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リサコラム
連載419回
      本日のオードブル

アドラーに聞きに行こう


第5話
「青い彫像」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


青い色には不思議な力があるのを
知っていますか?

青いストライプのカーテンの向こうに広がる
青いベッドルーム
青い大きなソファ

青いカーテンのある窓の先のテラスから
さらに青い空模様を映した海は
太陽の光を借りて
部屋の中に青い色を映しこみます。

不思議な力は集まると加速されて
パワーを増すようです。

 
      
  





      


第5話「青い彫像」




 『まるで人魚です。陸に上がった人魚の棲家みたいです』私はメールの

メッセージに動揺していました。


          


 私はその問題の人魚のような彼女に出会ったのは、私の勤務する結婚式

場でした。静かで飄々とした不思議な感じの少女のような女性でした。彼

女は彫像作家だと言われていました。しかも砂糖菓子の彫像作家だという

のです。その作品はあまりに美しくて新鮮なので、見た人は口をぽかんと

開けてショックを和らげると言われていました。


 人魚と言われた小柄で華奢な彼女は式場の控室の片隅の方にじっと立っ

たままでした。両手には青いカバーがかけられた小さな鳥かごのようなも

のをひとつずつ持っていました。彼女は最後の自分の出番までじっとそれ

を持って立ったままだったので、その姿は彫像ではないかと思うほどでし

た。


            


 私がそんな彼女に強い興味と感心を寄せたのは、私とはまるで違う人間

だと直感したからだと思います。そして式が終わる頃、彼女は新郎新婦に

その鳥かごを手渡し、その2つの彫像はその日のクイズで当選した幸運な

二人の男女に手渡されました。かごの中には砂糖菓子の彫像の男女がそれ

ぞれ一組ずつ入っていました。それにはどんな意味があるのかは語られる

ことなく、幸運を呼ぶ青い鳥のような青いカップルの彫像をもらった独身

の男女二人は一様に歓喜の表情を浮かべていました。


 そしてその時、もう一人不思議な青年が実はやって来ていたのです。彼

はアドラーと呼ばれている絵描きさんで、普段は公園で絵を描いているら

しいということしかその時はわかりませんでした。彼は披露宴の最後の出

し物の特別出演で絵を描きにやって来ていました。黄金色の帽子にスーツ

を着たちぐはぐな姿は、かえって芸術家らしくも見えました。抽選で当た

った幸運な列席者に小一時間でその人の未来の絵を描くのが彼の役割のよ

うでした。彼女と絵描きのアドラーはほぼ同じタイミングで会場から出て

そして、アドラーはその彼女を見ると、「お久しぶりです」と挨拶をし、

彼女も「お久しぶりです」と二言三言、言葉を交わし、それぞれ反対方向

に帰って行きました。私が初めてその二人を知ったのは、つまり同じ日

でした。


            


 その後、また同じことが起きました。二人はまたこの披露宴会場で出く

わしたのです。二人はそれぞれ仕事を終えると、また「お久しぶりです」

と挨拶をし、二言三言、話をすると、反対方向に帰って行きました。


 それから2か月ほど経ってまた同じ事が起きました。私の関心はその謎

めいた二人に集中しました。相変わらず、彼女は両手に鳥かごを持ち、じ

っと立ったままで式の最後で新郎新婦に彫像の鳥かごを手渡しました。そ

れが4、5回続いた後で私はどうしてもその謎のシステムを解明したくな

ったのです。彼女は一体何者で、そして絵描きのアドラーとどんな関係が

あるのかをどうしても知りたいと思ったのです。


 手がかりは彼女の鳥かごだけでした。その鳥かごの納入業者をやっと突

き止めることができたのです。彼女は宅配BOXで受け渡しをするようでし

たが、時には部屋で受け取ることもあるということがわかりました。私は

その業者の知り合いをたどって彼女がどんなところに住んでいるのかを教

えて欲しいと頼みました。簡単に言うものの、それまで約半年はかかった

のです。その間、やはり、彼女と絵描きのアドラーは同じく披露宴で出く

わしました。その不思議な関係は永遠に続くように思えました。


            


 そしてようやく、彼女の部屋の様子を知らせるメールが届いたのです。

それが、『まるで人魚です。陸に上がった人魚の棲家みたいです』という

冗談のようなメールで、そのメールの送り主は彼女の部屋の様子を文学的

な表現で伝えたつもりだったのかもしれませんが、それに続くコメントは

「部屋は全部青くて、床はタイルのような少し光る素材で美しく、天井は

まだら模様で濃い青です。高台に建つ古いアパートを全部リフォームした

ような感じで、遠くの海を見下ろす部屋には大きなベッドが一台あって,

ブルーと白のベッドリネンが気持ちよさそう。その中で大きな濃いブルー

の一人掛けのソファに人魚の彼女は座って、テーブルの上で彫像に青い色

を塗っています」というものでした。私は自分の想像の中で彼女の姿を作

り出していたものの、やはり驚きました。そして、次の関心はアドラーで

した。


 紹介者がいないと絵を描かないため、紹介者をなんとか作るのが私の次

の課題になりました。私がようやくアドラーにたどり着くことができたの

はそれからさらに半年が経っていました。


            


 アドラーと木の下で向き合った時、私はすぐに彼女とはどんな知り合い

なのかを聞きました。「彼女の彫像を依頼した新郎新婦は決して別れるこ

となくずっと幸せに暮らせると言われているようです」「ああ、やっぱり

そういうことですか」「ブルーの彫像なのですが、そこにエネルギーが込

められているようなんです」「なるほどですね~。彼女を見ていたら、そ

んな感じはしていました。ウエディングにサムシングブルーはつきもので

すし」


 「彼女は3年ほど前、私のところに来たのです。そして彼女が好きだと

いうブルーの部屋の絵を描きました。床も壁も全部ブルーで、ブルーと白

のベッドリネンの大きなベッドも。そこに大きな濃いブルーの一人掛けソ

ファに座った彼女が部屋から遠くの海を眺めている絵です」アドラーはさ

らさらと画用紙にブルーの絵の具を使って再現してみせてくれたのです。

「こんな絵です」


            


 まさにそんな絵のような部屋に彼女は実際、ひとりで住んでいたようで

す。彼女はアドラーの描いた絵の通りの部屋を作ったということだろうと

謎の二つ目は解けました。それからアドラーは鞄から彼女の作品の青い彫

像を出して、私に手渡しました。「私も持っていましてね」私は手渡され

た青い彫像を手に取りました。すべすべした手触りで、青いベールをかぶ

った高さ20cm程の女性の像でした。「底を見てください」とアドラー

は言いました。


 「結婚したい相手が見つかった時、あるいは自分の殻を破りたくなった

時まずこの像を叩き割ってください」と小さな文字で書かれていました。

アドラーは無言で私にハンマーを手渡しました。


 「えっ?いいんですか?」「もちろんです」


 叩き割ると見事に粉々になり、そして中から名刺が出て来たのです。

アドラーの名刺でした。


            


 「あなたの理想の未来の絵を描きましょう」アドラーは言いました。

「あなたも殻を破りたくて、ここに来られたのでしょう。彼女も最初はそ

うでした。結婚式のイベントのアイデアも、彼女自身の彫像を彼女が私の

前で叩き割った時から始まったものですから」彼は私をじっと見てそう言

ったのです。


  


 私の最後の謎は解けました。同時に私は、変わる決意をしたのです。





   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S1.

  先に思いついた絵を描きます。下絵は、仕事の合間に描きます。
 そしてできるだけ集中して色を塗ります。 そして集中して文章を書きます。絵に合わせて。
 物語は神様任せにしています。だからきっと私が書いているのではないと思います。
 「神様ありがとうございます」といつも心で手を合わせています。

P.S.2

  今回のE-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」です。
  ちょっと毛色が変わっていますが、僭越ながら、面白い読み物だなと思います。
  ぜひ、下のドアを軽く押してみてください。
  ドラえもんの「どこでもドア」みたいに飛んでゆけます。袋小路に迷い込みながらも
  歩むのも面白いものですから。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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