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リサコラム
連載481回
      本日のオードブル

私が目覚める場所

第9話

「賢者の休憩時間」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


毎年
落ち葉の
季節になり、
そしてクリスマス
になると思い出すこと。
短編小説『最後の一葉』
都会に貧しく暮らす若い夫婦の
クリスマスプレゼントをめぐるアイロニーを
描いた短編小説、デラとジムの『賢者の贈り物』
O・ヘンリーは実はクリスマスが嫌いだったのかと
思ったものでした。そして学校で学ぶクリスマスは
どうしてこんなにさびしい物語りで語るのかと
思ったものです。
街中の公園に水を張ってリンクを作って
市民が遊べる場所で聖歌隊がやって来て
クリスマスソングを歌うそんな光景が世界中で
見られるそんな日々も、もう少しで終わります。
今年もあと残り25日今年を挽回できる時間は
まだ
600
時間
あるのですね。

 
      
  





      

第9話 「賢者の休憩時間」


「 『ふ~、気持ちよかった~』みたいに言ってるんじゃない、あの子、ずいぶん

うまそうだし、ねえ、そう思わない、ねえ、ジム?」ジムと呼ばれた男は「う~ん、

だね」と気のない返事を返すと、両手の平を温めていたココアのカップから大きな音

を立てて飲んだ。


             


 「ねえ、どの子だか、わかってる?」と女は丸いテーブルの向こうから男の顔を覗

き込むと、指差した。「ほら、あの子よ、ブルーのパーカーにオレンジのマフラーの

子よ」女は身を乗り出して、男のブルーのセーターの袖を引っ張った。


             


 「ああ、わかる、わかる。だよね」「きっと自慢してるんだわ。友人のお父さんと

その子供たちにね」「かな~?」「そうよ、きっと。両手を広げて胸張って滑れるの

はかなり自信のある証拠だから。私、子供の頃に冬休みになると毎日のようにスケー

ト場に行ってたから、わかる。そんな感じの子がたくさんいたのよね。専用のリンク

にね。そんな子供たちは毎日来るんだけど、見ていると日に日にジャンプがうまくな

るのよね」男はあまり乗ってくる様子もなく、カップを抱えている。


             


 「僕なんか、あいつだね、あのオレンジのジップアップ着てる」「えっ?どこ?」

女はココアを一口飲むと脇に置いて、さらに身を乗り出した。「ああ、あの子ね、手

すりの近くにいる」「そう。そいつだ。誰より手すりに近いし、両手を広げたりなん

かして、いかにもうまそうに装っているけど、ほんとうは全然滑れないはずだよ。き

っとデラみたいに見栄っ張りかもね」デラと呼ばれた女はちょっと怒った顔をして、

男を睨みつけた。「失礼ね、見栄っ張りだなんて、それにかつて、リンクの女王って

呼ばれた時期もあったのよ」「ジョーク、ジョーク」男はにこやかな顔で慌てること

なく、間を置きながらゆっくりともう一度付け足した。「ジョークに決まってるよ」

「でも、見栄張りたくなる気持ち、わかる。スケート場でデートするカップルは男性

が女性よりうまくないと絶対かっこよくないからね」「知ってますよ。『だからスケ

ートに誘わないんでしょ?』って言いたいのかな?ははは、ご明察です」男は笑い、

女は黙った。


             


 「あのカップルなんか、どっちが男でどっちか女かわからないけど、どっちもうま

そうだな」男は指差した。「うん?どの?」男は黙ったまま、カップで指し示した。


             


 「ああ、あの黒人の二人ね、うん、でもグリーンのセーターのほうが男だと思うけ

どね」「なんで?」「だって、きっとあれ、手編みのセーターでしょ?」「ふふん」

男は犬が鼻を鳴らすような感じで少し首を振った。「手編みのセーターね~今時そん

な殊勝なことをする女性っているのかな?」「まあ、いないかもね」女はきっぱりと

言い切ると、またリンクの人間たちの品定めに入った。


             


 「さっきの話に戻るけど、私ね、子供の頃にもっとスケート続けていたら、今頃、

出るとこに出てたんじゃないかと思うことがあるのよ。ほら、あの赤い耳付きの帽子

かぶったあの子、あの子もかなりいい線行ってるわよ」「ああ~、そうらしいね」今

度は男はすんなり同意した。「きっとまだ小学2、3年生くらいだと思う。でも、ス

ピンなんか、簡単に出来そうな感じだわ~」「うん、かもね」男はまた上の空で、今

度は道路の方に視線を移して「あれ、あれじゃない?」と車を指差した。「たしか、

ルノーカングーじゃないかな」「えっ?どれ?」男は今度はマウスで指し示した。


             


 「へ~そう、私はあんまりかな」「かっこいいぜ、荷物も積めるしそれにあんまり

メジャーじゃないから、だからいいんだよね」「荷物って、いったい何を積むの?」

「いろいろだよ」「ふ~ん」今度は女のほうが気のない返事をした。


             


 「それでね、話は戻るけど、高校1年の時、冬の体育の授業は全部スケートだけや

るっていう担任に当たってね、みんなで近くのスケート場に行ってね、行って帰って

があるから、実質、30分弱くらいしか滑れないんだけど、愉快だったわ。私、勉強

もスポーツも大してさえなかったんだけど、その冬だけはヒーローになったのよ。き

っと人生で初めて味わうヒーローの喜びって感じよね。大半の子は、さっきの男子み

たいに手すり磨きばっかりの中で、ひとりだけ、リンクの中心のきれいな氷の上で滑

る感触は最高よ。転んでも全然気にしなかったから、私、何度もジャンプの練習した

のよ。あの、なんていうの、見られる感覚、それが好きな子と嫌いな子に大きく分か

れるよね。私は好きな方だったわね。見られるからこそ上達できる子と見られること

で萎縮する子とね。ほら、あんな感じで縮こまって友達に手を引っ張られてもなかな

か自分から滑ろうとしない子は後の子よね。「僕はデラと違ってシャイな勇気なしの

部類だから、その緑の帽子の子みたいな感じだね」


             


 二人は皿の中の最後の1枚のクッキーをちらちら眺めてはお互いに遠慮し合いなが

らスケートリンクと冬枯れの街の様子をじっと眺めていた。


            


 「もうすぐクリスマスね」「ああ」「あれすごいツリーよね」「うん」「きっと夜

はきれいでしょうね」「うん」「私はあの黄緑色の壁のアパルトマンに住みたいな」

「結構古そうだけど」「古いからいいのよ。だって、最高の立地でしょ。春から夏は

わざわざ森林浴に森に行かなくても、あの大きな木がフィトンチッドをたくさん発生

させてくれるし、木陰の下のベンチで読書もいいだろうし、冬は滑り放題で、クリス

マスには大きなモミの木の灯りを眺めながら滑れるんでしょ、まるでオリンピックの

エキジビションみたいじゃない?部屋だって素晴らしい眺めのはずよ。あ~あ、いい

わね~」


             


 「ここでも十分だよ」男は小さな丸いテーブルにカップを置くと、くるっと椅子を

回してデスクに戻り仕事を始めた。デラというニックネームの女はまだ、じっとツリ

ーとリンクの人々とそして街並を眺めている。


             


 6年前脱サラして始めた事務所はなかなか軌道に乗らなかった。「石の上にも3

って誰が言ったのかな?最近は石の上にも10年って言うらしいわよ。それを先に教

えてくれていたらね~あと4年か~、長いわよね。あと4年努力を続ければ、ほんと

に今の5倍の成長が望めるようになるのかしら」女はツリーとリンクの人々とそして

街並が水彩画で詳細に描かれている空っぽのクッキー缶の上にかぶさるように頬杖を

ついた。お歳暮で送られて来たクッキーの缶に描かれた街並とリンクの人々。二人は

想像を膨らませながら束の間の休憩時間あれこれとその街に思いを寄せる。


             


 「こんなクラシックなホテルみたいな部屋でSOHOができたらいいのにね~」「い

つか絶対できるよ」男は背中で言った。「うん、そうね」女もまた背中で言った。ま

だ女はクッキー缶の上にじっと覆いかぶさったままでいた。


             


 「ポトン、ポトン」缶が聞きなれない音をたてた。「よお~し!時間だ~」女は腕

で顔をぬぐうと椅子をくるっと回してデスクに戻った。




   


   


   
*上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。
  
   *「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。


P.S.1

     実は、今日の物語が実話な部分があります。それは頂きもののクッキーの缶です。
  


         
    
      A様から送られてきましたもので、その缶にそっくりのイラストが
   描かれています。つまり、この絵は私が模写したのです。あまりに素敵過ぎて
   盗作してしまいました。最後の木の枝を描くのが一番楽しかったです。


         
   
    GINZA WESTさんの季節ものの缶のようです。
   工場スタッフとも分け合って頂戴いたします。


.S.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   リゾートとは何かについてこれも真剣勝負で書いたものですから、
   インテリアだけの本ではなく、難しい部類のコラムに入ると思います。
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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