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リサコラム
連載418回
      本日のオードブル

アドラーに聞きに行こう


第4話
「ニューヨークの
ペントハウスから」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


ニューヨークに行くと人生が変わり、
パリに行くと人生が変わり、
すごく素敵なホテルに泊まると人生が変わり、

家を建てると人生が変わり、
仕事を変わると人生が変わり、

部屋を変えると人生が変わり、
ベッドを変えると人生が変わり、

カーテンを変えると人生が変わり、
ベッドの向きを変えると人生が変わる。

なあんだ、カーテンもベッドに向きも
先月も変えたから、毎月人生は変わっていると
いうことかな?
意外に簡単なのね。

 
      
  





      


第4話 「ニューヨークのペントハウスから」




 「あの、そこんとこ」男性がごくんとのどを鳴らすと、のど仏がごくん

と動いた。30代後半に見える営業マン風の男性。椅子から体を浮かせた

ままでアドラーのスケッチブックの中の枕の一点を指差した。


           


 「そこんとこ、結構ポイントなんで」そして首を振りながら片手でネク

タイを緩めた。「うん、うん、いい、いい」男性はアドラーが最後の一筆

を入れると、やっと安心して椅子に腰を下ろした。


 ここ数日で公園の中を漂う空気の匂いは掃除をしたばかりのように清浄

に澄み始めていた。そして、アドラーがサインを入れようとするところで

「あの、ここ、ここにお願いします。タオルのここんとこ、結構ポイント

なんで」男性は赤葡萄酒色の肘掛椅子の上にかけたタオルの先端のあたり

を指差した。


           


 「う~ん、いいね。いいです。とても。これが僕のニューヨークの最上

階の部屋ってわけか~」男性は絵を両手で顔の前に持ってくるとしばらく

じっと絵の中に入り込むように見入っていた。そして一言、「今日は薄曇

りだな~」とつぶやいた。


 アドラーは刻一刻とオレンジ色の幕を下ろしてゆく空を楡の木の葉の合

間からのぞいて見た。夕暮れ時の公園は秋風が雲のかけらさえどこかの国

に吹き飛ばしたようにすっきりと晴れあがっている。


           


 「お天気がご心配なら、念のため、トリプルチェックを致します」アド

ラーはぴんときた。男性はこの絵の中に入り込んで、未来の自分になりき

っているのだろう。「うん、そうだね」「かしこまりました」男性は絵の

中のバルコニーのドアを開けるようなしぐさをした。「だんなさま、今夜

はよいお天気になるそうです。今、気象予報士から入った情報です」アド

ラーは耳に入れたイヤフォンを触るような手つきをした。「そうか。テレ

ビのニュースよりずいぶん早いな」「それでは、今夜のパーティは予定通

り中庭で執り行います」「それはよかった」


           


「それで、だんなさま、日本からのゲストの方は8番のゲストルームにご

案内致します。日本人の方は末広がりの8をお好みになられますから」

「私はまだその部屋を知らんがね」「ええ、そうでしょう。そのお部屋の

向かいは古いレンガのビルで、今は民間の団体が運営をしております図書

館になっております。そのお隣りのビルはだんなさまのご子息のビルでご

ざいます。その面で警備もしやすく、両隣の部屋は警備員の控え室になっ

ておりますので、お二人でベランダに出られても安心でございます」「な

るほど」男性は両手に絵を持ったままでうなずいた。


           


 アドラーは帽子を脱ぐと手に持って姿勢を正した。「ベッドのヘッド側

の壁は運気を感じる深いボルドー色のベルベットで貼りました。そこにキ

ングサイズのベッドを1台置いております。ヘッドボードのカバーはフラ

ンスの著名なデザイナーの直筆の絵の刺繍です」「なるほど、それはいい

な」「ベッドリネンはなめらかなエジプト綿で、さらにとても軽やかで..

..
」「ぴんとしているだろうな、枕の角は?」「もちろんでございます」

「それならけっこう」


           


 「それに、だんなさま、一人掛けの椅子はボルドー色に赤みを足した最

高級の綿サテンで張替えました。こんな繊細な綿サテンで椅子張りをする

なんて誰もやらないと職人は申しておりましたが、しかし、ゲストの方が

お掛けになるとしてもわずかな時間でしょうし、お掛けになられないこと

も考えられますから、破れる心配はございません」「だな」男性はバルコ

ニーのドアから出るようなしぐさをし、アドラーはその後で窓を閉めるし

ぐさをした。


            


 「それに、壁と椅子のボルドー色に合わせて絨毯も新たに張り替えまし

た。コバルトブルーヒューとクレムソンレーキを混ぜて出した色合いで、

運気を感じるお色になりました。この色は多くのプレジデンシャルスイー

トの部屋の絨毯として採用されております。すべての配色はゲストのお好

みを考えた上で自然と落ち着いたものです」「ほう、どんな好みを言って

こられたのかな?」「はい」アドラーはここで胸のポケットから1枚の写

真を取り出した。「先方様より送られて参りました写真でございます」

「ほう、それで君はこれから判断してこの部屋をアレンジしたというのか

ね」「さようでございます」「そうか」「それはどんな推理によるものか

な?「この写真はセピア色で少々色焼けしております。ということは、ま

ず年齢を判断する材料になります。映っているのは高校生くらいの年齢で

すから、今はかなりの高齢か、あるいは、セピア色の写真をあえて撮った

か、というどちらかです。この場合は印画紙の経年変化から判断して、後

者だとわかります。つまりゲストの方はこの写真をずっと大事に持ってお

いでで、そこにはよほど深いものが背景にあって、さらに芸術に対しても

ご興味がおありなのだと判断いたしました。それに、ワインがご趣味の中

華レストランチェーンのオーナーであられる点を加味しますと、つまり」

「つまり?」男性の目から発した閃光はアドラーの目の中に入り、アドラ

ーはまばゆさに手に持った帽子をかぶり直した。


            


 「これはきっと成功を夢見た青春時代の思い出の写真だろうと」「まあ

そうとも言えるな、いや、きっとそうだろう」「そこでこの写真のような

絵を描いてお部屋に飾ることにいたしました。ブラウンの額に入れたセピ

ア色の写真はボルドー色の壁に掛けるとさらにノスタルジックな感じを与

えますから。そのあとは簡単です。ボルドー色にマッチする色合いで部屋

の色を決めてゆきました。そして想像ですが、このオーナーはきっとお若

い時にニューヨークで演劇の仕事にあこがれて渡米なさったか、あるいは

そんな日々を送られたかったのかもしれないと想像もしました。それで、

ニューヨークの古い建物を眺められる高い窓と緑とバルコニーを描き入れ

ました」


 大富豪からサラリーマンに戻った男性は真顔になってアドラーに向き合

った。「ばれましたね。演劇部出身で、それを目指していたと」「この写

真の似合うニューヨークの街が見える最上階の部屋を描いてほしいと言わ

れた時に、もしかしてと思っていました。それにどこに行っても自分のイ

ニシャル入りのタオルが出てくるのは演劇人の夢ですから」


           


 「なるほどね~もしかして、アドラーさんもその口ですか?」「ええ、

私も憧れた時期はあります。ニューヨークの絵描きに。ああ、それと、ち

ょっと待ってください」アドラーは、絵の片隅に小さな三角の革のスリッ

パの先を描き入れると、あらためて元演劇部の中華食材卸しの営業マンに

未来の絵と気取ったポーズを取ったセピア色の写真を手渡した。


 「未来に足跡を残すって簡単なことですね。ほんの30秒ほどでした」



  




   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S1.

   今日は記念すべき日でした。
  絵を描いていて、よかったと思うことは、絵に描いていない部分に想像が膨らむことです。
  こんな自己流の下手な絵でもブックカバーにしたらとても喜んで頂けて、
  中には額に入れてくださる方もいらして、ほんとうにありがたいです。

  リサコラムを始めて書きはじめて今日で丸8年になりました。
  8年間1度も休むことなく毎週続けられたのは、
  ずっと読んでくださる方がおいでだからです。
  ご愛読に心より感謝いたします。
  これからも幸せな景色を書き、描きつづけたいと思います。
  さあ、明日から9ラウンド目が始まります。ボクシングなら決着までまだあと7ランドあります。
  まだまだ人生の中盤ですね。

P.S.2

  今回のE-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」です。
  ちょっと毛色が変わっていますが、僭越ながら、面白い読み物だなと思います。
  ぜひ、下のドアを軽く押してみてください。
  ドラえもんの「どこでもドア」みたいに飛んでゆけます。袋小路に迷い込みながらも
  歩むのも面白いものですから。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて19,44円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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