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リサコラム
連載456回
      本日のオードブル

W.T.クラブ

第13話

「青春のワンシーン」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


8角形に張り出したティールームから
いろんな物語が始まるようです。

南西に向いた窓なら
冬はぽかぽか、夏はとても暑い温室です。

でも、梅雨の季節は
雨音にBGMに歌っても
静かな音楽を聴くにも絶好の場所です。

インテリアはアジサイの季節には
濃い緑、薄い緑、ピンク、紫
そして、
涙する物語が風情を添えます。

 
      
  





      

第13話 「青春のワンシーン」



 

私は書架をぐるっと一周すると、西隣にあるティールームに入った。ちょうど、前

にいたゲストが帰って行ったばかりらしく、後片付けが終わらないテーブルにはコー

ヒーカップが4つ並んだままで、そこにはまだ人の気配がした。


              


 中庭に向って8角形に張り出した小さなティールームは4人掛けのテーブルが一つ

あるだけで他に椅子はない。


 ほとんどのゲストは書架から本を抜いて自分の部屋かラウンジに持って行って読む

ため、普段はアフタヌーンティの時間でも人がいることはめったにない。しかし、今

日は珍しいことに4名の先客がいたようだった。


               


 夕暮れ前、降ろしたシェードの隙間からやや強さを増しつつある西の光が差し込ん

で来ていた。私はしばらく、テーブルの前に立ってじっとしていると、大きなアジサ

イの花瓶を持ったティールームのスタッフがやって来た。


 「すぐに片付けますから」彼女はテーブルにアジサイの花瓶を置くと、急いで片付

けようとした。


              


 「いや、そのままで結構。座らなくてもいいから」「それでも、」「いや、ほんと

に結構。実はこのシーンがとても懐かしくてね」「このシーン、ですか?」女性スタ

ッフは私の方に歩み寄り、そして同じ窓の方を向いた。


 「実はね、白い窓枠の入った8角形のティールームが私の実家にもあってね。西側

に向いていて、当時は温室に出ることができて、さらにそこから中庭につながってい

た。温室には蘭やら、バラやら、いろんな花が年中咲いていたね。梅雨から夏には不

快指数はまさにうなぎのぼりで、変な言い方だけど、むっとする、植物の体臭みたい

な、青臭い匂いがして、私はとても嫌いだったけどね


              


 「そうですか。でも、とってもロマンチックなお家ではありませんか!小説に出て

くるみたいで」女性はアジサイの花瓶を置いた後の手持ちぶさたに、後ろ手を組んで

その手をぶらぶらさせていた。私がじっとテーブルと窓の方を向いているせいで、行

きがかり上、話を聞く羽目になったような気配を感じた。それなら暇に付き合わせよ

うと私は思った。


 「それに、ここと同じように隣は書庫でね。かなりの本があったと思う。何万冊か

は知らないけどね。引退した祖父が少しずつ整理して、きれいに分類して、本の閲覧

カードも作っていた。それで近隣の人たちを招き入れて入館証も発行して本の貸出も

していたんだ。だから私たち家族だけの書庫はそのうち、『みんなの図書館』と呼ば

れるようになっていた。


              


 実際、学校の図書館の何倍もの本があったから、学校の先生さえ、借りに来ていた

ほどでね」「それはすばらしいじゃありませんか!」女性はほんとうにすばらしいと

いう気持ちを込めて私の方を見た。私も彼女を見た。


 しかしね、子供の頃は読書が大嫌いで、それまでは図書館に漫画本を持ち込んで読

んだことしかなかったしね。子供用の本は、伝記のような本ばかりで子供にとっては

つまらないからね」「それはもったいないですこと!宝の山ではありませんか?私な

ら一日中でも居たいですけど。夢は毎日、大英博物館の図書室に通うことなんですか

ら」「それは残念なことをした。もっと先に知り合うべきだったね」彼女はとても残

念という感じの言葉にならない声を出した。


              


 「でも、実はその先があるんだ。ある日曜日、隣町から同い年の女の子がやって来

て、もちろんお母さんと一緒だけどね。親戚の子供だった。その子が、あなたみたい

に本が好きでね。おとなしくてかわいい感じだった。彼女は文学少女のように見えた

な、その時は。それから毎月何度かやってくるようになって、僕はその子の気を引こ

うと、近くに座っては難しい本を開いては、読んでいるふりをした。時々、ピアノの

発表会用のサスペンダーに蝶ネクタイをして文学好きなお坊ちゃんだって演じたんだ

よ」「まあ、かわいらしい!」


 「もちろん、読むふりだから全然頭には入ってはいなかった。それで読書の時間が

終わって、隣のティールームでお茶の時間になったとき、彼女が私に読んだ本の内容

を聞いたんだ。私は真っ青になった。その時はどうにか取り繕ったけど、ほんとに冷

や汗もので、次からはもっと簡単な本をちゃんと読もうと心に誓ったんだよね。そし

て彼女自身は必ず、自分の読んだ本のあらすじと感想を話した。そして感想を言い終

えると、夕日を背に『それでは、ごきげんよう』と言ってお辞儀をして帰って行った

ね」「まあ、すてき!」彼女は、今度は胸の前で手を組んだ。


              


 「そしてちょうど今頃のようなアジサイが庭いっぱいに咲いていた梅雨の日だった

な、彼女はある一冊の本を読んでその感想を言い終えると、涙したんだ。それから帰

り際、母が手渡した、庭のアジサイの花束を持った時、花の上にポトンと一粒涙が落

ちた。まるでアジサイの花びらの上に落ちた雨粒みたいにポトンと乗ったことを私は

今でもスローモーション映像のように思い出せる。そして顔と同じくらいの大きなア

ジサイごとお辞儀をして、母親に連れられて帰って行った」


 「それからというもの、毎週日曜日になると、またサスペンダーに蝶ネクタイにさ

らに父親の整髪料を頭に塗って図書館で彼女を待った。毎週、毎週ね。しかし、どん

なに待っても、彼女はもう姿を見せなかった。それから、2か月ほど経って、彼女の

一家が海外に越したことを母から聞かされた。私は図書館の隅で涙した。もう永久に

会えないことが耐え難い苦痛に思えたんだよ。そして、彼女の涙がポトンとアジサイ

の花びらの上に落ちるシーンを繰り返し、繰り返し思い出しながら、彼女の読んだ本

を読んだ。そのうち、私と図書館とどちらに流した涙だったのだろかとふと思った。

いや、きっと私に会えなくなるから流した涙だったのだろうと私は結論づけた。


              


 そして私はごく若き日の思い出を自宅の図書館とともに封印した。その後、遠くの

学校に行ってしまったから、以来、図書館には足を踏み入れることなく今に至ったん

だよ。そして先週の日曜に久しぶりに実家に帰って、30年ぶりに図書館の封印を解

いたんだ」


 私の話を黙って聞いていた彼女は中庭の方を見たままで、「青春のワンシーンです

ね、先生」と言った。


              


 「ああ。そして、なぜ、封印を解いたかと言うとね、その日、その彼女の結婚式に

招かれて行ったからなんだ。そして、彼女は新婦のスピーチでこう言ったんだよ。『

私が医師を目指そうと思ったのは、子供の頃、シュバイツァーの伝記を初めて読んで

感動した時なんです。ちょうどこんな紫陽花の季節でした。私はその時、このブーケ

みたいな紫陽花を持って涙が止まらなかったんです』とね


 「まあ、先生、『青春のワンシーン再び!』じゃありませんか!」彼女は小さく叫

んだ。私はちょっと笑った。


              


 「それから、彼女は実際に涙しながら付け加えたんだよ。『それが、どこだったか

はもう覚えていないのですが、まるでスローモーションを見ているようにその時の感

動を思い出すんです』とね」


 しばらく私たちは沈黙した後、隣の彼女はどうにか笑いをこらえて言った。


 「先生、青春のワンシーンですね」と。


    


 またしばらく沈黙して、「実話に聞こえたかな?」と私もちょっと笑った。


   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S.1.

  「物語を書くたびに『これは実話ですか?』と言われることがあります。でもほとんど架空です。
  あのおどろおどろしい、『嵐が丘』の物語がまったくの空想と知った時に、
  人間は想像で何でもできるから宇宙にも足を延ばせるのかなと思いました。

  文章は出来上がった絵を見て約3時間くらいで作り、約2時間かけて校正をします。


P.S.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」を紙の本で読みたいと
  よく言われます。 いつか紙にできるようにします。
    この本はとても分量が多く、濃厚です。フォアグラのステーキと濃厚なマッシュルームとポテトの
  スープを合わせて頂くような感じです。だから、終わりがけはりんごのシャーベットとミントティもご用意   しています。
     まだお読みでない方はどうか、心してリゾートのフルコースを味わってくださいますように。
  税込千円のフルコースはなかなかのお買い得だと思います。下のどこでもドアから入れます

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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