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リサコラム
連載420回
      本日のオードブル

アドラーに聞きに行こう


第6話
「さくらのスカーフ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


さくら
日本人のこころに染み込んで
どうしてこうも特別な花になるのか
平安の時代からどのくらいの人が
思って来たことでしょう。

さくらは春の訪れを告げる象徴でもあり
同時に日本人の 日本を愛する人の
平和のイメージそのもののようにも思えます。

和と洋のデザインの
両方を結びつけるすばらしい生き物のような
うすピンク色

そんな色を好きという気持ちはとても
自然なきもちですね。


 
      
  





      


第6話 「さくらのスカーフ」


 ダークグレーのピンストライプのパンツスーツにフレンチカラーの白い

シャツの襟元を立てて、楡の木をくぐってやって来た女性は、「アドラー

さん?」と声をかけた。淡いピンク色のスカーフを襟元にわずかに見せな

がら「私の未来の絵をお願いします。急ぎで。未来がこう、ドラマチック

に、ぱあっと開ける部屋にしてください。お願いします」と立ったままで

アドラーに言うと、アドラーは女性に椅子を勧めた。


           


 「未来はあなたが作るものですから」アドラーは女性の瞳の中にいる二

つの自分に向って言った。「夢のような未来を絵にするって聞いて来たん

ですよ」女性はちょっと眉間にしわを寄せた。「私はあなたのなりたい未

来の姿に近い部屋を描くだけです」「そうですか。まあ、それならそれで

もいいです。とにかくラッキーなことが起きるようなセンスいい部屋にし

てくださいますか?」「わかりました」アドラーは静かにスケッチブック

を膝の上に立てかけた。


           


 「どんな場所で死にたいですか?」「はあ~?」女性は口を開けたまま

閉じることを忘れたかのような表情になった。「どんな場所で死にたいか

ですって、今から未来の夢の絵を描くのに、ですか?」「みんなその運命

にあります」「それはそういでしょうけど」女性は肩を大きく上下して息

を吐いた。


 「そうね、そういうなら、場所は高級ホテルですね。最高級のね。パリ

のリッツでシャネルが最期を迎えたみたいに死ねたら幸せだろうなと思い

ますね」女性の眉間のしわはまだ消えてはいなかった。「わかりました。

それじゃ、そんな夢を描きます」アドラーはスケッチブックに線を引き始

めた。


           


 女性はアドラーの鉛筆の先をじっと見た。「この絵は私が死ぬ場所にな

るってことよね?まだ30なんだけど」「明日はわかりません」「それは

そうですけど」「早く最後を決めておかないと準備だけで終わってしまい

ますよ。さあ、急ぎましょう」「急ぐのはそんな意味で言ったわけじゃな

いんです」「わかってます。いつも急いで描きます。完成する前に私が急

に倒れることだってありますから。それではまず、好きな色は?」「好き

な色ね~、私、こう見えてもセンス、ないんですよ、全然」女性はピンヒ

ールのつま先を地面にとんとんと叩きつけていた。


           


 「好きな色とセンスは別物です。自然に好きと思える色を挙げてくださ

い」「う~ん、グレー、ブラウン、ベージュ、黒、カーキですかね」アド

ラーは女性の耳に光るピンクの石を見た。「ピンクがとてもお似合いです

よね。ピンクはいかがですか?」「ピンクはちょっとね~」「そうでしょ

うか?無理をしてダークな色を選ぶことはありませんよ。服装より、アク

セサリーにその方の本当の好みが現れると私は思います。ダークな石のア

クセサリーをなさる方ならそんな色がお好きでしょう。でも、あなたは明

るいピンクの石を選んでつけられているということはそんな色がお好きだ

からではありませんか?」アドラーのスケッチブックにはすでに無数の線

が描きこまれていた。


           


 「ふ~ん、なるほど、そうかもしれません」小さな椅子に座り直してア

ドラーに向き合った女性の表情は心地よく穏やかな秋の昼下がりのように

柔和に見えた。


 「それではどんな香りが好きですか?」「香り?あ~、わかりました。

香りのイメージってことね。イングリッシュローズとかカサブランカのよ

うな華やかな香りより、控えめな香りが好きですね」「桜の香りはいかが

ですか?桜自体は香りがないので、桜の葉の香りはどうでしょうか?」


「桜餅の香りは好きですよ。甘酸っぱくてエキゾチックな感じもしますよ

ね」「馥郁とした和の香り?」「それ、結構好みかも」「わかりました」

アドラーは馥郁とした和の香り漂うゴージャスなホテルの部屋を作り始め

た。


           


 そして大きなベッドが一台とその隣りにはクローゼットルームが出来て

いた。「ここにバスローブと、パジャマの上にひっかけるローブを入れて

ください。ドアは自動です。反対側のドアも自動です。廊下を出た先にも

う一つドアがありますので、そこからホテルのエレベーターホールにつな

がっています。女性はアドラーの反対側から体をねじってスケッチブック

の上に顔を近づけたがその表情には疑問符が読み取れた。


 アドラーは黒白市松の床に白い天井の飾り枠を塗り、ベッドサイドの壁

には墨色を塗った。そして、ベッドの上のリネンやピロケースにはごく薄

いグレーで影をつけた。それから、ピンクと紫とグレーを混ぜながら、小

さな花びらを点々と壁や、ベッドの上にも散らし始めた。


           


 「わ~、なんかステキじゃないの~」「あなたのドレスにも桜の花びら

を散らしましょう。ピンクの花びらが川の流れに身を任せるようなデザイ

ンにしておきます。特注の絹織物ですから最低200万は見てください」

「200万?」「ええ、それに、ヘッドボードの向こうの壁は日本画家の

方にお願いされる方がいいでしょう。ブルーとグレーの薄曇りの空に舞う

さくらを描いてもらってください。この広さですから500万円は覚悟し

てください」「500万円ですか!」「そしてここが肝心ですが、壁から

ヘッドボードに向って桜の花びらがはらはらと落ちてくるように、柄は完

璧に合わせてヘッドボードに刺繍をしてもらうことです。ベッドリネンに

も同様の刺繍をしてもらってください。グラデーションを付けてさくらの

花びらを表現してもらうことです。これは手刺繍でしょうから、価格はわ

かりませんが、そうですね。100万としておきましょう」「は~あ、架

空の部屋とはいえ、すごい。え~と、200万に500万、100万です

か?それに、ベッドとかインテリア、もろもろで、まあ、1000万って

とこですか?すごい部屋!ほんとうに作れればね」女性は幸せと安堵と困

惑の混じった表情で絵を眺めていた。「真剣に望めばこんな部屋に住める

ようになるでしょう」アドラーは完成した絵を女性に渡した。


           


 「失礼ですが、もしも、人間関係でお悩みなら、自分と他人を分けて考

えることです。誰かの口からあなたに向けて発せられた批判だって、あな

たのものではありませんからね。ご自分の好きな世界は大事にしてくださ

い」「どうしてそんな?」「いえ、そんな気がしただけです」


           


 女性はアドラーに丁寧に頭を下げると、襟元から薄ピンク色の長いスカ

ーフを手で引き上げて、それを風にそよがせると、くるっと後を向いて歩

き出した。



  


 「あの~、クローゼットドアの壁に掛けたのはタオルではありません。

あなたのそのきれいなさくらのスカーフ掛けですから」アドラーはさくら

のスカーフに追伸をした




   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S1.

  さくらは季節外れですが、実は、先日、お客様とベッドルームのお話しをしていた時に、
今年の夏の終わりに亡くなられた、日本画家の笠青峰さんの「荒城の月」というさくらの絵を
お持ちだというお話を伺いました。
さくらの舞い散る部屋で眠れたらどんなに素敵だろうと思い、こんな絵を描きました。
お客様との雑談はいわば玉手箱です。

http://ryu-seihou.co.jp/で検索をしてみてください。素晴らしいサイトでした。


P.S.2

  今回のE-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」です。
  ちょっと毛色が変わっていますが、僭越ながら、面白い読み物だなと思います。
  ぜひ、下のドアを軽く押してみてください。
  ドラえもんの「どこでもドア」みたいに飛んでゆけます。袋小路に迷い込みながらも
  歩むのも面白いものですから。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて19,44円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

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