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リサコラム
連載421回
      本日のオードブル

アドラーに聞きに行こう


第7話
「ミモザの洞察力」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


ベッドルームの脇には奥行2mほどの
デンがあります。
ここは洞窟みたいに石を壁に積んで
じっと思いを巡らす場所です。

そして、ベッドに横になって見渡す先は
白いフレンチ窓の先に続く森です。
バルコニーに出ればもっと近くに
鳥の鳴き声とか小川のせせらぎも
感じられますよ。

ついでに、
鏡に映っているのは、ミモザの花束を
毎日届けてくれる少年です。
名前はアドラーといいます。

ああ、もうお察しでしたか?
さすがの洞察力です。

 
      
  





      

アドラーに聞いてみたら

第7話 「ミモザの洞察力」


 「10月生まれのさそり座なものですから」アドラーはタートルの襟を

引き上げると、早速、画用紙に線を引き始めた。


          


 
「さそり座ですか?」「ええ。一度走り出したらやめられないんです」

アドラーは素早く線を重ねながら、女性の方に顔を向けることもなく質問

をはじめた。


 
「お好きな物は何ですか?」「どんな?」「何でもいいです。りんごで

も、車でも、旅行でも」モノトーンのスリムなワンピースを上品に着こな

した女性はしばらく腕組みをして考えた末に「う~、さそりかな?はっは

ははは~。アドラーさんって面白いですね。思ったより」事務職だと言っ

た女性は楡の大木の中に響き渡るような大きな声で笑った。


          


 
「なるほどですね」アドラーは軽く口元を上げるだけで、女性の方には

視線を向けず、画用紙の中に目の前にいる人の未来の部屋を作り出しつつ

あった。


 
「澄んだ空気なんて言いますけど、こんな秋の空気みたいな、空気感の

ある部屋がいいです」「それはちょっと無理です」「無理?」「ええ」


「あなた、絵描きさんでしょう?」「ええ、でも私はその空気感を描くの

はやっていませんので」女性はまた大声で笑った。「アドラーさんって本

当にユニークですね。そんなことを言われるなんて思ってもみませんでし

た」アドラーの画用紙は線でいっぱいになった。


          


 「画用紙は所詮、紙です。2次元です。空気は3次元に漂うものです。

でもこんな反論もあります。さそりよりもっともっと小さい生物から見た

ら、紙の凹凸はザイルを使ってしか登れないような山みたいにも見えるわ

けでしょう。それなら紙だって3次元なわけで、さらにそこに絵の具が乗

れば、画用紙の中の世界はどんどん立体的に広がっているんですからね」

「面白い!結局、アドラーさんだって、空気感を描いているってことです

よね」「それじゃ、小さな虫になって描いてみましょう」女性はころころ

と聞こえる声で笑った。


 「なんだか、期待できそう」「期待はされないでください」「はっはは

はは~」女性はタイミングをずらさずに笑った。「でも、まあ、芸術家は

そんな風でなくちゃね」「そんな風と言われますと?だから、そんな風で

すよ。あまのじゃくって言うか、期待される反対の答えをするところです

よ。ふつうは、相手の期待する答えを探して言うでしょう。そうでないと

相手に敵対心とか、嫉妬を感じているって思われますよね。でも、そんな

ことお構いなしってところが、芸術家って感じじゃないですか?」「なる

ほどね」アドラーはそれだけ言うと壁にごつごつした感じに色を乗せはじ

めた。


           


 「それって、石の壁?」アドラーは「ええ」と答えただけで、また黙っ

て石に色を乗せ続けた。楡の木はわさわさと音を立てて、二人の間には3

0分前とは少し違った風の匂いが漂い始めた。


 「う~ん、すごい!そんなナチュラル感のあるホテル、大好きです。ナ

チュラル感なんて、出せないって言われるかもしれないけれど、まあ、ボ

キャ貧なのでそこは大目に見てください」


 
アドラーは白いベッドの上の白いクロスを描き入れた。その裾の方に黄

色とオレンジを混ぜた色を点々とのせ始めた。「これで、その、空気感が

出てきませんか?点々は空気を含んでいますしね」アドラーはにやっと笑

い、女性は、また大きな声で笑い、そのほほにはさっと桃色が乗った。


          


 「それじゃ、カーテンにもそのミモザの点々、入れてもらえますか?」

「わかりました。一人掛けの椅子のクッションにもね」アドラーは白いフ

レンチ窓のカーテンにもミモザの点を入れ始めた。


 
「不思議よね~、白いカーテンが生き生きしてみえるんだから」「あな

たの服にも、空気感、足しおきましょう」アドラーはミモザの点を入れ始

めた。「そのティアードスカート素敵ね~」女性はうっとりした表情に変

わっていた。「気に入っていただけました?」「うん。こんな服、絶対着

ないけどね。こんな部屋にも絶対住めないけどね。でも素敵。住めたらい

いな~、住めるんですよね、だって、アドラーさん、未来を描くのが仕事

なんだから」アドラーはティアードスカートの上にミモザの点を入れ終る

と、ゆっくりと筆を脇に置いた。


          


 
「ショートカットはお似合いだと思いますよ」「わたし?」女性は長い

髪の毛を軽く片手で触った。そしてしばらく黙ったあと、「アドラーさん

、わたしみたいな人ね」と言った。「そうですか?」「ええ、自分が信じ

るところは強引だから。わたし、別に黄色が好きと言ったわけでもないで

しょ?」「でも、気に入ってくださったんですよね」「ええ、ちょっとび

っくりするくらい、理想的で。黄色なんて別に好きでもなんでもなかった

けど、こうしてみると好きな気がしてきて。ミモザの花を散らした部屋み

たいで、ロマンチック。でもロマンチックが好きなんて自分では思いもし

なかったわ~。こんな素敵な森に囲まれたホテルみたいな家に住めたらい

いですね。ボキャ貧だから、うまく言えないけれど、こんな部屋に住んで

いたら、人生が楽しくなるでしょうね。でもその手段がね~」女性は首を

斜めに傾けてアドラーの絵を両手で持った。


           


 「簡単なことから始めたらどうですか?こんな服は絶対着ないとおっし

ゃったけど、それなら着てみるとか。髪の毛を切ってみるとか。こんな部

屋を探そうとしてみるとか。きっとそんな簡単にできるわけがないと言わ

れるかもしれませんが、やろうとしないだけかもしれませんよ」


 「アドラーさんのおっしゃる通りだと思います。そうは簡単にいかない

ものですよ」女性は両手に絵を持ったままで立ち上がった。「あなたは

ボキャ貧だと言いながら、だからいろんなことが不可能だと思いこもうと

しておられるような気がします」アドラーも立ち上がった。「ボキャ貧だ

から、私は絵で表現しているんです。私にとってはしゃべるより簡単です

から。あなたも別の表現手段をきっとお持ちのはずです。さそり座の方は

思い切ったら、行動するまであっという間ですから」「さそり座って、ど

うしてわかったんです?」「簡単です。だってさそりがお好きだっておっ

しゃいましから。自分の星座を嫌いな方はいません。それに今はさそり座

の季節です。ここに来られる方の約半分は誕生日の記念ですから」


          


 「そうですか。それじゃ一つ私も言ってもいいですか?」「ええ、どう

ぞ」「髪を切ってみます。そして、こんなドレッシーな服が似合う部屋に

いる自分を目指しましょう。それと、話を合わせてくれてありがとう。私


をけしかけてやる気を起こさせてくれて感謝します。どんなプレゼントよ

り思い出に残る自分へのプレゼントになりました」女性は頭を上げると握

手の手を出した。



  


 「それに、アドラーさんがさそり座でないのもすぐわかりました。洞察

力はさそり座の一番の特徴なんですから」

 女性は今までで一番の笑顔を見せて楡の木の下を後にした。


  




   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S1.

  洞察力とは、感ではなくて、どちらかと言えば、「経験を元にした推理」ではないかと思います。
  いかがでしょうか?

P.S.2

  今回のE-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」です。
  ちょっと毛色が変わっていますが、僭越ながら、面白い読み物だなと思います。
  ぜひ、下のドアを軽く押してみてください。
  ドラえもんの「どこでもドア」みたいに飛んでゆけます。袋小路に迷い込みながらも
  歩むのも面白いものですから。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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