトルに動くこんな意

味を持つ単語は他にあるだろうか?私はファンヒーターの小窓からオ

レンジ色の火がちろちろと燃えている様子をじっと見ていた。


 私は毎日、ネットサーフィンで世界中をくまなくめぐってきた。小

さなモニターで世界中のあらゆる場所に行き、どんな細かなことも見

聞きし、ファッションもインテリアも情報機器も最新の情報なら誰よ

り知っているという自信もある。なのにクリスマス前、彼女は私に愛

想をつかした。「ほんとうの贅沢を知らない男」として。



          



 私はその彼女の言葉に憤慨したが、返す言葉は見つからないまま

「ほんとうの贅沢」という言葉は頭の中にガムのようにこびりつき、

その年は暮れ、春になり、夏になって、また秋になり、また次の冬は

入り口に立っていた。


 私はさらに最新のファッション、グルメ、世界中のあらゆるゴージ

ャスなホテルをくまなく検索して、そしてロッキー山脈を見渡す丘の

上に建つ1軒のゴージャスなリゾートに行くことを決意した。冬はス

キーヤーのための高級なロッジ風スキーリゾート。夏はゴルファーの

ためのゴルフリゾート。ゲレンデとゴルフコースをもつ豪華でモダン

なリゾートに、私は生まれて初めてのゴージャスなひとり旅をするこ

とになった。むろんネットで事前調査をした。入念にも入念を重ね。


 そのリゾートは空港からほど近く、迎えのジープは湾岸戦争でも使

われたというハマーというジープだということから、すべての部屋の

間取りにインテリアの様子、各スイートの最新式の暖炉とその周りの

肘掛椅子にソファの数、テーブルの配置まですべて頭に入っていた。

レストランはステーキハウスとコンチネンタルの二つ。鹿の角を集め

てできたエントランスの門は有名なアーティストによるものであるこ

と。850㎡のラウンジからは夏は有名なゴルフコースを眼下に納め

冬は白銀の谷を見下ろし、その向こうには、わずかばかりの地肌を見

せる雪に覆われたロッキーを眺められる。そのラウンジにはやはり

10mの煙突部分を持つ暖炉がある。私の予約した部屋は、肘掛椅子

2脚に一人掛けソファ2台、オットマン1台、暖炉なしのクイーンサ

イズベッドのデラックスタイプの部屋になる。バスルームには雪の谷

を見下ろせるように、天井から床まで切られた窓にミカゲ石のバスタ

ブは置かれている。それに木のドアのシャワーブースとその右手には

ダブルシンク。また、ここの自慢のプールは、谷を見下ろす丘の上の

一番下にあり、夏は緑の平原と碧くそびえるロッキーに鹿の群れも観

察もできる。白銀色の季節はプールの手前の温かな温泉のお湯で体を

温めながら雪の谷間と雪のロッキーを眺めるようになっている。



          



 私は狭い機内で快適に過ごすための旅のノウハウから、着てゆく

服、持ち物にいたるまですべて調べ上げ、新品の服を用意し、大きな

スーツケースを90%に満たして準備万端で臨んだ。


 2時間前に飛行場についたものの、2着のスーツと靴のせいで、ス

ーツケースは超過料金を取られる羽目になった。「こんなことがある

のか?」私は予期せぬ自分の愚かさに愕然としていると、係員は私に

耳打ちした。「スーツをコートに下にさらに着こめばOKかもです」

と。私はタキシードをさらに着こみ、コートを手に持った。そして


搭乗手続きのカウンターに並び直した。「たいへん申し訳ございませ

ん。実はダブルブッキングが判明いたしまして、大変恐れ入りますが


....
」私は心臓が動悸を打ち始めるのを聞いた。「あの、乗れないと言

われるのですか?」「いいえ」スタッフは私をまた見るとにこりと笑

った。「ファーストクラスのお席に空席がございますので、そちらに

お願いできませんでしょうか?」彼女はまた私を見た。私もまた私を

見た。この場違いなタキシードは功を奏し、ファーストクラスに無料

でアップグレードすることになった。「こんなことがあるのか?」私

は驚きと喜びの重なった感覚で、席につき、さらに驚いた。映画やテ

レビで見た顔の人々が歓談しながらすでにシャンパンを飲んでいたか

らだ。



          



 私は最後に席に着くと、高級なシャンパンを飲みながら体を伸ばし

た。タキシードもジャケットも預け、さらにリラックスして先の行程

を順に思い浮かべながら、真っ白なナプキンで、地上でも食べたこと

のないゴージャスな料理を堪能し、フルフラットのベッドにふかふか

の羽毛ふとんで眠った。


 乗り換えもスムーズにゆき、無事に空港に着いた。迎えに来ていた

ハマーに乗り込むとすぐ、持ち物を入れ替える準備をした。ワイルド

でいかつい腕時計をセーターの下から少しのぞかせ、私はセカンドバ

ッグから新品の財布を出すと、プラチナ色のカードと数百ドルの紙幣

を入れ、ひじ当てのあるキャメル色の新品ジャケットの内ポケットに

挿し、胸にはプラチナカラーの万年筆を挿して準備を整えた。それを

「リゾートへの着替えの儀式」というらしい。チップ用の札も2つに

折りにしてズボンのポケットに入れ、雪の反射に備えサングラスを掛

けた。



          



 車を降りるとスマートにチップを出したが、スーツケースのファー

ストクラスのタグを見てか、ドライバーは軽く首を振って受け取らな

かった。「こんなことがあるのか?」私はドアマンに先導され、ラウ

ンジの中に入った。目の前に雪を抱いたロッキーが想像をはるかに超

えた大きさで襲い掛かかって来た。「こんなことがあるのか?」私は

ロッキーに向かって叫んだ。出迎えた女性スタッフは「スズキジロウ

さま、ようこそ。お待ちいたしておりました。お部屋はスイートにア

ップグレード致しております。大きな窓から、ロッキーの素晴らしい

眺望をお楽しみ頂けますよ」ときれいな笑顔で美しい日本語の発音を

した。「こんなことがあるのか?」


 私は毎日、雪のロッキーと正面に対峙しながら温かなお湯につかっ

ていた。私はこのリゾートをくまなく知っていたが、私が堪能したも

のは全然知らないものばかりだった。しかも、タキシードは行きの機

内だけでしか着ることはなかった。



          



 私は1週間後、無事に日本に戻り、そしてヒーターの前にいた。

私は書きかけのストーリーの最後の1文を最初の1文にした。



 「この世で『ほんとうの贅沢』
それは予期せぬ幸運な出来事から

始まる。しかし、それは私が靴を履いてドアの外に出た時から始まっ

た。ほんとうの贅沢は『アクション』なしには始まらない」と。そし

て私は、担当編集者の彼女にメールを送りつけた。




                    




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  「リサコラムの部屋」は毎週火曜日更新連載です。

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どうかご了承くださいますように。








シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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