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リサコラム
連載479回
      本日のオードブル

私が目覚める場所

第7話

「3年半」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


理想の
私の部屋は
東の窓から
朝日が
燦々

降り
注ぎ、
緑の芝生
と緑の借景、
美しいカーテン、
美しいベッドルーム、
美しい空気の中で眠り、
目覚め、そして加工食品でない
ものを食べ、本を読み、運動をして、
その前に、たくさんたくさん働いて
誰かの役にたくさんたって、
雨にも負けず、風邪ひきにも負けず、
決して怒らず、いつも静かに笑っている、
あれ?
理想の部屋が理想の人間に変わっているわ~


 
      
  





      

第7話 「3年半」



ローブの上に頭からタオルをかぶった私は、ある僧侶の話を思い出していました。

シャレコウベで埋まっている長く深い洞窟の中でガイドに逃げられた印象的な冒頭の

その小説は、僧侶が恐怖感の中をひとり歩き通して、外の灯りを見つけ出す物語でし

た。


            


 自分なりに幸せの絶頂にいると思った途端、そんなストーリーをつらつらと思い出

している私を不思議な顔で見ているまた別の私もそこにいました。


            


 改めてガラス越しに自分の真新しいベッドルームを眺めてみると、それは新品の白

い顔をして、何ごともなく美しい肢体をすっと白大理石の床の上に置いているように

見えました。その先には開け放した白いフレンチドアから芝生の庭、そして雑木林の

借景へと障害物なくつながります。そして左右の出窓からも東の白い朝日がだんだん

とミルク色に変わり、そして夜は天体ショーに至るまでのこの上なくドラマチックな

光景が望めるのです。


            


 窓に掛けたベージュとグレーの混じったシフォンレースはシャンプーのコマーシャ

ルの髪の毛のようによどみなく、その色は光を受けた部分だけが透明に透けて外を映

し出し、部屋内の壁際の部分は濃くなって、セクシーで美しいグラデーションを作り

出しています。


            


 私のこの部屋は、私がこの世にある間だけ借りた土地と建物で、その後は別の持ち

主に渡ることになっていますが、それは3年半前、まだ独立した時の資金返済も済ま

ない頃に見つけた物件でした。独立して事業を始めて10数年、私の中で恐怖感を駆

り立てるダークなものは周囲から風に乗って聞こえて来る批判や雑音、クライアント

からの苦言、そしてそれに反応して私のストレスが発する不快な音ではなかったので

す。実はそんなものを恐れていたわけではなかったのです。ほんとうは姿の見えない

好ましい私の理想像に恐れを感じていたのです。それは黙して語りかけることもなく

姿も見えず、それを確かめようと焦りと憤りで息も絶え絶えになった私が、ふとした

瞬間にその存在に気が付く、それなのです。そんな時は必ず息を止めていました。

そしてどこまで行っても姿を現さない無限に膨張するような宇宙の果てを考える時の

ような恐怖感に似ていました。


            


 その頃、宇宙の先はどうなっているのか、どこまで続いているのかをテーマにした

テレビ番組を真剣に見るようになっていました。宇宙の先を考える研究者は研究者自

身としてのこれからも重ね合わせて考えているのかもしれない、そんなことも思いな

がらじっと見ていたものです。そのつかみどころのない未知の私の理想像を探しなが

ら、一方でその姿に恐怖を感じながら、しかし現実は、日々、もがきながら、とりあ

えずは自分の顔の向いた方向に進んでいただけの10数年でした。


            


 そんなストレスと混乱の毎日を送っていたある日、同業の友人が別荘を建てたから

遊びに来ないかとの誘いをかけてきました。1分でも長く眠っていたい休日の朝の電

話に気乗りしないまま、お祝いの言葉と訪問の約束をしたものの、それからの3週間

は、たった12日の小旅行のために仕事も家事も雑務もいろんなものを片付ける必

要に迫られました。私は内心、友人に小さな憤りを感じていました。それはきっと羨

ましさと私の周りの混沌とした仕事や環境にいらだってのことだったと思います。


            



 3
週間で3か月ほどに思えるくらいにいろんな物事を片付けて、それでもまだすっ

きりしない気分を衣類と一緒に旅行鞄に詰め込んで彼女の美しいだろう別荘に向けて

車を走らせました。


            


 雑木林の中を抜けると友人の手を振る姿がありました。私は車を停めると、友人に

素直なほめ言葉を言い、林の中の小路風に作られた屋根付きの外廊下を歩きました。

「台風の時は困らないかしら?」私はそんなことを思いながら、彼女の少し後ろを歩

いていました。そしてまず案内されたのはモダンなリゾート風の建物でした。ドアを

開けると、そこには大きなベッドとアームチェアだけの清楚なホテルの部屋のような

雰囲気が出迎えました。清浄な心地よさに満ちた白い空間の中で木漏れ日は安らぎと

いうニュアンスの縁取りをつけていまいた。そして廊下の木の床から部屋の中へ一歩

踏み出した時のことです。私のピンヒールは「かりん」と音をたてました。大理石の

床の音でした。それは私に「凛」と響いたのです。


            


 「こんな素敵な部屋でほんとに、眠ってるの?」真っ白で清々しくて、まばゆい雰

囲気に圧倒されたのです。


            


 「ゆりりんのお部屋よ。ここ、ゲストルームだから、いつもで遊びに来てね。ス

トレスも吹っ飛ぶよ~」彼女は私にそう言うと笑っていましたが、私は心から笑えず

それより先に赤面していたのだと思います。彼女の温かな言葉より自分の恥ずかしさ

の方が勝って、それ以上はもう何も覚えていないのです。


            


 その日から先、彼女の美しいゲストルームの凛とした雰囲気の響きをまた聞きに行

ったことはないのです。それよりも私も彼女のように別荘を作りたいという気持ちの

ほうがどんどん大きくなり、それから3年半の後、私の小さな別荘は完成しました。

私の理想像は彼女の別荘のゲストルームに一歩足を踏み入れた時に私を打ちのめした

「凛」と鳴ったその音、その先にあるのかもしれないと思ったからです。


            


 晩秋の空気で冷たくなった濡れた髪の毛をタオルで拭きながら私は自分自身の白大

理石の床のベッドルームに立っていました。外の音は微かな空気の流れが感じられる

葉と葉のこすれる音だけで、気分を盛り上げるような音楽は鳴っていなくても、私に

はオリンピックの表彰式に臨む選手のような気分でいました。


            


 かかとのついたルームシューズは冷たい石の上で確かに「凛」と鳴ったのです。

 このために7年間のように過ごした3年半でした。



   



   
*上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。
  
   *「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。


P.S.1

    「コズミックフロント」のような宇宙をテーマにした番組も実は大好きなのです。
   宇宙の果てを考えるとき、いつも思い浮かべるのが、平均台で逆さに宙返りする映像です。
   どちらも絶対に想像できない世界だからかもしれません。



P.S.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   リゾートとは何かについてこれも真剣勝負で書いたものですから、
   インテリアだけの本ではなく、難しい部類のコラムに入ると思います。
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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