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リサコラム
連載477回
      本日のオードブル

私が目覚める場所

第5話

ライバル」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


ベッド
ベッドスプレッド
ピロー、ベッドスカート
いろいろとたくさん吟味しました。
ストライプ、花のプリント、花の刺繍、
キルティング、壁、床、シャンデリア、
大胆なもの、ロマンチックなもの、
クールなもの、派手なもの
そんなふうに
自分の
好き
だけに
正直になったら、
そんなのおかしいと言われて
しまうかもしれないと思いましたが、
それでも、私の好きな部屋は、他の
だれにも分かってもらえなくてもいい
のだとある時、割り切ったのです。
そんな強気に出れるものなんて
他に何にもなかったから
です。でも、それって
一番の贅沢では
ありません?
一番の贅沢って私しかわからなくていいことでしょ?

 
      
  





      

第5話 「ライバル」


 

「うそっ」彼女はそう言ったきり、両手で口を覆った。その手は小刻みに震え

ている。


            


 私はアカデミー賞の授賞式で大女優が小刻みどころか、がくがく震えながら、オス

カーを握り締めている様子を思い出した。こんな時、「実は真っ赤なうそです。ドッ

キリカメラでした」なんて言おうものならどんな反応をするだろうか?私はそんな不

謹慎な想像をしてみた。


            


 「ああ、これ、私、ほんと、部屋?」彼女は文章にならない単語をつぶやいて、2

歩手前に進んだ。


 しかし、私は「はい、そうです。今日からの新しいお部屋です」とドラマじみた答

えをぐっと飲み込んだ。多少悪趣味と言われようと、私だって、彼女の反応を楽しま

せてもらってもいいだろうと思ったからだ。


            


 彼女はまた一歩しずしずと歩み出て、「ほんと?」と言った。次に「ほんとよね」

と言うと顔全体を手の平で覆った。そして、明るい窓の外から薄暗いショップを覗く

時のように、両手のひらで望遠鏡を作った。彼女は目の前に出現したものがほんとう

に現実だということを再確認しようとしているらしい。私はひそかに歓喜した。


 そして、やっと手を降ろし、顔を上げ、腕を胸の前で交差させると、森林浴でもす

るように息を吸い込んだ。「ああ~」そのまま彼女は静止し、時も静止したように思

えた。


            


 晩秋とはいえぽかぽかの陽気。大きな東の窓から斜めに入る朝の光は容赦なく、白

いシフォンレースを通過してメレンゲのような白い光を部屋に行きわたらせている。

それは物の影さえ消してしまうほどだ。


            


 そして一段高くなったバスルームの純白のタイルの上には大理石を削り出したまま

のようなざらっとして、深みのある質感の卵型のバスタブを置いた。その奥には青い

壁の仕切りのないシャワーブースがある。こんなにすぐ近くに庭の緑を眺められるバ

スルームを持つ贅沢な寝室なんて、ヨーロッパの田舎の洒落たハイダウェイホテルか

リゾート仕様のホテル以外ではめったに出会うことなどない。


            


 寝室部分の床にはホワイトとモカのモザイクチョコレートをなぞらえた60cm角の

タイルを市松に貼り、そこにセミダブルベッドを2台置いた。ベッドの左右とセンタ

ーに同じビターチョコ色のサイドテーブルを置き、木をくり抜いて作った細身のラン

プスタンドを3台乗せた。ベッドの背の壁から80cmの位置には新たに天井に廻縁を

設け、生クリーム色のカーテンを下げた。そのカーテンには生クリームを塗ったスポ

ンジケーキにマロンクリームとカスタードクリームを入れたシュークリームを飾り付

けるイメージでぽこぽこしたフレンジを取り付け、その脇にはスモーキーブルーのサ

テンの額縁を付けてロイヤル感をぐっと高めた。


            


 正面の壁は濃淡をつけたミントグリーンを3度塗りした後、友人の絵描きに花の絵

を描いてもらった。その壁の前に置くペパーミントブルー色のヘッドボードのカバー

には刺繍職人が刺繍をした。すると、湖のほとりに咲く花々が湖面に落ちてそれがヘ

ッドボードにまで流れ落ちてきたように見える。「まさに思い通りだ」私は動揺に近

い感動でそっと胸を押さえた。


            


 それは新婦である従妹の結婚式で彼女のウエディングドレスからヒントを得たもの

だった。パープル、ダークオレンジ、ローズレッドのシルクフラワーが薄水色の上に

散りばめられたシルクタフタのドレスを来た新婦が教会から芝生の庭に出てくると、

友人たちが彼女のドレスと同じ色のガーベラやバラの花や花びらを一斉に新婦にふり

まいた。新婦のドレスを伝って花が斜面をこぼれ落ちるように芝生に落ちる。それを

風が運んで人工ではあるけれど、小さな小川の流れにゆらゆら浮かんで流れゆく。そ

の作り込まれた演出にやりすぎだと思う人もいただろう、けれど、私はその時にイン

スパイヤーされた。そして彼女の新しい寝室の構想はまとまったのだった。


            


 彼女の夫である私の友人のMから20年目の結婚記念に寝室のリフォームをしたいと

依頼があったのは今から2年前だった。それも彼女へのサプライズプレゼントにした

いというものだった。単身赴任や国内外の出張の多いMは古い自宅のリフォームをし

たくてもなかなか進まず、結婚20年を機に彼女への感謝を形で表したいと言った。

独身の頃の彼女はかごのないロードバイクで大きな鎖のようなロックチエーンを体に

巻き付け、リュックを背負って通勤していたスポーツ好きの闊達な女性だったのに、

結婚後はMの仕事が忙しく、家を空ける日々が続くと、ひとりで子供の送り迎えをす

ることになり、自転車は前と後ろにかごのあるママチャリに変わった。それは彼女に

とって切なかったはずだとMは言った。そんな生活の中の辛苦のために彼女の性格か

らだんだんと明るさが消えて行ったのかも知れないと私に告白した。


            


 私はそのMの依頼を受けて彼女のためにプランを練った。

 Mの依頼を受けてからというもの、自然、出張で泊まるホテルをリゾート仕様のホ

テルに替えるようになった。多少の出費も止むなしと思ったものの反対にその出費の

数倍の学び効果を得られたと思う。


            


 そして、決行の前、Mは海外出張をねん出しそれに彼女も同行できるように画策し

た。その間子供たちは田舎の両親に来てもらい面倒を見てもらうという大がかりな作

戦になった。


 二人が留守の10日間で私たちはすべての作業を終え、そして、彼女に別世界の素

晴らしい部屋を提供することになった。


            


 息を吸い込んだままで固まっている彼女が変化する兆しを見て、私は身構えた。清

潔好きの彼女は「オープンになったバスルームをどうやって掃除をするの?」とすぐ

に聞いてくるだろう。その質問にはもちろん答えは用意してある。「ガラスの壁がこ

ちらから伸びてきて完璧に水の飛散は防げます。もちろん、湿気対策も万全です。こ

こはコッツウォルズの瀟洒なマナーハウスの「よう」でもなければ、エッフェル塔を

バスタブから望むホテルの「よう」でもありません。ここは、あなただけのホテルで

すから」そう言おうとセリフは決めていた。


            


 彼女は思い出したようにやっと大きく息を吐いて、「あ~、い~い匂いのお部屋だ

わ~」とだけ言った。そしてまた両手で顔を覆うようにして、「これって、結婚式以

来の気分だわ~。なんて素敵な~」それだけ言うとミルクチョコレート色のベッドス

プレッドの上に上半身を持たせかけた。


 私たちは彼女の寝室を彼女好みの極上のホテルにするために最善を尽くし全力を投

入した。しかし、「香り」の元だけは用意するのを忘れていた。にもかかわらず、

「い~い匂いのお部屋」とはどういうことだろう?私は用意したセリフはひとつも言

えずただ笑った。


 そして、ただただ悩み、考え、そして、結果、「い~い匂い」が私の一番のライバ

ルになった。



   



   
*上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。
  
   *「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。


P.S.1
    お客様のお部屋にベッドルームを作りに行って、ナイトテーブルの上に
   小さなお花を飾ることがありました。すると、お花にすごく感動されました。
   時に香りのスティックを置いてゆくことがありました。
   すると、その香りにすごく感動されることがありました。
   そんなとき、うれしいようなさびしいような、文字通り、こんな心境になります。
   花とフレグランスとエアコンはいつもライバルです。
   この3つとしのぎを削っています。


P.S.2.

   Sさまよりお送りいただきました、
   ハネムーンでご滞在されたお部屋のお写真をご紹介いたします。
 


                   


        ニース~です。かのホテル、ネグレスコから見た、紺碧の地中海。
         白く膨らんだ柱のバルコニー越しにう~ん、ハイソな匂い。


             

           パリのムーリスのジュニアスイートのお部屋。 
            紫を帯びたベージュのベッドスプレッド
              クリームイエローの壁の廻縁。
           う~ん、こちらもリュクスで余裕の香りいっぱい!

          Sさま、新居はこのお部屋より全然素敵になる予定です。
      そして、いい匂いのするお写真、ありがとうございます。堪能しております。


P.S.3
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   リゾートとは何かについてこれも真剣勝負で書いたものですから、
   インテリアだけの本ではなく、難しい部類のコラムに入ると思います。
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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