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リサコラム
連載348回
      本日のオードブル




第6回


サチ子

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)は
2012年12月で6刷)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト
、クリス・岡崎、他たくさん。



 サチ子さん、あの、その♥たくさんのお洋服、
まさに、ラ・ヴィ・アン・ローズって感じですね。

 でも、こんな雰囲気の方、きっとおられますでしょ、
街中に。


 
      
  





 


サチ子





         




 

「あの、日本でもトリフって、見つかるんですね」赤茶のおかっぱのトミ子の目は

きらり、輝いた。


 「正しくはね、“とっっふ”っていうの。フランス語風に言えばね。こう、Rを

“くっ~って発音するから」「くぅ~ですか?」「いや、”くっ~っ”だから、

“とっっふ”」「“とっふ”?」


 トミ子はどうやら私のフランス語の発音は無理だと判断したのか、「トリュフで

も、トリフでもいいわ」と言うと、目をうっすら閉じて、右手を軽く膝の上にのせ

た。


 私は大昔の地層から出て来た「ピンクソルトでシンプルに仕上げたスズキの3種

の香草焼きに取れたてマッシュルームとシイタケを秘伝のソースソテー」も平らげ

て、すでに満腹なのに、今、目の前に座っている今日知り合ったばかりのサチ子は

「ねえ、特製デザート、個室でご一緒しない?カラメルソースで仕上げた地元特産

のピーチパイにみかんホイップ添えなんていかが?」と誘いかけてきたのだ。


 「カラメルソースで仕上げたピーチパイみかんホイップ添え?」「朝摘みイチゴ

のアンダンテもつけてね」とたたみかけてきたものだから、「喜んで!」と別腹の

私は言ってしまった。


 個室は、ラ・ヴィ・アン・ローズのレストランの廊下の先にあって、4つ5つつ
ながって並んだ一番奥だった。



            



 「ここ、私の年間契約の個室だから」「え~!年間契約ぅ?レストランの個室で

ですか?すごい!」サチ子の個室だというガラス張りの部屋は豪華列車のコンパー

トメントのようで、足を踏み入れるとさくっと埋もれるような感じがした。そこに

ダークな木のテーブルとテーブルランプ。かわいい出窓3つにはココア色のストラ

イプのボリュームのあるシェードがかかっていた。


 抹茶より濃い緑に塗られた出窓の枠は、おー、フレンチテイスト!そして天井か

ら葡萄の房のようなガラスのボールがつながったシャンデリア。2つあるベンチ椅

子の、スカイブルーの背もたれの方にサチ子は座り、ラズベリーの背もたれの方に

私は座った。



               



 サチ子と向かい合ったとたん、私は笑いをこらえきれなくなった。すごい服を着

ている。だって、緑のカットソーに大きなアップリケの赤い❤がたくさん踊ってい

るし、膨らんだサブリナパンツというのか、モンペのようなモスグリーンのチェッ

クのボトムにも小さな❤がたくさん飛んでいるんですもの。このセンス、どう理解

すればいいの?



 なのに、サチ子の第一声は、「私の芽キャベツどうだった?」だった。「ええ、

もちろん、おいしかったです」「どんな風に?」「あ~、えっ~と新鮮で」「他に

は?」「他は、甘くて、こう、とろけるようで」「それで?」「それで?あ~、

え~、甘くて」「それはさっき言った」初対面なのすごいツッコミ!「ああ、固め

のゼリーみたいな歯触りで、チーズケーキを食べた時のような後味にぃ~、切り立

ての新鮮なアボカドのような味と香り。え~さらにカカオのようなコクもあって

さっくりしていながら、繊細で、もうワンランク上!って感じでした」



               



 私はさっき食べたピーチパイみかんホイップ添えフレッシュイチゴのアンダンテ

を思い浮かべながら適当に述べた。芽キャベツの味を表現するなんて思ってもみな

かったから、味わって食べてはいなかった。



 サチ子はまたうっすら目を閉じて聞いていた。頬杖をつきかけたその手は親指と

中指を合わせている。うん?これ、なんか見たことあるかな?もしか、半跏思惟像

ぉ?仏像の?


 サチ子は小さく頭を横に振った。「エクセロン!素晴らしいわ。それなのよ。ま

さに。私が狙っているのは」「狙っている?何を?」初対面の人間とこんな会話の

始まりをしたのは、もちろんない。「固めのゼリーの触感に、チーズとミルクのコ

ク。そして、アボカドの青臭さ、それにかぶさるような新鮮なカカオの香り。そう

その通りよ。だって芽キャベツに“とっっふ”のごはんを与えているんだもの」


 「“とっっふ”、トリフのごはん?」「そう。週1で」週1で芽キャベツにトリ

フのごはん?「人間と同じよね。中身が詰まっていれば評価されるものよ。姿形よ

りもね」「ええ、まあ、そうですね」「だから私は芽キャベツに目をつけたのよ」

サチ子は目を開くと、大きな輝くひとみで私を直視した。とにかく、私の犬のトリ

ーは、トリュフ探しの名豚ならぬ、名犬なのよ。それにトリフ栽培は私の長年のテ

ーマでね、これにやっと成功したのよ」トミ子はふ~と長い溜息をつくと、背もた

れに背をもたせ掛けた。


             


 「つまり、芽キャベツの肥料用にトリフを栽培しているってことですか?」「ま

あね」「わ~そんな~もったいない!それって反対じゃあ?」「カナコさん、タコ

は、好き?」「タコ、ですか?さしみで食べられる新鮮なものなら大好きです」


「でしょ?新鮮なタコはなぜおいしいか?それはうまみたっぷりだから」「ええ」

「タコは伊勢海老を丸呑みするからよ」「え~、丸呑みするんです?」「だから、

タコは伊勢海老に負けず劣らず、うまみがある」「なるほど。その応用ですか~」

「その通りよ」


 「私ね、芽キャベツでひと財産作った人間なのよ。だから、今は億万長者なの」

「へ~、そうなんですか?」「投資は大きな収穫のための栄養よ。覚えておくとい

いわ」


             



 億万長者か~目の前に座っているサチ子がハートのアップリケの服を着た半跏思

惟像に見えてきた。「半跏思惟像 人間サチコさま ああ、ありがたや」


 私の長いニースの1日はまだ終わらなかった。 









     





   *p.s. JR九州のつばめとかさくらとか、4人は座れるコンパートメントありますね。
        普通運賃で乗れるのはすごいことですよね。


   *イラストもストーリーも実在の場所などとは関係ありません。

   *上のイラストから「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

    毎週火曜日更新連載です。

   * 「リサコラム」は毎週月曜日連載です。



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。



    




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

(Amazon、書店では1,500円で販売しています。)

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,800円にてお届けいたします。  
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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