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リサコラム
連載417回
      本日のオードブル

アドラーに聞きに行こう


第3話

「明日はどちらに?」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


キャラメル色のシルクののカーテン。
白いベッドリネン、
オーシャンブルーの額縁のついたピロー、
同じ色の長いロールクッション、
ベッドスカートもコーディネートしています。
そして、
ウッドデッキと同じ床が部屋の中までずっと。
これ、リゾートの条件です。
部屋と外の堺のない場所。
外の景色まで自分のものにできるのですから。

さあ、私は明日はどこにいるのか?
そんなこと、
聞かないでください。

 
      
  





      


第3話 「明日はどちらに?」



 「あの、楡の木は、これでしょうか?」

 蝉しぐれの大木の下に男性はのれんをくぐるように腰を屈めて入ってき

た。「楡の木なら向こうにもありますが」「ああ、そうだった。帽子でし

た。えっと~、何色だっけ」長身の男性はポケットに手を突っ込んだ。

「すみません、ああ、その、目印、え~と」「黄金色の帽子、ですか?

「ああ、それそれ、それです。ああ、あな、その絵描きさんですね?」


            


「ええ、きっとお探しの絵描きではないかと思います」黄金色の帽子の絵

描き、アドラーはゆっくりしゃべった。「ああ、やっぱり。え~と、ここ

」男性は体をねじりながらようやく名刺をシャツのポケットから取り

出すとアドラーに手渡しながら言った。「ぜひ、お願いします。それで、

できるだけ下手に描いていただけませんか?いきなり失礼だとは思います

が。素人が描いたような絵がいいんです。ああ、もちろん、お支払いは、

前金ですか?」「2時間後で結構です」「2時間後?」「その頃には出来

上がりますから」「は~、2時間か~そんなにかかるものですか


            


 アドラーは腕組みをした男性を前に静かに口を開いた。「お子さんは小

学3、4年生くらいですか?」「ええ、はい、その通り、今小3です」「

それで、どこに行かれたことにしましょうか?海ですか?山ですか?」「

いや~、参りました。きっと何もかもお見通しってことですか?」男性は

ひざのバッグの上に肘をついて手を組み、向き直った。「その通りです。

子供の描いたような絵をお願いしたいんです」「夏休みの宿題ですか?」

「ええ、実はどこにも連れて行けなかったのがいけないんですけど、もと

もと、私みたいに絵の才能は全くなくて、というより大の苦手で、先生に

はどこにも連れて行ってもらえなかったから絵は描けませんでしたと堂々

と言うくらいの度胸のあるやつではあるんですが」男性は大きなため息を

つくとしおらしくなって言った。「何とか小学3年生の描いたような絵に

出来ませんでしょうかね?」「そう見ようと思えば見えるような絵ならか

けます」「そうですかそれじゃ、明日はどちらに?」


            


 「ここです」男性は腕時計をちらっと見ると「明日、ここに取りに来ま

す」と言った。「いえ、ここで私の質問に答えて頂かなくてはなりません

から」男性は一度立ったあと、またあきらめ顔で腰をかけた。「そうです

か。わかりました。それでは、改めてお願いします」


 アドラーは鉛筆を持ち、「丸天と角天はどちらがお好きですか?」と言

いうとスケッチブックと男性の間を見た。「はっ?丸天と角天?関係ある

んですよね。それなら、視界の開けた海か山なら、丸でも角でもどっちも

お願いします。」アドラーは鉛筆で線を重ねながら言った。「緑の向こう

に海が見渡せる広々としたコテージの絵はいかがですか?」「海辺のコテ

ージか~?いいな~そんな場所に連れていきたいものですね、と言うか私

が、行きたいな」「高級な感じか質素な感じかどちらがお好きですか?」

「高級な方で。思い切りクールにやってください。少々質素な要素もあり

」男性はアドラーの線を覗き込んだ。


            


 「それでは、ウッドデッキが部屋の中までつながったようなリゾート風

で装飾の少ないインテリアで行きますか?」「いいですね。インドアバル

コニーってやつですか?」スケッチブックの中に首から先だけ伸ばした男

性の顔は、さらに縦長に伸びた。


 「デッキのソファで海を眺めながら、シャンパンでも?」アドラーはに

やっと笑った。「ああ、最高ですね。でも、最初はビールかな?冷えたビ

ールグラスも描いてくださいね」「小3で?」「ええ、私の分でならいい

でしょ?でも、NGかな~」「描きましょう。左に腕時計をされておられま

すから、右利きでよろしいですね?」」アドラーはスケッチブックから目

を上げずに聞いた。「ええ、そうです」アドラーの手の動きに連動するよ

うに男性の真剣な顔も動いた。


            


 「あの、冷えたグラスはどこに?」「ええ、ここに」「えっと~」男性

の眉はハの字になった。「右腕を折っているのはグラスを持っているとい

う意味です」「ああ~、なるほどね。それで我慢しますか」男性の首はさ

らに伸びた。「ああ、こんな広いベッド、いいですね。それそれ、枕、4

つね。いいですね~、あれ?そのベッドの右横は何ですか?」「シャワー

ブースです。奥にはバスタブがあります。シンプルな湾曲した感じのでい

いですか?」男性はまた首をかしげた。「バスタブは見当たりませんが

あ~、わかりました。OKです。ベッドの後ろに隠れているんですよね。

はい、はい」ベッドルームの後ろがガラス越しのバスルームです。気にな

りますか?」「いえ、全然」「中からしか見えないマジックミラーにして

もいいですよ。でも外に向いたガラスの壁には外側から電動のシェードを

付けておきましょう。中からリモコンで操作できますから。外からバスル

ームが見渡せるのもいいものですから」「ええ、イメージはわかります」


            


 「ピッチですが、15cmでいいですか?」「はっ?ピッチ?」「シェ

ードがたたみ上がる幅ですが、お好みなら、20cmでも30cmでも」

「わかりませんが、その、おすすめでお願いします」男性の眉間は広がり

そして体は後ろに大きく伸びをした。


 「あ~、いいですね。ガラスの向こうでシャワーを浴びながら、海を眺

める。周りに家がないから、シェード全開でも、OKですね。あれ、ここ

はプール?」「ええ、デッキチェアはあなたと息子さん用の2台です。そ

れでいつからお二人暮らしに?」「ええ、3年前から父子家庭です。これ

でもいっぱいいっぱいやっているつもりなんですけどね」「でしょうね」

男性はまた絵の中に首を伸ばした。「このデッキチェアに寝転がってビー

ル飲んだら、最高ですね」「そうでしょう。日没前の空にしておきます」

「そうしてください」


            


 アドラーは海と空の境に薄く紫の一筆を加え、「完成です」と言うとく

るっと男性の方に絵を向けた。絵を持った夢見心地の瞳にはアドラーが映

った。「いい雰囲気です。最高です。こんないい別荘を学校に渡すわけに

はいかない!描けないものはかけない。それでいいんです。本人の責任で

すから」


 男性は折り曲げていた大きな体を存分に伸ばし立ち上がった。「アドラ

ーさん、いいもんですね~。私は、カタチから入るタイプでして」「わか

ります。私の目印を黄金色の帽子ではなく、楡の木で見分けられる方はあ

なたが初めてでした」「また、お願いできますか?」「もちろんです」


            


 「アドラーさん、明日はどちらに?」「ここです」「そうですか。わか

りました」男性の顔に夕日が差し込み、黄金糖色を帯びていた。


 「私はね、明日はここにいますよ。あさっても、ずっとね、へへへ、こ

の絵の中にね」



   




   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S1.

   Bon Chicvol.10 では4名様のお客様のお宅が掲載されます。
  自宅でも撮影しました。いい機会だと思って、壁紙まで変えてしまいました。本の中の風景と
  様変わりしました。思い切ってやったら、別の部屋になっていました。楽しい日々です。
  10月28日発売予定のようです。編集作業はまだまだこれからですが、お楽しみに!

P.S.2

  今回のE-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」です。
  ちょっと毛色が変わっていますが、僭越ながら、面白い読み物だなと思います。
  ぜひ、下のドアを軽く押してみてください。
  ドラえもんの「どこでもドア」みたいに飛んでゆけます。袋小路に迷い込みながらも
  歩むのも面白いものですから。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて19,44円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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