MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載457回
      本日のオードブル

W.T.クラブ

第14話

「Wonderful Time」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



自分を追い込んで、
追い込んで
やっとたどり着いたランナーが見た景色は
コバルトブルーの海と空と砂浜と
そして美しい花の咲く場所だった。

そう思ったら、
目の前の景色はさらにさらに
パラダイスに見えたのです。
今まで似たような美しい景色を
たくさんたくさん撮って来たのに。



 
      
  





      

第14話 「Wonderful Time」
 

 靴の中に砂をざくざくと入れながら崖の上によじ登ると、視界が開け、見晴しのい

い絶好の見物台になる。


         


 梅雨が明けたとたん、海の色よりさらに鮮やかなコバルトブルーの空にはもう白い

綿菓子のかたまりが浮かび、赤紫と赤ピンクの大きな花が足元に低くはびこるように

咲き誇っている。


 そして空の色を盗んだコバルトブルーの海の入江と砂浜が目の前に広がる。ベージ

ュの絨毯に見える足跡もないきれいな砂色と濃いお茶色に鬱蒼と茂る低い丘のすぐ横

に建物が見える。そのベージュの壁全体には蔦(つた)が這い回っている。奴はまた

この場所までやってくると、しばらくじっと眺めて小さく数を数えはじめた。


             


 「ぐちを言っているうちは深刻じゃないね」私は奴の背中に向って言った。「だっ

て、ぐちは自己弁護に過ぎないからね。それで8割方気が済むようなものだから、口

にするんだろうし。深刻な状況ならだれかに相談するはずさ」「そうかな~?」奴は

振り返らずに私に疑問符を投げかけた。


             


 「それに、もっと深刻な状況ならだれにも言えないだろうからね」奴はじっと私の

言葉を背中で聞いているようだ。


 「じゃ、誰に相談したらいいと思う?」しばらく考えて奴はやっと口を開いた。

「もしも相談したい相手が今、思い浮かぶのであれば、自身で8割方、解決の方向が

決まっているということだね」「8割方決まっている?」奴は、それはないよという

声を出した。「もしも親友に相談したければ、同情か、励ましか、叱咤激励かのどれ

かを期待しているだろうし、何かの専門家に相談したければ、客観的な判断に照らし

てみようと思っているし、心理カウンセラーに相談したければ、その問題を精神的な

側面から見ようとしている。あるいは、司法の判断にゆだねたいと思えば自分自身は

すでに冷静になって法的な解決を望んでいるだろうし。結局は相談したい相手がだれ

かによって、自分自身の気持もほぼ決まっているということだと私は思うがね」「な

るほど、それは一理あるね」「つまり、ぐちと言うのは、相談の前の段階だから、そ

こまで深刻じゃないということだね」「う~ん。まあ、そうかなあ。そこまで深刻じ

ゃないってことなのかな~?」「あるいは犠牲者側に立って憂さを晴らしているだけ

かもね」私は冷たく言い放った。


             


 奴はそれでも変わらず、海なのか、空なのか見つめながら黙って立ち続けている。


             


 「20秒ルールを忘れたか?」なかなか私の方を向かない奴の背中にぶつけた。


             


 「もちろん覚えているよ」奴は冷静に答えた。「理不尽な相手に接した時20秒間

返事を留保できるかどうかだろう?その20秒でほとんどの課題は正しい方向をしめ

すというやつだよね?」「正解だ」私はそう言うとさらに補足したくなって続けた。

「しかし、その20秒の間に悪魔が誘いをかけてくる。理不尽な相手には、目には目

をとね。つまり、挑発に乗って反論せよとね。しかし、20秒あれば人は冷静になれ

る」「しかし、その20秒間の悪魔の誘いは強力だ。悪魔は人間の弱点をよく知って

いるからね」奴は溜息をついた。


             


 奴の父はバブル景気の頃、本業以外で大金を手に入れ、それを資金に別荘ホテル始

めようとした。しかし、建築中にバブル景気は終焉を迎えて、ホテルの運営を開始す

ることなく、建物は人手に渡った。街中から車で1時間余り走れば、優雅にバケーシ

ョンを楽しむことができる美しい秘密の場所を見つけた奴の父は、この同じ場所に立

ってきっと大きな夢を抱いたことだろう。今では、ある変わったクラブが所有する建

物になり、また夢を抱いたちょっと変わった人々が集まって来ている。


            


 奴の父はその建物に“Wonderful Time”と名前をつけ、それを建物に刻んだため

に、次の所有者はその頭文字を取ってか、その施設をW.T.クラブと名付けた。そ

して奴の父はヨットやクルーザーも所有する海の男で、息子に航(わたる)と名付け

ていたから、結婚後、相手の姓を名乗って田所となったときから田所航となり、W.

T.というイニシャルになった。


             


 「あのクラブと建物と僕のイニシャルが同じだからってすでに何の因果もないよ」

奴は言った。「じゃあ、なんでわざわざここに来るんだ?」私はまた奴の背中に向け

てちょっと荒目な言葉を投げかけた。「ここに来るとなんか、解決の糸口が見つかる

ような気がするからね」奴は冷静に海に向かって返事をした。「それに、まあね、人

は何か関連性を見つけた物や風景に惹かれるものだしね」そう奴は静かに言うと、も

う黙ってしまった。


             


 私はクラブラウンジの正面の壁にひっそり掛けられているこの絵を見る度、いつも

こんなストーリーを考えて、絵の中の「航」と対話を始める。5、6歳の息子を連れ

た男性がW.T.クラブらしき建物と入江を挟んだ向こう側からその辺りの風景を眺

めるように佇んでいる絵だ。


             


 その絵の中の「航」に話しかける私は当然私自身だが、また同時に絵の中の「航」

も私自身なのだと思う。


             


 どうしてクラブラウンジに座る度、そんなことを始めるようになったのか?それは

きっとその絵に付けられた“Wonderful Time”というあまりピンとこない名前のせ

いだと、私は思っている。



    



   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。


   
P.S.1.

                      

   イラストも文章ももちろん足元にも及びませんが、
  実は今回は、このイラストをそっくり真似して描きました。
  Canon EOS8000Dのカタログの表紙ですが、カメラより、何より、わたせせいぞうのこのイラストに
  ものすごく惹かれてしまいました。「遠回りしようとEOSが誘う」これもぐっとくるキャッチですね。
  今はこのイラストが私のパソコンの待ち受け画面です。
  ということで、今回はちょっと「ハートカクテル」風に書いてみました。
  

P.S.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
     まだお読みでない方はどうか、ぜひ、リゾートのフルコースを味わうような感じで
    ご堪能いただけますように。
  税込千円のフルコースはなかなかのお買い得だと思います。下のどこでもドアから入れます

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.